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第五十一話 ドラゴン征伐、前編です!

例のごとく途中で視点変わります。

「あっれー……思ったよりダメージでかそうですね、どうしましょう……」


 目の前に横たわるは、黒焦げになった赤竜さんが1頭。ギリギリ生きてるみたいですけど、この状態じゃとても戦えたものじゃありません。


「どうしましょう、オウガ?」


「ガウ!?」


 俺に聞くの!? みたいな感じに驚くオウガですけど、この赤竜さんに責任転嫁……もとい、私の罪状を被って貰わないことには、私の身の安全が保障されません。

 あれ、言い直してもあんまり変わってない? うむむ。


「仕方ないです、まだやったことなかったですけど、回復魔法かけてみますか」


 回復系の魔法は、基本的に光属性魔法に入りますから、私の得意分野です。

 けど、今まで風邪こそよく引きましたが、怪我をすることってほとんどありませんでしたから、ついぞ使う機会がなかったんですよね。お母様からも、回復魔法ありきで生活するのは危機感を薄くさせるからよくないって言われてましたし。

 それでも、今はこれを使わないことには、この赤竜さん死んじゃいそうですし。まずは助けないと。


 えーっと……確か詠唱は……


「癒しの光よ、彼の者に命の祝福を与えたまえ。『ヒール』!」


 赤竜の下で広がった白い魔法陣が光を放ち、赤竜の焦げた体を癒していく。

 「グウゥ……」と呻くような声と共に赤竜の意識が戻りますけど、このペースだと傷を癒すにも時間がかかりそう。

 うん、もっと魔力を込めればいいかな?


「光よ、女神の祝福となりて敬虔なる信徒に救いを与えたまえ! 『グランドヒール』!!」


 思いっきり魔力を込めると、魔法陣の上にもう一つの魔法陣が重なり、更に強く光り輝く。

 すると、みるみるうちに火傷が治り、焦げた鱗が元の鮮やかな赤みを取り戻し――


「……あれ、ちょっと光りすぎじゃないですか?」


 全力で魔力を込めたせいか、少なくとも見た目の上では傷も治ってるのに、更に激しく赤竜の体が輝き、光を発し始める。

 ちょっと魔力注ぎすぎちゃったんでしょうか? というかこれ、また嫌~な予感がするんですけど……


 そんなことを考えてるうちに、やがて全身を包み込んでいた光が収まっていき――


「……あれ?」


 後に残ったのは、傷一つない()()()()ドラゴンでした。






「もう少しだ、ちゃんと気を引き締めて行けよ!」


 近衛騎士団(とその他数名)の一行は、リリィのように慌てることなく、着実にドラゴンがいると思われる地点へと向かっていた。


 ドラゴンは強大だ。流石に、Sランクの古龍種がこんな街の近くまで来ることはないだろうが、Aランクの属性竜がやって来た可能性は十分にあり、もしそうならば一部隊の手に余る。

 とは言え、下位の亜竜程度ならばBランクと、油断は出来ないが1体なら十分に被害を出さず討伐可能であり、出来ればこれであってほしいと隊長は思っていた。

 もっとも、これまで観測された魔力量、及び先ほど僅かに見えたシルエットからして、残念ながらその可能性は低いと分かってもいるのだが。


「それより隊長、スラムの子供らがまだついてきていますが、いいんですか?」


 そこへ、部下である副隊長から、もはや何度目とも分からない耳打ちをされ、隊長はそれと分からない程度に溜息を吐く。

 その気持ちは痛いほど隊長も分かっているのだが、如何せん相手が悪い。


「仕方ないだろう、あの子供らをどうにかするより、ドラゴンの処理こそが優先だ。それに、あの光景を見たろう? ミスリルタートルの甲殻を、魔法剣で切り裂くところを」


 そう言われると、副隊長も何も言えなくなった。


 ミスリルタートルの討伐は本来、国を挙げて行う事業のようなものだ。

 ただでさえ硬いミスリルを、更に魔法で強固に補強しているミスリルタートルの防御を破るためには、まずは大規模な魔封じの結界にミスリルタートルを閉じ込めてその魔法を封じ、更には強力な魔法使い――宮廷魔導士団を総動員する勢いで集め、その体を地属性魔法による拘束と、水属性魔法による状態異常で内外から縛り付ける。


 そこへ、鉱山で使われているような大規模な掘削用魔道具を複数持ち出し、動けないミスリルタートルを三日三晩、下手をすればそれ以上の日数をかけ甲殻を削り、ようやく中の柔らかな肉へと攻撃を加えることが出来るようになる。


 勿論その間、拘束を行う魔法使いは不眠不休だ。交代要員を考えれば、どれほどの人員が必要になるか想像もつかない。

 そして、もし拘束が途中で解けてしまえば、いくら鈍重とはいえその圧倒的な巨体とそれに見合った膂力で以て、いかなる結界も破壊し去って行ってしまうだろう。


 だからこそ、ミスリルタートルを狩ろうとするなら、育ち切っていない子供の個体を狙うのが基本なのだが……先ほど見た個体は、明らかに成体。それも、かなりの年月を生きた強力な個体だ。それを、たかが剣と杖程度の道具以外何も使わず、自分達の剣技と魔法だけの力技で斬り伏せた。

