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第四話 外は危険がいっぱいでした!

書くのに時間がかかっている間にブクマが2桁超えてました(∩´∀`)∩ワーイ

のんびり投稿ですがこれからもよろしくお願いします!

「あー……ん」


 ゴロゴロした野菜。適当に切った肉。火の通りもマチマチで、分量なんて正確に測ったかよくわかりません。

 けれど、そんな調理でも大体それなりの出来栄えになる魔法の料理カレーライスは、こういった外でみんなとワイワイ食べるという状況も相まって普段とはまた別種の美味しさがあります。

 まあ、私はあまり仲の良い人もいないので、ワイワイやってるかと言われるとやってませんけどね。

 べ、別に寂しくなんてないですよ? お兄様とお父様もいますから、うん。


「どうだリリィ、森の中で食べるのもまた格別だろう?」


「はいお父様、とっても美味しいです」


 私が河原に着いた時は既にほとんどの人がテントの設置作業をしていたのでよくわかりませんでしたが、今回のキャンプ参加者はざっと見渡した感じ20人は超えているようです。年齢は見た感じ、概ね7、8歳~15、6歳と言ったところでしょうか? 1人2人、同い年くらいに見える子もいますが、多分私が最年少です。

 そのせいか、私に話しかけてくれる人はなかなかいません。遠巻きにこちらを見ている人は多いので、全く関わる気がないわけではないでしょうけど……


 あれ? でもよく考えたら、これお母様がいないことを除けば家族だけのいつも通りの食卓風景ですね。

 ……私が見知らぬ子だから話しかけられないのかと思いましたけど、この家族の輪に割って入れる人がそうそういるわけありませんし、これは自分から動かないといけないパターンだったかも。むむむ、明日は私のほうから声をかけてみようかなぁ。

 そんな風に考えながら、私は手の中のカレーを食べ進めていく。


 ガサガサ。


「ひぅっ!?」


 突然森の中から何かが蠢く気配が伝わってきて、思わずビクっと過剰反応してしまう。

 夜の森に外灯なんてあるわけもなく、空の星や月の明かりとカレー作りのために用意された焚き火が光源となっているのみで、森の中は1メートル先も見渡せないような完全な暗闇になっていて、振り向いたところで何も見つかりません。

 気のせいかな? とも思いつつも、一度意識してしまうと全く関係ない草木が風になびく音や、川の流れる音でさえやけに大きく聞こえてしまいます。そのせいで、カレーを食べつつもあちこち気になって、中々手が付けられません。

 け、決してビビってるとかそういうんでなく、これは単に警戒心を持って行動しているだけですからね? ビビってないったらないんです。

 内心でそう言い聞かせながらちらちらと森の闇を伺い見ていると、隣にいたお兄様がそんな私の頭を撫でてきました。


「大丈夫だよリリィ、どんな魔物が出てこようが、俺が倒してあげるから」


 そう言って、こちらに笑顔を向けるお兄様。

 違うんです、魔物ならお父様がいる時点でよっぽど大丈夫だと分かっています、どっちかというと幽霊とかそういうのが……って違う違う、怖くなんてないですっ!


「は、はい……頼りにしていますね」


 ひとまずそう言って、その話は打ち切る。


 結局その後、物音に一々過剰反応してしまった私がカレーを食べ終えたのは門下生の人達が全員とっくに食べ終わった後でした。私の量、お兄様の半分もないのに。

 そんな私の様子を見て、有言実行とばかりにお兄様が一緒の寝袋で寝てくれることになりました。

 恥ずかしいので断ろうかと思ったんですけど、なんだかんだおかげで熟睡出来たのは……うーん、複雑です……





 翌日。朝起きたらみんなで川から水を汲んで軽い朝食を摂り、その後は7、8人ほどの班に分かれて森の奥に進み、比較的浅いところで魔物狩りを行うことになりました。


 この世界において、剣術というのは剣道のようなスポーツではなく、文字通りの意味で“殺し合い”の技。

 ただ、その対象は前世のような対人戦闘ではなく、対魔物戦闘。それも魔法の存在を念頭に置いた特殊なものになっています。なので、その技を会得しようと思えば、必然的に魔物との実戦は避けて通れない道なんだそうです。


