第五十八話 ルル君といちゃいちゃ(?)してみます!
タイトル通り糖分控えめでお送りします
さて、ルル君を真っ当な道に引き込むとは言っても、森の中では出来ることは限られちゃいます。
その中で、少しでもルル君に振り向いてもらうためのプランを考えなきゃいけません。
「はい、ルル君あーん♪」
というわけで、最初はちょうど食事中ですし、定番のあーんから行きましょう! 女の子にこうされるのは、男の子にとって一種の憧れがありますからね。きっとルル君だって何かしら感じ入るものがあるはずです!
「いや、あのさリリィ」
「なんですかルル君? ここは森の中ですから、人目を気にして恥ずかしがる必要もないですよ?」
「そうだけどそうじゃなくて。流石にそんなデカイ肉塊を手掴みであーんされても食べにくいんだけど……」
当たり前ですけど、森の中に食器なんて持ち込んでませんから、手掴みになるのは必然です。そして、小さなクッキーとかなら、手で摘まんであーんするのも自然ですけど、一口で到底収まり切らない肉の塊というのは確かに、あーんするのは難易度高いかもしれません。
「……むぅ、ならこうしますか」
「え?」
はむっとお肉に噛みついて、そのまま自分で呑み込める程度のサイズにまで噛み切ります。
それをそのまま、ルル君の口に近づけて。
「ふぁい、あーん」
「いやいやいや! さすがにそれはどうかと思うんだけど!?」
「るるふんふぁおおひいはらはめらっへいっはんひゃないれふか、いいはらおとなひふはへてふらはい!(ルル君が大きいからダメだって言ったんじゃないですか、いいから大人しく食べてください!)」
「いや、だから……んむっ!?」
ごちゃごちゃとうるさい口に、咥えたお肉を突っ込んで塞ぎます。
その気になれば、私みたいなか弱い女の子の1人や2人、簡単に引きはがせるのに、形だけじたばたして全くそうしようとしないルル君が抑えつけて、そのまま中へと舌でお肉を押し込むと、ようやくルル君も諦めたのか、入ってきたお肉を咀嚼し始めました。
「ふぅ……えへへ、どうですかルル君? 美味しいですか?」
「……味なんて分かんないよ、もう」
顔を赤くしながら、ぷいっとそっぽを向いて呟くルル君に、思わずドキっとしちゃいます。
ああ、なんですかねこのルル君、可愛いです、もっと意地悪したくなっちゃいます!
「それじゃあ、分かるまで続けてみましょうか」
「えっ? いや、待って、分かったから、美味しかったから! だから待ってって!!」
「待ちませーん♪」
がばあ! と飛び掛かった私を見て、流石にまずいと思ったのか、ルル君が押しとどめようと両手を伸ばし、私の体を抑えつけました。
ちょうど、胸のあたりを。
「あっ……」
私、まだ体は9歳児な上に、同年代に比べても小柄で成長が遅いですから、膨らみなんて無いに等しいですけど、それでもルル君は両手を私の胸に当てたまま固まり、「いや」とか「その」とか、言葉すらうまく話せなくなっています。
ふむ……
「ルル君、私のおっぱいにセクハラするなら、せめてあと5年は待って貰わないと意味ないと思いますよ? まな板通り越して絶壁ですし」
「いや、これはこれで柔らかくて……ってそうじゃなくて!! そこは普通怒るところじゃないの!?」
「私としては、ルル君が女の子の体にもちゃんと興味あったんだなーって安心してるところです」
「あるよ! ていうか、僕別に男が好きなわけじゃ……ないし」
「あれ? 今一瞬間がありませんでしたか!? やっぱりルル君……!」
「いや、違う、違うから! 今は女の子が好きだから!!」
「今は!? 今はって言いましたねこの子!? これはやっぱりちゃんと再教育しておいた方が良さそうですね!」
「ちょっ!? リリィ!?」
ルル君の手を取ると、別の場所へと向かいます。
お肉はまだ残ってたのでちょっと勿体ないかとも思いましたけど、今はそれよりもルル君の将来のほうが大事です!
