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第三十五話 魔物狩りのはじまりじゃー!

「マリアベルさーん、行きましたよー」


「いや、だから無理ですって!! あっ、ちょっ、こっち来ないでーー!?」


 私達の背丈ほどもある、巨大な猪の魔物が真っ直ぐに突進していくと、それを見たマリアベルさんは一目散に逃げ始める。

 ただでさえ猪突猛進なんて言葉があるくらい、直線のスピードと勢いなら一家言ある猪が、魔物化したことで更に凶悪なスピードで少女に襲いかかっていく様は中々に絶望的な絵面ですけど、マリアベルさんは追いつかれることなくちゃんと逃げられています。

 これは別に、見た目に反してビッグボアという名前の魔物の足が遅いわけでも、マリアベルさんの足が異常に速いわけでもなく、マリアベルさんが『エスケープ』と言う名前の、逃げ足が速くなる風属性魔法を使ってるからです。

 最初に得意魔法を聞いた時は「えっ、そんな魔法あるの?」って感じでしたけど、なるほど、これを見れば確かに『エスケープ』です。


 昨日、ヒルダさんとこのスラムに迷い込む魔物の退治をすることを約束した私は、今日早速マリアベルさんを連れて遊び……げふんげふん、戦いに赴きました。

 どうやらスラムの子達も一緒に戦うようで、昨日私と戦ったのと同じ子達がやって来て、今はもう1体のビッグボアと戦っています。


「ロメオ、前に出過ぎるな! お前昨日といい全く反省してないだろ!」


「何、心配すんな! こんな猪野郎俺一人でだって……! ぶへらぁ!?」


「ああ、ロメオが轢かれた!?」


「ほっとけ! ツバつけときゃ治る!」


「それもそうだな!」


「いや、治らねえよ!?」


 リーダー格の子……マルタ君の指示をまるっと無視してビッグボアに突っ込んだ子が、あっさり返り討ちに遭って吹っ飛びました。それを見たサッチ君が声を荒げるも、マルタ君はさして気にした風もなく、それを受けてサッチ君も何事もなかったかのようにビッグボアに向き直る。

 大丈夫かなぁ……? と思ったら、そんな2人のやり取りに、自分で起き上がってツッコミを入れてました。うん、大丈夫そうですね。


「リリィー、そろそろ休憩だ、片づけるぞー」


「あ、はーい」


 そんなことを考えている私も、別にサボっているわけではありません。マリアベルさんのほうに1匹、子供達のほうに1匹わざと突破させた以外に3匹のビッグボアを、ヒルダさんやオウガと一緒に押し留めています。

 後続が来る様子もありませんし、あまり騒がしくすると予定外の魔物も寄ってくるかもしれません。この3匹はさっさと仕留めるとしましょうか!


「ああ、リリィ、この魔物の素材も金になるからな、前の蟻みてーに消し飛ばすなよ?」


「分かってますって! ヒルダさん、オウガも、纏めて薙ぎ倒すので離れてください!」


 右に掲げた掌から、純白の魔法陣が現れ光り輝く。

 本来なら治癒を司るはずのこの属性ですけど、私が使うとなぜか最強の破壊力を秘める属性になるんですよね。ほんと、なんででしょう?


「聖なる光よ、我が偉大なる勇気を讃え、破邪の剣となりてこの地上に顕現せよ!」


 私の詠唱に合わせ、魔法陣に光の粒が集まっていく。

 子供達やマリアベルさんは私の後ろですし、ヒルダさんやオウガは私の言葉を受けていち早く攻撃範囲から離脱しています。目の前にいるのは、ビッグボア3匹だけ。だから、思いっきりぶちかましてやります!


「ひゃう!?」


 と、その時、たまたま私のすぐ後ろにまで逃げてきていたマリアベルさんが転んで、つまずいた石が私の足元に転がり込んでくる。


「エクスカリ……バぁぁーーー!?」


 光が伸びて剣となり、それを振り下ろそうとしたところで、その石を思い切り踏み抜いてしまう。

 バランスを崩した私はそのまま倒れていき……その勢いのままに『エクスカリバー』を横に振り抜きました。


「おい!?」


「ガウ?」


「ふぇ?」


「おわっ!?」


「「「ぎゃー!?」」」


 ヒルダさん、オウガ、マリアベルさん、マルタ君以下子供達と、次々に叫び声を上げる。

 ……いやいや、これは私のせいじゃないですよね? うん、ちょっと運が悪かっただけというか……いえ、運が良かったんでしょうか?


「おいリリィ-、確かに蟻の時みてーに消し飛んではいねーけどよ……」


 ヒルダさんが、若干のジト目を浮かべながら私の傍にやって来る。

 けれど、その視線の行き先は私ではありません。


「あいつらの訓練のために残しとくって決めたビッグボアまで纏めて仕留めてどーするよ?」


 周囲に転がる、真っ二つになった5匹のビッグボアだったものを見ながら、ヒルダさんは溜息を吐きました。





 午前の戦いを終えた私達は、ひとまず仕留めたビッグボアの肉でお昼ご飯ということになりました。

 魔物のお肉なんて食べれるの? っていうのが正直なところでしたけど、実際に食べてみると味はほとんど普通のお肉と変わらないんですね。外で食べてるのでロクに味付けもしてない丸焼き肉ですけど、噛めばじゅわ~っと肉汁が溢れ出て、こう、まさに肉を食べてる! って感じがします。


