第八十一話 日頃の行いは大事です
フレア君を送った後、みんなを追いかけた私達でしたけど、結局合流出来たのは、観光ルートを一周して自分達の宿屋に帰って来たところでした。
この街に到着したのがお昼過ぎだったこともあり、その時にはすっかり空は茜色に染まっています。
すると当然ながら、私達がとっくに合流していなければおかしいくらい前には宿を出ていたことを知った先生が、仁王立ちで待ち構えていました。
「まあ私もね? あまり煩く言うつもりはないんだよ、けどね、一応これって修学旅行なのよ」
「はいっ、先生のおっしゃる通りでございます!」
「そうか分かってるのか。……よろしいそこに直れ、いつもので勘弁してやろう」
「うわぁぁぁん!! ルルくーーーん!!」
「あー、先生、一応僕達、急いで合流しようとはしてたんですけど、途中で迷子の子を見つけて宿まで案内してたので、それで遅れたんです」
「……そうなのか?」
「ええと、はい、一応」
ルル君がそう言うと、先生は「よろしい、今回は不問としよう」と言って許してくれました。
おかしい、私が最初にそう言ったら、「どうせお前がルルーシュを誑かして連れ回したんだろう」って聞く耳持ってくれなかったのに! この扱いの差は酷いです、差別です、PTAに訴えますよ! この世界にそんな組織ないですけど!
「リリアナ、不満そうな顔してるところ悪いけれど、日頃の行いの差だからね?」
「まあ、うん、諦めよう、リリィ」
「えぇっ、ルル君まで!?」
まさかの裏切り(?)に、私はその場で崩れ落ちます。
ぐすんぐすん、どうせ私は問題児ですよ、いつもみんなに迷惑かけてますよ!
……いやほんと、ごめんなさい。
「まあいい、今日は時間も時間だから、あとは夕飯食べて寝るだけだ。二時間後だから、今度は2人ともちゃんと来るように」
「「はーい」」
ルル君と一緒に返事をして、割り当てられた部屋に向かいます。
あ、さっきは看病のために私の部屋にルル君がいましたけど、当然寝る時は別の部屋です。ど、同棲するにはまだ早いですから!
それに、何も一緒の部屋じゃなくても、私にはこれがありますし。
「えへへ……」
部屋へ向かう傍ら、先生への隠蔽工作(?)のために外していた剣のネックレスを取り出し、軽く眺めながら思わず笑みを零します。
そうしていると、不意に隣を歩くルル君が、私の肩に手を回し、そのまま強引に抱き寄せてきました。
ふえっ!? あの、ルル君!? 確かにここは温泉宿で、そういう展開もよくあることですけど、こんな風に何の前触れもなくっていうのはちょっと予想外と言いますか!?
「リリィ、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ?」
……と、思ったら、単純に私がネックレスに気を取られていたら、偶々通りがかった他の生徒にぶつかりそうになったようで、ルル君は私を抱き寄せたまま、その生徒さんに軽く頭を下げていました。
は、恥ずかしい……
「す、すみませんルル君」
「いや、謝るならあっちの子にね? ていうか、そんなに気に入ったの? それ」
若干呆れ気味に問いかけてくるルル君に、私はついムっとしながら「だって」と口を開きます。
「だって、ルル君が初めてくれたお揃いのプレゼントですし……」
お揃いというかペアですけど、この場合は似たようなものです。
今までも、誕生日に何かしら貰ったりあげたりっていうことはありましたけど、こういうお揃いのアイテムを貰ったのは初めてですから、どうしてもこう、嬉しくなったと言いますか。
「あー、うん、それなら良かったよ」
少し照れたようにそう言ったルル君は、「そうだ」と思い付いたように呟くと、私が持つネックレスを手に取りました。
「付けてあげるよ」
「えっ」
そう言って私の後ろに周り、優しく首にかけてくれます。
正面から首の後ろに手を回され、自然と顔が急接近。ルル君の整った顔がすぐ目の前に。
ちょ、ちょっと近いです近いですよルル君! これちょっとうっかり背中押されちゃったりしたらそのまま触れ合っちゃったりとかしちゃうくらいの距離感ですよ!? 今の今ぶつかりかけたんですからもう少し緊張感といいますか、ああでももしそうなっちゃっても事故ですよね、そう事故、だから……!
