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第七十九話 ダウンした後は観光です

 空を薄らと覆うのは、街の至る所から立ち昇る白い湯気。

 峰の高い山々に囲まれた地形は、外敵に対する天然の要塞……というと聞こえはいいですが、実際のところは戦略上特に重視されていない街なので、単純に人の出入りの妨げになっている。

 しかしそんな街であっても……いえ、そんな街だからこそ、出歩く人々の多くは、滅多に行けない秘境を求めてやってきた観光客で、下手な田舎よりも賑わっていました。

 それが、山岳都市ナインベル……私達が、修学旅行でやってきた街です。


「うー……」


「リリィ、落ち着いた?」


 ……けれど、辿り着いた私は観光に赴くでもなく、まず初めに案内された温泉宿の一室でダウンしていました。

 はい、馬車酔いのせいです。出発初日にやらかして以来、どうやら癖になってしまったらしく、ここに来るまでほぼ連日ダウンしていたので食事も喉を通らず、若干栄養不足なのもあってこの有様です。辛うじて風邪を併発しなかったのは、不幸中の幸いと言ったところでしょうか?

 付き添いで、ルル君に看病されているのが嬉しいやら申し訳ないやら、本当、どうしたものでしょうか?


「はい、もう大丈夫です……ですから、ルル君はみんなのところに戻っても大丈夫ですよ?」


「そんな青い顔で言われても説得力ないよ。ほら、少しでも食べな」


「あうー」


 スプーンで僅かなお粥を口の中に突っ込まれ、反論の言葉を紡ぐ間もなく封殺されます。

 普通、こうしてダウンした生徒のお世話って先生の役目な気がするんですが……なんでも、ルル君が先生に相談しに行ったら、「良かったらルルーシュが面倒見てくれる? あ、でも二人きりだからって手は出しちゃダメだからね?」なんて言ってあっさり許可してくれたそうです。

 いや、あっさり許可出すのもそうですけど、こんな幼気な子供捕まえて手は出しちゃダメって、先生は一体どんな想像してるんですか!? そ、そんなことにはなりませんから!


「リリィ、顔赤いけど、やっぱり風邪引いた?」


「ち、違いますから大丈夫です!」


 変な想像で思わず赤面してしまった私の顔を、ルル君が覗き込んできます。

 慌てて顔を逸らしながらそう叫ぶと、「よかった、元気出てきたみたいだね」なんて、輝くような笑顔を向けてくれます。

 うぅ、純粋無垢なこの笑顔が眩しいです。


「もう少し休んだら、みんなのところに行こうか。急げば追いつけるだろうし」


「そうですね。あ、でも……」


「でも?」


 少し体調が戻ってきた体で、いいこと思い付いた、と私は笑みを浮かべます。

 それを見て、ルル君は私が何を考えているのかを察したのか、少しだけ呆れ顔になりますが、反対というわけでもなさそうなので、そのまま私は思ったことを口にしました。


「どうせなら、予定にあった観光ルート、私達2人で、ちゃんと見て回りませんか?」





 私は体調不良で宿屋待機。そして、体調が戻ったらこちらに合流するように、という指示を受けていました。

 体調不良と言っても、所詮はただの馬車酔い。それに伴う食欲不振で若干栄養不足でしたけど、それもルル君にあーんして貰ったのである程度回復しました。

 そして、体調が戻ったら合流する、とは言いますが、みんながどこにいるかなんて、ぶっちゃけ分かりません。観光ルートは修学旅行のしおりに書いてあるので、そのルートに沿って急いで追いかければ、そう遠くないうちに合流出来るでしょうが、それじゃあ面白くありません。


「わっ、ルル君見てください、なんか剣がありますよ、剣! 光ってます!」


「ああ、子供向けの模造剣みたいだね。魔石を使って微弱な光の魔法が発動するような仕掛けになってるみたいだけど……なんて技術の無駄遣い。少し魔法陣を変えればそのまま魔法剣にもなるよ、これ。もちろん専門の技術者が必要だけど」


「確かにお土産というにはちょっと高すぎますけど、でもカッコイイからいいじゃないですか!」


 そう言った理由から、私とルル君は、普通に観光しながら予定のルートを練り歩いていました。

 合流が遅れても、体調が戻るのが遅くなったって言えば通りますし、最悪合流出来ずにみんなが先に宿屋に戻ったとしても、「入れ違いになった」って言えば万事解決です。なんて完璧な作戦!

 もっとも、宿屋の人に私達がいつ出発したか聞かれたらアウトなので、出来れば途中で合流したいですが。


「それにしても、リリィはやっぱり可愛いよりも格好いい方が好き?」


「はい! ……って、ああその、これはえーっと……」


 つい舞い上がって、いつものノリで言っちゃいましたけど、カッコイイものばっかり見てたらあんまり女の子らしくないです。

 ルル君を好きになるんだったら、私がちゃんと女の子にならなきゃいけないのに、未だに男の子だった時のことを引きずってますね。

 うぅ、やっぱり心根を変えるのってなかなか難しい……

 と、思っていたら、不意にルル君の手がぽふっと私の頭に乗せられました。


「気にしなくていいよ、格好いいのが好きだろうと何だろうと、リリィは十分女の子らしくて可愛いからさ」


「えへへ、そうですか?」


 頭を撫でられ、思わず笑顔が零れ……ふと気が付きました。


「あれ? けどそうすると、私が頑張って男らしくしようとしてた頃も、私のこと女の子らしくて可愛い子だなんて思ってたんですか?」


「うん、そうだけど?」


「酷いですルル君!」


「いや、むしろあれで男らしく出来てると思ってたの……?」


「う~~~!!」


 本気で驚いた顔をするルル君に、ぷんすかと文句を言います。

 確かに私、空回ってばっかりですけど、そんな顔するほどダメでしたか!?