そんなこんなで、やって来たのは近くにあった河原。そこに着くなり、私はその場でさっさと服を脱ぎ始めました。
「ちょっ、リリィいきなり何してるの!?」
「何って、服脱いでるんですよ? ほら、魔物探すために森の中を駆け回りましたし、一緒に水浴びしましょう」
そこまで激しい戦闘をしたわけではないにしても、汗はかきますし、走り回れば砂埃が舞って服も汚れます。
例え森の中だとしても、水浴びくらいはしないと気持ち悪くて仕方ありません。それに何より、こういったシチュエーションなら、女の子の水浴びを覗くのは定番イベントですしね! 今回は覗きじゃなくて連行してきましたけど!
「いやいやいや、なんで一緒!? 昨日みたいに交代で見張り立ててすればいいじゃん!」
「それじゃあルル君の再教育にならないからです! ほらほら、大人しく観念してください!」
「ちょ!?」
服を放り投げて裸になったところで、ルル君に飛び掛かってその服を脱がせにかかります。
上着を剥ぎ取り、ズボンを下げれば、現れたのは子供とは思えないほどに鍛えられ、引き締まった体。
……なんていうかこう、改めて見ると、良い身体してますよねルル君。
「や、やめなってリリィ! 無理矢理脱がすとか女の子のすることじゃないよ!?」
ちゃんと抵抗すれば、それこそ私みたいな非力な女の子の1人や2人、簡単に引きはがせる癖に、そんな風に形だけ押しのけようとしながら言うルル君。
けど私の意識は、それよりも最近益々育ってきたルル君の体に釘付けです。
「う~……ずるいですルル君」
「へ?」
「こんなに筋肉いっぱいあって!! 私にも分けてください!!」
「えぇぇ!?」
小さい頃からそうでしたけど、ルル君なんでこんなに筋肉あるんですか!! ずるいです羨ましいです、私なんて未だにオウガがいなきゃ学園までの登校すら辛いのに!
「子供の体ってもっとぷにぷにしてるのが相場なのに、なんですかこのカチコチの二の腕。歳誤魔化してるんですかルル君はもう!」
「そんなわけないでしょ……って! どこ触ってるのリリィ!?」
「あ、そうでした」
ついついルル君の筋肉に意識を奪われちゃいましたけど、そういえば本来の目的はそうじゃないんでした。
「ルル君に触って貰わないと意味ないですよね。ほらほらルル君、好きなところ触っていいですよ?」
「触らないよ!! いいから早く服着るか、水浴びしてくるかしなって」
「む~」
ぶすーっと頬を膨らませると、私が諦めたと思ったのか、やれやれと溜息を吐きながら体を起こそうとする。
いつもなら、確かにこれくらいで悪ふざけはやめて、大人しく水浴びに入りますけど……今回はそういうわけにも行きません! 主にルル君の将来のために!
「いいからほら、行きますよルル君!」
「うわっ!?」
ルル君の腕を掴んで、そのまま川の中へ引っ張り込みます。
ドパーン! と、ルル君が墜ちたことで水飛沫が上がり、近くに居た魚が驚いて飛び跳ねる。
「ぷはっ……! リ~リィ~……?」
「あははは!」
ずぶ濡れになって、私のほうをジトーっとした目で睨み付けてくるルル君を見て、思わず笑ってしまいましたけど、ルル君は変わらず私を睨み続けてきます。
……うー、ちょっとやり過ぎましたかね?
「ごめんなさい、ルル君」
「リリィ?」
ぽふっと、軽く抱き着きながら謝ると、いつもと違う私の態度に戸惑ったような声を上げるルル君。
けどそれに構わず、私は更に抱き着く腕に力を込めました。
「私、このままだとルル君が、手の届かないところまで行っちゃう気がして……」
ルル君って見た目凄く可愛いですから、男の子だって分かってても告白する男とか居そうですしね……このまま放っておくと、本当にそっちの道に足を踏み入れかねません。
いやまあ、恋愛は自由ですし、私自身本当の意味で男の子の心と女の子の体が混ざっちゃってるわけですから、それをおかしいって言うのは変な話ですけど、でもなんかこう……うん、やっぱりダメです、ルル君をそんな道に進ませません! なんだかモヤモヤします!!
