番外編 眠れる美女は男の娘? 中編
「ほら、こっちも面白そうだよ、早く早く!」
「急かすんじゃねえよ、ガキかてめえは!」
「僕ら高校生だからまだ子供だよ?」
「そういう意味じゃねえ!!」
屋上から校舎内へと戻った僕らは、そのまま文化祭の出し物巡りを開始した。
最初はどうなることかと思ったけど、彼が嫌われ者という自己申告は本当だったようで、僕に向かって来ようと走り出したみんなが、彼を視界に収めるなり綺麗にピタっと足を止めるのは見ていて何だか面白い。
「まあまあ、いいじゃない。お陰でこうしてゆっくり文化祭を回れるんだから」
だからそのことを言うと、彼には盛大に溜息を吐かれた。
「お前はゆっくり出来ても、代わりに俺は針のむしろなんだが」
「その分奢ってあげるからさ」
「やめろ、マジでやめろ。そんなことされたら俺がマジでこの学校の連中に暗殺される」
どうにも納得してくれないから提案したのに、なぜかさっきまで以上に強く却下された。
ていうか暗殺って……別に、文化祭の出し物でやってるような、安い屋台の料理1つ奢るくらいで、誰がそんなことを……
「くぅ、なぜだ、なぜよりによってあんな奴が照月と一緒に!?」
「まさか蒼ちゃんに無理矢理言い寄って!? ぐぬぬ、許せない、もしそうだったらたとえこの身が朽ちようと蒼ちゃんを助け出して……!」
「待て落ち着け、どっちかというと照月の方が連れ回してるように見えるぞ」
「なんでよ、蒼ちゃんがあんな奴と一緒にいる理由なんて……」
「ハッ、まさか蒼ちゃん、あんなどうしようもない奴でも見捨てられなくて、何とか更生させようと……!?」
「なにそれ天使。抱きたい!」
「もしあの野郎が照月に何かしたら必ずブチコロシテヤル……」
うん、何か暗殺くらい普通にしそうなくらいヤバイ気配がビンビンに伝わってくるね。壁際からこっちを覗いてるいくつもの顔が、揃いも揃って修羅みたいなとんでもない形相になってるって下手なホラーより怖いんだけど、どうしたらいいのあれ? 僕、そんなに悪い事した?
「はあ、もういい。それで、どこに行くんだ?」
「へ?」
「あいつらがいるせいで落ち着いて回れないから、俺を連れて来たんだろ? だったらさっさと回って終わらせるぞ。俺は寝たいんだ」
「あっ……ありがとう!」
「別に、これで投げ出したら余計面倒だってだけだ、勘違いすんじゃねえ」
嫌々と言った感じに、ぶっきらぼうな口調でそう言うけど、ふいっとそっぽを向く仕草といい、僕を置いていこうとせずに律儀に足を止めて待ってるところといい、ツンデレにしか見えない。
まあ、男が男にツンデレって、どこにも需要無さそうだけどさ。
「ふふ、それじゃあ早速……」
そう言って、僕は彼を引き連れ、学校内の出し物やお店を巡っていく。
正直、途中で飽きて帰られちゃうかと思ってたんだけど、意外にも(?)最後まで付き合ってくれた。
「えーっと、あそこにこの輪っかが入れば、あの犬のぬいぐるみが貰えるんだね。よーし……」
「つーか、男がぬいぐるみってお前……」
「べ、別にいいじゃん! ぬいぐるみくらい! もう……とにかく、えいやっ!」
「ぶぐっ!? て、テメ、なんでその位置から投げて俺の顔面に向かって飛んできやがる!?」
「あれ?」
「ああもう、いいか、もっとこう構えてだな……!」
輪投げをやったら、なぜか僕の投げた輪っかが彼の顔面に直撃して、投げ方から教えて貰ったり。
「お~! 思ったよりすごいねこれ。ねえあれ、なんて星座だろ?」
「オリオン座だよ」
「へ~、じゃああれは?」
「カシオペア座……ってそれくらい知っとけよ!?」
「あ、あはは……」
手作りプラネタリウムを見に行って、知識不足……もとい常識不足を思いっきり突っ込まれたり。
「…………」
「お前、それ欲しいのか……?」
「い、いや、いらないよ?」
「その割には随分熱心に見てやがったが……」
「だ、だからいらないって! ほ、ほらその、明日やる白雪姫の役で付けたら、ドレスに似合うかなー、なんて……」
「…………」
「その可哀想な物を見る目やめて!?」
バザーで、ちょっと女物のネックレスが目に入って眺めていたら、何だか憐れむような視線を向けられたり。
少し離れたところから注がれる、僕のクラスメイト達の熱視線が少し気になりはしたけど、何だか今日は初めて文化祭を……というより、学校をゆっくり見て回れた気がする。
いつもは、文化祭じゃなくても常に誰かしらに追われたり見られたり、連れ回されたりしてたしね……
とまあそんなことを思って遠い目をしつつ、最後にやってきたのはたこ焼き屋さん。もちろんやってるのは生徒だけど、親の付き合いで屋台を手伝ったことがあるとかで、結構美味しいと評判だった。
