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第七話 入学試験は目立ったもの勝ちです!

入学試験前編? です。これでやっとタグの『学園』が詐欺じゃなくなります(;^ω^)

ご感想お待ちしてまーす|ω・`)チラチラ

「着いたー! 私の勝ちー!」


 喜びを露わに門をくぐった私の目に飛び込んできたのは、見上げるほど大きく幅もある木造の建物。ここフォンタニエでは、王城に次いで大きいそれが正面と左右に1つずつの計3つ、コの字型に連なっていて、その奥にはやや背の低い体育館のような建物の一部が見えます。これだけで、この国がいかにここへお金をかけているか分かろうというものです。

 そんな場所こそが、フォンタニエが誇るストランド王国最大の学びの園、フォンタニエ王立学園です。

 ここへ来た理由は言わずもがな、ついに9歳になった私の、入学試験のためです。入学試験とは言いますが、入れるかどうかの試験ではなく、入った後のクラス分けのための試験なので、ここへ入学すること自体は既に確定ですけどね。


「はぁ、はぁ……やっと追いついた」


「あ、ルル君、おそーい」


 やや遅れてやってきたルル君に気付いて、からかうように声をかけると、ルル君はそんな私にジトーっと恨めしげな視線を送って来ます。


「リリィが競争しようなんて言うからおかしいと思ったら、オウガ使うなんてズルくない……?」


「何言ってるんですか、オウガは私の家族ですよ、家族の力は私の力です」


「その理屈は絶対おかしい」


 ひしっと、今なお跨っているオウガに抱き着きながら言えば、ルル君は深々と溜息を吐きました。

 そもそも、ルル君だって風属性魔法の『アクセル』を使ってオウガに匹敵するスピードを出しているんですから、私が乗っている重さのハンデも込みでちゃんと勝負は成立しています。

 まあ、私の重さなんて未だに25㎏にも届かないんですけどね……


「それでも勝ちは勝ちです! ルル君、約束通り……」


「いいよ、ほら」


「わーい!」


 オウガから降り、両手を出してねだる私にルル君がくれたのは、小さな飴玉が一つ。

 私達はまだ歳が歳なだけにお小遣いも貰えないので、こんな些細なお菓子も貴重品です。だからこそ、こうして勝負の賭け対象になってたりします。

 貰った飴玉を、早速口に放り込む。前世の物より質は落ちますが、やっぱり甘味は良いですね。食の細い私ですけど、甘い物は別腹ですし。


「ん~、おいしいです~」


 もごもごと飴玉を口の中で転がして味わいながら、至福のひと時を過ごす。

 なんだか周囲から視線を集めてるような気もしますけど、そんなことより今は甘味が重要です。最後の一欠けらまで味わい尽くします。


「リリィ、これから試験だって言うのに余裕だね……緊張とかしないの?」


「えっ、緊張? してるに決まってるじゃないですか」


 だからこそこうやって甘味で緊張を紛らわせてるんですしね。

 しかしそう言うと、ルル君はなぜか諦めたような溜息を吐いて、がっくりと肩を落としました。

 仕草は疲れ果てた老人みたいですけど、その容姿のせいかくたびれた印象よりも可愛さが先立ちますね。うん、なでなでして慰めてあげたくなります。


「リリィに聞いた僕がバカだったよ」


「なんですかそれ、まるで私がバカみたいじゃないですか」


「いや、そう言ったんだけど」


 むきーーー!! っとルル君に飛び掛かってみるも、頭を掴まれてあっさり抑え込まれます。

 私のどこがバカだって言うんですか!! やっぱりルル君は可愛げがないです!!


「まあまあリリィ、もう一個飴玉いる?」


「いります」


 別に飴玉貰ったくらいで許すなんてことはないですけど、貰えるものは貰わないと。

 あ、今度はイチゴ味だ。美味しい。


「ほら、そろそろ行くよリリィ」


「はーい。あ、オウガ、またあとでね~!」


 なぜか苦笑気味に差し出された手を取りながら、空いてるほうの手でオウガに手を振って別れます。さすがに、学校の敷地内に入れるわけにもいかないですからね。

 器用に前足を上げて送り出してくれるオウガに癒されながら向かうのは、試験会場になっている正門から右側に位置する初等部の校舎です。

 私達と同じように入学試験に来たのか、同年代らしい子達が親に連れられて校舎に入っていき、私達もそれに倣って先に進む。

 けれど、ルル君と2人子供だけで来ている私達はやっぱり目立つのか、先ほどからやたら視線を集めますね。


「うーん、やっぱり親が入学試験について来ないのって変なんでしょうか?」


 お父様もお母様も忙しくて、今日は来られなかったんですよね。ルル君と行くから大丈夫なんて言わずに、お兄様にも来てもらえばよかったでしょうか? それを言った時のお兄様、この世の終わりみたいな顔してましたし、案外重要だったのかもしれません。

