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第四十一話 作戦会議です!

「ふぁるほろ、そんなほろがあっはんれふは……はふはふ」


「おいリリィ、何言ってっかわかんねーよ、口の中のもん呑み込んでから喋れよ」


 ヒルダさんから注意されて、んぐっと口の中のものを飲みこむ。

 ミスリルタートルを結局討伐出来ないまま、廃教会へと戻ってきた私達は、お留守番を頼んでいたマリアベルさんとセレナさんから、いない間に起こったことを聞きつつ、途中で狩ってきたビッグボアの丸焼きを子供達みんなで食べているところです。


「なるほど、そんなことがあったんですか」


 そうして教えて貰ったのは、近衛騎士団の襲来……訪問? についてです。

 オウガにいきなり襲い掛かかるように言ったのは、ここの流儀? みたいなものらしいのでひとまず横に置いておくとして……


「それで、いくら貰えたんですか?」


「35万」


「ぶっ」


 35万?! すんごい大金じゃないですか!! 子供達もなんだか目を真ん丸にして驚いてますし、そんな大量のお金を見たことはないんでしょう。

 けれど、それを告げた当人であるはずのセレナさんの表情は優れません。


「確かに、大金と言えば大金ね、()()()()()()()()暮らすなら、何もしなくてもみんなが大人になるまでは食べていけるくらい」


「だったら、どうしてそんなに浮かない顔を?」


 マリアベルさんが首を傾げると、他のみんなも我が意を得たりとばかりにうんうんと頷く。

 そんな姿を見て苦笑を浮かべつつも、セレナさんはみんなに聞こえるよう、丁寧に説明してくれました。


「まず、スラムで暮らすならって言ったけど、たぶんこの廃教会から出て行ったところで、他に住む当てなんて見つからないわ。あの様子だと近衛騎士団が片っ端から買い上げてるでしょうし、そうじゃなくても他の誰かの縄張りがある。それはみんなも分かってるでしょう?」


「「「うっ……」」」


「それに、もし街中に出てくのなら、35万メルくらいじゃ私達全員が泊まる宿を確保するだけで、2か月もしないうちに無くなっちゃうわ。はっきり言って、ここを出てくのに釣り合うかは微妙ね。子供じゃ、まともな仕事に就けないだろうし。かと言って、近衛騎士団に逆らったところで、お縄になるのは私達よ」


 ある意味当たり前ですけど、この廃教会を含め、スラム全域はちゃんと土地の所有者がいて、それはヒルダさんでもセレナさんでもありません。

 なので、ここにいるのは法律的には不法侵入になるんですけど、これまではそれを咎められることはまずありませんでした。

 何せ、この辺りは魔物が多く現れるせいで、店を建てるにも、家を建てて住むにも危険が大きく、安全を確保するために冒険者を雇えばコストがかかり過ぎて割に合いません。

 そんな事情から、土地の所有者達が管理を放棄してしまったエリアなので、早い話、誰が勝手に入っても気づかないし、むしろ、例えスラムに落ちぶれた人間であっても、住み着いていて貰えば、それだけである程度は片付けもされますし、魔物が巣を作る可能性も減って、コスト的にも万々歳なんだとか。


 そんな背景があって、今まで危険はあれどタダで雨風を凌げる場所を確保出来ていたセレナさん達ですけれど、今回近衛騎士団が動いたことで事情は変わりました。

 ここから出ていけと言い始めたということは、これまで放棄されていたこのスラムに何かしらの使い道が見出されて、そのための治安回復に乗り出してきたということでしょう。使い道を決めて土地を買ったのが誰かは分かりませんが、これはセレナさん達にとって非常にまずいです。何せ、このままここに居座ろうとすれば、犯罪者として取り締まられるってことですから。


「だから、これからどうするべきか……」


 近衛騎士団に従って出ていけば、生活が立ち行かなくなる。かと言って、逆らえば全員犯罪者。

 そんな二律背反に悩むセレナさんに、小さい子達はみんな不安そうな顔を向けています。

 やっぱり、年長者ということでみんなからの信頼も厚いんでしょうか、そのセレナさんが答えを決めかねているという事態に、みんな事の重大さを理解したみたいです。

 ……よし、こうなったらアレしかありませんね!


