表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/98

第五十五話 夏休み最大のピンチです!

きっと新章的な何か。

でもまだ夏休みは終わらない。

 魔物の大量発生に端を発した、近衛騎士団の騒動は幕を閉じました。

 途中、実は全ての原因が私にある疑惑が湧きおこったり、突然ドラゴンが襲来してきたりと色々ありましたが、偶々いたミスリルタートルに挑んでみたり、ドラゴンを従えていっちょ責任転嫁できないかと画策したりしてる間に、ルル君にボコされ寝かされ気付いた時には全部終わってました。


 えっ、何が何だかわからないって? 私も分かってないので大丈夫です。


 その後、ミスリルタートルは斬り落とした甲殻の一部を残し、転移魔法でどこかへいなくなりました。

 結局、私1人の力じゃ守りを破れなかったのは悔しいですけど、それはそれとして、甲殻の一部は当初の予定通りルル君の商店で査定して買い取って貰って、そのお金はセレナさんのほうに支払って貰いました。

 なんだかセレナさん、お金を見て顎が外れそう……というより、もはや外れてましたけど、今更ながら大丈夫だったんでしょうか?


 そしてドラゴンの方はというと。肩乗りサイズのミニドラゴンになって、うちのペットになりました。

 元々赤いドラゴンだったのが、ボコって治癒魔法かけたら白くなって、ルル君にボコられて気が付いたら小さくなってと、ドラゴンの生態って摩訶不思議ですね。ルル君曰く、「ドラゴンの体は半分が魔力で出来てるって言われてるから、それが原因じゃないかな」とのことでしたけど、私にはよくわかりません。とりあえず、ドランって名前を付けて、オウガと一緒に可愛がってます。


 むしろ、王立学園の学生である私には、目下それ以上に重大で避け難い問題が立ち塞がっています。

 ある意味、ミスリルタートルよりも厄介で、長期休暇中の学生最大の敵。そう――夏休みの宿題。これが全然全く進んでいません。

 いや、その、ルル君からは常々、早めに終わらせとけって言われてるんですけどね? でも今回はほら、色々あったから仕方ないと思うんですよ。


「だからルル君、お願いです……そろそろ休ませてぇ……!」


「あと1週間じゃ徹夜しても宿題終わらないからって、家まで押しかけてきたのはリリィでしょ」


 呆れ顔でルル君に言われ、私はむぐぐと言葉に詰まります。


「ていうか、色々あったからって言うけど、あれからもう一か月近く経ってるじゃない……」


「そそそそれはほら! ドランの首輪発注に手間取ったりとか色々あったんですよ!」


「注文したのはリリィだけど、その手続きから何から全部僕がやってた気がするんだけど?」


「あ、あはは……」


 はい、本当は今度こそミスリルタートルの防御を自力で破れるようにって、色々と魔法の練習をしてたら気付けばこんな時期になってました。

 い、一応魔法の勉強だって宿題のうちにありますから、これは決してサボって遊んでたとかそういうんじゃないですから!


「宿題にある魔法の勉強は座学であって実技じゃないでしょ」


「あふんっ」


 ルル君にあっさり論破されて、私は机の上に突っ伏します。

 うー、魔法なんてこう、気合と根性でなんとなくばーっ! とやれば発動するんですよ! 座学なんていりません!


「けど、リリィが今以上に強い魔法を覚えようとするなら、必要なことだからね?」


「それは分かってますけど、こういう勉強とかしてると知恵熱が……ていうかルル君、さっきからちょくちょく私の心読まないでください、私ってそんなに分かりやすい顔してます?」


「少なくともリリィに関しては、先生が黒板に書いた文字より分かりやすいよ」


「それほぼ筒抜けじゃないですか!?」


 一応先生の名誉のために言っておくと、別に字が汚いとかそんなこともない普通の字です。ちょっとばかり黒板いっぱいにギチギチに書く癖があるようで、若干分かりづらい部分はありますけど。


「うー、ルル君はいつも私の秘密を覗き見てほくそ笑んでたんですね! プライバシーの侵害です! ルル君の変態ー!!」


「いやちょっと待って、そこまで完璧に読めてるわけじゃないし、変態呼ばわりされる謂れはないんだけど!? 僕だって四六時中リリィのことばっかり見てる……わけじゃないし?」


「あれ? ちょっと待ってくださいなんですか今一瞬空いた間は! 気になるんですけど! 秘密があるなら洗いざらい吐いてください!!」


「嫌だよ!! それこそプライバシーの侵害じゃないか!」


「いいじゃないですか、ルル君はもう私の恥ずかしいところまで全部見てるんですから、ルル君のも見せてくれたって!!」


「だから見てないって! ていうか第一その言い方は色々と誤解を招くからやめて!?」


 ルル君の襟をつかんでブンブンと前後に振り回せば、それに抵抗されて逆に私が押し倒され、慌てて離れようとしたルル君を掴んで逆にマウントを取ろうと四苦八苦していると……ガチャッと、唐突にルル君の部屋の扉が開け放たれました。


