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第八十話 新しい出会いです

「そこの二人、この街の子?」


 ルル君とお揃いのアクセサリーなんて買って店長さんに冷やかされ、2人で微妙に気まずい空気に陥っていると、突然後ろから声をかけられました。

 振り返ってみれば、そこにいたのは私達と同い年くらいの、一人の男の子でした。

 まず目に付くのは、輝くような金色の髪。癖毛なのか、ところどころ跳ねていますけど、あまりだらしない印象は受けません。

 むしろその、自信に満ち溢れた力強い輝きを放つ蒼の瞳と合わさると、まるで太陽のような活発さを感じさせて、何だかこっちまで元気になっちゃいそうです。


 落ち着きがあって、夜空に浮かぶ月のような白銀の髪を持つルル君とは随分と対照的な男の子ですけど、何となく……そう、何となく雰囲気が似ている気がするのは、気のせいでしょうか?


「いや、僕達は修学旅行で来たんだ。王都にある、フォンタニエ王立学園の一年生だよ」


 私がそんな風に男の子を観察していると、代わりにルル君が質問に答えてくれました。


「そうなのか? 俺も似たようなものでさ、引率の人と逸れちゃったから、もし地元の人なら宿まで案内して貰おうかと思って……あ、まだ名乗ってもいなかったな、俺はフレア。フレア・マクバーンだ、よろしく」


「あ、私はリリアナ・アースランドです、よろしくお願いします」


「僕はルルーシュ・ランターン。よろしく」


 ぺこりと軽く会釈しながら挨拶をすると、フレア君と名乗った男の子は、「へえ」と嬉しそうにその表情を喜色に染めました。


「アースランドってことは、もしかして君、あのカロッゾ・アースランドの関係者だったり?」


「あ、はい。カロッゾ・アースランドは私のお父様です」


「ああ、やっぱり! 英雄の家族に会えるなんて、やっぱり遠出はしてみるものだな。感激だよ!」


「ふわっ!?」


 お父様のことを聞かれたので素直に答えると、フレア君は唐突に私の手を握り、ブンブンと上下に振り回し始めました。

 ちょっ、ちょっとこの反応は予想外ですよ!?


「えーっと、リリィが困ってるから、それくらいにして貰える?」


「おっと、ごめんごめん、俺もこの髪色だからさ、かの筆頭騎士には憧れてて」


「あ、あはは、そうなんですか」


 最近はそうでもなかったですけど、そういえばお父様ってすごい人なんでしたね。

 私が出かける前に騒ぎまくって、お母様の魔法で伸びてる姿を見てるので、とてもそうは思えませんけど……


「それにしても、リリィ、ね」


「な、何?」


「いや、仲の良さそうなことで、羨ましいなと思っただけだ」


 そして、私を助けるために間に入ってくれたルル君を見て、フレア君が凄く意味深な笑みを浮かべています。

 あ、あの、リリィっていうのはあくまで愛称であって、別にルル君だけのものじゃないですからね? まあ別に、ルル君なら専用の愛称とか付けてくれてもいいですけどね?


「本当に、羨ましい」


「……?」


 私をじっと見つめながら、フレア君が重ねて呟きます。

 その()()瞳に、なぜだか吸い寄せられるような不思議な魅力を覚え……


「ごほんっ」


「!」


 ルル君の咳払いではっと我に返った私は、何となく罪悪感を覚えておろおろしますけど、そんな私の頭にルル君はぽんっと手を乗せ、優しく撫でてくれました。

 はふう、落ち着きます……


「それで、宿の場所が分からないんだっけ? 僕らも来たばかりだけど、もし知ってたら案内してあげるから、なんて名前の宿か教えてくれる?」


「おっ、いいのか? それじゃあ……」


 私がルル君に撫でられて家猫みたいに大人しくなっている間に、話が纏まり、どうやらフレア君は、私達の泊っている宿にほど近い場所に泊まっているらしいことが分かりました。

 帰りの道中にあるので、そこまで送っていくことに。

 えっ、みんなとの合流ですか? まあ大丈夫ですよ、迷子を送り届ける方が大事ですから。多分。


「それにしても、フレア君、遠出もしてみるものだって言ってましたけど、どの辺りから来たんですか?」


 その途中、ただ黙っているのも何なので、私はフレア君に話しかけていました。

 何となく……そう、何となく気になるんですよね。何ででしょう?