 お兄様も行くみたいですし、出来ればそれについていきたいと言いましたが……さすがに危ないからと止められました。代わりに、私と同じく居残り組の子達と一緒にお父様に剣を教えて貰えることになったん……ですが……


「んんっ、んっ、ん~~!!」


 ぷるぷる。ぷるぷるぷる。

 はい、練習用の木剣を渡されましたが、重くてまともに振れません。持つだけなら出来ますけど、それを維持するだけで辛いです。

 いやまあ、言い訳をさせてもらうと、これは前世の物と違って真剣と同じ重量とバランスを確保するために色々特殊な素材が使われた、なんちゃって木剣だったりするわけであって、5歳の子供が本物の日本刀を持てるか? と言われたら持てるわけないんですよ。

 だからこれは決して私が弱っちいわけじゃないです。最初からそれを見越して脇差みたいな子供用サイズの木剣を渡されてるとかそんなことは知りません。これは普通ったら普通なんです。ぐすん。


「うーん、やっぱりリリィにはまだ早かったか」


 そう言って、結局剣術のけの字も習わないうちにお父様に木剣を回収されてしまいました。

 いやまあ、分かりますよ? 5歳くらいだと男女で体格差なんてほとんどないはずなのに、私だけ同年代の子と比べて10㎝以上背が低いですし、剣を扱うには圧倒的に体が出来上がってませんよね。

 でもこう、やっぱり、同年代の子が普通に木剣で素振りしているのを見るとこう……ぐすん。


 心の中で涙を流しつつも、それを表に出さないようにしつつ他の子の指導に戻るお父様を笑顔で見送った後は、ひたすら門下生の子達の素振りを眺めて時間を潰します。

 合間で筋トレしてみたり、魔法制御の練習をしたりと自分の訓練も行いつつだったからか、私にちょくちょく目を奪われて手元がおろそかになった人達がお父様に叱られているのが目に付いたりもしましたが、それよりも私が気になったのは、一人の男の子(?)でした。


「はあ、はあ……」


 多分私と同年代くらいの、かなり小柄な子。そうは言っても私よりは大きそうですけど、くりくりっとした藍色の瞳とぴょこぴょこと所々跳ねた紫銀の髪が子犬みたいな可愛らしさを醸し出して、見た目以上に小さく見える気がします。

 そんな容姿なので男の子か女の子か見ただけでははっきりしませんが、髪の短さと、何より私の前世と似たような雰囲気を感じる気がするので、男の子じゃないかな?

 けれどその子は私と違って、子供用どころか大人も使う普通の木剣を手に素振りを行い、重量に振り回されることもなく綺麗な動作で振り抜いていました。

 特別手足が太くて逞しいだとかそんなこともなく、色合いが私のほうが白いことを除けばほとんど変わり映えしないその細腕のどこにそんな力があるのか、物凄く気になります。


「よし、お前達、休憩だ」


 やがて稽古が終わり、門下生の子達は思い思いに河原にある大きめの石に腰かけたり、テントに戻っていったりと休憩し始めます。

 そんな中、私は一目散に先ほどの男の子の下へ駈け込んでいきました。


「すみません!」


「わっ!? な、何? えーっと……」


「リリアナです! リリアナ・アースランド。リリィって呼んでください!」


「え、ああ、うん。えっと、ぼ、僕はルルーシュ。ルルーシュ・ランターン。ルルって呼んで。……えーっと、そ、それで、リリィ? は、いきなりどうしたの……?」


 急に押しかけられて少し混乱している様子ですけど、だからって落ち着くまで待ってあげたりなんてしません。こういうのは勢いが大事です!


