第五十七話 ルル君の趣味です?
変な人達に追われて遭難した私達でしたけど、実のところそんなに切羽詰まってはいません。
魔物がほとんどいないせいで、お肉がほとんど食べられない不便さはありますけど、木の実やらキノコやら、そう言った物の知識をルル君が持っていたので、少なくとも餓死する心配がないのは大きいです。飲み水に関しても、魔法でいくらでも出せますしね。
それで、肝心の脱出方法についても、なりふり構わずやるなら魔法で上空へ飛べば、遠視の魔法と合わせて方角くらい分かりますし。
まあ、今は変な人達に撃ち落とされるかもしれないからっていうことで、ルル君に止められてやれないですけどね。全く、心配性なんですから。
「ルル君ルル君、やっと見つけましたよ魔物! ほらあそこ!」
「分かってるから、一旦落ち着きなって。逃げられちゃうよ?」
そんなわけで、私達は自由研究ついでに、変な人達が去るまで適当に潜伏することになりました。お腹に溜まる物があまり食べれないのが若干不満ですけど、全く魔物が出ないわけじゃないですし、何より最近ルル君と遊ぶ機会がなかったので、これはこれで楽しいです。
ちなみに、帰るタイミングについては、「あの人達がいついなくなるか分かりませんけどどうするんですか?」と聞いてみたら、「あの装備なら1週間もすれば出ていくし、そこで」と即答されたので、ひとまずその方針に従うことになりました。
あの一瞬の邂逅で、よくそんなに分かりますよね。流石ルル君です!
「大丈夫です、私が魔法で丸焼きにすれば調理の手間も省けてまるっと解決です!」
「いや、リリィ、そろそろ学んで? リリィの火力だと焼けすぎて大変なことに……」
「何言ってるんですか、私だってこの間のわちゃわちゃで火加減くらい学んでます! 主にドラン相手に!」
「全く安心できる要素がないんだけど!?」
「ふっふっふー、見ててくださいよ、『ファイアボール』!!」
「あっ、ちょっ!」
私の掌から飛び出た火球が、大きな鹿みたいな姿をした魔物にぶち当たり、その体を燃え上がらせます。
一瞬で黒焦げになった大鹿がその場にバタリと倒れると、ルル君が私をジトーっと睨んできました。
「だから言ったのに……」
「ふっふっふ、甘いですよルル君、よく見てください!」
「うん?」
黒焦げになった鹿に近づき、その体を軽く叩くと、炭化した皮膚がポロポロと剥がれて、中にはこんがりと焼けた肉が顔を出します。
それを見て、ルル君が心底驚いたように目を丸くするのを見て、私は勝ち誇るように腕を組み、ふふんっと鼻を鳴らしました。
「どうですか! これが私の修行の成果です!」
実際にはドランというより、その前の廃教会での魔物狩りとその調理で身に付けて、ここ1か月練習して上達した結果ですけどね。
もはや、火の魔法も私にとっては苦じゃありません! 料理技術も身に付けた私に隙はないのです!
「リリィ、ほんと魔法だけは頑張るよね……勉強は魔法に関してさえサボるのに」
「ちょっと待ってください、サボってなんてないですよ、やるの忘れてただけで!!」
「それをサボってるって言うんじゃないかな」
ぐうの音も出ない正論に、がっくりと肩を落とす私を他所に、ルル君は風の魔法を器用に使って、ナイフ代わりにし、大鹿の肉を手頃なサイズに解体していきます。
「はい、リリィの分」
「わーい、ありがとうございます!」
まあ何はともあれ、今はこの美味しそうなお肉です! 2日ぶりにお腹いっぱいいただきましょう!
「いただきまー……「あ、待って」す!?」
早速いただこうと大口を開けてかぶりつくと、その一瞬前に取り上げられて、その口は虚しく空を切ります。
うー、と恨めしげな視線を送ると、ルル君は苦笑しながら懐から何か草のような物を取り出しました。
「魔物の肉は、普通のと違ってそのまま食べてもそれなりに美味しいけどさ、ちゃんと味付けしたらもっと美味しいよ」
そう言って、手にした草……話の流れからすると、香草だと思うそれを振りかけて、更にどこから持ってきたのか、ベリーっぽい果実を絞ってお肉にかけてくれました。
「はい、食べていいよ」
「ありがとうございます、いただきます!」
今度こそ許可を得て、大鹿のお肉にかぶりつきます。
するとその瞬間、口の中にじゅわぁっと肉汁が広がり、更に香草の香りと果実の風味が野性味あふれる肉の癖を抑えてくれて、これはもう、控えめに言って物凄く美味しいです!
