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第八十八話 よく分からないけど戦闘です!

 フレア君に連れ去られてから、どれくらい時間が経ったでしょうか?

 1時間? 1日? 1週間? あるいはもっとでしょうか?

 何だか途中から頭がぼーっとしてきたせいで、よくわかりません。

 無性にイライラしてるのは、分からないからなのか、それともこの妙にフワフワした感覚が気に入らないからでしょうか?

 前にも何度か、似たような状態になった覚えがあるんですが、その時はもっと気持ちよかった気がします。

 そう、あれは確か――


「ルル君に思いっきり罵倒された時ですぅぅぅぅぅ!!」


「それ絶対違う!!」


 私が叫ぶと同時に溢れ出た魔法が、私に向って迫るルル君に殺到する。

 なんで私がルル君と戦ってるのか、疑問に思わないでもないですが、頭の中がフワフワして全く思い付きません。それが余計にイライラします。

 そんな間にも、私の体は夢見心地な私の意志に代わって勝手に動き、勝手に言葉を紡いでいく。


「いいえっ、前にルル君、私を隅々までねっとり舐め回すような視線で、『眠れ、愚図が』って私を蔑むように……!」


「そんなことした覚えはない!! いや、確かに魔法で眠らせたことはあるけども!!」


 殺到する魔法を見て、ルル君はその場で足を止めると、ただその瞳に映す。

 そして、


「『逸れろ』!!」


 ルル君がそう一言叫ぶだけで、私の魔法は全て明後日の方向に向きを変え、部屋の壁に吸い込まれていきました。

 ああ、そう、これですよ……!


「それです、それ!! その、世界の全てを見下しているかのような目! 最高です! もっとください! ハアハア」


「正気に戻ってリリィ! 今の君、女の子として色々とダメな表情になってるから!! あと、僕は別に何も見下してないから! 魔法の特性上命令口調になってるだけで!!」


 ルル君が何かおかしなこと言ってますが、私はいつだって正気ですよ?

 今日も帰って……帰ったら……あれ? 何しようと思ってたんでしたっけ……?


「ルルーシュさん、言い訳は後でたっぷり聞きますから、まずはリリアナさんを解放してください」


「そんな冷めきった目で言わないでくれる!? あと、そう言うなら手伝って欲しいんだけど!」


「何言ってるんですか、ルルーシュさんならともかく、私がリリアナさんの全力の魔法に巻き込まれたら死にます。私には、リリアナさんと拾った骨を持って帰らないといけない使命があるので、参戦は出来ないんですよ、すみません」


「まさかその骨って僕のことじゃないよね!?」


 私が考えこんでいる間に、ルル君はモニカさんと何やら楽しくお喋りしています。

 ……なんかムカついてきました。


「ちょっ!? なんか魔法が激しくなってるんだけど!」


「気のせいです」


 さっきまでイライラしてたんですけど、それとはまた別のムカムカを魔法に乗せて、次々と炎の塊を生み出します。


「『炎の雨(フレアレイン)』!!」


 炎が室内で小規模な雨となり、ルル君に降り注ぐ。

 普通なら、こんな部屋の一つくらい一瞬で焼け落ちるような攻撃なんですけど、やっぱりルル君は全く動じていませんでした。


「『消えろ』!」


 ルル君の視界に入った炎全てが、みるみるうちに消え去っていく。

 それでも構わず撃ち続けると、少しずつルル君の目に焦りの色が見えて来ました。


「くっ……途中で消しても魔力を吸うのか、この部屋……!」


「当然だろ? 俺達の魔眼魔法は魔力を操るだけ。魔法を消せてもそれを構成していた魔力まで消えるわけじゃない。霧散した魔力は、この部屋の魔法陣に吸収される」


「そうして魔力を溜めて、魔王の復活に使うのか。リリィを戦わせてるのも、効率よく魔力を引っ張り出すため」


「ご名答」


 私の後ろから、フレア君の声が聞こえてきます。

 何だか凄く楽しそうですけど……いたんですね、フレア君。気付いたら正面にルル君がいましたし、戦い始めてからずっと声も聞いてませんでしたから、てっきり今はいないものかと……。


「だったら、尚更早く終わらせるだけだ!」


 ルル君がもう一度地面を蹴ると、先ほどの接近と合わせて狭まっていた距離が一気に0になり、もはや魔法で迎撃する暇もありません。

 おお、流石ルル君、早いです。私の体じゃ、全然反応が追いつかないです。

 けど、これくらいじゃ甘いです!


