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第六十五話 捕まっちゃったみたいです?

本編です!

番外編挟んで3週間ぶりとなりますけど、リリィは平常運転です。

「ん~……むにゃむにゃ……ふあぁ、よく寝ました~……」


 大きく欠伸を噛み殺しながら、もぞもぞと体を起こす。

 何だか、凄く懐かしいような、そうでもないような夢を見ていた気がしますけど、まあ、夢なんて元々曖昧なものですし、無理に思い出す必要もありませんよね。


 そう思いながら、ベッドの上から降りようとして……


「うん?」


 ガシャン! と音がして、見れば私の手首に、すっごい武骨な手錠が取り付けられていました。

 顔を上げてよくよく見れば、私の前にあるのは鉄格子で、着ている服もなんだかベルトで縛られたみたいな、一部の人が凄く好きそうな拘束衣装になってます。

 もちろん、私に自分を縛って喜ぶ趣味なんてありませんし、ルル君が「ぐへへへ、リリィ、こうしてやるぜぇ」なんて言い出したわけでもありません。


「ああ、そういえば私、捕まっちゃったんでしたね」


 森の奥へ、自由研究のために入り込んで、迷子になった私達は、原住民の人達の協力(?)もあって、何とか帰って来ることが出来ました。

 それまでは良かったんですが……なんでも、途中でぶっ飛ばした騎士さん達が、フォンタニエとは別の街の騎士団の人達だったとかで、森から出た私達は、反逆罪で逮捕されちゃうことに。

 うぅ、まさかこんな……


「まさか、騎士団の人達にこんな幼気な幼女を縛って喜ぶ趣味があったとは思いませんでした……」


「失礼なことを言うな!! 罪人を縛り付けるのは当然のことだろうが!!」


 私の呟きを律儀に拾って突っ込んできたのは、私の見張り役をしている騎士の人で、昨夜からずっと牢屋の前に立っています。

 一晩中立ってるのって、疲れないんでしょうか? 交代待ちなんですかね?


「ですから誤解ですって、あの人達は原住民の人達を襲おうとしてたから、それを止めただけです。決して騎士団に逆らったとかそういうんじゃありません!」


「どっからどう聞いても逆らってるんだが!? というか、あの森に原住民なんぞおらんわぁ!! ただの魔境だあれはぁ!!」


 むー、何度言っても、あそこに原住民なんていなかったの一点張りです。全く、知ってますよ私は。「あそこには誰もいなかった、いいね?」ってやつですよね、騙されませんよ! えへんっ!


「まあそんなことはどうでもいいんですよ」


「よくないわっ!!」


「それより、朝ご飯はまだですか? お腹空きました」


「人の話を聞けぇぇぇぇ!!!」


 見張りの騎士さんの絶叫を聞き流しながら、私は、ここに来る前のことを思い出していました。







「はふ~」


「リリィ、そんなにくっ付かなくても振り落とされないと思うんだけど……」


「いいんですよ、ちょっとくらい強めの方が安心です」


 オウガに乗って、お家に帰る途中。待ち伏せもあったことだし、ひとまず森から出た方がいいだろうってことで、近くの街道まで出た後、そこに沿って王都目指し走っていました。


「そう? ならいいけど」


 そう言って、ルル君は前へ向き直ったルル君を見て、これ幸いと私はその背中に顔を擦り付けていきます。

 はふぅ、やっぱり落ち着きますね……もうなんか、細かいことはどうでもよくなってきました。なんだかよく分かりませんけど、私はルル君とくっ付いてるのが好きってことで、開き直ることにしましょう。


「うへへ~、ルル君~」


「うーん……?」


 私の態度にルル君が首を傾げますけど、そんなことは気にせずに、私はルル君に甘えていきます。

 うん、こうしてると、ルル君って結構いい匂いしますよね、ずっとこうしていたいかもしれないです……


「っと、何か来る……?」


 そうしていると、ふとルル君が何かに気付いて、オウガの足を止めてしまいます。

 至福の時に水を差され、一体何が来たのかと見てみれば、そこには街道いっぱいに広がる騎士の集団がいました。


「止まれ! さもなくば敵対行為とみなす!」


 いきなり物騒なことを言いながら、一斉に剣を構える騎士団の人達。

 いや、止まれも何も、もう止まってますよ?

 そうツッコミたかったですけど、流石にそんな雰囲気でもなかったので、ひとまず黙っていることにしました。

 ふふん、私だって空気読める時は読めるんですよ!


「リリィ、お願いだから、今度は静かにしててね?」


「分かってますって!」


「いや、ほんとに絶対だよ?」


 物凄い念押ししてくるルル君に、もう一度頷き返すと、ようやく安堵の表情を見せてくれました。

 いや、どんだけ信用ないんですか私? まあ、多少は自覚があるので何とも言えませんけど! ……ほんとですよ?

 そして、そんなやり取りを交わしながらも大人しくなった私達を見て、最初に声を


「よし、では告げる。そこのお前、リリアナ・アースランド! 貴様には国家反逆罪の容疑がかかっている! 大人しく縛について貰おう!」


「な、なんだってー!?」


 とりあえず、驚いた方がいいかと思って定番の文句を……って思ったら、本当に驚きのこと告げられました!? えっ、国家反逆罪!? なんでですか!?