「はい、出来た」
なんて考えてるうちに、ネックレスも付け終わったようで、ルル君は離れていきました。
ええ、そんなアクシデント、早々起こるわけないですよね。知ってましたよ、知ってましたとも! 全く、これっぽっちも、期待してなかったです!!
「どうかした?」
「い、いえ! それよりその、似合ってますか?」
自分でもこれはないと思うような妄想への未練を振り払いながら、それを誤魔化すためにもありきたりな質問を投げかけます。
これ、定番過ぎていつもテレビなんかだと、他に言うことないのかなんて思ったりしてましたけど、いざ自分が言う立場になってみるとあれですね、ないですよ言うことなんて、というか何を言われるか分かってても、言って欲しいんですよ当人の口から!
「うん、似合ってるよ。可愛い」
「え、えへへ……」
冷静に受け取れば、剣のアクセサリーで可愛いってなんだって感じですけど、ルル君にそう言われただけで私の頭の中は喜び一色に染まって、そんな些細なことなんてどうでもよくなりました。
「そ、それじゃあ、今度は私が付けてあげます! ルル君のください!」
「え? ああ、うん、分かった」
ゆるゆるになった表情を慌てて引き締めて、お返しにルル君のも付けてあげることにします。
私ばっかり恥ずかしい思いするのは不公平ですからね、ルル君にも味わって貰わないと!
「それじゃあ早速……」
ルル君から受け取った盾のネックレスを、私も正面から付けてあげます。
さっきは私の方がパニクってそんな余裕はなかったですけど、よくよく見ればルル君の顔もちょっと赤くなってます。ふふ、ルル君も多少は意識してくれてるんですね、それなら……
「……あの、リリィ、近くない?」
「さっきのルル君もこれくらい近かったです」
「いや、そんなことないと思うんだけど?」
「それにほら、あれです。意外と正面から付けるのって難しいですよね、はい」
「いやいや、だったら後ろに回るとかあるでしょ!?」
ルル君が何やら言っていますが、そんなことは知ったことじゃありません。
私はルル君の首の後ろに手を回し、顔を近づけて……
「お前ら、こんなところで何してんだ?」
「ひゃう!? ひ、ヒルダさん!?」
「ぐえっ」
そこへ、偶々通りかかったらしいヒルダさんの声がして、驚いた私はうっかり付け終わった直後のネックレスを思いっきり引っ張ってしまいます。
「ああっ、ルル君大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……」
潰れたカエルみたいな声を出して蹲るルル君を慌てて介抱します。
そうしていると、ヒルダさんの更に後ろから、マリアベルさんやモニカさんもやって来ました。
「あーもう、ヒルダさんっ! なんでいいところで邪魔しちゃうんですか、あと一歩だったのに!」
「何があと一歩だったんですか!? というかマリアベルさん、いいいつから見てたんですか!?」
「リリアナさんがルルーシュさんに肩を抱き寄せられて、『だってこれ、ルル君が初めてくれたお揃いのプレゼントですし……』って言ったあたりです」
「ふぇあぁぁぁぁぁ!!?」
思いっきり最初の方じゃないですかぁぁぁぁ!!!
うわぁぁぁ、恥ずかしい、超恥ずかしいです!! もう、なんで私はこんなところであんな凶行に及んだんですかもぉぉぉぉ!!!
「まあまあ、仲が良いのは良いことですよ。多分……」
「うぅ、それはそうですけど……」
モニカさんに慰め(?)られて、ひとまず気を取り直した私は、回復したルル君と一緒になんとか起き上がります。
そんな私達に向けて苦笑を浮かべながら、ヒルダさんが「ああ、そうそう」と何か思い出したかのように手を叩きました。
「まだ夕飯まで時間あるから、せっかくだし先に温泉入ってみようぜって誘いに来たんだった。どう?」
「あ、いいですねそれ。行きましょうルル君!」
温泉街に旅行に来たんですから、何はさておき温泉を堪能しないことには始まりません。
そう思ってルル君を誘うと、「別にいいけど」と肯定の返事が返ってきました。
その割にはいまいち歯切れが悪いですけど、どうかしましたかね?
「リリィ、一応言っておくけど……温泉は男女別だからね?」
「…………し、知ってますよそんなこと!!」
小声で紡がれた確認の言葉に、咄嗟に反応が出来なかったのは、それだけ衝撃的な言葉だったからとだけ言っておきます。
断じて、混浴とか期待してたわけじゃないですから!!
次回、ついに温泉回です! 混浴なんてないよ! よ!