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第八十六話 ルルの狂乱②

 僕、ヒルダ、モニカ、マリアベルの4人は、リリィ救出のため、魔道具の反応を頼りに街中を進んでいた。

 先生や、衛兵に助けを求めるという手段は使えない。……使ったら、色々と僕らが持っていたらダメな魔道具のせいで、リリィを助ける前に間違いなく僕らがその場で捕まる。

 便利だけど、せめてもう少し誤魔化しの効く魔道具を持たせて欲しかったよ、カタリナさん。


「それで、反応は街の外からなのか?」


「うん、街の南側にある山の1つからみたいだ。洞窟か何かがあるんじゃないかな」


「ふえぇ……山登りになるんですか……」


 ヒルダの疑問に答えると、僕らの中ではリリィに次いで体力がないマリアベルがそう不安そうに呟く。

 けれど、そんな彼女の肩にモニカがポンと手を置いて、安心させるように呟いた。


「大丈夫ですよ。カタリナ様はそうした事態も想定されているはずですから」


「そうだけど、どうしてモニカが知ってるんだよ……」


 当たり前のように断言するモニカの言葉に溜息を零しつつ、僕はみんなを伴い一旦路地裏に入ると、腰に括りつけた袋……これまた機密扱いの魔道具、空間容量を大幅に拡張させたマジックボックスから、全員分の靴を取り出す。


 えっ、そんな道具があるなら何であんな大荷物だったんだって? こんな魔道具があってもあれだけの大荷物になるほどに押し付けられたからに決まってるじゃないか……。


「あれ、この靴ってジェットブーツですか? 飛行魔法が刻まれてるっていう」


「うん、そうだよ。使い方は分かる?」


「大丈夫です。というか、やっと国家機密とか門外不出とかっていうのじゃない、普通の魔道具が出て来てちょっとほっとしちゃいますね……」


 しみじみと呟くマリアベルに、僕も心の中で頷く。

 ていうか、このジェットブーツにしても、カタリナさんの手作りらしいけど、店で買ったらこれ……いや、考えるのはやめよう。


「へー、こんなのがあるなら、ひとっ飛びで助けに行けそうだな」


「いや、流石に街中からいきなり飛び立ったりはしないよ? まずはバレないように街の外に出ないと」


「ん? どうしてだ?」


「フレアは魔王崇拝者だ。そこまで規模は大きくないとはいえ、宗教団体相手だとどこに協力者がいるか分からないし、こっちの動きがバレて事前に待ち構えられたら面倒だ。だから、まずはそういった連中に気付かれないように動いて、奇襲をかけたい」


 僕がそう言うと、ヒルダは「そういうもんか」と一応の納得はしてくれた。

 あまり分かってなさそうだけど、反対じゃないならそれでいい。


「けど、具体的にはどうやって? それも魔道具ですか?」


「いや、モニカに頼むよ。出来るよね?」


「はい、お任せを」


 みんながジェットブーツを履いたところで、モニカが魔法を使い、僕ら全員に隠密の魔法をかけてくれる。

 音、光、匂い、更には自然と漏れ出る魔力まで、外界から完全に姿を隠蔽する高度な術だ。


「これで、一般人はもちろん、生半可な衛兵や自動化された警報装置の魔道具にも気付かれないはずです。ルルーシュさんや、その同類のフレアさんという人、それから、騎士団長さんクラスの人にはバレてしまいますけど」


「十分だよ。僕らみたいな特殊な人間はそういないし、騎士団長クラスなんてそれこそこんな街の監視役程度で収まってないはずだ」


 そんなレベルの敵をやり過ごせるなら、むしろここでバレるくらいは安い対価だ。

 実際には、いてもこれから向かう先で待ち受けてるだろうけど。


「で、この魔法ってどれくらいもつんだ?」


「10分程度でしょうか」


「じゃあ、その間に急いで向かうとしようぜ」


「うん、行こう、みんな」


 ヒルダの言葉に、みんなで頷きを交わし合い、音もなくその場から飛び立つ。

 リリィ……無事でいてよ……。




 ナインベルの南側にある山の1つ。

 街の周囲にある山の中でも、最も標高が高いその山の中腹に、大きな洞窟があった。

 山肌の色が保護色になり、上から見ると一見ただ地続きになっているように見える上、登山ルートからも外れているから偶然誰かが寄り付くことは絶対に起こらないだろうそこに、魔王崇拝者達の拠点があった。


