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第六十八話 ルル君の家で宿題です

 いつもの帰り道、ですが、いつもと違ってルル君とではなく、ヒルダさんと一緒に歩いています。

 そのことに、なぜだか無性に寂しさを覚える私でしたけど、そもそもそうなったのは私がルル君を避けていたからで、むしろ、ヒルダさんがぼーっとしている私に話しかけてくれたのも、元を辿ればルル君の方から頼んでくれたそうです。


 避けるような真似をしたのに、それでも私を気遣ってくれていたと聞いて、思わず顔が緩んだりもしましたけど、それは決して私がルル君を好きだからとかそういう理由ではないです。ないったらないんです。


「ヒルダ。それに、リリィも? いらっしゃい、どうしたの?」


「ほら、コイツ夏休みの宿題全く手付けてなかったんだろ? オレもそうだからさ、一緒にルルーシュに教えて貰おうかと思ってな」


「ヒルダもなのか……」


 はあ、と呆れたように溜息を吐くルル君に、ヒルダさんはあっはっはっと女の子らしからぬ豪快な笑い方をして誤魔化しています。


 学園を出る前にヒルダさんに言われた通り、真っ直ぐ家に帰るようなことはせず、ルル君の家を訪れている私ですけど、ルル君の顔が直視できなくてヒルダさんの後ろに隠れています。

 いやだって、仕方ないんです、ルル君の目を見たら操られちゃうらしいですから、私は決して目を合わせるわけには行かないんです、それだけです!


「ほらリリィ、教えて貰うんだから、いつまでも隠れてないで出てこいっての」


「あ、は、はい……その、ルル君、よろしくお願いしますっ」


 ヒルダさんに促され、前に出るなり深々と頭を下げる私に、ルル君は驚きながらも「うん、任せて」と笑顔を向けてくれます。

 それを、一瞬とは言え視界の端に映してしまった私は、大急ぎでヒルダさんの後ろに隠れました。

 心臓がバクバクと高鳴って、ちっとも落ち着いてくれません。


 うん、やっぱり私、ルル君に操られてますね! じゃないとおかしいです、いくら女の子みたいに可愛い顔してるからって、ただ微笑まれただけでこんなにドキドキするわけないですもん!!


「うっ……リリィ、やっぱりまだあの事怒ってる?」


 輝くような笑顔から一転、悲しそうに眉を下げるルル君の姿に、私の胸はまたきゅっと締め付けられます。

 うぅ、なんでルル君が表情を1つ変えるだけでこんなに戸惑わなきゃいけないんですか、全く、魔眼恐るべしです!


「ぜ、全然怒ってなんてないです! ていうかあの事は早く忘れてください!」


「あ、う、うん」


 はっきりとは言われませんでしたけど、事前にヒルダさんにルル君がそのことを気にしてるって言われてたせいで、またしてもあの時の事が思い出されちゃったじゃないですか! 全くもう、ルル君のばかっ!


「リリィの奴は照れてるだけだよ、それこそ顔もまともに見れないくらいルルーシュに惚れむぐっ!?」


「わーわーわー!!」


 ヒルダさんが変なことを口走りそうになったので、慌てて飛び出してその口を塞ぎます。

 いや本当、何いきなりとんでもない大ウソ吐こうとしてるんですか! 私惚れてませんから、断じて違いますから!!


「……? まあいいや、取り合えずこんなところだと何だし、2人とも入って」


「は、はい!」


 ルル君に促され、家の中へと案内されていきます。

 小さい頃から何度も通い詰めて、勝手知ったるルル君の家。当然、部屋割りからトイレの位置、お風呂の場所だって案内されなくても行けますし、ルル君の部屋なんて、特に何度も入り込んで、もはや自分の部屋と大して変わらないと言っても過言じゃありません。

 ……その、はずなんですが。


「…………」


 なぜだか、今日はその部屋の中の世界がやけに輝いて見えます。

 それまで何気なく目にしていたベッドやタンス、本棚と言った家具や、そこに入ってる分厚い本、壁に立てかけてある訓練用の木剣まで、何から何までが目新しいと言いますか、凄く目を引きます。

 あ、ルル君の木剣、ちょっと痛んでます……直しておいてあげましょう。リペアリペア。


「リリィ、どうしたのさそわそわして。そんなにきょろきょろしたって、いつもと変わんないよ?」


「ひゃ?! あ、い、いえその、そ、そうですね! いつもと変わりませんね!」


 ああもう、本当に今日は何してるんでしょうか私はもー!

 あとヒルダさん、なんですかその顔は! ニヤニヤしないでくださいほっぺ抓りますよ!?


「と、とにかく! 宿題ですよ宿題、早く夏休みの宿題を終わらせましょう!」


「う、うん。やるのはリリィとヒルダだけどね?」


 私の勢いに押され気味のルル君は、そう小さく反論しつつも、ちゃんと教えられるように参考書のような物を引っ張り出してきます。

 そんなルル君の姿も一々目で追っていることに気付いた私は、ぶんぶんと頭を振って、意識を切り替えました。

 ダメですダメです、ルル君のこと考えてたら色々とおかしくなりそうです! 今は勉強でも宿題でもなんでもいいですから、別の事に集中して意識を逸らさないと……!