「ルル君、料理出来たんですね!」
「まあ、僕も商会の息子だしね。それも冒険者向けの商品が多いから、サバイバルに使える知識はそれなりに勉強したんだ」
「へ~」
相変わらず、ルル君は真面目ですねー。私なんて魔法くらいしか特技ないのに。うー、いつになったら私も剣をマスターできるんでしょう……いえ、マスターとまでは言いませんから、せめて普通に使えるようになりたいです……
「リリィも、女の子なんだから剣とかばっかじゃなくて、少しは料理とか覚えたほうがいいんじゃない?」
「えー、嫌ですよ、そういうのは可愛い深窓の令嬢的なお姫様がやればいいんです! 私みたいなお転婆娘には似合いません!」
「自分でそれ言う? あと、リリィは体力的には十分深窓の令嬢寄りだから。性格はお転婆娘というより、アホの子だけど」
「アホとはなんですかアホとは! 私これでも、夏休み入る前のテストでは100点満点だったんですからね!」
「算数だけね」
「むきーっ! そう言うルル君は何点だったんですか、言ってみてください!」
「全教科満点だったけど?」
「うがーーーっ!」
この子はもう、なんで転生者の私よりこんなに頭良いんですか!! あれですか、これが才能の差ってやつですか! 世の中理不尽ですね全く!
「ちなみにリリィ、才能の一点で言えばリリィが魔法においては最強だからね、人のこと言えないよ?」
「えぇー」
しれっと心を読まれることに関してはもう諦めてますけど、私が最強ってどの口が言ってるんでしょうか? 私、ルル君に一度も勝ったことないんですよ? 全く、ルル君は。
とは言え、流石に自分の魔法が一般的とまでは言えないですし、イマイチ声を大にしては反論できないのがなんとも言えないです……
けど、このまま言い負かされっぱなしっていうのも何ですし、何か言い返しましょうか。うーんと……あ、そうだ。
「ところでルル君」
「うん、何?」
「最近、モニカさんと逢引してるって話は本当ですか!」
「ブーーーーッ!!?」
ちょっと小耳に挟んだ程度の情報でしたけど、ルル君が今まで見たこともないくらい狼狽してます。
これ、ひょっとして当たりでした?
「い、いや、会ってはいるけど、別に逢引とかじゃないから! ただほら、実家の仕事の話をしてただけで」
「へ~? なんだか怪しいですね」
わざとらしくニヤニヤしながら詰め寄ってみると、ルル君にさっと目を逸らされました。
うん、これは確実に嘘を吐いてますね。全く、私達幼馴染なのに、恋の相談もしてくれないなんて水臭いですね!
「怪しくないって」
「まあまあ、ルル君と私の仲じゃないですか、恋のお悩み相談の1つくらい乗りますよ!」
「リリィに相談するくらいなら、犬猫に相談したほうが良い気がする」
「酷?! 私のほうがルル君よりも人生経験豊富なんですからね! もう少し敬ってくれてもいいと思います!」
「うん、1か月だけね」
一応この世界では、ルル君と私は同い年ですけど、誕生日は私のほうが1か月早いです。ルル君はそのことを言っていると思ったんでしょうけど、もちろん実際は転生分の年月の違いのことを言っているので、隔たりはそれ以上です。もちろん本当のことなんて言えませんから、冗談交じりですけど。
「ぐぬぬぬ、全く、ルル君ってほんとに9歳なんですか? 年齢偽ってません?」
私自身、体の年齢に精神が引っ張られてる自覚はなくもないですけど、それにしたってルル君は落ち着きがあり過ぎると思うんですよ。
「9歳だよ。単にリリィが子供っぽ過ぎるんじゃないかな」
「むうううう!! ルル君酷いです! 私のどこが子供っぽいんですか!!」
「そういう反応かな?」
「うがーーーっ!」
やっぱりダメです、ルル君に口で勝てる気が全くしません。
けど、それはそれです、今はまずルル君の恋愛が大事です!
「話それましたけど、それで、モニカさんとはどこまで行ったんですか?」
「どこまでも行ってないって。大体、モニカは確かに可愛いけど、僕の好みじゃないし」
「えっ、そうなんですか? じゃあやっぱりヒルダさんみたいな?」
「それも違う」
「えー」
うーん、大人しくて可愛いモニカさんでも、活発で明るいヒルダさんでもない、なら、一体誰が……まさか。
「もしかしてルル君……男しょ」
「違う、それはない!!」
「じゃあ、どんな子が?」
「そ、それは……」
速攻で否定されましたけど、その後に続く質問に対しては、ちらちらと私を見るだけでやけに歯切れが悪いです。
う、うーん……まあ、アブノーマルな趣味は人に言いづらいですもんね、なら言いづらいのも仕方ないかもしれません。
けど、ルル君がそっちの道に走るのはよろしくないです、私も襲われかねませんし。
……あ、私の体は女の子だから別に問題なかったです。というかむしろ、外見は女の子で中身は男の子な私なら、ルル君を真っ当な道に戻すのにちょうど良いのでは……?
よし、これもまた幼馴染のためです、ここは私が一肌脱ぎましょう!
「分かりました、ルル君」
「な、何?」
「今日は私が、女の子の良さについて徹底的に教えてあげます!! 覚悟してください!!」
「は? ……はぁぁぁぁ!!?」
自由研究の前に、ルル君の更生タイムです! 気合を入れていきましょう!
男色趣味、間違ってるけど間違いじゃないけどやっぱり違う(リリィを見つつ)