「見張りもいないみたいだし、このまま突入するか?」


「構いませんけど、私の魔法はそろそろ限界なので、突入する場合はどうしても姿は丸見えになってしまうと思います」


 その近くの空で、僕らは突入作戦を練っていた。

 と言っても、そこまで複雑な作戦を練られるほど、僕らは経験豊富なわけでも、手札が多いわけでもないんだけど。


「なら、オレとマリアベルで派手に暴れて連中の気を引くから、モニカは残った魔力でルルーシュをリリィのところまで連れてってやればいいさ」


「あれ、私も囮役ですか!?」


「おう! というか、マリアベルだってルルーシュから魔道具貰ったんだから、戦えるだろ?」


「それはそうですけど、あまり戦力としては当てにしないでくださいね!?」


「分かってる分かってる」


 ヒルダの言う通り、確かにマリアベルには魔石爆弾や魔法結界の魔道具を渡してあるし、ちょっとした重装歩兵みたいな状態になってはいる。

 ……コストがかかり過ぎて、近衛騎士団すらここまで大量の使い捨て装備で固めてはいないだろうけど。


「そういうわけだ、外は任せて、リリィは頼んだぜ、ルルーシュ」


「ああ、任せといて」


 けど、リリィが助け出せるなら、これくらいの出費は安いものだろう。

 出費は全部リリィの両親持ちではあるけど、僕が出さなきゃならなかったとしても、これくらいはする。

 流石に、国宝持ち出すのは無理だけど。


「それじゃあルルーシュさん、私達は少し離れてましょうか」


「うん、ヒルダ、マリアベル、気を付けて」


「おう!」


「は、はい!」


 ヒルダやマリアベルと別れて、僕とモニカは地上に降り、岩陰に身を隠す。

 直後、山肌で盛大に爆音が響き渡った。


「ぼんばーー!! ですーーー!!」


「おらおら魔王崇拝者ども、コソコソ隠れてないで出て来やがれ! 穴倉に籠ったまま生き埋めにされてぇのかぁ!?」


 マリアベルが上空から魔石爆弾の雨を降らし、それと共にヒルダがとんでもなく物騒な口上を垂れてる。

 いや、生き埋めにしたらリリィまで死ぬからやめよう?

 まあ、拠点の中に隠れてる魔王崇拝者の戦闘員たちを外に引きずり出したいのは分かるけど、いくらなんでもこんな露骨な煽りに釣られて出て来るような奴はいないでしょ……。


「な、なんだ、何事だ!?」


「敵襲じゃ! 異教徒の襲撃じゃあああ!!」


「であえ、であえい! 異教徒どもを駆逐するのじゃあああ!!」


 と、呆れている僕を他所に、巣をつつかれた蜂のようにワラワラと出て来る魔王崇拝者の戦闘員たち。

 いや君達、いくらなんでもこんな雑な陽動に引っかかるのはどうなの!? 子供でももう少し慎重にならない!?


「……なんでこの国はこんな連中すら野放しのままなんでしょうね?」


「逆に、この程度だから放置しても無害だと思われてたんじゃないの……?」


 実際、今回リリィが誘拐されるまで、魔王崇拝者を名乗る不審者にしつこい勧誘をされたっていう通報が偶に衛兵にされるくらいで、ネーミングの割には比較的大人しい集団だったわけだし。

 そう答える僕だけど、モニカにとってはそれすら嘆かわしいとばかりに、額に手を当て頭を振った。

 何というか、お疲れ様?


「はあ、もういいです、こんなくだらない事件、さっさと収束させましょう」


「それはもちろん、分かってるさ」


 モニカと頷き合い、隠密の魔法をかけて貰った僕は、モニカと一緒に戦闘員が排出されきった洞窟の入り口に向け走り出す。

 途中で一度だけ、無数の爆発音と炎が乱舞する戦場を一瞥すると、ヒルダが双剣で暴れ回り、マリアベルが打ち込まれる魔法をきゃーきゃーと叫びながら回避している姿が目に入った。


「……気を付けて」


 案外余裕そうには見えるから大丈夫だとは思うけど、これでもし何かあったらリリィに合わす顔がない。

 一言だけそう言い残し、僕は魔王崇拝者たちの拠点へと足を踏み入れるのだった。

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