「リリィが、真面目に宿題してる……!?」


「いや、オレが言えたことじゃねーけどさ、そこそんなに驚くことなのか? まだ始まって5分と経ってねーぞ?」


「だってリリィだよ? 宿題しようよって夏休みが始まってからずっとずーっと言い続けてるのに全くやらず、最後の週になってようやく手を付け始めたかと思えば、何かと理由を付けて森の中に向かって結局何一つとして進めなかったリリィが、文句の1つも言わずにちゃんとしてるんだよ?」


「お、おう」


 ガリガリガリガリと音を立てながら、必死になって文字を書き連ね、宿題を片付けて行きます。

 途中、ルル君達が何やら失礼なことを言っていた気がしますけど、そんなことは右から左です、今は何も考えずに宿題を進めていくことにだけ集中するんです!


「って、リリィストップストップ、その辺答え滅茶苦茶になってるから! そこはこう……」


 と、そんな風に必死に宿題を進めていた私の手を、不意にルル君が手に取って優しく止めます。……って、ふぁああああああ!!?


「リリィ、ここの文法は……」


 手を取ったまま、ルル君は何やら話し始めますけど、さっきまでとは別の意味で私の頭には入って来ません。

 私ルル君と手を繋いででもあれ今までも割と普通にこれくらいしてきたんだからこれくらい普通ですよねうんそうですこれくらい当たり前ですだから私が動揺する謂れなんてこれっぽっちもないわけでだからそう私落ち着いてください今は取り乱す時ではあばばば。


「それで……って、リリィ、ちゃんと聞いてる?」


「ひゃいっ!? き、聞いてますっ!」


 ルル君から尋ねられ、私は素っ頓狂な声を上げながらその場で跳ね上がります。

 そんな私を訝しげに見たルル君は、おもむろにその手を私の両頬に添えて、顔をゆっくりと近づけ……ぴたっと、額を合わせました。


「~~~~っ!!?」


 ちょっ、ルル君近いです近いです! ルル君の顔がすぐ目の前にあって綺麗な髪が私に当たってくすぐったいというかルル君って結構良い匂いしますよね髪何で洗ってるんでしょうもっとじっくり嗅いでみたいってそうじゃなくてだからルル君可愛くてああでも意外と間近で見ると目鼻立ちとかカッコよくてああだからもおおおおおおお!!!


「んー、顔赤いから風邪引いたのかと思ったけど、熱は無さそう?」


 混乱する私を他所に、ルル君は呑気にそんなことを言って、顔を離します。

 ああもう、なんでルル君はそんなに平然としてるんですか、動揺しまくってる私がバカみたいじゃ……ハッ!? これも魔眼の力!?


「か、風邪なんて引いてないです! これはその、ええと、ほらあれです! ドランの炎にちょっと炙られちゃっただけです!!」


「炙られたら赤くなるどころじゃ済まないんだけど!?」


 咄嗟に言い訳したら、ルル君には思いっきりツッコミを入れられ、ヒルダさんに至っては横で噴き出して笑い転げていました。

 うぐ、いや、確かにそうかもしれませんけど、ほらあれです、もしかしたら奇跡的に赤くなる程度で済んだのかもしれないじゃないですか!


「いやー、今のリリィ見てるのもそれはそれで面白いな、このままでもいいかも」


「このままも何も、私は今までと変わりませんから!! ただちょっとその、ルル君のせいで変になってるだけで!!」


「えっ、僕のせいなの!?」


 叫ぶ私に、ルル君は驚愕した表情で叫びますけど、今更何を言いますか!


「そうですよ、私がこんなになってるのは全部ルル君のせいです! ちゃんと責任取ってください!!」


「責任!? い、いや、いいけど、一体何をすれば?」


「何をすればって……!」


 そんなのもう、決まってるじゃないですか、だからその、あの……


「~~~~っ!! そんなの私の口から言えるわけないじゃないですかぁ! ルル君のバカーーー!!」


「ちょっ、リリィ!?」


 踵を返し、壁をぶち破りながら外へ駆け出していきます。

 顔は茹で上がったように熱くて、頭はぐるぐる回り続けていて、もう何が何だか分かりません、全くもう、ルル君怖いです、狼です!!


 そんな風に、勝手に発動した魔法を纏いながら駆け抜けていく私を、残されたルル君とヒルダさんは呆然と見つめ、


「ねえヒルダ」


「なんだ? ルルーシュ」


「……この壁が壊れたのって、僕のせいなのかな?」


「さあ?」


 そんなやり取りをしていたとか、していなかったとか。

果たしてリリィはこれで本当に転生者なのか(n度目の疑問(ぇ

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