「なら話は簡単です、近衛騎士団を全員ぶっ飛ばしてやりましょう!!」


「アホか」


「あだっ!?」


 我ながら名案だとばかりに提案したら、即座にヒルダさんに拳骨を落とされました。

 うぅ、痛い……


「お前話聞いてなかったのか? 近衛騎士団と戦いになったらオレ達犯罪者だぞ?」


「うぅ、分かってますよそれくらい!」


「じゃあなんでそんなアホみたいな案出すんだよ……」


「アホとはなんですか、アホとは!!」


 全くもう、ヒルダさん、私の意見だからって何にも考えてないと勘違いしてるんじゃないでしょうね。私だって、色々考えて話してるんですからね!


「そうじゃなくて、決闘です!」


「決闘?」


「はい! 騎士にとって、決闘は神聖なものだってお父様も言ってましたから。それで勝てば、多少の無理は通せるんじゃないですか?」


 この世界では、前の世界と違って武力で物事を決めたりすることが多くて、ちゃんと決闘にまつわる法律なんかもあったりします。

 なので、それを活用しない手はないと説明するも、未だヒルダさんは納得いかないのか、溜息を零しました。


「あのな、いくらなんでも、犯罪を見逃すような条件の決闘は受けてくれないぞ?」


「知ってますよ。ようするに、今回のことはこの廃教会がどこの誰かも分からない人の物だからいけないんですよね?」


「まあ、そうだけど」


「なら、この廃教会が私達の物になっちゃえば何も問題はないわけです」


「まあ、そうだな……ん?」


 しかし、更に説明を重ねることで、段々とヒルダさんも私の言わんとしていることが分かってきたのか、その顔は「まさか」と言いたげな表情へと変わっていく。


「つまり、この廃教会を土地ごと買っちゃえば何の問題もなくなるわけですよ!!」


「いや、リリアナちゃん、待って!? そんなお金私達ないんだけど!?」


 どやぁ! と自分の考えを披露した私に、大慌てでセレナさんが割り込んでくる。

 ああ、なんだ、そんなことですか。それくらい考えてあるに決まってるじゃないですか。


「ミスリルタートル倒せばそれくらいのお金入りますよ、万事問題なしです!」


「大有りよ!! ただでさえ教会の近くでの魔物狩りにしてもあなた達の力を借り過ぎてて問題なのに、そんな大物狩って得たお金なんて受け取れるわけないでしょう!?」


 えっ、むしろ最初から討伐報酬は渡すつもりで狩りに行ってたんですけど、セレナさん納得してなかったんですか?

 そう思い、ふとヒルダさんに視線を向けると、さっと顔を逸らされ口笛を吹き始めました。

 うん、何の説明もしてなかったみたいですね。マリアベルさんも「えっ、知らなかったんですか?」みたいな顔してますし。


「まあ、そんな細かいことはどうでもいいです」


「良くないわよ!?」


「問題は、多分この土地はもう、近衛騎士団か、近衛騎士団に依頼を出した誰かが買い取ってる可能性が高いことです。場合によっては、お金を積んでも売ってくれない可能性があります」


「あれ、無視!? 私のことここで無視するの!?」


「そこで決闘です!! 近衛騎士団を正々堂々ボコボコにして、この土地を買い取らせて貰いましょう!!」


 やいのやいのと騒ぐセレナさんをスルーしながら言い切ると、ヒルダさんは好戦的な笑みを浮かべる。

 やっぱり、血の気の多いヒルダさんなら乗ってくれると思ってました。これで行けますね。


「え、えーっと、リリアナさん、一つ良いですか……?」


「はい、マリアベルさん!」


「なんで近衛騎士団に勝つ前提で話が進んでるんですか? 相手はこの国最強の騎士団なんですよ? 勝算はあるんですか……? それに、ミスリルタートル、今回討伐失敗したんですよね? 倒せるんですか……?」


「それはどっちもこれから考えます」


「えぇぇ!?」


 ぶっちゃけ、近衛騎士団がどれくらい強いのかって知らないんですよね。もしお父様クラスがゴロゴロいるようだととても勝ち目はないですし、そうでなくとも、ルル君の言った通りミスリルタートルを討伐出来るくらい強いなら、今の私よりも上ってことになります。

 けど、その程度のことで尻込みしてたら何も始まりません! 何事も挑戦です!


