第四十七話 召喚魔法(物理)です!
今回は視点が2回ほど切り替わります、お気をつけを。
「それで、近衛騎士団を完全に敵に回しちゃったわけだけど、これからどうするつもり?」
ルル君、ヒルダさん、更にセレナさんにまでこっぴどく叱られた私は、現在正座して反省中。
なんだか、少し前にもこんなことあった気がしますね。
「予定通りですよ? ミスリルタートルを討伐して、それを背景に近衛騎士団と決闘しましょう」
「決闘どころか、先手撃って一部隊全滅させちゃったじゃないの」
セレナさんからのじとーっとした視線に、あはは……と乾いた笑いを浮かべます。
いえ、ほんと、あれくらいで近衛騎士団の人がやられるなんて思ってなかったんです、ちょっとびっくりする程度で済むと思ってたんです!
「む、むしろ、私達にそれだけの力があるって示せたわけですから、これでやっと交渉のスタートラインに立てたと思うんです! 全てはここからですよ!」
「まあ、それはそうなんだけど……」
なんだか釈然としない……と、セレナさんは頭を抱えます。
実際、綱渡りなのは間違いないですから、セレナさんの心配はごもっともですし、仕方ないですね。
「で、実際どうするんだ? リリィ達がここに逃げ込んでるのは近衛騎士団も知ってるだろうから、一昨日みてーにオレ達だけミスリルタートル討伐に行って後は留守番ってわけにも行かないぞ?」
「それについては大丈夫です、私に考えがあります!」
自信満々にそう言うと、ルル君が思いっきり顔を顰めました。
えっ、まだ何も言ってないんですけど、どうしてそんな反応なんですか?
「リリィの考えてることだし、どうせロクでもない案なのは分かってるけど、一応聞くよ、どうするの?」
「ロクでもないこととはなんですかロクでもないこととは!! 私だっていつもいつも変なことばっかりしてるわけじゃないですよ!?」
私がそう言うと、一斉に降り注ぐジトーっとした視線。
あれー……? ルル君とヒルダさんは付き合いも長いですし分かりますけど、マリアベルさんとかセレナさんとか、まだまだ数日しか一緒にいないはずなのになんでこんなに信用ないんでしょうか?
「だって、初日からして、私いきなり同意もなくスラムに連れ出されましたし……」
「ほっといたらミスリルタートルに突っかかって、またほっといたら近衛騎士団に喧嘩売ってくるし、妥当でしょ」
「うぐぐ……」
は、反論できない……
「だ、大丈夫ですよ! 今回のはちゃんと安全第一、ついでに近衛騎士団に私達が舐められないための作戦です!!」
「ほんとかぁ?」
「リリィのことだし、安全第一くらいでやっと一般人にとっての危ない橋だと思う」
「ヒルダさんもルル君も、私いい加減泣きますよ!?」
私の味方はいないんですか味方は! なんて言ってたら、とてとてとやってきたオウガがぽふっと前足を肩に置いてくれました。
うん、慰めてくれてる……んですよね? なんだか微妙ですけど、でもありがとうオウガ。
「それで、一体何をやらかすつもりなのさ、リリィは」
「それでもやっぱりやらかすの前提なんですか!? 全く、それはですね……」
作戦の概要を、みんなに事細かく……というほど考えていないので、大雑把に説明する。
直後、みんなから一斉に拳骨を貰ったのは、言うまでもありませんでした。
「三番隊、踏ん張れ!! もう少しで援軍が来るはずだ!!」
スラムの一角では、暴徒達を前に近衛騎士団が苦戦を強いられていた。
当初の予想を超えて増加した暴徒に加え、貧しいはずのスラムの人間が大量に持つ魔石爆弾による攻撃。何より、今回の作戦で投入された二つの部隊のうち一つが、不審な子供を捕らえようとして全滅したのが大きい。
通常なら、一部隊全滅など即座に撤退判断が下されるべきところ。しかし、倒された団員達にあまりにも強固な防御魔法が施されていたために、その防護から引っ張り出してまで暴徒の中を守りつつ撤退するよりも、まずこの場だけでも制圧してから動くほうが安全だったため、彼らはそのまま戦闘を続けることとなっていた。
