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第七十三話 デートでご飯となったらもうあーんするしかないですね!

あーん大作戦(盛大なネタバレ(?)

 劇を見た後、ルル君とやって来たのは、近くの定食屋さんでした。

 デートと言えばレストラン、なんて私の前世の記憶は囁きますが、そもそも私もルル君も平民なので、そんな高級店になんて出入りできませんし、そもそもそんなお金もありません。

 いや、ルル君はもしかしたらあるのかもしれませんけど、いくら奢りだからって、まだ子供のルル君にそこまでねだるわけにはいきませんしね。

 それに、こういう定食屋さんに2人で来るのも初めてなので、これはこれで凄く楽しみです。


「ねえリリィ」


「はい、何ですか?」


「……そろそろ離してくれないと、その、恥ずかしいんだけど……」


 そうしてやってきた定食屋さん、ですけど、私は当然未だにルル君の腕にがっちりと掴まったままです。

 もう私は開き直ったんです、ルル君にはこれくらいガツガツ行かないと気付いて貰えないんですから、これからは積極的に行きますよ!


「いいじゃないですか、それくらいいくらでもって言ったのはルル君ですよ?」


「いやそうだけど、流石にこうもべったりだと周りの視線がね?」


 ルル君の言うように、ただでさえ公演会場からここに来るまで、ずっと抱き着いて人目を引いていたのに、どうしてもしばらくの間その場を動かない定食屋の中でこうしてると、他のお客さんからの視線が凄いです。

 もっとも、私達の歳が歳なので、やっかみや嫉妬染みた視線は一切なく、「あらあら」と微笑ましそうに見守る感じの視線ばっかりですけど。


「まあまあ、そんなことより何食べますか? どれも美味しそうですよ!」


 テーブルの上にあったメニューを手に取り、ルル君と一緒に眺めてみます。まあ、メニューと言っても、写真なんかはまだこの世界にないので、料理の名前が書いてあるだけなんですけど。

 私の露骨な話題逸らしをどう思ったのか、はあ、と溜息を1つ吐くと、ポツリと呟きました。


「うん、このネタで弄られるのなんて今に始まった話じゃないし、気にしてもしょうがないよね」


「?」


「リリィは気にしなくていいよ」


 このネタって何の話でしょうか? この状況をネタにされるって意味なら、私とルル君がこうしていちゃいちゃすることをネタに……って、それってつまり私が知らなかっただけで、ずっと前から私とルル君って公認の仲!? い、いやいや、ここら辺にはルル君の家に通う関係で何度も足を運びましたけど、一緒に見て回るのなんて今日が初めてですし、流石にそこまで期待するのは……ああでも……!


「リリィ? リリィー」


「はっ」


 いけないいけない、また思考がループして固まってました。

 周りの認識について考えるのは後です、まずは今日という日を楽しまないといけません!


「すみませんルル君、それで、何食べますか?」


「僕はそうだね、こっちの焼肉定食にしようかな?」


「おー、流石ルル君、ガッツリですね!」


「一応これでも毎日鍛えてるから……それで、リリィは?」


「私は、うーん……」


 お腹を満たすことはもちろんですけど、私の第一の目的はルル君と少しでも距離を縮めることです。となると、やっぱりここは定番の“あのイベント”をこなす必要があるわけで……そ、そのためにも、ここは……!


「じゃ、じゃあ、このクリームシチューで!」


「ん、分かった」


 私がそう言うと、ルル君はすぐに店員さんを呼んで注文を伝えてくれました。

 待ってる間暇なので、変わらずルル君にくっ付いていると、店員さんからまたも微笑ましい物を見る目で見られましたけど、ルル君も一度開き直って(諦めて?)からは特に文句も言わず、私のしたいようにさせてくれました。

 むぐぐ、平然とされるのもそれはそれで悔しいですね、もうちょっとルル君に私を意識させる上手い手はないものでしょうか。うーん。


「あのさリリィ」


「ふぇ? 何ですかルル君」


 なんて考え事をしていると、不意にルル君から名前を呼ばれ、顔を上げると、気付けばルル君の顔がすぐ目の前まで迫っていました。

 って、近い、近いです!! それはもう私もルル君とするのは覚悟完了してましたけど、だからってやっぱりこんなところでするのは流石に……! いえ、別に今までずっと抱き着いてただろって言われたらそうなんですけど、だからってやっぱりそこまで行くのは心の準備がまだー!!


「女王に……フォルリネス様に何を言われたの?」


「へ?」


 なんて、心の中で大慌てしていた私でしたけど、ルル君の方は至って真面目な口調で、私に詰め寄ってきました。


「リリィ、フォルリネス様と謁見したって日からずっと様子がおかしいし。僕とほとんど目も合わせてくれなくなったし、かと思えば今日はやたらとスキンシップが激しいし。本当に、あの日何があったの?」


「え、えぇと、それは……」


 ど、どうしましょう……まさか、「ルル君に操られてるって聞いて、疑ってました!」なんて言うわけいかないですし、かと言って他に上手い言い訳なんて何も思い浮かばないですし……


「リリィ、口止めでもされてるの? それなら大丈夫だよ、この会話は誰にも聞こえないし、聞かれないから」


 いやいやいや、ルル君なんでそんなこと断言できるんですか!?

 と思ったら、なんか周りに薄らと遮音魔法が!? ルル君、本気過ぎます! こんなお店の中で魔法は良くないですよ!


