第六十六話 護送されたと思ったら、女王様とご対面です?
大体タイトル通りです、ぶっちゃけました!(ぉぃ
騎士の人達に捕まった私は、一度拘留された後、すぐに王都に向けて護送されることになりました。
例の如くのミノムシ状態で、真っ当な人が乗ることは想定していなさそうな、頑丈さ重視の荷台に乗せられて移動するのは体が痛くなりそうでしたけど、途中で魔法を使えば良いと気付いてからは、動けないことや暗いことを除けばそれなりに快適な馬車の旅になりました。
とは言え、
「ひーまーでーす~!」
景色を見れるわけでもなく、話し相手もいませんし、遊び道具なんて以ての外。
そんな状況で何時間も揺られるのは、暇で暇で仕方ありません。
犯罪者にも人権を! 待遇改善を要求します!
いえ、そもそも私犯罪者じゃ……ない、ですけどね? 多分……
「はあ、仕方ないです、こういう暇な時こそトレーニングしましょう」
幸い、手足は縛られてミノムシ状態ですけど、仰向けになれば腹筋くらいは出来そうですし。
というわけで、足を抑えてくれる人はいませんけど、早速……
「ふんん~!!」
1回、2回、3回、4、回……5……回……ろ、ろく……
「ぺふん」
べしゃ。
はい、疲れました。
ふう、これで1分くらい時間が潰せましたかね……って、みじかーい!!
「ぐぬぬ、体力の無さが恨めしいです……」
ルル君あたりなら、普通にこれだけで1時間くらい時間潰せそうですし、やっぱり男は体力が無きゃダメですよね。
まあ、ここは大人しく魔法の特訓でもしてましょうか……魔力量だけなら、私お母様より多いらしいですし。多分、暇潰しくらいは十分出来るでしょう。
「むぬぬ~」
とりあえず、魔力を練って光を灯し、空中をふわふわさせて制御する練習をします。
強くやり過ぎると普通に目がチカチカしますし、勢い余って変な方に飛ばすと、制御を離れて霧散しちゃいますから、結構難しいです。
とは言え、今はこうして魔封じの拘束具でぐるぐる巻きにされてますから、割と楽なんですけどね。普段は思いっきり手加減しなきゃならないところ、さほど気にしなくても真っ当な出力になりますし。
「ふふふ~」
まあそんな理由はありますけど、こうして魔力を自由自在に操れるとやっぱり楽しくなってきますね。
そんなこんなで時間を潰すことしばらく。
ガチャリと扉が開かれて、騎士さんが中に入ってきました。
「着いたぞ、出ろ……って、なんでお前魔法使えてるんだ!?」
「ああ、もうその反応飽きてきましたから、いいです」
「よくないわ!!」
なんてやり取りをしつつ、私は足の拘束だけ外されて、馬車の外に連れ出されます。
魔法で保護してたので、体に痛みはないんですけど、ずっと同じ体勢だったので体が凝り固まってしまったので、ん~! っと軽く伸びをします。
そんな私を横目に、騎士の人達はわいわいがやがやと何やら言い合ってますけど……
「本当にこんなやつを連れていくんですか?」とか「危険なんじゃ……」とか「命令である以上仕方ない」だとか、人を爆発物か何かと勘違いしてませんか? 私そんなに危なくないですよ?
「まあいい、行くぞ……」
結論が出たのか、若干怯えつつも私の縄を持って、歩くよう促してくる騎士さん達でしたけど……なんだか、騎士さん達に散歩させられてるみたいで変な気分です。
番犬リリアナ、悪い人はがぶがぶ噛みついちゃいますよー! がおー!