 そう思って聞いたんですけど、ルル君は苦笑を浮かべて首を横に振りました。


「リリィが有名人だから、それで見られてるんじゃないかな?」


「私がですか?」


 考えられるとすれば、お父様とお母様の娘だっていうことか、あるいはお兄様の妹だからでしょうか?

 お兄様は昨年、王立学園中等部1年の身でありながら、学内剣技大会で高等部の生徒すら破って学内順位8位に付ける快挙を成し遂げています。それを思えば、注目される理由としては十分です。


「だってほら、リリィ、いつもオウガで街中走り回ってるし。“黒狼の妖精”なんて呼ばれてるよ?」


 と思っていたら、物凄く意外なところで有名になってました。

 こ、黒狼の妖精って……


「二つ名は嬉しいんですけど、もうちょっとこう、黒狼騎士と書いてウルフナイトとか、そういうかっこいいのが良かったです」


「そ、そっち……? ていうか黒狼騎士って……」


 ルル君が、呆れとも尊敬ともとれる物凄く微妙な表情で私のほうを見てきます。

 どうしたんですかね? うーん……あ、そうか。


「ルル君も二つ名が欲しいなら、私が付けてあげますよ?」


 髪の色に倣って“白銀”とか、いつも好き好んで使う『アクセル』が風属性魔法ですから“旋風”とか。あー、でも『アクセル』を使っても風は起こらないですし、やっぱりこれはなしですかね? あとは、使う武器が小柄な体に不釣り合いな大剣ですし、合わせて“白銀の大剣使い”ってところでしょうか。これに良い感じのルビを振れば完璧です!


「いやいらないから!! 余計なの考えて広めないでよ!?」


「え~」


 せっかくあと少しで決まりそうだったのに、全く、ルル君は恥ずかしがり屋なんですから。


「ほら、バカなこと考えてないで、まずは筆記試験からだよ? 昨日やったことちゃんと記憶に残ってる?」


「もちろん、大丈夫ですよ!」


 1年がかりで散々詰め込んできましたからね。もう、どんな問題が出されたって即答できる自信があります!


「じゃあ、国王様の名前は?」


「ゴー〇ド・ロジャーでしたよね」


「誰!? 一文字も掠りもしてないよ!?」


「まあ、それは冗談ですけど、試験会場はこの教室でしたっけ?」


「ねえ、本当に冗談だよね? 大丈夫だよね?」


 親に見送られ、子供が次々入っていく教室を指して尋ねますが、ルル君は今はそれどころじゃねえと言わんばかりに私に詰め寄ってきます。

 やれやれ、冗談に決まってるじゃないですか。国王様の名前はえーっとほら……シャ〇ル・ジ・ブリタニアでしたっけ? いや、ちょっと違うような……うーん?


 そんな風に首を傾げながら入ってみれば、そこには前世の小学校とほとんど変わらないデザインの木製の机と椅子が並べられ、既に20人ほどの子供が座ってそわそわと試験の時を待っていました。多分、普段使う教室をそのまま筆記試験会場にしたんでしょうね。

 一見すると少ないですけど、これは試験項目に筆記の他剣技と魔法の3つがあるので、全体を3グループに分けてローテーションで各試験を受けていくためだそうです。

 まあ、初等部の歳だと、剣や魔法に触れずに育った子もいるので、そういう子は筆記試験だけ受けて帰るそうですけどね。あくまで入学後の授業内容を左右するだけの試験なので、そこまで重要視されてないみたいです。まあ、私はどれも全力で頑張りますけどね!


 ルル君と一緒に席に着き、しばらく待っていると、やがてテスト用紙が配られてきます。

 さぁ、いざ尋常に勝負です!





「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」


「リリィー、そろそろ剣技の試験、順番回ってくるよー?」


 筆記試験会場だった初等部校舎の隣にある体育館では、現在剣技試験が執り行われています。

 そんな中、私は隅っこで燃え尽きています。はい、完全燃焼です、もう何も出来ません。ぐすん。


「元気出しなよ、リリィが筆記試験ダメなのは最初から分かってたんだし」


「ひどい!?」


 そんな私に対して、ルル君が慰めという名の追撃を仕掛けてきます。

 私だって勉強頑張ったんですよ! ちょっとくらい信じてくれたっていいじゃないですか!

