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第八十三話 急展開です!

「全くもう、ルル君はもうっ」


 温泉から上がった私は、宿の二階、各部屋に必ずあるバルコニーで、軽く夜風に当たっていました。

 私の全力のアッパーカットを受けたルル君はそのまま目を回し、そのまま女湯で気絶するという事態に陥ってしまいました。

 流石に、素っ裸のルル君をそのままにしておくわけにも行かず、さりとて私達が運ぶのも色々と問題があるということで先生を読んで、後の処理をお願いしてきました。

 「まあ、ルルーシュも男だからな、覗きの一つもやりたくなる年頃ってことだろう」なんて先生は言ってましたけど、されたのは覗きどころじゃないです。

 いきなり飛び越えて来て、モニカさんの胸を揉んでたと思ったら、今度はわ、わた、私の胸を……。


「ふにゃああああああ!!」


 その時の光景と感覚を思い出して、一瞬で茹で上がってしまった頭を、私はバルコニーの手すりにガンガンぶつけて無理矢理冷まそうと努力しますが、むしろどんどん熱くなっていきます。

 ああもう、私の方から言っておいてなんですけど、まさか本当に揉まれるなんて思ってもみませんでしたよ! 普通揉みます!? いくら相手から言われたからって女の子の胸を! 揉みますよね多分私も逆の立場なら揉みますよ、でも流石に私のこんな貧相なの揉まれるなんて思わないじゃないですか、だからあんな……もぉぉぉ!! 私のバカバカバカーーー!!


「……えっと、何してるの?」


「ふぇ?」


 そんな風に、一人叫んだり頭を抱えたりと騒いでいると、不意に後ろから声がしました。

 振り向いてみると、そこにいたのは予想外の人物。


「あれ、フレア君?」


「やあ。覚えててくれたんだ、嬉しいね」


 今日、街中で迷子になってるところを見つけ、この宿の近くにある別の宿へと案内した男の子。

 フレア君が、にこやかに私に手を振りながら、私の隣へとやって来ました。


「どうしてここにいるんですか?」


 距離的にはそれほど離れていないですけど、こんな時間に宿の外を出歩くなんて不用心です。

 そう思って尋ねると、フレア君は心外だとばかりに肩を竦めました。


「君に会いに来たんだよ、リリアナ」


「私ですか? なんでまた」


 益々首を傾げる私ですが、フレア君はそれ以上言うつもりはないのか、「それより」と話を逸らしてしまいます。


「リリアナこそ、こんな場所に一人でどうしたんだ? さっきの彼は?」


「あ、そうです、聞いてくださいフレア君、ルル君が酷いんです!」


 ただ、ちょうどよく頭の中を占めていた相手の話題だったので、私自身特に気にすることなくそれに乗っかり、先ほどのルル君の狼藉を語って聞かせます。

 本当なら、会ったばかりの相手に話すような内容でもない気はしますけど、なぜだか不思議と、抵抗なく話してしまいます。


「へえ、女湯を覗くなんて最低だな」


「いえまあ、ルル君が理由もなくそんなことするわけないのは分かってるんですよ。私の悲鳴を聞いて助けに来たっていうのが本当なんだろうなって。モニカさんの胸に飛び込んだのも事故なんでしょうけど……でも、その後私の胸触ったのは……ふにゃああああ!!」


「どうどう、落ち着いて落ち着いて。ほら、深呼吸」


 またも記憶がフラッシュバックして叫び出す私を、フレア君が宥めてくれます。

 ひっひっふー。ひっひっふー。よし、落ち着きました。


「それにしても、そこまでされてよく怒らずにいられるな」


「いえ、怒ってますよ? い、いくら私があんなこと言っちゃったからって、あんな堂々としなくても……ごにょごにょ」


「だって、その割にはリリアナ、嬉しそうだし」


「ぶーーーーっ」


 と思ったら、速攻でフレア君に爆弾を投げ込まれて、私は再び混乱の坩堝に叩き落とされました。


「……違うのか?」


「い、いえその、ルル君は幼馴染で、確かにそういう関係になろうとしている最中ではありますけど、でもやっぱりまだ早いと言いますかっ!」


 ルル君に触られて喜んでるとか、もはやそれ完全にアウトじゃないですか!! 私はそんな変態じゃありませんし、第一そういうのはちゃんと付き合ってから……って、それじゃあまるで付き合ってさえいればウェルカムって思ってるみたいじゃないですかーーー!!