なんちゃって。
「ふざけてないでさっさと歩け」
「は~い」
怒られちゃいましたから、仕方ないので真面目に歩くことにします。
そうして連れてこられたのは、私にとっても意外な場所でした。
「あれ、ここって……」
てっきり、王都にある近衛騎士団の詰所とか、そういう場所に連れていかれる物だと思っていましたけど、やって来たのはそれよりも奥、王都の中央も中央に聳え立った、最も大きく立派な建造物。
ストランド王国の王族が済む、王城でした。
「わ~、お城の中ってこんな風になってるんですね~」
王城の中は、予想通りというか予想以上というか、とにかく凄かったです。
きょろきょろと見渡せば、あちこちに見るからに高そうなシャンデリアや絵画なんかが飾られていて、どちらかというと質実剛健と言った感じの我が家とは全然違う、煌びやかで華やかな内装になっていて、やっぱり王様って凄いんだなあって再認識させられます。
そんな風に、縛られたままペットのように連れ回される私を、遠目で見ながらひそひそと囁き合うのは、ここに勤めてる貴族の人達でしょうか? あんまり良い感情は伝わって来ないですけど、正直今の私は王城の凄さで頭いっぱいだったので、そっちはまるで気になりませんでした。
そうして歩くことしばらく……本当に、しばらく。
あの、王城の中広すぎません? さっきはちょっとこういう場所にも住んでみたいな~なんて、ちょっと思ったりしましたけど、今はもう無理です、無理無理。こんな広いお家で暮らしてたら、私どこかで野垂れ死にます。普通に歩き疲れました。
ともあれ、それくらい長い距離を歩いたり登ったりしながら、ようやく辿り着いたのは、ゲームか何かで登場しそうな、見上げるほどの大きな扉でした。
「いいか、これより先は一切の魔法の行使を禁止する。例え攻撃の意志がなくとも、魔力を使った時点で首が飛ぶと思え」
「はーい」
封じようにもこれ以上手がないと分かっているのか、口でそう言いながら腰の剣に手を当てる騎士さんでしたけど、そんなに緊張しなくても、使うなと言われれば使わないから大丈夫ですよ?
さっきは魔封じの拘束はされましたけど、魔法を使うなとは言われなかったから使っただけで。
ともあれ、ここまで来れば流石に、私にもこの先に誰がいるのか、大体予想は付きます。
無駄に長ったらしい名乗りを騎士さんが挙げたかと思えば、ゆっくりゆっくりと、恐らく魔法の力で無駄に大きな扉が開いていく。
地面には赤いカーペットが敷かれ、その先には無駄に豪華絢爛な大きな椅子が置かれています。
そして、そんな大それた場所に座れるのは、この国においてもたった1人。
「よくぞ来た、リリアナ・アースランド。我はフォルリネス・メル・ストランド。このストランド王国の女王である」
豪華な布を巻いたような独特の衣装に身を包み、どこか妖艶な仕草で足を組んだその女性は、一段高い位置にある椅子から私を見下ろしながら、ふと気になった、という風に私の手元を注視しました。
「まあ、そう堅苦しいのもなんじゃ、ほれ、そやつの拘束を外してやれ」
「はっ!? し、しかし、こいつを自由にしてしまうのは危険で……!!」
「何、構わん。どうせそやつが本気を出せば、今のその状態からでもこの王城を吹き飛ばすくらいは出来よう。違うか?」
王城の、多分ですけど、謁見の間って呼ばれている場所で、女王様はいきなりそんな指示を私の隣にいる騎士さんに下していました。
まあ、確かに出来る出来ないで言われれば、王城丸ごとは分かりませんけど、この部屋を吹き飛ばすくらいは出来る気がしますし、間違いではないんですけど。
「いいんですか? 私一応、悪い事したってことで捕まったんですよね?」
いざとなれば力づくで逃げ出せるのと、私自身そこまで……魔物の暴走以外は、それほど悪い事をしたとも思っていないので、今までずっと適当な態度でいましたけど、だからってこの流れはびっくりだったので、一応そう尋ねてみることにしました。
「貴様、女王の御前でなんたる口の利き方を……!!」
「構わんよ、お主の母親との縁もあることじゃし、何よりこの面会は非公式のものじゃ。気にする必要もない」
一応犯罪の容疑者として連れてこられた人に会うのは立場的にいいんでしょうか?
