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第七十一話 デートしてみましょう!

最近どうにも思考が迷走気味な気がします(;^ω^)

「こういうの、何気に初めてじゃない? リリィ」


「そ、そうでしたっけ」


 隣を歩くルル君の何気ない問いかけに、私は記憶を掘り起こします。

 うーん……大体ルル君の家で勉強するか、訓練するか、そればっかりですね。確かに、こういうのは初めてかもしれません。


「じゃあ、今日はその、は、初めてので、で……」


「で?」


「でー……初めてのデパートですね、はい」


「デパート?」


 首を傾げるルル君に、私は「何でもないです」と誤魔化してそのまま何事もなかったかのように歩き出します。


 はい、今日はルル君と、デートにやって来ました。

 そうは言っても、当然のことながら真正面から「デートしてください」なんて言えるわけもないので、口実としてマリアベルさんが教えてくれたのが、デパート……もとい、フォンタニエの商店街で行われるという劇団の公演です。普通ならチケット代とかかかりそうですけど、初公演記念だとかで立ち見ならタダなんだそうです。太っ腹ですねー。

 まあともかくそんなことはいいんです、今回の目的は、うだうだ悩むのはやめてひと思いにルル君に告白することです!

 そのために、今日はいつにも増して服装や身だしなみにも気を配って来ました。……お母様が。

 はい、私に服のセンスなんて求められても困ります、なのでお母様に事情を話して手伝って貰いました。「リリィもついに恋を知る歳になったのね……うん、頑張って!」なんて涙ながらに応援してくれましたし、頑張らないと!


 あ、ちなみに、騒ぎを聞きつけたお兄様がルル君の家に殴り込みをかけようとして、お母様の魔法で叩きのめされたのはご愛敬です。


「細かいことは置いておいて、今日はめいっぱい楽しみましょう!」


「そうだね。けどリリィ、宿題は終わったの?」


「いきなり嫌なこと思い出させないでください! ていうか、ちゃんと終わらせましたよ」


「えっ、嘘」


「嘘じゃないですよ!?」


 心の底から意外そうな顔で呟くルル君に、私はうがーっと抗議の声を上げます。

 始業式の日に決心を固めた私は、週末を決行日と定めてからちゃんと日々勉強に取り組んで、今日という日に余計な雑念を持ち込まないように努力してきたんです。ぶっちゃけるなら、そうでもしないとルル君のことが頭を過ぎってどうしようもなかったからっていうのもありますけど。


「あはは、冗談だよ、最近はちゃんと勉強頑張ってたもんね、偉い偉い」


「むぐぐ……!」


 一転して笑顔を浮かべ、宥めるような優しい声でそう言ってくれるルル君。

 いつもならそれでも文句の1つや2つ言うところですけど、ちゃんと見ててくれたと思うだけで何だか嬉しくなってくるから不思議なものです。

 うぐぐ、考えれば考えるほど私、ルル君のこと意識しちゃってます……


「どうかした?」


「何でもないです! それよりほら、あそこの屋台、美味しそうな匂いがしますよ、ちょっと覗いていきましょう!」


「あっ、ちょっ、リリィ」


 ルル君を待たずに走り出し、屋台の前までやってきます。

 どうやら串焼き屋さんみたいで、お肉の焼ける香ばしい匂いがとっても食欲をそそりますね。


「いらっしゃい! お、妖精の嬢ちゃんじゃねえか、いつもの狼はいないのかい?」


「あれ、私のこと知ってるんですか?」


「あたぼうよ、一時期有名だったからな」


 首を傾げる私に、屋台のおじさんはがっはっはっと豪快な笑みを浮かべます。

 そして、私の後ろからやや遅れてやって来たルル君を見るなり、ニヤリとまた別種の笑みを浮かべました。


「なんでぇ、今日は彼氏とデートか。嬢ちゃんもそんな年頃とは、子供が成長するのは早ぇなぁ」


「か、かかか彼氏!? ち、ちち違いますよ、わわわ私とルル君はそんな……!」


「あはは、この通り、僕はただの付き添いですよ、リリィが演劇を見たいって言っただけで、デートだなんて大層なものじゃ……」


「………………」


「あだだっ!? り、リリィ、痛いんだけど、なんで抓るの!?」


「理由なんてないですっ!」


「酷くない!?」


 自分で否定する分には恥ずかしさが勝ってましたし特に何ともなかったですけど、いざルル君から笑って否定されると何だかムカつきます。理不尽なのは自分でも分かってますけど、でも、もうちょっとこう、あってもいいじゃないですか!


