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番外編 ある日の学園祭 後編

はい、書き始め当初どれだけ話が膨らむか分からなかったのでその1、その2と分けるつもりでしたが、ひとまずは2話で終わったので前後編に書き換えました(;^ω^)


次の番外編やる時は、また別のサブタイでやるので楽しみにしてくださってる方がいましたらご安心を。

 学園祭が始まって半日。

 僕はやっと、男の身でありながらメイド姿で可愛らしく給仕するっていう羞恥プレイを乗り切って、今日の分の仕事も終わりってことで自由に他の出し物を見て回れることになった。


「きゃーー! みんな、蒼ちゃんが来てくれたわよーー!!」


「えっ、マジで!?」


「うおおお!! マジだああああ!!」


「やったーー!! みんな、気合入れておもてなしよ!!」


「「「おおーーー!!!」」」


「………………」


 なぜか、行く先々で物凄い歓待を受けるんだけど。

 いやうん、なぜって言っても、原因は分かってる。分かりたくないけど分かってる。

 僕が、なぜかメイド服のまま見回ることになっちゃってるせいだ。


「うぅ、どうしてこんなことに……」


 やっとの思いで休憩時間にまでこぎ着けた僕が、メイド服から着替えようと思った時、クラス全員に反対されたのだ。「せっかくのメイド服を脱ぐなんてとんでもない!!」と。

 わけがわからないし、そもそも休憩時間にまでメイド服っておかしくない? っていう僕の意見は、「これもメイド喫茶の宣伝のためだから!」っていう名目の下、満場一致で却下された。民主主義なんて嫌いだ。


「はい蒼ちゃん、これ懐中電灯」


「あ、ありがとう」


 そんな僕に渡されたのは、1本の懐中電灯。

 掌に収まる程度の小さいやつで、仮に振り回したりしてもそんなに危なくなさそうだ。

 なんで、文化祭の出し物でこんなものが必要なのかと言えば、それはこのクラスの出し物に理由がある。


「それじゃあ、2-Cの出し物、《ミラクルホラーワールド》をお楽しみくださいっ!」


 そう、ここは文化祭で喫茶店に並ぶ定番、お化け屋敷を出し物にしてるクラスだ。

 詳しい内情は、手伝ったわけでもないしもちろん知らないけど、伝え聞く話では中々良い出来だって聞いてたから、実はずっと興味があったんだ。

 案内役の子に軽く会釈をしつつ、僕は暗幕で仕切られた暗い教室の中を歩いていく。


「結構大掛かりだなぁ、この暗幕、用意するの大変そう」


 教室をいくつにも区切って暗幕を垂らした上、窓も隙間なく暗幕で覆って外の光を遮断してる。

 流石に、この教室でも普段は授業をしてる以上、前もって何日も前から設営するわけにもいかないし、いくら暗幕やら固定具は事前に準備できるとしても、1日でこれだけやるのは大変だったと思う。


 そんな風に、この準備にかかった苦労を思って感心しながらきょろきょろと辺りを見渡しつつ歩いていくと、最初の曲がり角に差し掛かる。

 そこを曲がり、ふっと顔を上げると、突然目の前から火の玉が迫ってきた!


「ひあぁぁ!!?」


 思わず悲鳴を上げて、その場に尻餅をつく。

 何!? 何なの!? と慌てながら見上げると、そこには天井から細い紐で吊り下げられた玩具の火の玉が、プラプラと大きく揺れてるのが見えた。

 な、なんだ、ただの玩具か……いやうん、分かってはいたけど、びっくりしたぁ……


「……ん?」


 そうしていると、突然後ろからぽんぽんっと軽く肩が叩かれた。

 僕は一人で来たし、同伴者なんていない。けど、今の今すごい声出しちゃったし、もしかしたら誰かが心配して来てくれたのかもしれない。

 そう思って、特に何の気構えもなく振り返ると――そこには、骸骨がいた。


「ばあぁ~~!!」


「いやあぁぁぁぁ!!?」


 冷静に考えれば、骸骨の後ろに人が立ってることにも、あまりにもテンプレ過ぎる脅しの声を上げられたのも分かっただろうけど、少なくともお化け屋敷の中で冷静な思考なんて出来るわけもなく。

 僕は再度の悲鳴を上げながら、全力でその場を駆け出した。


「ま~て~!」


「来ないでぇーー!!」


 2つ目の曲がり角に到達して、ほぼ180度回らなきゃならないそこを曲がるため、一旦足を止める。

 すると、まさにその瞬間を見計らったかのように、左右から人影が覆いかぶさった!


