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第五十二話 ドラゴン征伐、後編です!

「あれ、逃げちゃった……」


 私の治癒魔法を受けて、なぜか真っ白になった赤竜さんの背の上で私は呆然と呟く。

 うーん、とりあえず一発ビビらせようかと思って、光のブレスを赤竜さんにぶっ放して貰ったんですけど、思った以上に驚かれて、隊長さんを残してみんな逃げ出しちゃいました。

 一応、光属性と風属性魔法の応用で私の姿は見えないようにして、声も周りには聞こえないようにしてありますけど、だからって全く交戦せずに逃げられるのは予想外です。


「まあ、隊長さんは残ってくれてるみたいですし、なんとかなりますかね? 赤竜さん、フォローはするのでお互い怪我しない程度に相手してあげてください」


「ギャオォォォ!!」


 ぺちぺちと背中を軽く叩きながら呟くと、赤竜さんは私の言葉に応えるように咆哮を上げ、猛然と隊長さんに襲い掛かります。


 オウガもそうですけど、魔物って思ったより頭が良いですよね。なんでみんなペットにしないんでしょう?


「うおぉぉぉ!!」


 振り下ろされたツメの一撃を、隊長さんが手にした盾で受け止める。

 バガァン!! と派手な音を立てて地面が軽く陥没しますが、隊長さんはなんとか受けきったようです。

 ……私、怪我しない程度にって言ったんですけど、これ、ちゃんと手加減されてるんでしょうか? まあ、なんともなさそうですし、いいんですけど。


「喰らえ、『光神剣』!!」


「おっと、『プロテクション』」


 赤竜さんの攻撃を受けきったところで反撃に出る隊長さんですけど、そこはすかさず私の魔法でガードする。

 光を纏った剣がガキィン! と派手な音を立てて弾かれ、隊長さんの表情が驚きに見開かれました。


「バカな、光だけでなく、地属性魔法を操る聖龍だと!?」


 いや、人間だって色んな属性使いますし、それくらい普通じゃないんですか? まあ普通じゃなくっても、この子が犯人ってことにするために、最低あと2つ3つ属性は持ってることにしますけどね。


「『クリエイトウォーター』」


「ぶふぉ!? み、水属性まで!? ぶぶっ、がぼぼぼぼ……!」


 またしても赤竜さんの口から出たように見せかけつつ、大量の水をぶっかけて隊長さんを押し流す。

 ふふふ、いくら近衛騎士団の人だって、2対1で勝てるわけないです! 数の暴力は偉大なんです!


「アースランド流剣術一ノ型、『魔天崩雷』!!」


「ふぎゃあ!?」


 そんな風に内心で思ってたら、赤竜さんの側面から物凄い衝撃が『プロテクション』の障壁越しに走り、赤竜さんごと吹っ飛ばされます。

 ゴロゴロと転がって、軽く赤竜さんの体に潰されてぐえっとなりましたけど、私自身も『プロテクション』で守られていたので、ちょっと息苦しい程度で済みました。

 ふぅ、『プロテクション』がなきゃ即死だったぜ……


「って、ルル君!?」


「リリィ」


 赤竜さんが起き上がるのに合わせて視線を上げれば、そこにはルル君がいつもの大剣を担ぎ、にっこりと口を開き、声には出さず何かを呟きました。

 えーっと……?


『お』


『し』


『お』


『き』


「ひぃ!?」


 ルル君、完全に私に気付いてる!? なんで!? 魔法で姿消してるのに!

 ていうかやばい、やばいです。このままだと私、ルル君に赤竜さんごとフルボッコにされちゃいます!?

 そ、そうはいきません、絶対上手いことやってお仕置きも回避してみせます!


「それに、現状はまだ2対2です! まだまだこれから……」


「アースランド流剣術、三ノ型! 『鬼炎乱舞』!!」


「ひぎゃあ!?」


 フラグになるようなことを言ったからってわけじゃないでしょうけど、気付けば後ろに回っていたヒルダさんが双剣に炎を纏わせ、一太刀ごとに爆発する連続攻撃を繰り出してきます。

 あばばば! ちょっと危ないですよヒルダさん、それ絶対私に気付いてやってますよね!? あからさまに私のいる位置の周辺だけ執拗に狙ってますし!


「ちぇすとぉぉぉぉ!!!」


「はうわ!?」


 防御の魔法陣越しとはいえ、背中に攻撃を受けたことで前のめりになっていた赤竜さんの顎に向け、真正面から接近していたらしいセレナさんが跳び上がり、アッパーカットを決めました。

 ここまで付いて来るのに、ヒルダさんが何も言わないからもしかしたらとは思ってましたけど、セレナさんまさかの武闘派ですか!? しかもドラゴンを防御障壁ごと素手で殴って仰け反らせるってどういうバカ力してるんですか!! 羨ましいですその筋力ちょっと分けてください!!