「いえ、その、口止めされてるとかは、ないん、ですけど……」


 ……そういえば、口止めされませんでしたね。私がルル君に話すとは思わなかったんでしょうか? いえ、実際今日まで誰にも話さなかったんですから、そこまで分かってしなかったのかもしれませんけど。あるいは、意味がないと思っていたのか。


「口止めされてないなら、別にいいよね? それとも、何か僕に言えないようなことでも吹き込まれたの?」


 そう言いながら、どんどんと体を寄せ、顔を近づけて来るルル君。

 近い近い、本当に近いですルル君! そんな近づけられたら私、思わず衝動的に襲い掛かっちゃうかもしれませんよ!? あ、いえ嘘です、やっぱり無理です、今の時点で心臓がバクバクして張り裂けそうですから!!


「ねえ、リリィ?」


 じーーっと、私を覗き込むその紫の瞳が、妖しげな光を灯し、迫って来る。

 ううぅ、正直、これを今更言うのはなんだか後ろめたいんですけど、でも、だからってこのまま黙っていられる雰囲気でもないですし……


 そう思い、私が口を開きかけた時。ルル君の張っていた遮音魔法の中に、他の誰かの足音が響きました。


「お客様? 仲が良いのは大変良いことですが、襲う際は時と場所を選んでくださいませ?」


 遮音魔法は、あくまで一定範囲内の音を外に漏らさないだけの魔法で、外から立ち入る分には何の制限もありません。そういう訳で、当然何の問題もなく料理を運んでやって来たこのお店のウェイトレスさんは、ちょうど私に覆いかぶさるように迫っていたルル君を見て、少しばかりニヤニヤとして笑みを向けていました。

 それによって、ようやく自分の状態を思い出したらしいルル君は、こほんと1つ咳払いして、素早く元の体勢に戻っていきます。


「……まあ、さっきの話はまた後で。今は頼んだものを食べようか」


 顔を赤くしながら、それでもこの話題について引くつもりはないのか、そう釘を刺してきます。

 うぐぐ、こうなったら、ルル君がそのことを忘れるくらい、食事に夢中にしてあげましょうか。出来るだけ時間をかけて。

 そういうわけで、私はウェイトレスさんが私のシチューとルル君の定食をテーブルに置くなり、私は当初の予定通り、すかさず攻勢をかけます。


「ルル君、せっかく2人で別々の料理なんですから、ちょっと交換しましょう!」


「え? ああ、うん、いいけど……」


 少し急ぎ過ぎて、まだ一口目すら手を付けてない状態で言っちゃいましたけど、もうこの際なるようになれです!

 私はスプーンで手元のシチューを掬うと、それに軽くふー、ふー、と息を吹きかけて、それをそのままルル君の方へと差し出しました。


「はいルル君、あーん!」


「……あーん」


 期待を込めた目で見つめながらスプーンを差し出す私を、ルル君は少しだけ訝し気な視線で見つめ返してきましたが、最終的には特に何を言うこともなく、素直にパクリと私のスプーンから食べてくれました。


「ど、どうですか?」


「うん、美味しいね。噂通りだ」


 恐る恐る聞いてみると、ルル君は微妙に強張っていた表情をすぐに緩め、優しい笑顔を浮かべてくれました。

 はふう、何と言いますか、こうして私が食べさせてあげた物を美味しいって言って貰えると、自分で作ったわけでもないのに嬉しくなっちゃいますね。うふふ、もう1回しましょうか?


「それじゃあ今度はリリィ、あーん」


 なんて考えていたら、ルル君から爆弾……もとい、焼き肉定食のお肉をひと切れフォークで刺して、私の口元へ運んできてくれました。

 い、いえ、流れからすれば全く欠片もおかしくないのは分かってるんですけど、でも私がルル君からあーんされるんですか!? なにそれ何だか凄く恥ずかしいです!! する方はそんなに問題なかったのに!!


「ほらリリィ、食べないの?」


「た、たべまひゅ!」


 ルル君に促され、私は意を決して差し出されたお肉をパクリと口に含みます。

 それに合わせてルル君がフォークをゆっくりと引き抜き、私はもぐもぐと咀嚼して、お肉を味わう。


「美味しい?」


「……お、おいしいです」


 ……ぶっちゃけ、恥ずかしくて味なんて全く分かんないですよ!! 何ですかこれ、あーんはやっぱりダメです、これはインパクトが強すぎます、ご飯が全く味わえないです!!

 そんな風に内心大荒れになっている私を他所に、ルル君の方はと言えば平然とそのフォークを使い、自らもまたお肉を口に……って、ふぁあああああ!!?


「る、るるる、ルル君、そ、それ、か、かか……」


「か?」


「……何でもないです」


 わ、私、ルル君と間接キスしちゃいました!? あわばばば、こ、こういう時はどうしたらいいんでしょう? ていうか、私もあーんした後ですし、このスプーンでシチューを食べたら私もルル君と間接キスすることに!?

 いやでも流石にそれはちょっと早いというかなんというか……!!


「リリィー、食べないの? 早く食べないと冷めちゃうよ?」


「あ、ああ、そ、そうですね!!」


 そ、そうでした、鉄は熱いうちに打て、ご馳走は早いうちに食べろです! モタモタしてたら色々と乗り遅れちゃいます!

 そう思い、私は即座にかぷりと、スプーンを咥え込みますが……そこで、致命的な失態を犯していたことに気付かされました。


「リリィ……食べるならスプーンじゃなくて、シチューにしようね?」


「………………」


 もごもごと、ルル君にあーんした直後のスプーンを頬張りながら、私はもう、羞恥心と居た堪れなさから、その場で蹲ってしまいました。

あーんってするよりされる方が恥ずかしいですよね。

えっ、されたことあるのかって? ないよ!!(血涙

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