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第六十四話 立つ鳥跡を濁さず? です!

 原住民族の人達との交流を終えて、ルル君とも合流出来た私は、ようやく森の外へ出るために行動を始めました。

 これまでそれをしたくても出来なかったわけですけど、ルル君曰く、あれだけ派手に暴れたらもう何をしても一緒とのことです。ふふふ、色々ありましたけど、結果オーライですね!


「リリィ、少しは反省してる?」


「してますしてます~」


 なんて考える一方で、ルル君からは軽くお小言を頂戴してます。

 私がその、おしっこしてるところを見られて暴れたせいで有耶無耶になりかけてましたけど、冷静になってみると私が勝手にいなくなったのが悪い、ということで、ルル君は全力で責任転嫁しています。

 全く、男なら女の子の大事なところ見たんですから、責任くらいビシっと取って貰いたいものですよ! ぷんすか!


「やれやれ……それじゃあリリィ、ちょっとだけ魔力を分けてくれる?」


「ふぇ? 何に使うんですか?」


「帰る方向は大雑把に分かってるけど、正確じゃないから。一度跳び上がって遠視の魔法で確認した後、森の中で方向を見失わないように方位磁針の魔法を使う」


「へ~、そんな便利な魔法があるんですね~」


 そんな魔法があったら、迷子になんてならないですね! なんて言ったら、ルル君からすっごいジト目を向けられました。

 あれ? なんでですか?


「リリィ、どっちの魔法ももう授業で習ってるはずなんだけど?」


「え? い、いやあほら、私とルル君、魔法の授業はクラスが違うじゃないですか、だからですよ~」


「そう? モニカはちゃんと使えるみたいだけど」


「………………」


 ジトーーーっと見つめ続けるルル君の視線に耐えきれず、私はそっと目を逸らします。

 だって仕方ないじゃないですか、私そういう細かい魔法苦手なんですもん! やっぱり魔法はあれですよ、大火力でドーン!! ズドーン!! ってやるのが正義なんですよ、王道なんですよ!!


「リリィの場合、ズドーン1回で街一つ吹っ飛びかねないからね?」


「はい、すみませんでした」


 なぜか正確に心を読んでくるルル君に、もはや驚く気も起きず平謝りします。

 うぐぐ、なんでこういつもいつもルル君には私の考えることがお見通しなんですか。やっぱりルル君、実は読心術とか使えるんじゃないですか?


「何考えてるか大体分かるけど、それはリリィが分かりやすいくらい顔に出てるからだからね? というわけで、はい、魔力」


「むぐぅ、分かりました」


 微妙に納得いかないですけど、取り合えずは素直に差し出されたルル君の手を取って、魔力を受け渡します。

 普通なら、口で言うほど簡単に出来ることでもないんですけど、私達は一度『魔力接続(エンゲージリンク)』を成功しさせてますから、多少の譲渡くらいわけないです。

 これぞまさに、愛の成せる技……って、そうじゃなくて! 愛は愛でも親愛です! 仲良しって意味です! 決してそっちの意味じゃないです!!


「って、リリィストップストップ! 注ぎ過ぎ! それ以上したら僕破裂しちゃうから!!」


「え? あっ、す、すみません!」


 ルル君に言われ、大慌てで魔力の譲渡を止めて手を離します。

 あ、危ない危ない……まさか手を繋いだだけでこんなに動揺することになるなんて思ってもみませんでした。うぅ、ルル君恐るべし……


「まあ、リリィにしてはちゃんと制御出来てたほうだから、あんまり気にしなくていいよ」


「ちょっと待ってください、それはそれでなんだか異議を申し立てたいです!!」


 私にしてはってなんですか! 私だって最近は結構ちゃんと制御できるようになってきたんですからね!? 失敗した直後で言ってもしょうがないから言いませんけど!


「まあまあ、それじゃあちょっと見に行ってくるね」


 そう言うなり、ルル君は風の魔法で大空へと跳び上がります。


「あっ! ……もうっ」


 全くルル君は、私ばっかりこんなに動揺して不公平です。ルル君のせいでこんなになっちゃってるんですから、ルル君はもっとあたふたすればいいんです!