「悪いなリリィ、これも丸く収めるためだと思って、な?」


「よくわかんないけど、元凶のトカゲ野郎はぶっ潰すわ!!」


 セレナさんは状況がよく分かっていなさそうですけど、ヒルダさんもルル君と同じく、お仕置きがてら私をボコる気満々みたいです。

 ふっふっふ……いいでしょう、なんだか気づいたら2対4になってましたけど、望むところです!


 みんな纏めて相手してあげます!!


「お前達! 相手は聖龍、生半可な覚悟で挑んでいい相手ではない! いいから早く逃げ――」


「行きますよ! 『ガイアウォール』、『スリープミスト』!」


「うおぉ!?」


 隊長さんが何やら言ってましたけど、そんなものはスルーして2つの魔法を行使します。

 1つ目のガイアウォールは、単純に他の4人を分断・包囲するために使って、そしてもう1つ、眠りの魔法でその区画内を満たしていく。


 これでみんな眠ってくれればそれで終わりですけど……


「『風神烈波』!!」


「『爆炎刃』!!」


 案の定、そうは問屋が卸さないみたいです。

 ルル君は風を纏った大剣で、ヒルダさんは爆発する双剣で眠りの霧を吹き飛ばし、岩の壁を破壊することで難を逃れました。


「流石にやりますね、けど、今です! やっちゃってください!」


「ガルォォォォ!!!」


 赤竜さんの咆哮が轟き、その口から光のブレスがヒルダさんに向けて真っ直ぐに照射されます。


「うおわぁ!?」


 咄嗟に剣を構えて防ごうとするヒルダさんですけど、流石に魔法剣を使った直後に襲ってきたブレスをどうこうするのは無理だったみたいです。咄嗟に双剣で防ぎますけど、大きく弾き飛ばされました。

 まあ、最初に撃って貰った一撃と違って、ブレス自体を防御魔法で包み込んでおいたので、ちょっと硬い鈍器くらいの破壊力しかありませんから、ヒルダさんなら大丈夫なはずですけど。


「ヒルダ!? くっ、流石に手強い! というか、大人しく降りてこいリリィ! 今なら理由次第じゃお仕置きはいつもの半分で済ませてあげるから!」


「だが断る!!」


 ルル君の降伏勧告に、思わず姿を隠す魔法を解いて反射的にそう叫ぶ。

 一応、私の姿は隠したまま赤竜さんとの戦闘を終えて貰わなきゃならなかったはずですけど、もうルル君にはバレてますし、今や近衛騎士団の人達は大方逃げて、ルル君以外の3人は眠ってるか動けないかなので、そう問題もないでしょう。多分。


「ああもうリリィは、いつもいつも突拍子もないことばっかりして! 少しは振り回される僕の身にもなれ!!」


「うぐっ、それを言われると強く言い返せないですけど、私だってこのまま騎士団に討伐されるのは御免ですから、この一件だけはせめて最後までやり通してみせます!!」


「討伐って何の話!?」


「赤竜さん合わせてください! 『ホーリーブラスター』!!」


「うわっ!?」


 私が放った光線と、赤竜さんが放った光のブレスが交わり、一本の極太レーザーみたいになってルル君に迫る。

 それを、慌てながらもひらりと回避したルル君は、はあ、と息を吐いたかと思うと、手にした大剣を構え直し、私達に真っ直ぐ向けました。


「よし、そういうことなら分かった。そのドラゴン諸共今この場でお仕置きしてやるから、覚悟してねリリィ?」


「ひえっ」


 遠目から見ても分かるくらいはっきりと、こめかみに青筋を浮かべながらルル君がにっこりと宣言する。

 わ、私、選択間違えましたかね? どうせ隊長さんも眠っちゃってますし、その時点でさっさと降伏したほうが良かったかも……ええい、男は度胸です、売られた喧嘩は買うのが礼儀です!! どっちかというと私のほうが売りつけた気がしないでもないですけど、細かいことは言いっこなしです!!


「い、いいでしょう、特訓の時はいつも負けてばっかりですけど、今日は私も本気で行きますからね! 覚悟してください!!」


 微妙に声が上擦っちゃってかっこつかないですけど、実際普段は剣の稽古ばっかりで、魔法はほとんど使ってませんからね。そういうのも込みで全力でやれば、私だってルル君に勝てるはずです!!