「あああもう!! だから、これは私達の問題なのよ!? 下手したら私達だけじゃない、あなた達まで騎士団に目を付けられるかもしれないのに、そんな危険な橋渡れるわけないでしょう!?」


 ついに我慢の限界を超えたのか、セレナさんが絶叫しながら私の肩を掴み、激しく揺さぶりながら捲し立てる。

 ていうか、セレナさん力強いですね!? 私が弱いっていうのもありますけど、微塵も抵抗できないんですけど!?


「ちょ、セレナストップ! それ以上したら決闘の前にリリィが死ぬって!」


「えっ、あっ、ごめんリリアナちゃん! 大丈夫!?」


「ら、らいひょうふれふ……」


 ヒルダさんが間に入ってやっと止まりましたけど、頭がふらふらと揺れて、それに合わせて空もぐーるぐると回っているように見えます。

 うへへへ……気持ち悪いです。うぅ……


「うぅ……そ、そんなに納得いかないならこうしましょう。私達がこの廃教会を買えたら、ここに新しい騎士団を創設します! セレナさん達はそこで働いてお金を稼いで、最終的に私達からここを買い戻してください! それでどうですか?」


「「「「「は?」」」」」


 私以外の、ヒルダさんやマリアベルさん、セレナさんだけでなく、小さい子達まで揃って首を傾げる。

 えっ、私、そんなに変なこと言いましたか?


「いや、リリィ、騎士団ってそう簡単に作れるもんじゃないからな? そもそもそういうのは、王様とかが言明して作られるもんで……」


「騎士団とは言いましたけど、まずは自称ですよ? それにそもそも、ここは元からヒルダさんの騎士団じゃないですか」


「いや違うからな!?」


 今日はやけに突っ込みの絶えないヒルダさんは置いておいて、セレナさんに向き直る。

 まだ納得してないのか、渋い表情を浮かべている彼女を、私は真剣な表情で見つめます。


「それに、これはセレナさん達のためだけじゃないです。私がやりたいからやるんです! 私の力がどこまで通用するのか、どこまで行けるのか、試してみたいですから!」


 今日挑んだ、ミスリルタートルの姿を思い出す。

 今まで、周りから強すぎるだのなんだのと言われ続けてきた私の魔法が、全く通用しない初めての相手。

 剣でも強くなるだなんだと言いながら、心のどこかで魔法さえ使えばどうにでもなると驕っていた私の鼻っ柱をへし折った存在。

 例え結果がどうなるとしても、このままアレに勝てずに終わるなんて私は嫌です。絶対、あの防御を突破して目に物見せてやります! そして、そんな亀を倒せるっていう騎士団がどれほどの物なのか、この国最強の力がどれほどのものか、見てみたいです!

 だから、


「お願いします、セレナさん。私にやらせてください!」


「ちょっ、リリアナちゃん!?」


 そう言って、私はセレナさんに頭を下げる。

 はい、もうこの際認めましょう、セレナさん達を助けるとか、そんなのは全部建前です。私は、ミスリルタートルや近衛騎士団と、本気で戦ってみたいんです!


「~~~っ、ああもう、分かったから! その代わり、戦う時は私も一緒だからね!?」


「っ! はい、もちろんです!!」


 そんな私の想いが伝わったのか、セレナさんは半ばやけっぱちのような恰好で、私の提案を呑んでくれました。

 ここまで来たら、もう後戻りはできません。私に出来ることは全部やって、打倒ミスリルタートル、打倒近衛騎士団です!


「さあ、張り切っていきましょー!」


 まず最初の標的は、ミスリルタートルです。首を洗って待っていてくださいよ!!











「そういえば、リリアナさん」


「なんですか? マリアベルさん」


「ミスリルタートルに魔法が威力不足で効かなかったって言ってましたけど、授業で使う魔法の杖、あれを使って威力を高めるのはダメなんですか……?」


「……あっ」

要約


リリィ「明日から本気出す」

亀「やれるもんならやってみろ」

森・その他魔物「勘弁してくださいお願いします」

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