 そんな風に、内心であれこれ考えてほくそ笑んでる間に、ルル君は空でくるくると回りながら魔法で景色を見渡し、満足したのかふわりと降りてきました。


「どうでしたか?」


 降りてきたルル君に、何の気なしに成果を尋ねます。

 すると、ルル君は私の方ににこっと笑顔を向けて口を開きました。


「うん、街までバッチリ見えたよ。流石リリィの魔力だね」


「そ、それほどでもないですよ?」


 真っ直ぐな賞賛を受けて、なぜだか私は顔が熱くなっていくのを感じます。

 うぅ、こんな社交辞令みたいな褒め言葉、今までだって散々聞いてきたのに、何を今更そんなに意識してるんですか、私はもうっ!!


「それじゃあ、方向も分かったことだし、帰ろうかリリィ」


「は、はい! オウガ~」


「ガウ」


 私が呼びかけると、後ろで静かに待機していてくれたオウガが近づいてきて、乗りやすいように前屈みになってくれます。

 私はそんなオウガをひと撫ですると、すぐに跨ろうとして……自分の足で走って帰ろうとするルル君が、ふと視界に入りました。


「あ、あの、ルル君」


「うん? 何、リリィ?」


「今日は一緒にオウガに乗って帰りませんか?」


「え? なんで?」


「あー、えっと、それは……」


 私の申し出が意外だったのか、ルル君が驚いた顔で聞き返してきます。

 私としても、ほとんど咄嗟に出た言葉だったので上手い言い訳が思いつかず、少し慌ててしまいますけど……あ、そうだ!


「ほら、小さい頃はよく一緒に乗ってたじゃないですか。最近、また一段とオウガも大きくなりましたし、久しぶりにどうかなーと……ダメですか?」


 上手い言い訳と言いながら、結局なんとなくで片付きそうな理由を告げる私でしたけど、ルル君は特に気にすることもなく、「いいよ」と軽く了承してくれました。


「それじゃあ僕が後ろに乗った方が良い?」


「あ、いえ、今日はルル君が前に乗ってください!」


「そう? じゃあそうするね」


 小さい頃は、オウガは私のペットだからと、私が前に乗ってましたけど、今日はなんとなく、ルル君の後ろが良かったのでそうお願いします。

 私がしたようにオウガを撫で、久しぶりのオウガの背に懐かしくなったのか、少しだけ遠い目をしながら跨ると、私に向けて手を差し伸べてきました。


「ほらリリィ、乗って」


「は、はい!」


 その手を取り、ルル君の後ろに跨ります。

 そんな私の肩に、ドランが翼を休めるように止まると、準備万端と言った感じにオウガが走り出し、私は咄嗟に前に座るルル君の背にしがみついてしまいました。


「わわっ……」


「リリィ、振り落とされないように、ちゃんと掴まっててね?」


「は、はい、大丈夫ですよ、オウガにはいつも乗ってるんですから」


 実を言うと、ルル君の体に掴まってオウガに乗るのは初めてなので、どうしたらいいかちょっと戸惑ってましたけど、そう促されたことで決心がつき、ルル君の体に手を回してしっかりと身を寄せます。


「はう……」


 いつも一緒に居ますけど、これだけ近くでルル君の背中に触れたのは初めてでした。

 女の子らしい見た目に違わず、華奢で細身な体付きなのはそうですけど、こうして触れてみると、思った以上に筋肉質で硬いです。けど、それは決して不快な感じはなくて、むしろこうして身を任せてると安心するような、そんな不思議な力強さと温かさを覚えます。


「う~、なんだか今日は変な感じです……」


 やっぱり、ルル君のあんな告白染みたセリフを聞いたからでしょうか? ルル君とくっ付くくらい、今まで何ともなかったのに、変に意識しちゃってるのを嫌でも実感してしまいます。

 恥ずかしい、けど離れたくない。そんな不思議な感覚に悶々としながら、気付けば帰りの道中もそれなりに消化したかという頃。まだ森を出てもいないのに、急にオウガの足が止まりました。


「止まれっ! 何者だ!」


 どうしたんだろう? そう疑問に思う私が前を確認するより先に、無粋な声が私の周りにあった空気をぶち壊します。

 むぅ……一体何なんですか?


