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番外編 眠れる美女は男の娘? 前編

以前番外編でちょっと出した、白雪姫の文化祭が見たいという声があったのでちょっと書いてみました。

修学旅行編(?)は少々おまちを(;^ω^)

「どうしても退かないって言うのね?」


「ああ、こればっかりは譲るつもりはないね」


 ある日のホームルームにて。一触即発の空気が教室を覆う。

 神様、僕は一応、これでも日々を真面目に、誠実に生きてきたつもりです。確かに男らしくないと言われることは多いけれど、それでもこの仕打ちはあんまりじゃないでしょうか?


「後悔することになるわよ?」


 片や、巷で噂の天才空手美少女こと、高坂(こうさか) 時雨(しぐれ)さん。名前は忘れたけど、大きな大会で優勝したこともあるらしい。彼女に挑み、玉砕した男子は数知れず。


「ハッ、こっちのセリフだ。いいから始めようぜ」


 一方こちらは、次期柔道部エースと名高い天童(てんどう) 幸谷(こうや)くん。こちらも夏の大会では、団体戦総合優勝に大きく貢献したとかで学校では話題になっていた。

 そんな2人が、今にも掴みかからんばかりに闘気を溢れさせ、対峙する理由はただ1つ。


「じゃんっ」


「けんっ!」


「「ポンッ!! あいこでしょ! あいこでしょ!!」」


 文化祭の出し物決めである。


 ……うん、なんで文化祭の出し物決めなんかで、あんな大仰な前フリが必要なんだって思っただろうけど、でも僕にとってもこれは非常に不本意なんだよ。遺憾の意を表明したい。

 なぜって? うん、じゃんけん勝負しているのが2人である時点で、出し物の候補が2つに絞られたことは察していただけると思うんだけど、その内容が……


「頑張って高坂さん! 今年の文化祭の出し物は何が何でも『シンデレラ』にするのよ! 蒼ちゃんをいじめた……げふんげふん、幸せにするのは私なんだから!」


「負けるな天童! 何が何でも今年の文化祭は『白雪姫』にするんだ! 照月を俺のキスで目覚めさせるんだああ!!」


「ちょっとアンタ、何さらっと私の蒼ちゃんにキスしようとかしてるわけ!? あり得ないんですけど!」


「そっちこそ、虐めたいってなんだ!? 俺の照月をキズモノにしようなんてヤツは許さねえ!」


 うん、まあ、そういうこと。

 僕は虐められて喜ぶ趣味もなければ、男とキスしたがるような変態でもない! よって僕としては、どちらの提案も却下したいと思う所存です! 誰も僕の意見なんて聞いてくれなかったけどね!


「こらお前らー、照月をモノにしたい気持ちは分かるが、ここは学校だからなー? ちゃんと分け合うんだぞー」


「「はーい」」


「ちょっと待って先生それおかしい」


 先生まで僕を何だと思ってるの!? 玩具か何か!? あとしれっと僕をモノにしたい気持ちは分かるって、実は先生まで僕を!? やめてっ、いくらなんでも40間近のオジサンとそんな関係とか想像しただけで色々アウトだから!!


「……いよっしゃあああ!! 勝ったぞおおお!!」


「くっそおおおお!!!」


 なんてことをしてる間に決着がついたのか、雄叫びを上げる天童くんと、悔しそうに髪を振り乱し叫ぶ高坂さん。

 うん、高坂さん、いくら武道系女子だからって、そんな声出したら色々と台無しだよ?


「ほい、じゃあ文化祭の出し物は演劇、題目は『白雪姫』な。配役は白雪姫が照月なのは確定として……」


「先生待ってください確定しないでください! 白雪姫は女の子がやるのが良いと思います!」


「それ以外の配役をどうするか、早めに決めるんだぞ? 特に王子役なんて争奪戦だろうからな」


「無視!?」


 先生、無視は良くないと思います! 僕の心ガラスハートなんだから、こんな雑な扱いされるとポッキリいっちゃうよ!?

 なんて心の叫びは、当然の如く誰に拾われることもなく、みんな一様に、先生の言った『王子役』をどうするかという話題に夢中になっていた。


「そうだ、誰が王子役やるんだ!? もちろん俺だよな!?」


「バカ言ってんじゃねー! お前なんかに照月の相手が務まるか! 俺だろ!」


「あんた達バカじゃないの!? 私に決まってるじゃない!」


「「お前女子じゃねーか!!」」


「だから何!? 文句あるの!?」


 わいわいぎゃあぎゃあ、クラスのあちこちで火種が起き、酷い混乱の坩堝と化す。

 本当、どうしてこうなったの? 僕が悪いのかな? 生きててごめんなさい。


「あれ?」


 と、そんな時、ふとクラスの中で1人、騒ぎの渦中に飛び込むことなく、呆れた表情で眺めている人がいることに気が付いた。


「あ、沢渡さんは参加しないんですね」


 その1人とは、うちのクラスの図書委員、沢渡(さわたり) 天衣(あい)さん。いつもこういったイベントにはあまり積極的に参加しないし、今回もそうなのかと思って聞いてみると、案の定、こくりと頷きを返してくれた。