「いらっしゃ……おおっ、照月、と……げえ!?」
「よお、邪魔するぜ」
彼に声をかけられただけで、店番をしていた生徒が軽く青褪める。
すっごい失礼な反応だったけど、彼と回った先の生徒はみんな多かれ少なかれ似たような反応だったから、いい加減その対処も慣れてきた。
「大丈夫です、この人こう見えて、すっごく良い人ですから! というわけでたこ焼きください」
「こう見えては余計だ」
「えっ、お、おう、毎度あり……」
微妙に反応に困られたけど、印象なんて1日やそこらで変えようもないし、深くは突っ込まない。
代わりに、少しでも印象を良くしようとたこ焼きを受け取る時に笑顔を振りまくと、彼がいることもお構いなしに、店番の生徒はデレーっとした表情になった。
……うん、ちょっと複雑だけど、この思い出補正で彼の印象が少しでも良くなれば、まあいいか。
微妙に納得いかない心境になりつつも、受け取ったたこ焼きを食べるためにベンチへ赴く。
そして、早速とばかりに買ったばかりのたこ焼きをパクリ。
「はふっ、はふっ!」
「そんな焦って食うからだよ、ったく……」
口に放り込んだたこ焼きの熱さにジタバタしていると、いつの間に買っていたのか、ペットボトルのお茶をすっと差し出された。
それを受け取り、口の中を焼く熱と一緒にごくごくと飲んで、やっと一息吐く。
そんな僕を見て、彼は呆れたように溜息を吐いてるけど、その仕草が何だか不良とは正反対の……それこそ、問題児を抱えて困ってる先生みたいで、なんだか可笑しい。
「ふふふ」
「楽しそうだな、オイ……」
そう思って、思わず笑みを零していたら、そんなボヤキが聞こえてきた。
だから、僕も特にそれを否定することなく、すぐに頷きを返す。
「うん、楽しいよ」
「はあ、変わってんなお前」
「そう?」
すると、なぜだか変人扱いされた。解せぬ。
「俺と一緒に居て楽しいなんて言うヤツが変じゃないなら、何なんだよ」
「そうかなぁ? 確かに顔は怖いけど、親切で優しいし、あと結構リアクションも良いし、楽しいよ?」
「俺のどこが優しいんだっつーの……てか、リアクションが良いってなんだよ!? 俺は芸人かなんかか!?」
「あはは、ほら、そういうところ」
「だから……はぁ、好きにしやがれ……」
疲れたように溜息を吐かれ、微妙に納得がいかない思いだけど、何のかんの言いながら僕に付き合ってくれるし、本当良い人だよね。
「それより、お前はそろそろ演劇の時間じゃねーのかよ。もう行かなくていいのか?」
「あっ、そうだった、忘れてた!」
言われて、慌てて立ち上がって時計を見ると、確かにもう準備を始めないといけない時間だった。
いくらやりたくない役柄とは言え、僕が行かないとみんなに迷惑がかかるし、いつまでも遊んでるわけにはいかない。
「それじゃあね、演劇は……恥ずかしいから見に来なくていいけど、また時間があったら、一緒に文化祭回ろう!」
「言われなくても行かないっての。それに、一緒に回るのなんて今回限りだ、もう関わるな」
「えっ、なんで?」
僕が首を傾げると、またしても盛大な溜息を吐かれた。
「なんでって、だからお前といると、周りから殺意の籠った眼で視られてうぜーからだって……」
「大丈夫、そのうち気にならなくなるよ!」
「お前と一緒にされても……」
「それに僕ら、友達でしょ?」
「は?」
何の気なしにそう言うと、彼はポカーンと、今日初めて見る間の抜けた顔を晒してくれた。
うん、強面だけど、こうなれば結構愛嬌あるよね。
「1日一緒に文化祭回ったんだから、もう友達だよ。うん、決定」
「は? いやまて、勝手に連れ回してそんな理屈あるかっ、てコラ、待ちやがれぇ!」
言うだけ言って走り出した僕を、彼は一気に凶悪な表情を浮かべ追いかけてくる。
けれど、僕の言葉で動揺でもしてるのか、その勢いは見かけの割に大したことなかったから、悠々と距離を開けられた。
「あははは、急いでるから待たないよ。それじゃあまたねー!」
最後にそう言って手を振り、完全に振り切る。
次に待ってる演劇を思うと気分が憂鬱だけど、それでもその後にまた文化祭をゆっくり見て回れることを思えば、問題なく乗り越えられそうだ。
僕はそう思って、会場となる体育館に向け、走る勢いを強めて行った。
「はぁ……全く、何なんだアイツは……」
だから、僕が走り去った後、そう呟きながらも口角を釣り上げる彼の表情は、僕の眼に留まることはなかった。
ありのまま今起こったことを話すぜ! デート回が終わったからちょっと番外編でもやるかと思ったら、デートが始まってたんだ。な、何を言っているのか(ry
はい、まだ終わりませんでした、次回でやっと白雪姫やります(;^ω^)