「えっと、僕達はフォンタニエ王立学園の生徒で……ここへは自由研究のために来ました」


 ようやくルル君の肩越しに確認すると、そこには武装した騎士っぽい人達が何人かで固まって、私達のほうへ厳しい視線を向けていました。

 前に見た近衛騎士団の鎧……とは似てますけど、ちょっと意匠が違いますね。何なんでしょうこの人達?


「自由研究だと? そんな理由でこんなところまで来る子供がいるか! まさかチェバーレの密偵ということはあるまいな?」


 一人の騎士がそう言って、私達に剣を向けてきます。むぅ、なんだか物騒ですね。ていうか、チェバーレ? なんですかそれ? どこかで聞いたことあるような、ないような名前ですけど……


「隊長、いくらなんでもこんな子供が……」


「子供だからと油断するな! あの蛮族共のことだ、それくらいの非道は平然と行ってくるだろう。お前達も、大人しく知っていることを話すなら悪いようにはせんぞ? この先で怪しい動きをしていることはもう掴んでいるんだ」


 蛮族? この先で怪しい動き? はっ、もしやこの人達、あの原住民さん達を殺すために来たんですか!?


「いえあの、僕らはそんな……」


「そうです、あの人達は何も悪いことはしていません! 殺すなんてダメですよ!」


「って、ちょっ、リリィ!?」


 私の言葉に、ルル君は慌てて口を塞ぎにかかり、正面を塞ぐ騎士さん達は一人を除いて全員が驚いた顔をしていました。


「ふんっ、やはり関係があったか……悪いが拘束させて貰うぞ!」


 隊長さんの言葉に、弾かれたように騎士さん達が散開し、私達を取り囲むようにして剣を構えます。

 それを見て、ルル君は更に慌て始めました。


「リリィっ、変なこと言うから余計疑われちゃったじゃないかっ」


「だって、あの人達はただ森で静かに暮らしたいだけの原住民族さんなんですよ? それを開拓の邪魔だからって殺すなんて間違ってます!」


「いや、何の話!?」


「それに」


 ルル君が何やら混乱してますけど、私にとっては原住民さん達のこともあくまで理由の一つにすぎません。

 私が何よりも許せないのは……


「……私達の時間を邪魔しないでください!! 『エアロストーム』!!」


「「「うわぁぁぁーーー!!?」」」


 私の渾身の力……で手加減した、風属性魔法の竜巻が周囲に発生し荒れ狂う。

 それに巻き込まれた騎士さん達は、みんな竜巻で一纏めにして、森の奥へとポーイっと放り捨てました。

 あれくらいなら、多分大した怪我人も出ないでしょう。


「ちょっ、ほんとに何してるのリリィ!?」


「別にいいじゃないですかルル君。ほら、早く帰りましょ?」


「いや、だから……はあ、もういいや、どうにでもなれ……」


 なぜか疲れた様子で溜息を吐くルル君の背に、私はもう一度ぎゅっと抱き着きました。


「えへへ……」


 理由はどうあれ、やっぱりルル君の背中は落ち着きます。

 それを再確認して、小さく笑みが零れる私を見て、ルル君もやれやれと言った感じに笑いながら、そっと頭を撫でてくれました。


「これは、またあとが大変そうだなぁ……」


「?」


「なんでもない」


 撫でられる気持ち良さに目を細める私を見ながら、ルル君が何かを呟きますけど、私にはよく意味が分かりませんでした。


 こうして、私は自分が森で出会った人達が何であるかをついぞ知らないままに、家へと帰ることになったのです。

理不尽な災害で吹き飛ばされる騎士さん達の図。


キリが良いので、次回はちょっと番外編をやろうと思います。

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