「がおー!!」


「お化けだぞー!!」


「ひゃあーーー!!?」


 メイクでお化けに仮装した2人の生徒が、僕の体にしがみつきながらお決まりの脅し文句を口にする。

 骸骨に追いかけられてるのもあって、これまた悲鳴を上げちゃった僕だけど、よくよく見れば、2人のメイクは大分コミカルな感じになっていて、どっちかというとハロウィンパーティみたいなメイクになっているのに気付いた。2人が女の子だったのも手伝って、なんとか僕も心に落ち着きを取り戻していく。


「はあ、ふぅ、びっくりしたぁ……このクラス、凄い出し物だね、僕達とは大違い……って、あれ? どうしたの?」


 落ち着いてみれば、別のクラスとは言え同じ学校の生徒。軽い口調で話しかけて、未だにちょっと早鐘を打っている心臓を宥めようとする。

 けど、どういうわけか2人の女子からは何の返答もない。もしかして、お化け役の間で驚かせる相手に気安く話しかけたらダメとか、決まってるのかな?


 そう思った僕だったけど……そんな僕の予想は、直後に間違いだったと気付かされた。


「はぁ、はぁ、蒼ちゃんだ、蒼ちゃんがメイド服だぁ」


「可愛いよぉ、いい匂いがするよぉ、このままお持ち帰りたい……」


「えっ、ちょっ、ちょっと待って!?」


 なんだか不穏なことを口走りながら、鼻息も荒く僕に擦りついてくる女子2人。

 いや待って、落ち着いて、当たってるから、何とは言わないけど色々と当たってるから!!


「あっ、おい、お前ら何してんだ!」


「あっ、よかった、た、助けてください!」


 すると、そんな僕達の様子に気付いたのか、他の生徒の人が駆けつけてくれた。

 ふぅ、これで助かる……


「お前らだけ抜け駆けなんざズルイぞ!! 俺にも照月を堪能させろぉ!!」


「はいぃぃぃ!!?」


 いや待っておかしい、絶対おかしい!! ていうかそもそも君男子でしょ、男子が男子にそんなことして喜ぶのは一部の腐女子だけだよ! 僕は健全な男の子だから、そんなのノーサンキューだからぁ!!


「あ!! あいつら、蒼ちゃんに抱き着いてやがる!!」


「何ィ!? 俺の蒼ちゃんに何してやがんだ!!」


「あんたのじゃないわよ、私の蒼ちゃんでしょ!!」


「落ち着きなさい、蒼ちゃんはみんなの物よ、だからこの場にいる全員に蒼ちゃんを堪能する権利があるわ!!」


「「「はっ! お前天才か!?」」」


「バカだよ!! 君らみんな揃って大バカだよ!! うわぁーーーん!!」


 何人もの生徒に覆いかぶさられ、体のあちこちまさぐられたり突かれたりと、完全に珍獣扱いな僕。

 いや待って、今触ったの誰!? そこ触っちゃダメだってば、あっ、ちょっ……!?


「ふんっ」


「ひゃうっ!?」


 いい加減、人の圧力で押しつぶされそうになってた僕の体を、誰かが強引に引っ張り上げた。

 まるで人形か何かみたいに軽々と持ち上げられた僕の体を、その誰かは優しく受け止め、抱きあげる。


「あっ……君は……」


「…………」


 無言で佇む彼を見て、つい今の今まで騒いでたのが嘘みたいに、しーん、と静まり返る。

 それもそのはず、彼はこの学校でも指折りの不良として知られていて、先生たちの悩みの種になってるほどだからだ。


 曰く、近所の暴走族を1人で壊滅させたとか。

 曰く、ヤの付く人達とサシでやり合っただとか。

 曰く、知られてないだけで既に人を()ってるだとか。


 最後のはどう考えても話に尾ひれが付いた結果だろうけど、そういう噂が立ってもおかしくないくらい、鋭い目付きと大柄なガタイを持っていて、もはや視線だけで心臓の弱い人だったら心肺停止とかしちゃいそうなくらい怖かった。


「……逃げるぞ」


「えっ、うん」


 金縛りにあったみたいに動きを止めた生徒のみんなを置き去りに、彼は僕を抱いたまま走り出す。

 お姫様抱っこっていう、女の子からしたら憧れでも、男としては恥ずかしいどころじゃない状況だったけど、あまりの事態に僕はそれどころじゃなくて、あまり気にならなかった。

 走ってる途中、僕らを見つけた人達が何か騒いでたような気がするけど、それすらも耳に入って来ない。


「……ここまで来れば、取り合えず平気だろう」


「あ、ありがとう」


 あまり目立たない、今回の文化祭でも使われて無いような、物置代わりの空き教室にまで連れてこられた僕は、そこでそっと床に降ろされる。

 なんだか突然過ぎて思考が付いていけないけど、取り合えず助けてくれたのは確かだからお礼を言うと、「気にするな」とぶっきらぼうに返された。


「それより、勢いでここまで来ちまったが、早く戻った方が良いだろう。心配してるやつも多いだろうしな」


「あ、それもそうだね」


 お姫様抱っこで大男に運ばれるメイド、って言うとなんだかラブロマンスな展開に見えるけど、実際にやってるのを見たら、すわ何か事件でも起こったかと大騒ぎになってもおかしくない。

 みんなから凄く怖がられてる彼だけど、僕のこと助けてくれたし、そう言うところにも気が回るあたり、実は結構良い人なのかも?


