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第六十一話 最大の敵は自分自身って言いますよね

 案内された集落(仮)は、意外なことに機能性溢れる立派なテントがいくつか並んだ場所でした。

 うーん、思ってたのと違いますね。まあ、前世のバラエティー番組でそういう集落を訪れた時も、意外と携帯とかの文明の利器を取り入れてたりしますし、現実はそんなものなんでしょうか。


「……オーバ、ズラン、何してるんだ?」


 そんな感想を抱きながら、黒ずくめの人達に連れられていった先は、これまた同じ黒い服装に身を包んだ壮年の男の人。

 まあ、そうは言ってもここの人達みんな、服だけじゃなくて顔も黒い覆面みたいなのを被ってますから、実際には声と雰囲気からそんな感じがするってだけですけどね。


「いやその……」


「なんというか……」


 そして、集落の長……っていうにはちょっと若い気もしますけど、少なくとも上役っぽい人にそう尋ねられて、私を連れてきたお2人は歯切れが悪いです。

 むう、仕方ないですね。


「ここは私が説明しましょう! とう!」


「あっ、こら!」


 ミノムシみたいに縛られたまま、体をバネみたいにくねらせて、肩の上から飛び跳ねます。

 そのままくるっと空中で一回転して、綺麗に着地を決めようと思ったんですけど……


「のほげ!?」


 私の低い身体能力で、そんなアクロバットが決められるはずもなく、傍から見ればただ肩からずり落ちただけというなんともカッコ悪い有様になっちゃいました。うぐぐ。


「…………大丈夫か?」


「へ、平気です……うぐぐ」


 思いっきり警戒してたっぽい集落の偉い人に心配されながら、よっこらせっと私は体を起こしてその場に座ります。

 本当は相手も立ってるんですし、私も立って話した方がいいんでしょうけど、念入りに縛られたせいで手も使えずバランスが悪いので、これで我慢して貰いましょう。


「えっとですね、私はこの人達にお願いして、ここに連れてきて貰いました!」


「……連れてきて? 捕まってじゃなく?」


「はい、この人達が、ここに来たいなら縛ってからじゃないとダメだって言っていたので」


 集落の長っぽい人が、ズランさんとオーバさんと呼ばれたお2人に視線を送りますけど、やっぱり「いや」とか「それが」とか言うだけで全く話が進みません。

 集落の長っぽい人もそんなお2人に聞くのは諦めたのか、もう一度私に向き直ります。


「何しに来た、見た目は随分と幼いようだが、ストランドの密偵か?」


「はい?」


 密偵? 何のことでしょう?

 

「違いますよ、私はただの通りすがりの9歳児です」


「こんな森の奥に通りすがるただの9歳が居て堪るか!!」


「いえいえ、実際ここに居ますし」


 それに、移動はほぼオウガの背ですから、子供の足が云々っていうのは何の障害にもなりませんしね。

 そう言ったんですけど、リーダーさんは中々信じてくれません。


「正直に話せば悪いようにはしないぞ?」


「いえ、ですから、ずっと正直に話してますって」


「何か、ストランドの部隊と連絡を取る手段を渡されてるんじゃないか? 我々を見つけたら報告するようにと」


「そんなのないですよ」


 むう、この原住民族さん達、やっぱり街の人達とは仲が悪いんでしょうか。中々疑り深くて困っちゃいます。


「リーダー、ここはやっぱりリーダーの手で口を割らせた方がいいんじゃ?」


「そうですよ、今はこいつも魔法は使えないはずです、やっちまってください!」


 すると、オーバさんとズランさんが口々になんだか物騒なことを言い始めます。

 やっちまうとかなんとか、こんなか弱い女の子捕まえて何言ってるんでしょうか。こうして無抵抗に縛られてるんですから、いくら原住民族として森の中で生きていくには厳しさが必要とは言え、少しくらい妥協してくれてもいいと思うんですけど。


「落ち着けお前ら、相手は子供だぞ」


 あ、リーダーさんは大分優しい人みたいですね。それなら私の言い分を聞いてくれてもとは思いますけど、暴力に訴えないだけでも十分話が通じる可能性がありますし、十分です。


「しばらく縛ったまま、飲まず食わずで放置しておけばいずれ耐え兼ねて自分から喋り出すだろう。いくら早熟で強大な魔法使いでも、この歳で精神面を鍛え上げることは不可能だろうからな」


 と思ったら、お2人よりよっぽどエグイです!? まさかの飢餓責めですか、まさに鬼畜の所業ですよ、これ!


「そういうわけだから、こいつが口を割るまで俺が預かる。お前達は持ち場に戻れ」


「「はっ!」」


 敬礼して、その場を後にするオーバさんとズランさん。

 それを呆然と見送っていると、私はリーダーさんに抱きあげられ、テントの中でも一際大きくて立派なところへと案内されました。

 ここに入れるってことは、やっぱりこの人が集落の長なんですかね? 子供と女の人がさっきから見えないのは……やっぱり、私が警戒されてるからでしょうか? うーん、私としては仲良くしたいんですけどねー。


「さてと……俺の名はドルトンだ。お前は?」


「あ、リリアナって言います」


「そうか、リリアナか、良い名だ」


 テントの中で、それなりにしっかりした布団の上に縛られたまま寝かされると、そのまま自己紹介タイムに突入しました。心なしか、さっきまでよりもリーダーさん、もといドルトンさんの口調が柔らかくなった気がしますね。


「すまないな、出来ればさっさと解放してやりたいんだが、こちらにも事情があってな。目的を果たすまで俺達のことを知った人間を放っておくわけにはいかんのだ」


「そうなんですか?」


「ああ、そうだ」


 人にバレたらまずい目的ってなんでしょう? 原住民族の人が、街の人を嫌ってる理由にも繋がるんでしょうか? ……はっ、もしや!