 まあ、その結果としてダメだったんですけどね……


「もう、こうなったらこの剣技試験で汚名挽回してあげます! 試験官の人を倒して!」


「えぇ!? い、いや、リリィの剣でそれはちょっと無理があるんじゃないかな……? あと、汚名は返上するものだからね?」


 どうもルル君としては、私は剣技試験は受けなくてもいいんじゃないかと思っているみたいです。

 全く、私だってルル君やお父様やお兄様に散々しごかれてるんですからね! 剣技だって上達してる……はずです!!


「次、リリアナ・アースランド!」


 そうこうしている間に、私の番が来たみたいです。

 いつも使っている愛用の小さな木剣を携え、簡素な防具を身に着ける。


「それじゃあルル君、私があの人を華麗に打ち倒すところ、しっかり見ててくださいね!」


「はいはい、怪我しないようにね……」


 全く期待してないという風に、ルル君は軽く手を振って送り出してくれました。

 むー、絶対見返してやる!!


「あくまで腕試しの試験だから、あまり硬くならないように、リラックスしてかかってくるといい」


 一段上がったところで私を待っていたのは、20代半ばほどの茶髪の男の先生。

 優しげな雰囲気でそう言ってくれますが、ルル君にああ言われた後だからか、私を子供だと思って完全に格下に見てる感じがします。まあ、実際子供で格下なんですけども。


「むむ、そうやって油断してられるのも今の内です、お父様に教わった剣、とくと見せてあげます!」


「ああ、期待してるよ」


 全くその気がなさそうな声に益々気合を滾らせながら、木剣を両手で構えてその時を待つ。

 やがて、審判の人の開始の合図が響くと同時、私は一直線に駆け出しました。


「やあぁぁーー!!」


 試験官の先生は、明らかに油断して手を抜いています。子供相手に本気を出していたらその実力を測るという試験の目的に反するので仕方ないのかもしれませんが、それは当然つけ入る隙にもなるはずです。

 先手必勝。一撃で決めます!


「よっと……」


 けれど、私程度の速さはなんとでも対応できるとばかりに、試験官の先生は片手持ちした木剣を胸の前に水平に構え、私の大上段からの振り下ろしを受け止める構えを見せました。

 まずい、このままじゃ受け止められる!

 そうは思っても、これは私に出せる最速最短の全力の一撃。簡単に止められないし、今更打ち込む場所を変えることも出来ません。なんとかしないとと思いながらも、次の一手すら浮かばずにそのまま振り下ろしていき――


「あっ」


 がつっと、足がもつれて急制動がかかる。

 全力で走り寄って木剣振り下ろそうとしている最中にそんなことになれば、当然体は前に倒れるわけで。


「あぁぁぁーーー!?」


 気持ちばっかりが前に行き、腕を伸ばした格好のままびったーーーーん!! っと思いっきり床に倒れ込む。


 ……こ、ここでですか。こんな大事な局面で転んじゃいますか私の体は。

 正直恥ずかしすぎてこのまま地面に埋まっちゃいたい気分ですけど、そうも言ってられません。ひとまず状況を確認しようと顔を上げると、手にした木剣が何かに引っかかっているのか、先端が上に向かって伸びたままでした。


「あれ……?」


 視線を木剣の手元から、その先端へと移していく。

 先ほど私は全力で木剣を振り下ろそうとして、対する先生はそれを受け止めようと木剣を胸のあたりに持ち上げていました。

 恐らく、振り下ろされる前に私が転んだのは先生にとっても予想外だったんでしょう。木剣は未だ胸のあたりに構えたまま、相応の衝撃が来ることを予想して軽く足を開いていました。

 そして私の木剣はちょうどその間……股間へと、思いっきりめり込んでいました。


「あ、あー……」


 恐る恐る木剣を引き、立ち上がる。

 それを合図に、試験官の先生はフラりと体を揺らし、そのまま倒れ込みました。

 周囲を見れば、音もなく唖然とした顔で固まっている観客もとい受験する子供達と先生達の姿。

 え、えーっと……


「け……計画通り!!」


「嘘つけーーー!!」


 必死に取り繕おうとした私に、ルル君の容赦ないツッコミが突き刺さりました。

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