「いやー、あはは。あんなタイミングで石が転がってくるとは予想外でしたね、うん!」


「あははじゃねーよ、お前はほんと魔法撃たせると毎度毎度飽きもせずなんかやらかすよな」


 そんな、ザ・お肉! を前菜、メイン、デザートに3つ並べたフルコースメニューを食べながら、今は午前中の戦いを振り返っています。

 えっ、フルコースはもっとたくさん種類があるだろって? 知らないからこれでフルコースでいいんですよ、たぶん。


「毎度毎度とはなんですか、今回は控えめじゃないですか、結局ビッグボアを殲滅した以外被害もなかったんですし」


「つまりいつもこれ以上にやらかしまくってるってことだよな。まあ知ってたけどよ」


「えぇ!?」


 で、出来れば否定して欲しかったなーなんて……いやまぁ、分かってますよ? いくら私だっていつもいつも怒られてますからさすがにやらかしてることくらいは分かってますよ? でもほら、うん……ぐすん。


「まあそれはそれとして、皆さんいつもこんなに魔物と戦ってるんですか?」


 怒られるのも呆れられるのも、割といつものことなのでひとまず横に置いておいて、気になったことを聞いてみる。

 今日も、廃教会に着くや否や「じゃあ行くか」と更に西へ向かうと、ものの10分もしないうちにビッグボアとエンカウント。早速戦い始めると、あれよあれよという間にお仲間さんがやってきて、気付けば5匹のビッグボアに囲まれていたというのが、先ほどの戦闘の流れです。

 確かに、事前に手が回らないほど魔物がいるとは聞いていましたけど、だからってこんなに近い場所にあんなに魔物が出るほどとは予想外です。

 ビッグボア自体は、とりあえずあの突進を前に腰を抜かさない胆力さえあればどうにでもなる魔物ですけど、逆に言えばそれが出来ない子供にとっては圧倒的脅威です。

 ヒルダさんも、私よりそのことが分かってるんでしょう。困ったように頭を掻きながら嘆息しました。


「そうなんだよ。最近はやけに森から来る魔物が多くてなぁ。前はそれこそ1日に1回大丈夫か見回る程度で、週に1回魔物が見つかるかどうかってくらいだったんだが、ここのとこは毎日10体以上見かけるんだ。さっきは練習と肩慣らしを兼ねてあんな感じにしたけど、これ喰ったらちょっとペース上げてこうと思ってる」


 いつも自信満々なヒルダさんにしては珍しく、なんだか疲れた雰囲気を滲ませながら言う。

 うーん……よし、それなら。


「じゃあ、昼からは私が『流星雨(スターダストレイン)』をぶっ放すというのはどうでしょう! ここら一帯から魔物を駆逐してやります!」


「却下だバカ野郎! 魔物のついでにスラムまで吹っ飛ぶわ!」


「あだっ!?」


 うぐぐ、最近は魔封じのペンダントのお陰でコントロールも多少は効くようになってきましたしいい案だと思ったんですけど、やっぱりダメらしいです。

 うぅ、拳骨は痛いです……


「しかし、なんでそんな急に魔物が現れるようになったんでしょう?」


「さぁな、オレは魔物のことなんざさっぱりだ」


 投げやりなヒルダさんのセリフに、「ですよねー」と苦笑を返す。

 そんなの分かってれば、誰だってまずはそれをどうにかしようと思いますし、分かるわけないですよね。


「えと、それでしたら多分、住処を追われた魔物が流れてきてるんだと思います……よ?」


「へ?」


 元々答えを期待しての問いかけでもなかったので、ヒルダさんと2人で世間話のように話してたんですけど、それを聞いたマリアベルさんがおずおずと手を挙げながらそれらしい答えを述べ始めました。


「そうなんですか?」


 さすがに予想外で目を丸くしながら、私は説明を求めるように問い返します。


「はい。えーっと……以前、森が誰かの大魔法で大きく抉り取られる事件がありましたよね? それで、一時は森の奥に引っ込んでいった魔物達が生存競争に負けて、新天地を求めて街に降りてきたとか……そういうことではないかと」


 ただ、それは完全に藪蛇だったようです。

 これまた予想外の理由に、私はそのまま固まってしまう。

 と、そこで唐突にポンっと肩に手を置かれ、びくっと思わず体が跳ねる。

 恐る恐る、錆びた機械のようにぎこちない動きで振り向いてみれば、そこにはにこにこと笑顔を浮かべるヒルダさんの顔が。


「なあリリィ、森を大きく抉り取った大魔法、オレはすごく覚えがあるんだが」


「あはははー、なんでしょうねー、私にはなんのことだかサッパr……いえごめんなさいすいません間違いなく私の魔法ですはい!」


 目の前で握り拳を作り、はーっと息を吹きかけ始めたヒルダさんに、私は大慌てで頭を下げる。

 いや、本当に、あの一件がまさかこんなところに効いてくるなんて思いもよりませんでした。


「まあ、ここでリリィを虐めてどうなるもんでもねーしな。なあマリアベル、それってどうにかする方法あるのか?」


「え、えーっと……森の生態系が落ち着くまで、街に降りてくる魔物を狩り続けるしかない……かと?」


 突然の私の行動に困惑しながらも、マリアベルさんは現実的な対応策を出す。

 と言っても、内容は今私達がやっていることと同じ。せいぜい、今の状態は一過性のものだろうという予想が入ったくらいです。それでも、ないよりはずっと気楽ですけどね。


「そういうことなら、リリィには積極的に魔物を狩って貰わないとな。訓練にもなることだし?」


「はい! 喜んで駆逐作業に入らせていただきたいと思います!」


 ぴしっと背筋を正し、笑顔を向けるヒルダさんに向けて宣言する。

 まあ、元々そのつもりでしたし、ヒルダさんも本気で私を責めているわけではないことは分かるので良かったですけど……

 ……次からは、もう少し自重しよう。そう思いました。

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