「実はこの近くにすごいお宝が眠ってるとか、そんなアドベンチャーな事情が!?」


「ねぇよそんなもん!! 今の流れでどうしてそういう解釈になるんだ!?」


「えっ、違うんですか!?」


「当たり前だろうが! なんで本気で驚いてるんだ!?」


 だって、なんかありがちですもん、原住民族の人達が古来よりずっと信仰し守ってきた宝物を、都会の騎士なんかが狙ってやってくる的な。まあ、それはないみたいですけど。


「それじゃあ後は……誰にも見つからずに森の中で過ごすとすごいパワーに目覚めるとか?」


「だからねえよ! お前の頭の中どんだけお花畑だ!?」


「…………単なる人見知り?」


「人見知りが理由で拉致なんぞするやつが居てたまるかぁ!!」


「それじゃあ何のために来てるんですか?」


「んなもん我が祖国のためストランド王国へ……ってあぶねえ! 思わず喋っちまうところだった、なんて恐ろしい交渉術持ってやがるんだこいつ……」


 なんだか勝手に慄かれてますけど、今の完全に自爆ですよね?

 それにしても、なるほど……


「ストランド王国への旅行を企画してたわけですね。確かに誰かにバレてしまったら反対されるかもしれませんからね、慎重になるのも分かります」


 いくら古くからの伝統と文化を守る原住民族だからって、全員が全員森暮らしで満足してるわけじゃないでしょうしね。こういうテントとか、割と文明的なアイテムを揃えてるところから見ても、ここにいる人達は都会暮らしに憧れを持ってるんでしょう、きっと。もしかしたら移住したいのかもしれません。


「りょ、旅行? 何を言ってるんだ?」


「大丈夫です、私は全部分かってますから」


「いや、何一つとして分かってないだろう、お前は」


 前世でも、やっぱり田舎暮らしが長い人が都会に憧れるっていうのはよくある話でしたからね。おかしなことじゃありません。


「ドルトンさん達は私が無事に王都フォンタニエまで送り届けますから、安心してください!」


「本当に一欠けらも安心できねえよ!? お前やっぱりストランドの密偵だろ実は!!」


「だから違いますって。こんなか弱い密偵いるわけないじゃないですか」


「人の部下数人纏めてあっさり無力化したヤツが何言ってんの!?」


「まあそんなことはどうでもいいですけど」


「よくねえよ!?」


「お腹空きました、ご飯ください」


「そっちの方がどうでもいいわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 うーん、中々キレのあるツッコミですね。78点をあげましょう。

 もちろん100点はルル君以外にはあげませんけど……って何考えてるんですか私は! そうじゃなくて、当初ここに来た目的をすっかり忘れてました!


「じゃあ前置きはこれくらいにして」


「長い前置きだな!?」


「私、家に帰りたいので、それを見逃して貰えると嬉しいです」


「だからさっき事情があってダメだって言ったろ!? 話聞いてた!?」


「聞いてましたよ? ですから、旅行したいなら私が皆さんを案内してあげますって」


「オーバ!! ズラン!! 誰かぁぁーーー!! もう誰でもいいからコイツの相手変わってくれぇーー!! 俺の手には負えねえよぉーーー!!」


 ドルトンさんが大声を上げながら、テントの外へ駆け出していきます。

 あらら……ちょっとからかい過ぎましたか。ルル君だったらもっと早い段階で上手く私のボケを封殺してくるんですけど、まだまだですね。

 そんなことを考えながら、私は自分の体を布団の上にごろんっと投げ出します。


「それにしても、ストランド王国への……嫌がらせでしょうか? どのくらいの規模かは分かりませんけど」


 さすがに、密偵かどうか疑ってきた上で、人に言えない目的となれば、いくら私でもそれくらいのことは察せます。

 正直、関わらなくてもいい気はしますけど……n


「森で大暴れして、魔物の生態系ぶっ壊したばっかりですしね、私」


 もしかしたら、それで逃げ出した魔物がこの辺りに来て、それをストランド王国の仕業だと思った原住民族の人達が、報復しようと動いてるのかもしれませんし、もしそうなら元凶は私ですから、私の手でどうにかしないといけません。


「よし、何が出来るかは分かりませんけど、原住民族の皆さんにバカなことを止めて貰うために、私が一肌脱ぎますか!」


 ちょうど、ルル君のことで考える時間も欲しかったですしね、と思いながら、私はおー! っと右手を突き上げようとして……縛られたままだったのを思い出しました。


「うぐぐ、ここまで念入りに縛られると不便ですね、動きづらいですし」


 まあ、最悪は魔法で体ごと飛ばせば移動できますし、問題ないか。

 そう結論付けようとして……私は一つ、致命的なことを見落としていたことに気付きました。


「あっ……これ、トイレどうしましょう?」


 催しても、自力では服の1枚も脱げないどころか、文字通り指一本動かせない状況では、トイレなんて当然行けません。とりあえず、ドルトンさんが戻って来たらストランド王国のことよりも、そっちについて相談することにしましょう。


 ほんの10秒前に掲げた決意なんて速攻で忘れて、私はドルトンさんが戻ってくるまで、ひたすら自分との戦いに明け暮れることになりました。

椅子に縛られて尋問されてる人ってトイレどうしてるんでしょうね

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