「それじゃあな、俺はもう行く」


「あ、待って!」


 踵を返して去ろうとする彼を、僕は慌てて引き留める。

 特に何を言うでもなく、ゆっくりと振り返った彼に、僕はにこっと微笑みかけた。


「良かったら、明日僕らのやってるメイド喫茶に来ない?」


 あれをするのは恥ずかしいけど、助けてくれたお礼と思えば1回くらいはいいかな?

 なんて思いながら聞いてみたんだけど、彼は一瞬だけ目を丸くした後、すぐにふいっとそっぽを向いてしまった。


「バカ言うな、俺みたいなのがあんな場所に行ったって、すぐに追い出されるっつーの」


「え? なんで?」


「何でってお前……俺がこの学校でなんて言われてるか知らないのかよ?」


「知ってるよ?」


「だったら……」


「だから、どうしたの?」


 首を傾げながらそう尋ねる僕に、彼は心底驚いた顔になる。

 うーん、そんなに驚くことかな?


「だって、文化祭だよ? 生徒みんなで作り上げて、生徒みんなで楽しむ学校行事なんだから、君1人仲間外れなんてするわけないじゃん。少なくとも、僕は歓迎するよ!」


 実のところ、彼の悪い噂はたくさん聞くけど、彼自身が悪さをしてるところを僕は見たことがないし、むしろ、今日は助けられた。

 だから、僕は彼のことを悪い人じゃないと思うし、むしろ良い人だと思う。そして、そんな人を拒む理由を、僕は持ち合わせてなんかない。


 そう思って、えへへっと笑いかけると、彼は僕の目から見ても明らかなほど顔を赤くして、すぐに体ごと背中を向けてしまう。


「……そんなだからお前は、学校中の生徒から追いかけ回されるんだよ」


「え!? なんで!?」


 僕としては、至って普通のことを言っただけなのに!?

 そう驚愕する僕に、彼は深々と溜息を吐いた。

 うん、何だか凄く苦労人っぽい溜息だなぁ、やっぱり、普段から苦労してるのかも。


「お前は少しくらい、自分の容姿を自覚しろ。そんな面でメイド服なんて着たら、誰だって好きになるに決まってるだろーが」


「うぅ、これはクラスメイトが用意したから仕方なく……」


 そうだよ、それもこれも全部茜ちゃんが悪い! 帰ったら文句言わないと。

 って、そうじゃなくて。


「だったら、君も好きなの? 僕のこと」


「は?」


 聞いてみたら、もう一度こっちを振り向いて、ポカーンとした表情で僕をマジマジと見つめてきた。なんだろう、「コイツ頭大丈夫か?」って言われてるような気がする。


「だって、僕がこの恰好してたら誰だって好きになるんでしょ? だったら君はどうなのかなって」


「……いや、何言ってんだ。つーか、それ聞いてどうすんだよ」


「好きなら、僕に会いに喫茶店に来てくれるかなって?」


「何でそこまで……」


「そうすれば、君が悪い人じゃないって、みんなに分かって貰えるかと思って」


 いつもいつも、他のことじゃ仲が悪かったりする癖に、僕のこととなるとみーんな一致団結して、バカみたいな行動力発揮するからね。それと一緒になれば、きっと彼もみんなと仲良く出来るんじゃないかと思う。


 ほんと、みんなみんな、なんであんなに自分の考えに素直に生きれるのかなぁ。僕はあまりパッパッと行動に移せるタイプじゃないし、いっそ見習いたいよ。

 うん、もし生まれ変わるようなことがあったら、次はこう、思ったことは周りを気にせずズババッ! とすぐ実行出来る人になろう、そうしよう。


 そんな風に、益体もないことを考えていると、彼は小さく、本当に気付かないくらい小さく笑みを浮かべたかと思えば、すぐにまた、僕に背中を向けた。


「……変わらないな、お前は」


「え?」


「何でもない」


 ボソリと呟かれたセリフは、反対側を向いたまま発せられたこともあって、僕にはよく聞こえなかった。

 ただ、ちょっとだけ、彼の背中はさっきよりも嬉しそうに見えた。


「……気が向いたら、行ってやるよ」


「あ、ほんと? じゃあ、待ってるね!」

 

「ふん……」


 最後に1つ鼻を鳴らすと、そのまま彼は歩き去っていく。

 その背中に向けて手を振ったけど、彼は一度も振り返らなかったから、そのことに気付いたかどうかは分からない。

 ただ、それと同じように。


「……好きだよ、お前のことは。俺が、世界で一番」


 歩き去っていく彼が最後に呟いた言葉は、誰の耳にも届くことなく、誰もいない廊下に消えていった。

今回で番外編は一旦終わり、次回から本編に戻ります。

なんだか最後意味深な引きになってしまいましたが、本編に直接的に絡める予定は今のところないので大丈夫です。もし予定変更されたら『番外編』の文字が取れる可能性が……無きにしも非ず?


次の番外編は、また本編がしばらく進んだらやります。

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