「ど、どんな訓練したらあんな風に木剣を振り回せるようになるんですか!?」


「えっ?」


「そんな小さな体で、そんな力持ちになれる秘訣を教えてください!」


「ち、小さいって……僕より君のほうがちいs」


「だからこそ知りたいんです!! お願いします、なんでもしますから!!」


 やっと強くなる切っ掛けになりそうな人に出会えたんです、この機会を逃すわけにはいきません!

 逃げられないように肩をがっしり掴んで、少しでもこの真剣さが伝わるようにじいいいいっと顔を突き合わせるくらいの距離で目を合わせます。


「わ、分かった、分かったから! 一旦離れて!」


「ほんとですか? やったぁ!」


 言質は取れたので、言われた通り素直に離れます。なんだか彼の顔が赤くなっているような気もしましたが、有頂天になった私の頭にそんな情報は入ってきません。

 むふふ、これで私も病弱ボディからおさらばですよー!


「って言っても、その……僕、最初からあれくらい振れたから、あんまり参考になるようなことは言えないよ……?」


「え゛」


 ガーーーンっと頭を打ち付けられたような衝撃と共に、急上昇していた私のテンションはそのまま暴落する。まさに急転直下。天国から地獄。そう表現すべき絶望が心を満たしていく。


「さ、最初から……? 筋トレとかそういうのもなしにですか……?」


「う、うん……この道場に入ったのはつい先週くらいなんだけど、その時にはもう……」


 わ、私は1年以上筋トレしてるのに未だ子供用の剣を持つので精一杯なのに、この子はなんの苦労もなく大人用の剣すら振り回せる……こ、これが才能の差。これが格差社会。まさに現代社会の闇ってわけですね……!

 ……うん、少し頭の中でふざけてみてもやっぱりこれは流石に凹みます。ぐすん。


「うぅ、どうせ私なんか……」


「だ、大丈夫だよ! リリィも頑張ればこれくらいすぐ出来るようになるって! ほら、僕も特訓に付き合うからさ!」


「うぅ、ほんとですか……?」


「ほんとほんと!」


 割と本気で落ち込んで、地面にのの字を書いていたら、ルル君が一生懸命慰めてくれました。

 うん、彼が原因ではありますけど、わたわた慌てる姿を見ていたらなんだか落ち着いてきましたね。可愛いは正義ってやつです、うん。


「リリィ、ルルーシュ、ここにいたのか」


「あ、お父様」


 すると、タイミングを見計らっていたかのようにお父様がやって来ました。

 心なしか、慌てているような……何かあったんでしょうか?


「師範、どうかしましたか?」


「それが、さっきからコウタ達の姿が見えなくてな。2人は見てないか?」


「いえ……すみません、分からないです」


 そもそも、私は名前を言われてもどんな子か知りませんしね。

 ルル君に合わせて、同じように首を横に振ります。


「ふむ、そうか困ったな……仕方ない、俺が探してくるから、2人は他のみんなと一緒にここで待っていろ」


 うーん、この感じだと迷子でしょうか?

 だったら、一緒に探したほうが良さそうですね。


「お父様、そういうことなら私も一緒に捜索しますよ」


「ダメだ。ここはまだ浅いから大丈夫だと思うが、奥に行けば魔物が出る。リリィはまだ戦えないだろう?」


「あう……」


 確かに、それを言われると弱いです。魔法だってまだ制御の練習をしているだけで、攻撃に使えそうなものは習っていないですし、剣術なんて論外です。ここは素直に言うことを聞いたほうがいいですね。


