第三十八話 邂逅! ミスリルタートルです!
日曜だけでも書き切れると思って短編書いて遊んでたら、なんやかんやで結局今日までかかってしまった_(:3」∠)_
もっと早く書けるようになりたいなぁ_(:3」∠)_
ルル君の家から戻った翌日。早速ミスリルタートル討伐のために西の森へ出発することになりました。
メンバーは、私とヒルダさん、それにサッチ君の3人で行くことに。マリアベルさんも誘ったんですけど、誰かは廃教会に残って周辺の魔物を狩ってご飯の確保をしたり、戦えない子を守ったりしなきゃならないということで、お留守番することになりました。
ともあれそうしてやってきた森の中ですけど、思った以上に困ったことになってます。
「ヒルダさ~ん、ちょっと魔物多くないですか?」
「そうだなぁ、ミスリルタートルも見つからねえし、困った困った」
「なあ、なんで姉ちゃん達そんな余裕そうなの!? 今って結構やばくないの!?」
木々の隙間からキングエイプが3匹現れて、私達に飛び掛かってくる。
サッチ君を狙った1匹はヒルダさんが手にした双剣で斬り裂いて倒し、その後ろに襲い掛かる1匹は私の魔法が射貫く。そして最後の1匹は、サッチ君が剣で一撃して怯んだところを、ヒルダさんが追撃して仕留めます。
「んー、そうですか? 前に蟻の大群に集られたときはもっとやばかったですよ? ……うぅ、思い出したら鳥肌立ってきました……」
「お前ほんと虫ダメだよな。何がそんな嫌なんだ?」
「だって! あの気持ち悪い外見が、ワサワサ這いよってくるんですよ!? もうぞわわわーってなりますよ!」
「なあ、姉ちゃん達って俺と1つしか歳違わないよな!? ヒルダ姉ちゃんは大体知ってっけどさ、そっちの姉ちゃんは一体どんな毎日送ってんの!?」
突撃してくるビッグボアの眉間に魔法で石の礫を撃ちこむ傍ら、飛び掛かってくる黒狼を光の魔法で消し飛ばす。
その反対側では、ヒルダさんが別のビッグボアを魔法で焼いたのか、なんだか香ばしい匂いが漂ってきます。
「どんなって、普通に学園に通って、授業受けて、あとは放課後にちょっと特訓してるくらいですよ?」
「学園通うとそんな強くなんの!?」
「いや、ならねえから、そいつがおかしいだけだから」
「ヒルダ姉ちゃんも同類だぞ!?」
騒ぐサッチ君をスルーしながら、2人で魔物を倒していく。
ひとまず、倒した魔物の数が10を超えたあたりで襲撃は止まり、なんとか一息つくことができました。
「はぁ、ふぅ……ヒルダさん、疲れました……休憩しましょう……」
「ああ、そういえばリリィは体力ないんだったな、ならちょっと休むか」
「おお、そういうところは普通なんだな……」
「そういうところはってなんですか。いくら魔法メインで戦闘中はなるべく動かないようにしてるからって、森の中を歩き回れば疲れますよ」
なぜだかほっとした様子のサッチ君に、ぶすっと頬を膨らませながら抗議する。
私だって出来るなら、ヒルダさんみたいに剣を手に森を駆けまわって仕留めたいですけど、そんな体力私にないことくらいいい加減分かってます。今回の目的はミスリルタートルの討伐なんですから、それにたどり着くまでに力尽きるわけにはいかないですし、私は大人しく魔法使いに徹しないと。
「にしても、この魔物の量はもうちょっとどうにかならないのかねえ」
「そうですね……早くミスリルタートル見つけ出して、今日中に帰れるといいんですけど」
近くにあった大きな木の根元に座り込みながら、ヒルダさんがぼやく。
そう、今みたいな魔物の襲撃は1回だけじゃなく、森に入ってからもう何度も受けています。
廃教会の周りでさえ結構な数でしたから、多いのは分かっていたとはいえ、さすがにこの頻度で連戦はキツイですね。
「そもそも、ミスリルタートルなんてほんとにいるのかよ……? どうもドラゴンみたいに凶悪ってわけでもねえのに、倒せば一攫千金なんて、胡散臭いんだけど……」
一方のサッチ君は、ミスリルタートルの存在自体が信じられないみたいです。
まあ確かに、動きが鈍くてほとんど攻撃し放題の相手なのに、それを倒せば大金持ちなんて美味しい話がそうそうあるとは思えないですけど……