そんな私の内心の葛藤を知ってか知らずか、ルル君はぽふっと私の頭の上に手を置いて、優しく撫でてくれました。
「大丈夫だよリリィ、僕はずっとリリィの傍にいるから」
なんだか微妙に噛み合ってない気はしますけど、まあずっと一緒に居てくれるっていうなら、更生の機会はいくらでもありますし、ひとまずよしとしますか。
「分かりました……それじゃあ、まずは一緒に洗いっこしましょうか」
「うん……って、えっ?」
私がそう言うと、ルル君はぽかーんと口を開けてまた固まりました。
そんなに驚くことでしょうか?
「ルル君の再教育のためにこうして一緒に水浴びしてるんですから、最後までやらないとダメです。ルル君にはちゃんと女好きになって貰わなきゃならないんですから」
「その言い方だと、僕が女遊びに夢中な最低野郎になるみたいに聞こえるんだけど!? ていうか、そんなことしなくても僕はちゃんと女の子のほうが好きだってば!!」
「じゃあルル君どういう子が好みなんですか、言ってみてくださいよ!」
「いや、だからそれは……」
「ほら、言えないじゃないですか!」
口ごもるルル君を問い詰めますが、ルル君はついに我慢ならないとばかりに頭を掻き、叫びました。
「だったらリリィはどうなのさ!」
「へ? 私ですか?」
私の質問を、そっくりそのまま返されて、私は一瞬戸惑います。
そんな私を見て、ルル君は勝ち誇ったような笑みを浮かべました。
「ほら、自分だって言いたくないでしょ? だからそんな風に他人に言わせるような真似はダメだよ?」
「むむむ」
さっきまでの可愛らしかった顔からは一転、小憎たらしい顔で言うルル君に、私は思わず歯噛みします。
言われてみれば確かに、私自身の将来についてはあんまり考えてなかったですね。最近意識することも減ってきましたけど、私心が男の子ですからあまり他の男子見てもときめいたりしませんし、かと言ってここで女の子って言ったらルル君を止める説得力が……あ、そうだ。
「ルル君です」
「え? 何が?」
「だから、私がどんな子が好きかって話ですよ。私はルル君が好きです」
「へー……って、はあぁぁぁぁ!!?」
ルル君は見た目可愛いですし、傍でこうしていても嫌じゃないですからね。こんな子が他にもいれば、好きになれるかもしれないです。
「そ、それって、あの、その……」
「うん? どうしましたルル君?」
そんな風に考えて言ったんですけど、ルル君の様子がなんだかおかしいです。顔を真っ赤にして……熱でもあるんでしょうか?
「いや、だって今、リリィが、その……好きって……」
「はい、私の好みは言いました。ですからほら、次はルル君の番ですよ!」
「言った……って、え?」
「だから、ルル君の好みはどんな子ですか? それともやっぱり、男の子のほうが好きだったり?」
じーっと見つめながらそう言うと、ルル君はたっぷりと時間をかけて、硬直状態から復帰して……深々と溜息を吐きました。
えっ、今のどこに溜息を吐くポイントがあったんですか?
「いや、うん……まあ、そうだね。バカでお調子者なのに、妙にほっとけないような子がいい」
「なんですかそれ? ルル君やっぱり変わってますね」
バカでお調子者って、どこからどう見てもマイナスポイントな気がするんですけど。
そう思って言ったら、ルル君からは更に深い溜息が。あれー?
「リリィにだけは言われたくない」
「えぇ……」
おかしいですね、私、ルル君みたいな子って言ったんですけど、そんなにおかしいですか? まさかルル君がそこまで自分に自信がなかったなんて……
「ほら、リリィ。水浴びするんでしょ? 早く終わらせて上がらないと、風邪引くよ」
「あ、そうですね。……っていうか、危うく流されそうになりましたけど、そうです、洗いっこしましょう洗いっこ! 危うく目的を忘れるところでした!」
「いや、それなんだけどさ」
「はい?」
すっかり話を逸らされていたことに気付いてそう声を上げますけど、今回は慌てることもなく、ルル君が呆れたような表情を崩さないまま言いました。
「そもそも、こんな場所じゃ石鹸もシャンプーもないのに、何をどうやって洗いっこするの?」
「……あっ」
鋭いツッコミを前に、何を言い返すことも出来ず固まる私に、ルル君はまたも溜息を吐きました。
オウガ「(主達何してるんだろう)」終始傍で様子を見ながら