「分かりました、お父様。お気をつけて」


「何、心配するなリリィ。俺ならばこの辺りの魔物など一撃よ」


 そう言って、お父様は私の頭をわしわしと撫でてきます。

 別にお父様が魔物にやられる心配なんて全くしてませんけど、取り合えず髪が乱れるのであんまり乱暴に撫でないで欲しいです。

 まあ、お父様のがっしりした手で撫でられるのもそれはそれで気持ちいいので、嫌いじゃないですけどね。


 そうして森に入って行ったお父様を見送ると、私はくるっとルル君に向き直る。


「さてと、それじゃあルル君、早速特訓と行きましょう!」


「えっ、もう? 今一応休憩中で……」


「何言ってるんですか、休憩ならもう十分です! 強くなるには小さい頃の特訓が一番大事なんですよ? さあ、張り切って参りましょー!」


「わ、分かった、分かったからあんまり引っ張らないで!」


 ルル君の手を引いて、早速特訓に入ります。

 とはいえ、ルル君自身特に変わった何かをしていたわけでもないようで、結局は一緒に素振りとか筋トレをするくらいになりましたが。


 そうして、しばらく休憩と特訓を繰り返していた時……それは突然現れました。


「うわあぁ!?」


 突如響いた、門下生の男の子の声。驚いてそちらを見れば、ちょうど森から一頭の狼が歩み出てくるところでした。

 ただ、黒い毛に覆われたその体躯は普通の狼より一回りも二回りも大きく、その双眸には獰猛な光を宿していて、とてもお友達になれそうな雰囲気はありません。

 明らかに、ただの獣とは一線を画するその雰囲気。間違いなく、魔物の一種だと初めて見る私でもすぐに分かりました。

 何せかっこいいですし、見た目が。


黒狼(ブラックファング)!? どうしてこんなところに!?」


 誰かが叫ぶのと、その黒狼が駆けだすのはほとんど同時でした。

 その狙いは、最初に叫び声を上げ、驚いて腰が抜けたのか座り込んだままの男の子。


 いけない、このままじゃあの子がやられちゃう!


「あなたの相手はこっちですーー!!」


 私は咄嗟に足元の石を一つ拾い上げ、叫びながら黒狼に向けて投げつける。

 まさかこれで仕留められるなんて思いませんが、これであの狼の気が引ければ……!


 ひゅるるる……こんっ、ころころ。


 …………。

 私の力が貧弱なのを忘れてました。投げたはいいけれど、石は黒狼まで届くことすらなくその距離の半分程度の位置に落下し虚しく転がっていく。

 むしろ、叫び声のほうに気を取られて、黒狼は男の子へ飛び掛かるのをやめて私のほうに顔を向けてくれました。

 結果オーライですけど、心なしか黒狼が「お前何やってんの?」みたいな顔でこちらを見ているような……

 うぅ、やめて! そんな顔で見ないで!

 そんな思いを込めながら、私は足元から一抱え分の石を拾い上げ、次々と黒狼に向けて投げつけていく。ほとんどは届かないか外れましたが、なんとか一つだけ黒狼の頭に当たりました。

 うん、全く効いてないですね。


「リリィ、何を!?」


「私があいつの気を引きますから、ルル君は誰か助けを呼んできてください!」


「なっ、そんな危ない役、僕が……!」


「いえ、私がやります」


 魔物と戦える門下生の人はみんな森の中。頼みのお父様でさえ、迷子探しでやっぱり森の中にいます。この場で戦える人は一人もいませんし、みんなが助かるには誰かが囮になるより他ありません。

 そんな風に、みんなを守るために前に出て戦うなんて、まさに私が夢見たシチュエーションです! こんな美味しい役、他の人には譲れません!


「けど、リリィは戦う術が……」


「大丈夫です。あいつは私がどうにかします」


 だから、頭の中にロクな作戦も浮かんでないにも関わらず、深く考えずに私はそう言っていました。


「王国最強騎士と言われた……お父様の名に懸けて!!」


 どやぁ!! よし、決まった!


「グルルァ!!」


「ひうぅ!?」


 やっぱり怖いですぅーーー!! お父様お兄様早く助けてぇーーー!!

 うわぁぁーーーーん!!


 吼えられただけであっさり心を折られながら、私はまた石を投げつけつつ森の中へと逃げ込んでいく。

 それを追ってくる黒狼の姿を背後に、やっぱり一目散に逃げればよかったかなぁ、とすごく今更すぎる考えが頭を過ぎっていました。

決まらない決めゼリフ。

カッコつけたいお年頃なんです。多分。

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