「まあ、リリィはともかくルルーシュは適当なことは言わないし、大丈夫だろ」
「いや待ってください、その言い方だと私がいつも適当なこと言ってるみたいに聞こえるんですけど!?」
「ああ、違うな。適当なことは言ってねえ。アホなこと言ってるだけだな」
「もっとひどくなってませんそれ!?」
うぅ、ルル君と私のこの扱いの差……まあ、ルル君が信用できるっていうのは同意ですけども。
「それに、あいつ言ってたしな。仕留められんのはリリィの両親と近衛騎士団くらいのもんだって」
「なあ、ヒルダ姉ちゃん、そいつの親ってそんな凄いのか……?」
「あれ、私のお父様とお母様、知らないですか? カロッゾ・アースランドとカタリナ・アースランドって言うんですけど」
聞いてみるも、サッチ君は知らないと首を横に振る。
あらら、学園では知らない人はいないくらいの有名人でしたけど、やっぱりスラムまで来ると知らない子も普通にいるんですね。なんだかちょっと安心。
「まあいくら歴代最強っつっても、ここの連中が目にする機会なんてないしな」
フォローするかのようにヒルダさんが言いますけど、私としては別に知らなかったからどうこうっていうのはないので、気にすることないんですけどね。
「それはそうと、ほんと、どこにいるんですかね、ミスリルタートル。結構大きいって聞きましたけど」
ひとまず気を取り直して、話題を今回の目的に軌道修正。
ミスリルタートルは、幼体ならともかく、成体になっても上限なしに成長を続けるためにその多くはかなり巨体になって、本当に出現したならすぐに見つかるだろう……と、昨日家に帰った時お父様から聞きました。
けれど、その割には一向に見つかりませんし、サッチ君じゃないですけど、本当にいるのか怪しくなってきます。もしかして、もう誰かに討伐されたか、森から出て行ったんでしょうか?
「まあ、そう焦るなよ。森は広いんだし、言うほど簡単には見つからねーって」
「まあ、それもそうですね」
そんな風に、2人であははーっと笑っていると、突然サッチ君が立ち上がる。
「ん? どうしたサッチ」
「ヒルダ姉ちゃん、なんか聞こえねえ?」
「ん……?」
サッチ君の言葉に、私もヒルダさんも立ち上がって耳を澄ませる。
木々の合間を縫って流れてくる穏やかな風、それに乗って微かに聞こえてくるのは、聞きなれた剣戟の音。それから、爆発音……魔法でしょうか?
「ひょっとして、誰かが戦ってるんでしょうか?」
だとすれば、それはただの魔物か、それとも……
「行ってみるか」
「そうですね、行きましょう!」
「あ、ちょっ、待ってよ!」
3人で、音のしたほうに駆け出す。
とはいえ、それほど急いでるわけでもないので小走り程度の速度で森の中を進んでいくと、やがて森が少し拓けたところにやってきました。
そこにいたのは、4人の冒険者らしき人達。装備からして、2人は剣士で残りは魔法使いでしょうか?
そんな彼らが立ち向かっていたのは、一つの“山”でした。
太陽の光を反射し輝く銀色の鉱石がいくつも隆起した、見上げるほど大きなその山に向けて、一人の男冒険者が剣を振りかざし、気合の雄叫びと共に振り下ろす。山は、当然のように微動だにせずそれを受け止め、振り下ろされた剣は一発であっさりと中ほどからへし折れました。
「うそぉ!? これミスリル製だぞ、めっちゃ高かったのに!!」
「ならもう一発、これでどうだ……! 《ライトニング》!!」
後ろにいた別の男の人が杖を掲げ、緑の魔法陣から雷が迸る。それは、一直線に山へと突き刺さり、銀の鉱石が目映く発光し――やがて収まると、まるで何事もなかったかのように山はそこに鎮座していました。
「嘘だろおい……俺の最大火力なのに……」
がっくりと肩を落とす魔法使いの男と、それを励ます周りの仲間たち。
そんな彼らを見て、戦意の喪失を悟ったかのように――それまで沈黙を守っていた山が、突然動きだしました。
山の麓からにょきっと生える長い首。そして、その巨体を支える大樹のような太い手足。