「行きますよ! 『ホーリーブラ――」


「ニノ型、『疾風一陣』」


 早速魔法を撃とうとした瞬間、私の視界からルル君の姿が掻き消えて、ガキィィン!! と硬質な音を響かせながら、赤竜さんの体が揺らぎました。


「ふわぁぁ!?」


 何事!? い、いえ、今の感覚からして、私が貼った『プロテクション』の防壁越しに赤竜さんが斬られたのは間違いないはずですけど、いつの間に!?


「リリィ、そのドラゴンを死なせるつもりはないなら、防御は本気でね?」


「っ! ふぁ、『ファランクス』!!」


「『アクセル』、『ブースト』!」


 ぞくっ! と、転生してから初めて感じる類の悪寒に突き動かされて、咄嗟に貼れる中では一番の防御力を持つ魔法を発動し、私と赤竜さんを包み込むと同時、ガガガガガ!! と凄まじい音を立てて私の魔法障壁が軋んでいく。


 ちょっ、これやばいです! このまま行くと『ファランクス』が破られる!?


「天上へと至る神の火よ、我が深淵に宿りて人智を超えた力となれ。」


「はいぃ!?」


「我が身を喰らい燃え上がる紅き業火よ、勝利の栄光を我が手に!」


 慌てる私の耳に飛び込んできた詠唱に、これまた思わず素っ頓狂な声があがる。

 その詠唱、もしかしなくてもお兄様の切り札じゃないですか!! もしかしたらとは思ってましたけど、ルル君も習得してたなんて……!


「『ライジング』!!」


 魔法が発動した途端、それまで軋みはしても均衡を保っていた『ファランクス』の防壁が破れ、砕ける。

 とは言え、『ファランクス』はそもそもが多重防壁魔法なので、1枚破られただけじゃ大して問題はありません。問題は、それだけ威力のある攻撃が、目にも止まらない速さで次々繰り出されて、その度に1枚ずつ防壁が剥がされて行ってることですけど。


「うひゃああ!? ええい、なら私も!」


 今まで使ったことないですけど、お母様の書庫に(勝手に)入って調べた魔導書に載ってた最強の防御魔法、今こそ使う時です!!


「我ら敬虔なる子らを見守りし偉大なる神よ! 災禍の炎に包まれんとする我らに救いの手を!」


 いやほんと、詠唱文じゃないですけど、ルル君これ本気でキレてます!? これならまだドラゴンの群れと戦ったほうが気楽な気がします! だからお願いします助けてください神様ぁ!!


「顕現せよ、あらゆる魔の手を打ち払う神の盾よ!」


 ついに『ファランクス』の、最後の1枚が砕け散る。そこに来てルル君は、これまでの超スピードをやめ、私達の真正面に立つと、大きく大剣を振りかぶり――


「アースランド流剣術一ノ型、『魔天崩雷』!!」


「『エイジス』!!」


 大きく跳び上がったルル君が、魔力を込め強化した上で振り下ろした大剣と、私が発動した魔法の防壁が激突する。

 盾が軋み、剣圧と魔力が吹き荒れ、赤竜さんの体を支えていた地面が砕けて割れ、辺りの木々は吹き飛んでいく。


 ちょっとちょっとルル君!? 怒ってるのは分かりましたけどちょっとやり過ぎじゃないですか!? 地形変わっちゃってますよ!? 周りに居た人達大丈夫ですか!?

 ……あ、『ガイアウォール』がまだ残ってますから、余波だけなら大丈夫そうですね、うん。


 なんて、他の事に気を取られていたからか、それとも初めて使う魔法で慣れていなかったからか、ルル君の剣を受けた『エイジス』にピシィ! と罅が入る。

 いけないいけない、集中しないとこれは防ぎきれないです!


「ふんぬらばーーー!!」


 後付けで強引に魔力を注ぎこみ、『エイジス』の盾を修復する。

 思いっきり力技なので流石に私も大分疲れますけど、お陰で罅はそれ以上広がらず、逆にルル君を押し返していきます。


「よし、これで……!」


「うん、僕の勝ち」


「ふぇ?」


 勝てる! そう確信して、思わず力が緩んだその瞬間。後ろから聞こえた声に驚き振り返ると、そこには今もなお私のエイジスに向けて剣を振り下ろしているはずの、ルル君の姿がありました。


「ルルく……!?」


「心配しなくても、後は僕が適当に誤魔化しておくから。だから……『眠れ』」


 いつの間に!? なんて叫ぶ暇もなく、ルル君の言葉が私の意識に染み渡ると同時に、急速に意識が遠のいていく。


「全く、世話が焼けるんだから」


 最後に私が見たのは、いつものようにそう呟くルル君の瞳に浮かぶ、不気味なほどに濃い紫色を湛えた、見たこともない魔法陣でした。

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