まあ、今会えてるんだからきっといいんでしょう、多分。
ていうか、
「お母様のこと、知ってるんですか?」
「当然じゃ。この国にいて、魔導を志しながらあの魔女を知らない者はいまい。あやつは、この国で史上最強の魔導士にして、史上最悪の問題児じゃったからな」
「えぇぇぇ……」
史上最強の魔導士、はいいとして、史上最悪の問題児ってなんですか!? お母様、本当に一体何をやらかしてきたんですか!?
「懐かしいのぉ、あやつが魔力を暴発させて校舎が半壊しただの、新魔法を作ったら山が吹っ飛んだだの、頭の痛くなるような問題ばかり起こしおって……」
「………………」
うわぁ、お母様、昔はすっごいやらかしてたんですね……それに比べたら私は、森を魔法で吹っ飛ばしたり、騎士団を半壊させたくらいだから大したことは……うん、似たようなものですね、私のこれ、お母様の遺伝だったんですか! いや、私の場合前世の記憶とかありますけど!
「まあ、そんな思い出話は良い。重要なのはこれからじゃ」
フォルリネス様はそう言って話を区切ると、遠い過去を見るように細められていた目を私へ向け、その表情を引き締めました。
いえ、私としてはそっちのお話の方が気になるので続けて貰いたいんですけど……あ、ダメですか? はい。
「リリアナよ、お主、自分の持つ力についてどれほど理解しておる?」
そうしてフォルリネス様から問われたのは、なんとも答えにくい物でした。
うーん、力、筋力は皆無ですね! けどそんなことを聞かれてるわけはないですし、やっぱり魔力の方でしょうか。
「魔力量が既にお母様を超えていて、本気を出すとどうなるか分からないってことなら」
操作が下手だから効率は悪いと言いつつも、本気で暴走した場合はどれだけ被害が出るか分からないって、前にルル君が言ってた気がします。
まあ、そんなことにはなりませんけど。
「そうじゃ。お主の母親でさえ、学園を卒業し制御が落ち着くまで、相当に周りは難儀しておった。それが、お主はそれ以上、場合によっては10倍以上の魔力量を誇ると調べはついておる。もしその状態で暴発すれば、冗談抜きで国が滅びかねん危険な存在じゃ。それは分かっておるか?」
「まあ、何となくは」
ていうか私、お母様の10倍も魔力あるんですか? それは初耳なんですけど……
「お主は言わば、人間大の強大な爆弾に等しい。いつ爆発するともしれぬ、な。それをどう思う?」
なんだか、段々不穏な方向に話が流れて行ってる気がします。
ここはあれですね、やっぱりびしっと言い返しておかないと。
「大丈夫ですよ、爆発なんてしたりしません」
「なぜそう思う?」
「私にはルル君がいますから」
私がそう言うと、隣にいた騎士さんは何を言ってるんだ? って感じの顔になりますけど、フォルリネス様は眉1つ動かしません。
あまりにも薄い反応に、少しだけ意外に思いながらも、私は構わず喋り続けます。
「私がどうにかなったとしても、何か失敗したとしても、ルル君ならきっとどうにかしてくれます! だから、大丈夫です!」
「そのルル君なら、お主の魔力の暴走を止められると?」
「はい!」
「どうやって?」
「それは……知りません!」
私がそうきっぱりと言うと、隣の騎士さんは「知らないんかい!!」って感じの視線を向けてきます。
でも、知らないものは知らないんですから仕方ないと思うんですよ。
「どうやってかは知らない、なのにそやつを信用すると?」
「はい!」
「なぜそこまで?」
「ルル君だからです!」
私がそう言い切ると、フォルリネス様はついに腰を深く椅子に沈め、一つだけ溜息を吐きました。
「……やはり、報告通りか」
「報告?」
私が首を傾げると、フォルリネス様は「ああ」と頷きを返し、そして、
「リリアナよ、お主はルルーシュ・ランターンに操られておる」
そう、断言しました。