「そう……そうか。それはよかった」


「……フレア君?」


 そんな私の言葉を聞いて、フレア君はそう、本当に嬉しそうに呟きます。

 その様子に、私はなぜだか寒気を覚え、混乱の渦中にあった私の思考が冷静さを取り戻しました。


「リリアナ、さっき言ったね? 俺がどうして君に会いに来たのかって」


「え、えと、は、はい」


 隣り合っていたフレア君が、私の方に更に体を寄せてきます。

 反射的に足が半歩下がりますが、フレア君に手を取られ、それ以上下がれなくなりました。


「俺が、君のことを欲しいと思ったからだよ」


「えっ……」


 えぇぇ!? と、いつもなら大声を上げながら驚きそうな告白を受けて、けれども私は、そんな少ししか言葉を発せません。

 それ以上に、その漆黒の……いえ、蒼の瞳に浮かぶ、漆黒の魔法陣。それに意識を奪われて、気付けば何も言えなくなっていました。


「リリアナ……いや、リリィ。俺のモノになれ」


 ゆっくりと、フレア君の顔が近づいてきます。

 それが意味するところを理解しているはずなのに、私の体はピクリとも動かず、ただぼーっと、瞳に浮かぶ魔法陣を見つめ続ける。

 そして、魔法陣越しに映る私のぼんやりとした顔が見える距離まで迫って……


「っ!」


 咄嗟に、私は両手を伸ばし、フレア君の体を突き飛ばしていました。

 その場に尻餅を付き、呆然と私を見上げてくるフレア君の顔が見えましたが、私はそれどころじゃありませんでした。

 私……今、何をしそうに……?


「……まさか断られるとは思ってなかったな」


「あ、あの、すみません! 私、失礼します!」


 自分が自分じゃないような感覚に、何だか怖くなった私は、急いで部屋の中へ戻ろうと駆け出しました。

 けれどその直後、私の足に何かが絡みつき、その場に倒れ込んでしまいます。

 慌てて自分の足を確認すると、そこには黒い魔力を纏った鎖のような物が巻き付いていました。


「えっ、あっ……! ぷ、《プロテクション》!!」


 咄嗟に振り払おうと足をバタつかせますが、鎖は離れるどころか私の体を這いあがってきます。

 反射的に、《プロテクション》の魔法で鎖を押し返そうとしますが、なぜか魔法が上手く発動しません。結局は、体を雁字搦めに縛り上げられ、そのまま宙吊りにされてしまいました。


「うぅ、なんで……」


 仕方なく、力づくで外せないかともがいてみるも、元々非力な私が、魔法を使えない状態で鎖なんて解けるはずもありません。

 そして、そんな鎖の持ち主……私の方に腕を伸ばし、服の裾から鎖を伸ばしたフレア君は、ブツブツと何かを呟きながら、ゆっくりと立ち上がりました。


「やっぱり同じ力相手だと、この眼も完全じゃないのか。向こうは時間をかけてじっくり支配してきたんだろうから仕方ないにしても、ちょっとショックだな」


「ふ、フレア君、何を言ってるんですか? これ、解いてください!」


 なんとかそう声をかけるも、フレア君はまるで取り合わず、ツカツカと歩み寄って来て、無言のまま私の顔を覗き込みます。

 その瞳に、また危険な予感を覚えた私は慌てて顔を逸らしますが、乱暴に顎を掴み取られ、無理矢理正面を向けられました。


「大人しく俺の魔法にかかっていれば、怖い思いをせずに済んだのに。仕方ないから、少しじっくりやらせて貰おうかな」


「じっくりって、一体、何をするつもり、ですか……」


 フレア君の瞳に見つめられ、段々と頭に靄がかかったように朦朧としていくのを感じます。

 けれど、それを自覚する頃には、もはや自分の意志では眼を逸らせなくなっていました。


「さっきから言ってるじゃないか、君を俺のモノにするためさ。全ては俺の夢のため、そして……」


 徐々に遠のいていく意識の中、フレア君は狂気に染まった瞳のままに、言いました。


「魔王復活のためだ」


 ちゃりんっ、と。

 ルル君に買って貰った、剣のネックレス。それが地面に落ちて立てた音を聞きながら、私の意識は闇に呑まれていきました。

温泉回は早くも終わりだ(無情

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