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第九十話 ルルの狂乱⑤

ぬああああ!!(シリアスに耐えきれなかった作者の図

 何の気なしに放たれた魔法によって、視界が黒く染まる。

 せめて後ろにいるリリィだけでもと、この身を盾に受け止めて……。


「さて、これからどうするか……む?」


「……え?」


 特に何事も起こることなく、その魔法は霧散した。

 ……おかしいな、込められた魔力量からして、絶対死んだと思ったんだけど。その割には全然威力がない。


「不発……ではないな。だとすると、この魔力のせいか。ううむ、贄の娘、僅か一人で我が復活に足る魔力を宿していた時点で只者ではないが、まさか我に宿ってなおこうも操りにくいとは……とんだじゃじゃ馬だ」


 やれやれと肩を竦めながら、聞いてもいないのに魔王は自分の状態を事細かに説明する。

 えーと、つまりそれは……。


「要するに、今のお前は魔力はあっても、魔法もロクに使えないただの子供と」


「うむ、そういうことになるな」


「…………」


「…………」


「じゃあ死ね」


「待て待て待て待て!」


 魔法のお返しにと剣を振り上げたら、魔王は大慌てで手をバタつかせ、制止の言葉をかけてきた。


「誰が待つか。さっさと消えてリリィに魔力を返せ」


「我が死ぬということはこの宿主も一緒に死ぬことになるのだぞ!? それでもいいのか!?」


「知り合い未満の魔王崇拝者な上に、よりによってリリィを誘拐した挙句儀式の贄になんてしやがったヤツの生死なんざ知ったことじゃない。むしろ一緒に死ね」


「血も涙もないな!? 貴様それでも人間か! この鬼! 悪魔! 魔王!」


「魔王本人に言われたかないよ!?」


 なんで今の今まで僕を殺そうとしてたやつにそこまで言われなきゃならいないんだ!?

 この世の理不尽を嘆きながら、僕は取り敢えず剣を振り下ろす。


「うおぉぉぉ!?」


「避けないでよ、斬れないでしょうが」


「斬られたら死ぬわ! ええい、本当に魔王のようなヤツだ!」


 ゴロゴロと床を転がりながら回避され、思わず舌打ちを漏らせば、涙目で罵倒された。

 ああもう、調子狂うなぁ!


「別に、僕は大人しくリリィに魔力を返して、君らが目の前からいなくなってくれるならなんでもいいんだけど」


「いや待て、この魔力が失われると、我をこの世に繋ぎ留められずに消滅してしまうのだが……」


「じゃあ消えて?」


「待て待て待て待て」


 仕方ないから譲歩案を出したら却下された。

 それならばと剣をまた振り被れば、再び大慌てで制止してくる。


「そもそも、そもそもだ! その幼き娘にこれほどの魔力が宿っていたこと自体がおかしいのだ! これだけの魔力を人の身に宿せば、我のような特異な魂を持たねば体の方が耐えきれずにいずれ破綻する! 貴様も何か覚えがあるのではないか!?」


「む……」


 言われてみれば確かに、リリィは昔から何かと体調を崩しやすかった。

 それが膨大な魔力のせいだと言われれば、僕には反論できる根拠がない。

 ……いつか破綻すると言うには、いささか元気が良すぎた気はするけど。


「つまりだ! 貴様にとっても我はこうしていた方が都合がいい存在なのだ! 分かったか? 分かったらその物騒な物を降ろせ。いや降ろしてくださいお願いします」


「魔王の威厳がもはや欠片もないね……」


 綺麗な土下座を決める魔王の姿に、呆れ混じりでそう言うと、魔王はくわっ! と目を見開いて叫んだ。


「何を言う! 命あっての物種という言葉を知らんのか!?」


「魔王がそれを言う?」


 もうこいつ、放っておいても案外無害なんじゃないだろうか。魔法も使えないみたいだし。

 そんなことすら考え始めた僕に対し、魔王は更に畳みかけてくる。


「それにだ! その娘のことならば案ずるな、確かに我がいる限りこの魔力は戻らんが、生きておるなら近い内に目も覚ますであろうし、何よりその歳ならば、成長と共にまた魔力も多少なりと増えるであろう! こんな莫大な力だ、いっそない方がその娘も平穏に暮らせていいと思わんか? ん?」


「説得力があるようなないような……」


 確かに、リリィの力は色々と目を付けられていたし、魔王だってその力のせいで周囲を恐怖に陥れてきた伝承があるんだから、強ち間違いとも言えない。

 ……伝承通りなら、魔王はむしろ喜々としてその力を振るっているし、さっきも目覚めて即行僕に攻撃を仕掛けてきた辺り、自分の力を忌避してるようにはとても思えないけど。


「いいではないか! 貴様もどうせ、普段はそこの娘と乳繰り合って幸せオーラ全開でイチャイチャしておるのだろう!? 少しくらい我が良い目を見たってよいではないか!! この色ボケ共め、いつもいつも我のことなんか眼中にないかのように自分達の世界を作りおって! 爆ぜろ!!」


「別に乳繰り合ってはいないから!?」


 なんか段々私怨が混じってきてないかコイツ!? 魔王が生きてた時代で何があったんだ!?


「でもイチャイチャはしてますよね、いつも」


「そら見たことかぁーーー!!」


「モニカは黙っててくれない!?」


 ずっとリリィの様子を見ながら治癒魔法をかけていてくれたモニカが、ボソリと口にした瞬間、我が意を得たりとばかりに魔王が僕を指差してくる。

 凄まじくウザい。


「ああーーー!! もういい! とりあえずお前はそこに直れ! リリィがあと10分以内に目が覚めなかったらその首落としてやる」


「待て待て待て待て! 10分は早い! せめて1日!」


「そんなに目が覚めなかったらリリィが多かれ少なかれ衰弱するでしょ。それくらいだったら今ここでお前の命を絶つ」


「待って!? 我とこの宿主の命はその娘のほんのちょびっとの衰弱より優先度低いのか!?」


「当たり前でしょ」


 真顔で言うと、「やっぱり貴様は悪魔だーーー!!」とかなんとか騒ぎ出したけど、スルーする。

 そもそもが全部こいつらの都合に振り回されてる立場なんだから、それくらい当然でしょうに。

 第一、体の弱いリリィがもしそれで風邪を拗らせでもしようものなら……僕がリリィの両親に殺される。いや、殺されはしないだろうけどすさまじいプレッシャーで圧殺される。間違いない。


「我、まだ何も悪い事してないのに! その娘を攫ったのも貴様らに危害を加えたのも宿主であって我じゃないのに!」


「僕のこと殺そうとしておいてそれを言う?」


「……それは、ほれ……一発だけなら誤射かもしれぬし?」


「なわけないでしょうが」


 しれっと自分のしたことをなかったことにしようとする魔王の首元に、今度こそ剣を突きつける。

 「ひぃぃ!?」なんて情けない声を上げてるけど無視して、容赦なく告げる。


「あと8分……少しでも動いたら刎ねる」


 出来るだけ冷えた目で睨みつけると、こくこくこくと、涙目で何度も頷きが帰って来た。

 非常に情けない姿に毒気が抜かれそうになるけど、油断だけはしないように気を引き締める。

 そのまま、お互いに無言のまま5分、6分、7分と時間は過ぎ……そろそろ本気で首を刎ねようかと考え始めた頃。


「ふぁ~あ……」


 待ち望んだ声が、聞こえた。

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