「まあ、うん、リリィは可愛いからね、何してもそう見えるんだ。だから仕方ないよ、うん」


「仕方ないって思ってるならなんで目を逸らすんですか! ルル君私のことどう思ってるんですかー!!」


 ルル君の肩を掴んで、ガクガクと揺さぶりながら叫ぶ私に、ルル君はまあまあと割と平然とした様子で宥めてきます。


「ははは、仲の良いことだな、お嬢ちゃん達」


 そんな私達に向け、店の奥からやってきた店長さんらしき男性が、朗らかな声で話しかけてきました。

 その言葉で、今どこにいるのかを思い出した私達……というか私は、ピタリとルル君への言及を止め、店長さんへと向き直ります。


「あ、すみません、うるさかったですか?」


「そりゃそうだよ、すみません、店長さん」


 私と一緒に、ルル君も頭を軽く下げると、店長さんは「気にするな、客がいたわけでもないし。子供は元気が一番だ」と笑って許してくれました。


「それより、お嬢ちゃんはこれが気に入ったのかい?」


「え? ああ、あはは、そうですね。けど……」


 店長さんが、私の見ていた模造剣を手に尋ねて来ますが、私は少し言葉を濁します。

 まあ、気に入ったのは事実ですけど、高いんですよね。今回の旅行に先立って、お父様やお母様、更にはお兄様からまで別口でお小遣いを貰ったので、買えないことはないのですけど、せっかくなら家族へのお土産に使いたいので、あまり高い買い物はしたくないんですよね。

 そんな私の気持ちを察してか、店長さんは「皆まで言うな」とばかりに掌を向け、その言葉を遮りました。


「何、コイツを売りつけようっていうんじゃない。代わりに、お土産にこんなヤツはどうだい?」


「これは?」


 そうして店長さんが見せてくれたのは、小さなネックレスでした。

 剣と盾が折り重なったような形で、それぞれから首紐が伸びているので、これは2つのネックレスが組み合わさった物みたいです。


「そっちの模造剣と同じように、魔力を込めるとちょっと光る。ペアでセットになってるから、お似合いな2人にピッタリだ、お値段もお手軽1000メルぽっきり! どうだい?」


「お、お似合い……」


 店長さんの言葉に、思わず顔が熱くなってしまいます。

 うぅ、けどこれ、ルル君とペアってことですよね? 流石にそれはちょっとハードルが……でも、光る玩具ってこう、やっぱり心惹かれるものがあるので、ここは買うしか……!


「えっと、それじゃあ、これ一つください」


「おう、まいど!」


 私が覚悟を決め、いざ買おうと思った時には既に、ルル君が少しだけ恥ずかしそうにしながらも、お代を払ってネックレスを受け取ってしまいました。


「あっ、ルル君、私も半分払いますから」


「いいよいいよ、こういう時は男が払うもんだって。それよりリリィ、どっちがいい?」


 慌ててお財布を取り出そうとする私を制して、代わりにルル君は、買ったばかりのネックレスを差し出してきました。

 剣と盾、2つのネックレスを見比べて、私は少し悩んだ後……


「……じゃあ、こっちで」


 剣のネックレスを手に取り、それを胸に抱きしめました。


「やっぱりか。リリィの魔法適正からすると、盾の方がそれっぽい気はするけど……やっぱり剣の方がカッコイイから?」


 私がどちらを選ぶのか、大体察しがついていたのか、ルル君はそう言って私に尋ねてきます。

 確かに、剣の方がカッコイイと思ってるのはその通りなんですけど……


「それだけじゃなくて、その……剣ってルル君っぽいですから、どうせならそれを持っていた方がその、ルル君が傍にいるみたいでその、嬉しいなぁ、なんて……」


 私がそう言うと、ルル君は口をポカーンと開けたまま、どんどん顔が赤くなっていきました。

 ああもうっ、そんな恥ずかしがらないでくださいよ! 言った私の方が恥ずかしいんですから、そこはいつもみたいに、困ったような笑顔で「じゃあ、この盾はリリィってことか。傷つけられないね」なんて……ってああああ!! 私は何を変なこと考えてるんですかああああ!!


「ひゅー、見せつけてくれるねえ」


「い、いや、これはその……」


 からかうように笑う店長さんに、ルル君がしどろもどろになりながら言い訳を並べ立てていきます。

 けれど私は、いくら消しても湧き上がる変な妄想を追い払うのに必死で、もはやそちらに気を向ける余裕はありませんでした。

最近デートしか書いてねええええええ!!!(砂糖と共に発狂

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