「あんなに熱くなるほど議論して、バカみたい」


「本当だよ……」


 何で僕なんかをこんなに取り合うんだか。わけがわからないよ。


「そんなにみんなキスしたいなら、白雪姫が登場人物全員とキス出来るようにストーリーを書き換えればいいのに……」


 ボソリと呟かれたそのセリフは、どういうわけか、その瞬間だけ都合よく静かになった教室の中に、嫌によく響いた。

 うん、何だろう、凄く嫌な予感がするんだけど。


「「「「それだぁーーーー!!!」」」」


 案の定、というべきなのか。しばしの沈黙の後、再び教室の中を凄まじい叫び声が響き渡り、耳がキーン! ってなった。うん、みんななんでそんなに元気なの?


「いいねそれ、白雪姫の逆ハーレム! それならみんな蒼ちゃんとチュー出来るよ!」


 いや待って、白雪姫のするキスって目覚めのキスだよね? 僕何回眠らされればいいの?


「白雪姫の逆ハー物語か、相手が照月なら大歓迎だぜ! 沢渡、シナリオライター頼む!!」


「分かった、任せといて」


 沢渡さーーーん!? まさかの裏切りだよこれ! いや、最初から僕の味方ってわけじゃなかっただけだろうけどさ!


「よっしゃあ、盛り上がってきたぁ! それじゃあ今日から早速練習だぁ!」


「「「おー!!」」」


「まだ、脚本作ってもいないんだけど……まあ、ライブ感で作ってもいいかな」


 ただ1人のツッコミ役だった沢渡さんがツッコミを放棄したことで、もはや止まることのない暴走機関車と化した我がクラスは止まらない。

 結局、僕の意見は最後まで聞き入れられないまま――唯一、「練習ではキスはなし」という要望のみ、「奪い合いが多発して練習にならない」という理由で通ったけど――文化祭当日を迎えることになった。





 そんなやり取りもあって、僕は文化祭を絶望の表情と共に迎えた。

 おかしいな、僕、今まで文化祭当日を楽しみにしていた事が一度もないような……うん、考えるのはやめよう、悲しくなる。

 そうだ、せめて僕らの劇の本番が来るまではちゃんと文化祭を楽しもう。それがいい。

 そうやって、少しでもポジティブに生きようと努力する僕だったけど、そんな希望は文化祭が始まって早々に打ち砕かれた。


「蒼ちゃーーん! 私と一緒に学園祭回りましょー!」


「照月ぃー! こんなバカ女は放っておいて俺と回ろうぜー!!」


「いえ私とよ! 蒼ちゃん私と付き合って!」


「お前じゃ照月とは釣り合わねえ! 照月、俺と付き合え!!」


「いーや、俺と結婚してくれぇ!!」


 男女問わず、僕と文化祭を回りたいって言う人が押し寄せてきたからだ。途中から文化祭のお誘いじゃなくて、告白合戦に変わってた気がするけど、気のせいだと思いたい。


「ご、ごめんなさーーーい!!」


 取り敢えず、この波に押し流されたら死ぬ。物理的にも精神的にも死ぬ。

 それを察知した僕は全力でその場から逃亡を図ったんだけど、それで諦めてくれるほどみんなは寛容じゃなかった。


「あっ、逃げた!」


「追え! 逃がすなぁ!」


「何が何でも捕まえるのよー!!」


「ひいいいい!?」


 みんな、実は僕のこと嫌いなんじゃない!? なんでそんなに目を血走らせながら追いかけてくるの!? 僕は凶悪犯罪者か何かですか!?


 そう嘆きながら、走り回ること十数分。人の波は減るどころかむしろ増え、先生が諫めたところで止まらない。仕方なしに、体の小ささを活かしてロッカーの中に隠れたりしてやり過ごしつつ、何とか人のいないところを探して校舎内を巡り……やがて、立ち入り禁止なはずの屋のドアが開いていることに気付いて、そこへ飛び込んだ。


「はあ、はあ……こ、ここなら大丈夫でしょ」


 見つかったら確実に怒られるだろうけど、背の腹は代えられない。そう自分に言い訳しつつ、鍵をかけ直して開かないようにする。

 そして、どこか腰を落ち着けられる場所はないものかと、屋上を見渡すと……


「……あれ?」


 そこには、既に先客がいた。

 これが、私を追っている生徒の誰かだとしたら絶望しかないんだけど、地面に適当に寝転んで、組んだ手を枕代わりに昼寝をしているその姿を見れば、彼が決してそういう類の人じゃないことはすぐに分かった。