全てが銀色に輝くその体は、仄かに魔力の燐光を纏い、まるで心臓の鼓動のように明滅して、それが単なる無機物でなく、生き物の一部なんだと教えてくれます。
のっそりと、まるでそれまでの冒険者たちの攻撃なんてなんとも思ってないかのように動きだし、一歩踏み出すと、それだけでズズンッ! と小さな地震が起き、冒険者の人達は慌てて離れていきました。
「ふわ~……これがミスリルタートルですか……でっかいですね~……」
想像を遥かに超える圧倒的な巨体とその迫力に、私達3人はしばしの間ぽかーんと立ち尽くしてしまいます。
これが他の魔物だったら、どうしようもないほど致命的な隙と言えたんでしょうけど、ミスリルタートルはそんな私達に見向きもせず、のそのそと呑気に傍の地面を掘り返し、もぐもぐと食事を始めました。
「図体通り、神経も太いヤツだな。あんなに攻撃されてたのに追いかけも反撃もしねえとは」
「な、なあヒルダ姉ちゃん、あの体全部ミスリルなのか? あれ全部売れるのか?」
「ああ、獲れれば売れるぞ。獲れればな」
ごくり、と喉を鳴らすサッチ君に、お前には無理だとヒルダさんが暗に諭す。確かにヒルダさんの言う通り、あれはそう簡単には獲れなそうですね。さっきの冒険者の言葉通りなら、同じ材質であるはずのミスリルで出来た剣でさえ、あの甲羅に傷一つ付けることは出来ないんですから。
「けど、さっきと違って甲羅の中に引っ込んでるわけでもないんだし、今の内に攻撃すれば……」
「まあ、あのノロノロした動きなら甲羅に引っ込まれる前に行けそうだよな。リリィ、頼んだぞ」
「はい、任せてください!」
ともあれ、何事もやってみなければ始まりません。亀は甲羅に入らなければそう硬くないのは常識ですし、あの頭目掛けてぶっ放してみましょうか。
「光よ集え、夜空に煌めく星の如く。天より舞い落ち闇を貫く閃光となれ。」
首にかかった魔封じのペンダントを外し、詠唱しながら全力で魔力を込める。
この状態で魔法使うの、何気に久しぶりですね。思った以上に力が漲る感じがしますけど、こういう相手なら好都合です。
「大いなる夜に抱かれし聖なる光よ、魔を打ち払え!」
私の前に、ミスリルタートルよりもなお大きな白い魔法陣が現れる。
その中心に無数の光が集い、大きくなっていくにつれて、ようやくミスリルタートルもこちらに気付き、その巨体の割には小さな顔をこちらに向けました。
「『破壊星光線』---!!」
その顔に向けて……というには太過ぎる、巨大な光線が魔法陣から放たれ、一瞬にしてミスリルタートルを呑み込み、ついでに大地を抉り森の木々を消し飛ばしながら、遥か先まで駆け抜けていく。
我ながら予想外な出力で放たれたその魔法の破壊規模に、これはまたちょっとやり過ぎたかと、冷や汗が流れる。
「リリィ、お前またやり過ぎじゃねえの? ていうか、ミスリルタートルが丸ごと吹っ飛んだら素材回収できねーだろ。何してんだよ」
「ご、ごめんなさい。でもほら、案外大丈夫かもしれませんし!」
「お前なぁ……あんなバカみたいな火力の魔法で大丈夫であってたまるかよ。もしそうならミスリルタートルを倒すなんて不可能だろうが」
「あはは、そうですよねー……」
もうもうと立ち込める砂埃のせいで状況はよく見えませんけど、消費した魔力量は『流星雨』や『極寒地獄』よりもなお上です。さすがにこれじゃあ……
「なあなあ、姉ちゃん達」
「ん? どうしたサッチ」
ヒルダさんからの小言を受けて、なんとか誤魔化そうとあれこれ頭を悩ませていると、ふとサッチ君が横からヒルダさんの裾を掴んでくいくいっと引っ張っているのが見えました。
どうしたんでしょう?
「あれ……まだ生き残ってない……?」
「「えっ」」
言われて改めて目を向ければ、徐々に晴れていく砂埃の中から、巨大なシルエットが浮かび上がってきます。
山そのものが動いているかのような巨大な甲羅。それを支える太く逞しい四本の足。そして何より、私が魔法を撃つ前と寸分違わぬ、美しい光沢を放つ白銀の外殻。
『破壊星光線』を受けて全く傷一つ付かなかったミスリルタートルが、ゆっくりと一歩を踏み出しました。