「しかし隊長! もしここで、二番隊を全滅させた子供とやらが現れれば、我々もどうなるか……!」
「倒した団員にわざわざ防御魔法を施している以上、すぐに我々をどうこうするつもりはないということだ。今は目の前の暴徒鎮圧に集中しろ!」
部隊を丸ごと一つ、死者の一人も出さずに全滅させた上、これだけの時間と規模で維持される防御魔法を発動できる相手がいるなど、本音を言えば信じたくなかった。
しかし、このスラムの住民の激しい抵抗を見るに、それもあり得るのではないかという気になってくる。彼らも近衛騎士団の威光は知っているはずで、それを踏まえてもなお抵抗するということは、それをさせるだけの後ろ盾か、あるいは象徴があるということ。
近衛騎士団の一部隊を壊滅させられる存在がいるのなら、十分にそうなり得るのではないかと、隊長は考えていた。
「しかし! どちらにせよこれ以上は……!」
「くっ……」
この状況から撤退しようとすれば、負傷者は置いていくことになる。いかに防御魔法がかかっていようと、こんな状態のスラムに放置していった特権階級の人間がどうなるかなど、考えるまでもない。
もちろん、ただ暴徒を殲滅するだけならばやりようはある。が、ここで下手に魔法を撃てば、今はまだ遠巻きに見ているだけの者達を巻き込み、最悪、第二部隊を全滅させた子供が報復に動く可能性があった。
そうなれば、第二第三諸共に全滅する恐れさえある。
「やむを得ん、撤退を……」
その2つを天秤にかけ、隊長は撤退を呼びかけようとし……
「頭が高~い! 控えおろ~!」
おおよそその場にそぐわない、可愛らしい少女の声が響く。
一瞬、騎士団員たちも、スラムの人間も等しく意識をそれに奪われるが、それだけだ。すぐに、自分達の戦いに意識を戻そうとして……
「控えおろーって言ってるじゃないですか、とりあえず喧嘩は禁止です! 『エリアグラビティ』!!」
突如、その場にいた全員に上から押し潰すような圧力が加わり、地面に叩きつけられた。
強い者、弱い者、抗おうとした者もそうでない者も全て等しく、そのまま地面に縫い付けられたように、一歩も動けなくなる。
「な、なん、だ……!? 一体、何が……!?」
わけもわからないまま、隊長は必死にその声の出所を探ろうと顔を向ける。
そんな彼の目の前に、ふわりと舞い降りるようにして、一人の少女が現れた。
腰まである長い黒髪をたなびかせ、白いワンピースに身を包んだその少女は、にこっ、と見た目相応の幼さを感じさせる無邪気な笑顔を浮かべ、まるで目の前で起きていた争いなど些細なことであるかのように、軽い口調でこう言った。
「皆さんと決闘するために来ました、リリアナ・アースランドと言います。どうぞお見知りおきを」
森に出向いて留守番するのが危ないなら、その元凶に乗り込めばいいじゃない、というわけで、やって来ましたスラムの暴動の真っ只中。
大方の予想を裏切って、近衛騎士団が押されている様子でしたけど、まあ戦闘しながらじゃお話は聞いて貰えないので、サクっとみんな抑え込んでみました。
いやー、重力操作は地属性魔法の応用ですけど、こうしてみるとやっぱり使いやすいですね。こうしてなるべく怪我させないように抑え込んだり、こうして空飛んでみたり。風属性魔法よりよっぽどやりやすいです。
「くっ……お話、だと? それに、その名前……貴様、カタリナ・アースランドと関係があるのか……!?」
近衛騎士団の中でも、特に豪奢な鎧に身を包んだ人が、私に向けて絞り出すような声を向けてきました。
ああ、そういえば、押し付けたままじゃ喋りにくいですよね。そっちで動けなくなってる、スラム側の代表っぽい身なりの良い人も一緒に解放しないとお話になりません。
「はい、カタリナ・アースランドは私のお母様です。知ってるんですか?」
2人にかかった重力魔法だけを解除しつつ聞いてみると、騎士団の人はぜえはあと肩で息をしながら、私のほうをキッ! と睨みつけて来ました。
あら、やっぱり魔法で叩きつけたこと怒ってます……?