「悪いけど、リリィ、ちょっと『眠……』」


「『極寒地獄(コキュートス)』」


「っ!?」


 私の足元から、無数の氷柱が四方八方へと飛び出していきます。

 床も魔法を吸収してしまうせいで、常時地面に接する氷の柱を生み出す以外、物理的な攻撃力を持たないこの魔法は、普段の半分の威力も出せてはいませんけど、ルル君を近くから引きはがすには十分です。


「そんなチンケな魔法で決着なんて認めません! やるならちゃんと、その剣で打ち込んでください!!」


「「ち、チンケ……」」


 ルル君と、ついでにフレア君も何やらダメージを負った様子です。

 全く情けないですね!


「そんな小手先の技に頼ってたらいつまで経っても私には勝てませんよ! さあさあ、私みたいにド派手なのぶっ放して激しくぶつかり合いましょう! 男らしく!!」


「リリアナさんレベルの派手な攻撃が出来る男は、この世界全体で見ても1%もいないと思うのですが……」


「細かいことはいいんです!」


「細かいんでしょうか……それから、リリアナさん、凄いノリノリですけど、案外先ほどから正気だったりしませんか?」


「何言ってるんですか、私は最初から正気です!!」


「……あの、だったら皆さん心配しているので早く帰りましょう?」


「お父様達ですね! 修学旅行はまだ終わってないので大人しく待っていてください!」


「…………正気なのかそうでないのか判断に迷います」


 モニカさんが頭を抱え、疲れたようにその場にしゃがみ込んでしまいました。

 遊び疲れたんでしょうかね? 昨日ははしゃいでましたし……あれ、昨日は何してたんでしたっけ? 確か修学旅行でえーっと……。

 ……ええい、そんなことより、目の前のことです!


「ほら、何してるんですかルル君! あんまり手を抜いてると死んじゃいますよ!」


「ぐっ……!」


 炎、氷、雷、風、水に土と、魔法であれやこれや生み出して、次から次へとルル君目掛け叩きつけていく。

 ほとんどルル君には通じませんし、回避された分も何一つ壊すことなく壁に吸収されるので物足りませんが、それでも何だか楽しくなってきました!


「あはははは! 楽しいですね、ルル君!」


「僕はちっとも楽しくない!!」


 私が放った魔法を、ルル君が剣の一閃で弾き飛ばす。

 そして、そのまま私の方に、剣を構えるでもなく突っ込んできました。


「またそれですか! 無駄ですよ、『極寒地獄コキュートス』!!」


 地面から伸びた氷の棘が、無数に連なってルル君を襲う。

 いくらルル君の魔法でも、こうも至近距離からこれだけの数で攻撃すればどうしようもないですから、一旦下がるしかありません。

 そのはず、なんですが……。


「…………えっ」


 なんとルル君は、目の前に迫る氷の棘を回避するどころか、むしろ剣を手放し、自らその身を晒してしまいました。

 このままじゃ、私の魔法でルル君が……そ、そんなの……。


「そんなの、ダメです!!」


 咄嗟に魔法を解除して、氷の全てを砕け散らせる。

 そうなることが最初から分かっていたのか、ルル君はそれを見て眉1つ動かすことなく飛び込んできて、ガッチリと私の体を抱きしめました。

 ……むぅ。


「ズルイですよルル君、捨て身の攻撃なんてらしくないです」


「それは自覚してるけど、今のリリィほどじゃないから」


 ルル君の匂いに包まれて、私の体から力が抜けていきます。

 先ほどまで感じていた高揚感が鳴りを潜め、心地よいそよ風のような気持ちが心を満たす。


「私、らしくなかったですか?」


「行動はそれらしいと言えばそれらしかったけど……目がね、ずっと無機質で楽しそうじゃなかったから」


 目は流石に、自分じゃ確認しようもないので分からないですね……。


「それに、やっぱりリリィに戦闘なんて似合わないよ」


「むっ、それはどういう意味ですか」


 むっとルル君を軽く睨むと、ルル君は困ったように笑いながら、いつもの口調で告げました。


「バカみたいに突っ走って、派手に転んで、泥だらけになりながら笑顔ではしゃぐ……そんな、子供みたいに明るくて無邪気で、お調子者なリリィが、僕は好きだよ」


「へ……」


 ……今、ルル君なんて言いました?

 何だかすっごいバカにされたかと思ったら、いきなり好きだとか言われた気がしたんですけど!?

 ままま待ってください、まだ心の準備がそのあの……!


「え、えと、その、わ、私は……」


「だから今は、大人しく眠ってて。絶対終わらせるから」


「へ?」


「『眠れ』」


 ルル君に命じられるままに、私の意識は闇に沈んでいく。

 それに代わって、私の中で埋没していたイライラする感じ……よくない何かが湧き上がってきます。


「ダメです、ルル君……」


 最後の呟きは届くことなく、私はルル君の胸の内に倒れ込みました。

リリィ、やっぱり正気だったんじゃないだろうか(ぉぃ

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