「がははは! んじゃ、仲良しなお2人さんにサービスってことで、ほれ、これ持ってきな」


 そんな私達を見て笑いながら、おじさんは出来たての串焼きを2本、左右の手に持ってそれぞれ私達に手渡してくれました。


「あ、ありがとうございます」


「わっ、いいんですか?」


「おうよ、頑張れよ嬢ちゃん。男なんてなぁちょちょいと擦り寄ってやればすぐコロっといっちまう生き物だからな」


「はい! 分かってます!」


 何せ私も元男ですからね!

 ……なんて言うと凄い字面ですね、今更ですけど大丈夫でしょうか、これ。

 まあ、それこそ今更ですよね、もうこの際開き直っていけるところまでいっちゃいましょう!


「リリィ、頑張るって何を?」


「ルル君には関係……ありますけどありません!」


「どっち!?」


 それはもう、言葉通りの意味です!

 ともあれ、せっかく貰ったんですからちゃんと味わって食べないとですよね。


「それよりルル君、せっかく貰った串焼きが冷めたら勿体ないですし、そこのベンチで一緒に食べませんか?」


「んー……まだ公演まで時間あるし、そうしようか」


 そうと決まれば早速、と目に付いたベンチに2人並んで腰かけて、手にした串焼きを早速一口。

 ふおぉ……何の肉かは分からないですけど、軽く噛んだだけで溢れる肉汁と甘辛いタレが合わさって、凄く美味しいです。1本だけと言わずどんどん食べたくなる一品ですね、そんなに食べれるほど私の胃の容量は大きくないのが悔やまれます。ぐぎぎ。


「ほらリリィ、女の子なんだからそんなにがっついて食べないの」


「私は男の子で……はっ」


 あまりの美味しさに、気付けば女の子らしさなんて欠片もない行動を取ってました。

 いや、私としては間違いとも言い切れないんですけど、でも今日の目的を考えるとそれは間違いで、あーもうっ! 我ながらややこしいです!


「はいはい、男の子でもなんでも、そんな可愛い顔をタレで汚しちゃってたら勿体ないよ?」


「むぐぅ」


 ルル君がハンカチを取り出し、私の口を拭ってくれます。

 うぅ、悪くはないですけど、でもこれは何か違うと思います! やっぱりこう、もっと直接指で拭ってそれを舐めとったりとかそういうシチュエーションが……! あ、やっぱダメです、ちょっと私耐えられそうにないです、ハンカチでいいです。


「やれやれ、いつまで経ってもリリィは世話が焼けるんだから」


 そう言いながら、呆れ混じりに微笑むルル君を見て、私はふと思ったことを口にしました。


「ルル君、その……」


「ん? どうしたのリリィ」


「私と一緒にいるのって、迷惑じゃないですか?」


「はい?」


 私の問いかけに、ルル君は「何言ってんだこの子」みたいな顔を向けて来ます。

 そんなルル君の顔を見て、私は慌てて言葉を紡ぎました。


「い、いやその、いつも私が色々やらかして、ルル君はそれに巻き込んじゃってますから、実はルル君も私と一緒に居たくなかったりするのかなーなんて、思ったり、思わなかったり……」


 口にしていくと、次第に自分でも自信が無くなって来て、俯いてしまいます。

 うぅ、男の子らしくなろうと思って色々頑張って来ましたけど、冷静になって振り返ると中々ぶっ飛んだことし過ぎた気がします。あれ、私これ告白以前の問題なんじゃ……?


 なんて、一人勝手に落ち込みかけていると、ルル君は1つ溜息を吐き、私の頭にぽん、と手を置いて、優しく撫でてくれました。


「そりゃあもう、リリィは後先何にも考えてないし、ついてくのも大変だけどさ。一緒に居たくないだなんて、そんなこと思ったこと一度もないよ」


「ほ、ほんとですか?」


「うん」


 俯いていた私の顔を覗き込み、ルル君は笑顔で口を開く。


「だって僕、リリィのこと好きだし」


「え……えぇぇ!!?」


 ふぁ!? いいい、今ルル君なんて言いました!? 好き? 好きって言いました!? 私のこと好きって!?


「さて、それじゃあそろそろ行こう、公演始まっちゃうよ」


「ふぇ、あ、ふぁい……」


 いつの間にやら自分の分の串焼きを食べ終わっていたらしいルル君に手を引かれ、私はベンチから立ち上がると、呆然としたまま歩き出します。

 え? え? あの、今のってどういう意味で受け取ればいいんですか? 告白? それとも単に幼馴染として好きとかそういうアレですか?

 ああもうっ!! 私の方から言うつもりだったのに、何だか余計わけわかんなくなっちゃったじゃないですかーーー!!!


 そんな風に内心で混乱しながらも、私の体はルル君の手を離すことなく、その優しい手を握り返していました。

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