「リリィ、落ち着いて」


「あ、すみません」


 静かにしてろっていう注意を速攻で破ってしまった私に、ルル君がじとーっとした視線を向けて来ます。いやうん、何と言いますか、言わないと気が済まなかったんですよ!


「……国家反逆罪って、リリィはまだ子供ですよ、反逆するような力も意志もあるわけないでしょう」


 ルル君が、私を庇うように前に立ちながら言いますが、騎士の人はそれをフンっと鼻で笑うと、堂々と告げました。


「初夏の頃、森に入って大規模魔法を行使し、森林破壊の末に魔物を街の方へと誘導し! その後、集まった魔物の駆除にかこつけて、スラム街の平定のために動いた近衛騎士団の部隊を壊滅させ! 更にはつい先ほど、我が騎士団の部隊を薙ぎ倒したのもお前だという情報が部下より届いている! これほどの罪状、もはや言い訳の余地はないぞ!」


「………………」


「………………」


 うん、なんだか色々と聞き覚えがありますね。けど、ちょっとだけ違うと思うんです。別に私、魔物の誘導がしたくて森林破壊したわけじゃないですし、騎士団を壊滅させたくて魔物と戦ってたわけじゃないですし、それに、最後のも邪魔されたからちょっとだけ退いて貰っただけです! その言い分には断固異議を申し立てます!


「どうしようリリィ、僕あの人に反論できないんだけど……」


「ちょっとルル君!? 私を見捨てるんですかぁ!?」


「いやうん、まあなんだ、大丈夫、処刑はされないようにお願いしてみるから……」


「処刑以外ならいいんですか!?」


 まさかのルル君に裏切られました!? あれ、これ私詰んでませんか? ハッ、そうだ、私にはまだオウガとドランが……!


「ガウ」


「グルゥ」


 2体とも、そもそも話を理解していないのか、それとも分かってて静観を決め込んでるのか分かりませんけど、すっごいのんびりとした鳴き声を零してます。

 いや、あれ? 騎士団の人達、結構殺気立ってる気がするんですけど。なんでこの子達こんなに落ち着いてるんですか? おかしくないですか!?


「なんだ、抵抗されるかと思ったが、やけに素直だな……まあいい、おいお前達、ひっ捕らえろ」


「「はっ」」


「えっ、ちょっ、ちょっとー!?」


 騎士団の人が2人くらい、こっちに向かってやってきます。

 あれに捕まったら私、人生詰んじゃいません? ルル君は処刑はないみたいなこと言ってましたけど、国家反逆罪って普通に連座処刑で一族郎党が普通じゃないですか!?


「リリィ」


「えっ、る、ルル君?」


 すると、ルル君が突然、そっと私の体を抱きよせました。

 あ、あのルル君? いきなりそういうことはその、心の準備が……!


「本当に大丈夫。僕が何とかしておくから。だから、今は安心して」


「ふぁ、ふぁいっ」


 耳元で囁かれるルル君の声に、思わず私は声を上ずらせながら答えます。

 いやあの、ルル君、近くないですか? 耳元で話されるとくすぐったいと言いますかこう、恥ずかしいと言いますかその……


「だから、『眠れ』」


 慌てる私を尻目に、ルル君の声が私の頭に響く。

 それを最後に、私の意識は途絶えました。







「……うんうん、思い出してきましたよ」


 そうですそうです、ルル君に眠れって言われて、そのまま眠っちゃってたんでした。

 全くもう、ルル君ったら肝心な時はいっつも勝手なんですから。次に会う時は文句言ってあげないといけませんね!


「ったく……ほれ、飯だぞ」


「わーい、ありがとうございます、おじさん!」


「おじ!? お、俺はまだ25だ!!」


「私、9歳ですから。この歳から見ると十分おじさんです」


「良いから、おじさんはやめろ! お兄さんと呼べ、お兄さんと!!」


「お兄様は1人で十分ですから」


「だったらせめて名前で呼べ! 俺はグランロ・セバスだ!」


「分かりました、グランロおじさん!」


「おじさんを付けるんじゃねええええ!!」


 そんなやり取りを挟みつつも、ちゃんとご飯はくれるあたり、グランロさんもいい人かもしれません。

 やけに疲れた顔をしてましたけど。


「はあ……まあいい、お前はこれから、王都まで護送する。変な気を起こさなきゃ、何もないはずだ。護送された後は知らんがな」


「はーい、グランロさん」


 そう言って、グランロさんは、牢の見張り番に戻っていきます。

 それを確認して、グランロさんが用意してくれた朝ご飯を一口食べつつ、私は最後に言っていたルル君の言葉を思い返していました。


「僕が全部なんとかするから、ですか……」


 本当になんとかできるのか、今回ばかりは心配です。

 特に、


「夏休みが終わるまで、もうあと三日しかないんですけど……宿題も、何とかしてくれるでしょうか?」


 未だ欠片ほども進んでいない、家に残してきた宿題の山を思いながら、私は牢屋の中で一人、そう呟いていました。

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