 というより、こんな見るからに不良っぽい人、初めて見たかも。噂くらいは……聞いたことあった気もするけど。よく思い出せない。


「あのー……?」


「あん?」


 恐る恐る声をかけてみると、彼は目を開け、視線だけを僕の方に向けた。

 彼もまた、他の誰かがここに来ることは予想外だったのか、少し驚いたような顔で、言った。


「お前、ここは立ち入り禁止だぞ。何やってやがる」


「それブーメランだからね?」


 僕の方はやむにやまれぬ事情があったわけだけど、君はそう言う風に見えないし。

 そう言うと、彼はハンッと鼻を鳴らし。


「やむにやまれぬ事情ならある」


「どんな?」


「眠くてしょうがねえ」


 堂々とそんなことをのたまった。


「ぜんっぜんやむにやまれなくないじゃん! 寝るなら夜にちゃんと寝ようよ!」


 僕がそう言ってぷんすかと頬を膨らますと、彼はやれやれと肩を竦める。


「仕方ないだろ、夜はバイトだったんだから」


「この学校バイト禁止だよね!?」


 本当に何してるのこの人! そう思って叫ぶと、彼は急に表情を真面目な物へと変え、語り出す。


「仕方ねえんだよ……うちは母親が早くに死んじまってな、そのショックで父親も酒浸りの借金漬け。バイトの1つでもしねーと明日の食い扶持もありゃしねえんだ」


「あ……」


 まさか、そんな事情があったなんて……つい校則を盾に怒っちゃったけど、悪い事しちゃったかな。

 そう思って俯いた僕だったけど、彼はそんな僕を見て、ブフッ! と噴き出した。えっ、なんで?


「ハハハハ! 信じるんじゃねーよこんな話。うちはオヤジもババアもピンピンしてるよ、元気過ぎて昨日も酒盛りなんて始めやがったから、俺もちょいと混ざって朝まで騒いでただけだ」


「未成年が飲酒なんてしちゃダメでしょーーー!!?」


 ものっすごい重い話かと思ったら、家族揃ってどうしようもなかった!! ダメでしょその両親、子供にお酒なんて飲ませちゃ!!


「まあそういうわけで昨日は徹夜でな、眠くてしょうがねえから寝かせてくれ。おやすみ」


「いや、だとしてもダメだって! ほら、今日から文化祭だよ、みんなで楽しもう!」


 僕はそう言って、眠ろうとする彼の体を揺するけど、反応は芳しくなかった。煩わしそうに舌打ちし、ギロリと僕を睨みつけてくる。


「うっせえな、どうしようが俺の勝手だろ。大体、俺みたいなのが嫌われ者が文化祭に参加したって空気悪くなるだけだろ。お前みてーに周り全員からチヤホヤされる輩とは違うんだよ」


 チヤホヤって……いやうん、確かにチヤホヤされてるって言えるんだろうけど、あれはあれで凄まじく大変なんだからね?

 けど、そうか。それなら、ちょうどいいじゃん。


「だったら猶更だよ、僕と一緒に文化祭回ろう!」


「は?」


 名案だとばかりに提案するも、彼は何言ってんだコイツと言わんばかりに、呆れた表情を隠そうともしない。


「なんで俺がお前と一緒に回らなきゃいけないんだよ……」


「だって、君は周りに嫌われてるんでしょ? だったら、無駄に周りから好かれてる僕と一緒にいれば、2つ合わせてちょうどよくなるよ。うん、完璧!」


「俺はテメエの番犬かなんかか!? 第一その場合、俺に向けられる憎悪の視線が3倍になるわ!!」


「大丈夫、回りながら僕がみんなに、この人本当は良い子なんだよって教えてあげるから! そうすれば、来年からは普通に1人で回れるようになるよ、きっと」


「そんなんで変わるか!! 第一、俺は文化祭を楽しみたいなんてこれっぽっちも……!」


「まあまあ、ほら、早く行こう!」


「話聞けよテメェ! ってこら、引っ張るな! 分かったよ、ついて行きゃいいんだろ!?」


 寝てる彼の腕を強引に取って引っ張ると、やがて観念したかのように起き上がり、溜息を吐きながらも付いてきてくれる。

 予定とは少し違うけど、これでやっと、文化祭らしい文化祭を過ごせそうだ。ついでに、彼もこれで、少しは真っ当な道を進んでくれれば万々歳。

 そんなことを思いつつ、僕は彼を引き連れ、屋上を後にした。

白雪姫まで行かなかった(;^ω^)

というかこの子やっぱり転生前から女のk(ry

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