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第七十八話 移動中は大人しくしておきましょう

今回短いです

 学園を出発した私達一年生は、馬車に揺られて山岳都市ナインベルへと続く道を進んでいます。

 旅路は順調そのもの。今のところ天候にも恵まれ、快適そのものの馬車の旅となっていて、何気にこうして王都の外の景色をゆっくり見るのは初めてなので、私のテンションは朝から鰻登りです。


「お~! ルル君ルル君、あそこ、何か変な魔獣いますよ! 初めて見ますね!」


「リリィ! そんなに乗り出したら落ちちゃうよ! あと、あれは魔獣じゃなくてただの鳥!」


「えっ、あんな凶悪な面構えの普通の鳥がいるんですか……知りませんでした」


「いや、そもそもお前、魔獣だと思ったんなら何でそんなに落ち着いてるんだよ……」


 私が膝立ちのまま外を指差しそう言えば、ルル君が慌てた様子で私を車内に引き込んで、ヒルダさんは苦笑を浮かべます。

 いやだって、旅行と言ったら未知との出会いは定番じゃないですか! それが魔獣であれなんであれ、やっぱり物珍しければテンションは上がっちゃいます。

 まあ、安全の確保が万全だからこその心境ですけどね。さっきも、ふと現れた魔獣が一体、先生の魔法でぶっ飛ばされてましたし。


「まあ、リリアナさんですしね……」


「リリアナさんですもんね……」


「ちょっと待ってください、モニカさんもマリアベルさんも、私を何だと思ってるんですか!?」


「「変なひt……天然?」」


「酷いです!! ていうかお二人とも、言い直したつもりなんでしょうけど、あんまり変わってないですからね!?」


 全く、誰が天然ですか、誰が変な人ですか! 失礼しちゃいますよ、もうっ。


「いや、リリィは十分変な子だから」


「えー!?」


 ルル君にまで同じ指摘をされ、私はがっくりと項垂れます。

 うぅ、私、ルル君に変な子だなんて思われてたんですね……しくしく。


「むしろ、リリィは自分のこと普通だとでも思ってたのか……?」


「そうですね、確かに我ながら普通ではないんじゃないかとは最近思ってます。けど、そんな風に戦慄した表情を浮かべなくてもよくないですか!? 泣きますよ、私だって流石に泣きますよ!?」


 ぐすんぐすん。確かに私、今までちょーっとばかりやらかしてきたかもしれませんけど、それでももう少しこう、オブラートに包んでくれてもいいと思うんです。結果的には色々といい方向に行った……ような気が、しないでもないですし……はい、嘘です冗談です、反省してます。ぐすん。


「まあ、そんな今更なことはどうでもいいけどさ」


「良くないですよ!? 今更ってなんですか今更って、ルル君しれっと酷くないですか!?」


「朝からずっとそんなテンションで、最後まで体力持つの? まだ最初の宿場町に着くまでかなりあるよ?」


「あれ、スルーですか!? いや、まあ、言いたいことは分かりますけど。でも……」


「でも?」


「……騒いでないと飽きそうなんですよ!!」


 はい、そうです。確かに王都の外に出たのは初めてですし、見る物全て珍しいのは確かです。

 でも、その見る物の変化が起こるまでが長いんですよ!! いくら物珍しくても、ずっと同じ景色じゃ普通に飽きます! もうここまで来ると、どんな些細な変化でも騒がないとやってられないんですよ!


「いやまあ、気持ちは分かるけど、それならそれで、もう少し体力を使わない暇潰しでもすればいいんじゃない?」


「体力を使わない暇潰しですか?」


 体力を使わない、というと……じゃんけん、あっち向いてホイ、後はにらめっことか……?

 ……にらめっこ、ルル君と……


「……? 何、リリィ?」


 じーっと見つめていたら、ルル君がこてんっと首を傾げます。

 黙っていたら女の子にしか見えない、可愛らしい顔立ち。何なら私よりも白くて綺麗な肌に、輝くような銀髪がさらりと流れ、まるで雪化粧した大地のように思わず目を奪われてしまいます。

 そんな銀世界の中に浮かぶのが、夜天に妖しく光る月のような、紫の瞳。

 私の全てを覗き込み、闇へと誘うかのように揺れるその瞳を見ていると、段々と頭がぼーっとしてきて……


「……あの、リリィ、近いんだけど」


「ふにゃ!?」


 気付けば、私のすぐ目の前に、ルル君の顔がありました。

 いえ、どちらかというと、私の方がルル君に近づいてたみたいです。


「……なるほど、リリィは何かして遊ぶよりも、ルルーシュの顔見てる方がよっぽど時間潰せるってことか」


「ち、違いますから!!」


 ヒルダさんがしみじみと呟くのを、私は全力で否定します。

 いえまあ、確かにちょっと見惚れちゃったのは事実ですけど、でもそんな、「ルル君の顔を見てるだけでも幸せです」なんて、自分でも砂糖吐きたくなるような甘ったるいことは考えてませんから! ただちょっとその、ほら、ルル君の顔見てたら、私より可愛い顔してるなーって……うん、それはそれでちょっと悲しくなってきました。


「ああもう、それよりほら、しりとりしましょうしりとり! こういう旅路ではしりとりで暇を潰すのが定番です!」


「露骨に逃げたな……まあいいか、オレも暇なのは確かだし」


 ヒルダさんからは若干の呆れ顔を向けられ、ルル君からは少し困ったような、照れたような顔を向けられながら、何とか暇潰しを名目に話題逸らしに成功します。

 ふぅ、これで一安心ですね……


 と、そんな風に思いながら始めたしりとりでしたけど、気付けばルル君関係の言葉ばかり言っていることに気付いて、1人悶絶するハメになったり、あっち向いてホイをやってみれば、餌に釣られる犬のように誰とやっても負けてしまったり、そのことでムキになって騒いだり……

 そんな具合にはしゃぎ過ぎた結果、当然のように馬車酔いを起こし、ちょっとばかり淑女とはかけ離れた醜態を晒してしまいました。

 やっとの思いで辿り着いた宿場町で、ルル君に介抱されたこと自体は良いんですけど……やっぱり、私の記憶の中でもダントツで黒歴史な思い出となったので、これに関しては魔法で記憶ごと、跡形もなく消し飛ばしたいです。

 切実に。

ちなみに作者はバス酔いが酷いです。

あの独特の匂いがなんとも苦手で……(´・ω・`)

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