 正直なところ、この目で見た今でも信じられないというのが、隊長の偽らざる本音だった。


「(あるいは、我々が到着する頃には既に決着がついているやもしれん)」


 あんな小さな子供に全て任せて終わるなど、普通に考えればあり得ないのだが、あの圧倒的な魔力を目の当たりにすると、もはやそれも仕方ないと思えてしまう。

 例えるなら、迫りくる嵐を前にした時のような気持ちだろうか。

 抗う気も起きず、ただ神の気まぐれのように蹂躙され泣き寝入りするしかない圧倒的な大自然の猛威。


 さすがにそこまで理不尽な存在ではないと隊長も思いたいが、力の差という意味なら似たようなものだった。


 と、その時、少し離れた場所で魔力の奔流が吹き荒れる。


「な、なんだ!?」


「落ち着け、大方先ほど先行した子供が交戦状態に入ったのだろう。急ぐぞ!」


 団員達を急かし、山の麓を目指し突き進む。

 何度かの炎が空中を乱舞し、岩の壁と共に巨大な火柱が立ち昇るのを視界に納めつつ、最後に眩い光が天を覆い、ようやくその場へとたどり着く。


「な、なにぃ!?」


 そして、そこで隊長が目にしたのは、まるで宝石のように眩く輝く純白のドラゴンだった。

 その手足は太く逞しく、一対の翼はひとたび羽ばたけばそれだけで辺り一帯を薙ぎ払ってしまいそうなほどに強靭。溢れ出る魔力が、自分達との生物としての“格”の差を突きつけているようだ。

 しかしながら、額から伸びた一本の金色の角と、その落ち着いた佇まいは一種の威厳を醸し出し、相手が魔物であることも忘れ、思わずその場に跪いてしまいそうになる。


白竜(ホワイトドラゴン)……いや、更に上位の、聖龍(セイントドラゴン)か!? 竜の聖域の守護者であるはずの龍がなぜここに!?」


 聖域と呼ばれる、竜種の魔物達が済む住処。そこで長時間過ごし、濃密な光属性の魔力を浴び続けた竜が進化した姿だと言われている、Aランクでも上位に位置するドラゴン。

 その性質は穏やかで、自ら人里を襲うどころか、聖域から出ることすらほぼないと言われている。だからこそ、聖域の守護龍などという呼び名が付けられているのだが、そんなドラゴンが聖域から遠く離れたこの地へ訪れるなど、前代未聞だ。


「(落ち着け、彼の竜はこちらから刺激しない限り、滅多なことでは襲ってこないはず――!?」


 そこまで考えたところで、隊長は致命的なことに気が付いた。

 そもそも、つい今しがたまで、この場で何が起きていた? あの飛び交う炎の乱舞は、一体何に向けて放たれていた?


 実際に起きたことは隊長の想像と違うが、それはさして意味のない違いだろう。

 なぜなら聖龍の顎に、莫大な魔力が光となって収束し始めたからだ。


「っ!! 全員、避けろぉーーー!!」


 2つに別れ回避行動を取った部隊の()()()()()()()を、光の奔流が駆け抜ける。

 大地を抉り、木々を薙ぎ払いながら突き進んだ光のブレスは、森を真っ二つに切り裂くかのような爪痕を刻みつけた。


「っ……!」


 その途方もない威力に、隊長は息を呑む。

 今は()()誰にも当たらない位置を通り抜けて行ったから良かったものの、もしあれを直撃していれば、鎧も防御魔法も何の意味も為さず消し飛ぶのみだっただろう。そういう意味では、運が良かったと言える。

 そもそも、こんな化け物と遭遇してしまって運が良いも何もないが、とは隊長も思ったが。


「隊長!! こんなもの相手になんてしたら部隊が全滅します、退却を!!」


 ブレスの威力を目の当たりにして、硬直していた部下のうち、いち早く立ち直った副隊長がそう叫ぶ。

 その言葉でようやくハッと我に返ったらしい団員達から縋るような眼差しを一斉に浴びるが、言われるまでもない。


「総員退却!! 以降は副隊長の指示に従い、王都へ戻って防備を整えさせろ!!」


「隊長はどうするおつもりで!?」


「俺はここでヤツの気を引き時間を稼ぐ!! 問答している時間はない、早く行け! これは命令だ!!」


 ブレスを撃ってからというもの、なぜか聖龍は一歩もその場を動かず、隊長のほうをじっと観察するように見つめている。

 余裕のつもりなのか、それともやはり積極的に襲ってくる意志はないのか。どちらにせよ、隊長にとっては好都合だった。


「……ッ、分かりました!! 総員、退却!!」


 唇を噛み締めながら副隊長が指示を出し、近衛騎士団の面々が撤退を開始する。

 あるいは、このまま撤退するまで動かず居てくれるのではないか。そう思ったが、聖龍の視線が隊長からチラリとそちらに移ったのを見て、すぐにそんな甘い願望染みた予測は捨てる。


「光よ穿て! 『ホーリーレイ』!!」


 光属性の下級魔法が隊長の手から放たれ、聖龍の頭へ命中する。

 隊長自身、この程度では倒すどころか、傷一つ付けることすら叶わないことは重々承知だが、それでなんとか気を引くことに成功する。


 なぜ聖龍がこんな場所にいるのか。なぜいきなりブレスを撃っておきながら、積極的に襲ってくる様子がないのか。そもそも、最初にこの場に来たはずの子はどうなったのか。

 疑問は尽きなかったが、今はそんなことはどうでもいいと、隊長は素早く頭を切り替え、剣を抜く。


「さあ来い白トカゲ!! この俺……近衛騎士団第三部隊隊長、ゴルソワ・ロッゾが相手だ!!」



次回、ルル君VS聖龍、お楽しみに!(ぇ

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