「城塞都市アルベルトの辺りかな。あそこって出入りが厳しいからさ、中々外に出る気にもなれないんだよ」


「へ~……ルル君、アルベルトってどこでしたっけ?」


「帝国との国境付近にある街だよ。この間授業で習ったでしょ……」


「あれ?」


 うーん、言われてみれば聞いたことあるようなないような……


「元々帝国の侵略を食い止めるための防波堤として作られた街で、密偵なんかも多いから人の出入り審査は結構厳しいらしいね。王都もやってるけど、あそこはそれ以上だって話だよ」


「へー、そうなんですか」


 王都の出入り審査……ありましたっけ? いえ、確かに今回の修学旅行で王都を出る時は何だかそれらしいことした気がしますけど、なんだか私、それ以外は割と普通に出入りしてるような……うん、これは考えたらダメなやつですね、きっと!


「けど、あの街に学園みたいな施設はなかったと思うけど、フレアはどういう関係でこっちへ? さっきの口ぶりからすると、家族旅行って感じでもないよね」


 全く覚えていない私に苦笑しつつ、ルル君はフレア君へと問いかけます。

 確かに、この国の学園施設って王都の学園しかなかった気がしますし、同年代の子が学園行事でもなしに遠出することってあまりないですよね。旅行ですら一般的じゃないのに、家族と来たわけでもないってなると、大分限られる気がします。


「ああ、俺ってこう見えて一応孤児だからさ。教会に保護されてるんだけど、将来のために見聞を広げるとかなんとかで、珍しく街の外に出られたんだ」


「へ~、フレア君、苦労されてるんですね」


「結構大きな教会で、支援金もたくさんあるから、生活の上では苦労はほとんどないさ。見ての通り、身なりも悪くはないだろ?」


「そう言われれば、確かにそうですね」


 フレア君の服装は、別段お金がかかっているわけでもなさそうですが、さりとて貧乏臭いということもなく、普通に庶民の子が着ていて何の違和感も覚えない物になっています。

 王都のスラム街で知り合った子達と比べれば、その差は歴然と言っていいでしょう。


 そんな風に、他愛もない話をしながら歩いていると、私達はフレア君の言っていた宿屋に到着しました。

 私達の泊っている宿屋と比べると、多少グレードは落ちそうな感じはありますけど、その辺りは一応、国からも予算が降りている王都の学園行事と、寄付金で成り立っている教会の行事という差ですかね。

 別にボロいわけでもないですから、こんなものなんでしょう。


「あ、ここだここだ。2人共ありがとう、助かったよ」


「いえ、私もお話出来て楽しかったです」


 お礼を口にするフレア君に、私も笑顔を返しながらそう言うと、彼は嬉しそうに顔を綻ばせます。


「本当? 俺、もう何日かはこの街にいるんだけど、リリアナ達は?」


「私達もまだ来たばかりですから、しばらく滞在しますよ」


「じゃあ、また明日も会えるかな?」


「あはは、私達も一応、学園行事で来てますから、ずっとってわけには行かないと思いますけど、自由時間になったら会いましょうか」


「約束な?」


「はい!」


 手を振り合いながら、フレア君と別れます。

 さて、随分と時間を使っちゃいましたし、私達も急いでみんなと合流した方がいいですよね。先生、怒ってないといいんですけど……

 そんなことを思いながら、ルル君の方へと向き直ると、なぜだかルル君は、難しい顔をして考えこんでいました。


「あれ、ルル君、どうしました?」


 声をかけてみますけど、中々反応が返ってきません。

 フレア君と別れるまで普通にしていたのに、突然どうしたんでしょう? あ、でも、いつもより口数が少なかったような……

 そう思って首を傾げていると、ルル君はゆっくりと私に向き直って、ようやく口を開いてくれました。


「リリィ、フレアのことどう思った?」


「へ? どうって、良い子そうだなーって感じでしょうか?」


 いきなりどうと言われても、それくらいしか答えられないんですよね。

 けど、どうもルル君が望んでいた答えとは違うみたいです。うーん、それ以外となると……


「後は、何だかルル君と似てる感じがしたってくらいでしょうか? おかしいですよね、あんまり似てないのに」


 あはは、と笑いながら、ルル君にそう伝えると、何だか益々難しい顔をして考えこんでしまいます。

 うーん? 本当にどうしたんでしょう?

 少し俯き気味のルル君の正面に周り、顔を覗き込むと、ルル君はそんな私に向け、一言。


「リリィ、フレアには関わらない方がいいかもしれない」


「へ?」


 そう、言いました。

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