「おーい、ルル。まあお前もそろそろそういう年頃なのは分かるが、男ならちゃんとやったことの責任は取るんだぞ。それと、痴話喧嘩も偶にはいいが、表通りまで響いてたからな? ほどほどにしろよー」


 ガチャンッと、言うだけ言ってルル君のお父さんは部屋を後にしました。

 ドタバタやってたせいで乱れた服、絡み合った手足、荒れた呼吸、諸々込みでルル君のお父さんが何を思ったかは……お互い、考えないようにしようということで、決着が付きました。






「いやー、やっぱり外はいいですねー! 男児たるもの、やっぱり家に引きこもって机に向かうより、野山を駆け回るほうがずっと健全ですよ!」


「駆け回ってるのはオウガと僕であってリリィじゃないけどね。あとリリィは女児でしょうに」


 騒ぎ過ぎた結果、あのままルル君の家でわーわーと勉強するのも微妙な空気になってしまったので、外でも出来る宿題……自由研究を進めることになりました。

 とはいえ、自由研究と言うだけあって特に何をするか決まってないので、それを決めるところからなんですけど。


「というわけでルル君、どんなのがいいんでしょう?」


「それくらい自分で決めないとダメだよ? まあ、リリィの場合はオウガやドランがいるんだし、その2体の観察日誌付けるだけで十分……だったんだけど、夏休み中やったならともかく、あと1週間じゃダメだろうね」


「むぐぐぐ」


 あー、こんなことなら最初からちゃんとやっておくんでした! でも、いつもそう言って後回しにしてる辺り、これはもう私の性なんでしょうね、諦めましょう。


「じゃあ、どんなのがいいですか?」


「だから……はあ。そうだね、どうしても外でやるのがいいって言うなら、森の魔物の生態調査とか? 大量発生して、駆逐されて、ドラゴンが出てって色々起きたから、現状の分布を纏めて出すだけでも結構重要な資料だし、無碍にはされないと思う」


「おお! さすがルル君、頼りになります!」


 溜息を吐きながらも、頼めば案を出してくれるルル君大好きです! いやぁ、持つべき物は優しい幼馴染ですね、やっぱり!


「さあ、行きますよルル君! パパっと纏めてまた模擬戦やりましょう!」


「いや、終わったなら終わったでまだ宿題の続きあるでしょ。全部終わるまで禁止」


「ぶ~」


 なんて軽口を言い合いながら、オウガに跨って森の中に飛び込んでいく。

 さて、魔物はー……


「ルル君、魔物いませんよ?」


「これまでがおかしかっただけで、普通はこんなものだよ。いくらスラムが緩衝地帯になってるって言っても、そう頻繁に出て来てたら治安も何もないでしょ?」


「それもそうですね」


 スラムが緩衝地帯っていうのも、セレナさん達のことを知った今となってはなんだか微妙な気分になりますけど、そうそう遅れを取るような人達じゃないですし、そこはひとまず置いておきましょう。

 それより、目下の問題は自由研究です。


「けどそれなら、どうやって調べるんですか?」


「そりゃあ、魔物と会うまでひたすら探索だよ。で、見つけた場所と数と種類を記録して、次を探す。見つけたら記録。それを繰り返す」


「…………なんだか面倒ですね」


「じゃあ、勉強する?」


「よし、やりましょう!! 出てこい魔物どもー!!」


「やれやれ……」


 気合を入れて探索を再開しますけど、森の奥まで入り込んでも中々魔物と出くわしません。

 オウガの鼻にも特に反応はなく、ドランが飛んで空から探ってみたりもしますが、やっぱり見つからないです。


「……ルル君、これが普通なんですか?」


「いや、それは流石に……」


 その後も探索を続け、普通の馬や何やらを余裕で置き去りにするような速度で森をぐるぐると周り続けますけど、小さくて無害な小動物くらいはいても、魔物となると綺麗さっぱり、影も形も見えません。


「……これはひょっとすると、あれかな」


「あれってなんですか?」


 そろそろ森の中を駆けまわるのも飽きてきた頃、ルル君が呟きます。

 よく意味が分からず首を傾げると、ルル君は私の方を見て、神妙な表情で言いました。


「いやほら、リリィ、さっきも言った通り、この辺りで暴れ回ったじゃない?」


「はい、そうですね」


 確かに魔法は撃ちまくりましたし、ミスリルタートルを斬る時とか、ドランと戦った時は色々派手なことした自覚はあります。というか、だからこそ今の魔物の分布状況が自由研究になりそうだって話ですし。


「それで、魔物が異常発生してた反動というか、多分リリィとドランの魔力にあてられて……」


「あてられて?」


「多分、この森から魔物が逃げ出したんじゃないかな?」


「……へ?」


 逃げ出した? それってつまり……


「この森にはもう、魔物がいないかもしれない……」


「……えぇぇ!?」


 魔物がいない!? そんな、それじゃあ……


「私の自由研究はどうなるんですか!?」


「それは本当に知らないよ」


 バッサリ切り捨てるルル君の言葉に、私はがっくりとオウガに乗ったまま項垂れる。


 私の夏休みの宿題、本当にどうすればいいんですか!?

正直忘れてたリリィ元男の娘設定(ぉぃ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