「あの“掃滅の魔女”の娘が、なぜここに! 我々を滅ぼしに来たのか!?」
えっ、掃滅の魔女ってなんですかそれ。お母様、そんな物騒なあだ名持ってたんですか? 聞いてないですよ?
「滅ぼすって、私はただ、友達の大事な場所を明け渡すのは嫌なので、一つ交渉しようかとやって来ただけですよ?」
「な、なに?」
首を傾げる私に、騎士の人は困惑した声を上げる。
あの、お母様、本当にこの人に何したんですか? ものっ凄い怯えられてるんですけど。
「ふ、ふふふ、そうでしょうそうでしょう。さあ、早くこの不埒な侵入者を蹴散らしましょう! そしてこの哀れな街にささやかな安寧を……!」
「あ、あなたにはこれ、返します。どうぞ」
「えっ」
なんだか唐突に語りだしたスラムの代表者っぽい人に、マリアベルさんから預かっていた包みを放り投げる。
「なっ、あ、あぶっ……!?」
それを見て、自分が預けた魔石爆弾だと気づいたのか、大慌てで逃げ出す身なりの良い人。
投げられた包みは地面に落ちて、虚しくかしゃんっと音を立てました。
「な、なぜ……」
「私は魔道具には詳しくないですけど、それ、暴発しやすくなる魔法陣が刻んであったそうですね。危ないですから、次は気を付けてくださいね?」
「っ……!?」
マリアベルさん曰く、単に魔力を込めて起爆するだけでなく、強い衝撃や一定以上の魔法の余波を浴びただけで爆発するよう細工されていたらしいです。
見た感じこの人がやったみたいですけど、まあ、実害もありませんでしたし、ひとまず放っておきましょう。お仕置きは後で、です。
「さて、それで近衛騎士っぽいおじさん。私、あっちの奥にある廃教会を土地ごと買い取ろうと思ってるんですけど、いいですか?」
「くっ、いいわけないだろう!? 第一、その土地を買うのにいくらかかると思っている!? いくら掃滅の魔女と言えど、国の管理する土地を買い取るような財力は……!」
「ああ、それなら問題ないですよ。私の“従魔”が、その分のお宝で補填してくれますから」
「従魔、だと……? 一体何が……」
訝しげな顔をする騎士団のおじさんに構わず、私は片手を空に向けて掲げる。
それこそ、大いなる何かを呼び出そうとするかのように。
「大地に眠りし偉大なる精霊よ、今こそ我が呼び声に答え、その姿現したまえ!!」
私の遥か後ろ、スラムの建物を隔てた先にある森の手前に、巨大な黄色の魔法陣が浮かび上がる。
そして、その中央部から大地が隆起し、巨大な山を創り出す。
「『クリエイトエンシェントゴーレム』!!」
山はやがて人型となり、家よりも、フォンタニエの王城よりも更に大きな巨大なゴーレムとなってその大地に屹立する。
それを見て、騎士団の人も、スラムの人達も一様にポカーンと口を開けてますけど、まだこれからです。
「行きますよ~! せいや!!」
創り出したゴーレムが、手を上げる。すると、森の奥から巨大な影が浮かび上がり、もう1体の巨大なゴーレムを形作る。そして、そんなゴーレムが、両腕で抱える“何か”を振りかぶり、一直線にこちらに向けて投げ飛ばしてきました。
「あ、あれは……」
「まさか……」
最初、私の作ったエンシェントゴーレムのせいでサイズ感が分からなくなっていたらしい人達も、影が近づくにつれて、それが何であるか分かってきたようです。
山のような巨体。トゲトゲしく隆起した無数の鉱山。煌びやかなその光は、魔力を帯びた特殊な鉱石である何よりの証拠。
そんな、巨体と強度を兼ね備えた物体が最初に作ったエンシェントゴーレムに突っ込み、受け止めきれなかったその体を砕きながら、その場に一緒に崩れ落ちていく。
「――召喚!! ミスリルタートル!!」
岩を押しのけ、のっそりと顔を上げた巨大亀。
地上最硬を誇る討伐難度Aランク指定種のその化け物を見て、その場の誰もが、言葉を失っていました。
ミスリルタートル、召喚!(ゴーレムによる亀のキャッチボール)




