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第三十四話 無くした物って意外なところから出てきますよね

「うーん、意外とやりますね、この子達」


「呑気なこと言ってる場合ですかぁ……ひい! リリアナさん、来ますよ!!」


 マリアベルさんからの注意を受けて、左右から迫る剣を《プロテクション》の魔法障壁で防ぐ。

 反撃しようと掌を向けますけど、一瞬の時間差を付けて前後から別の子に襲い掛かられて、やむなく防御に意識を割きます。

 最初は、特に戦い方を習ってるわけでもないスラムの子に負けるわけないと思ってましたけど、この連携、一朝一夕で身に着くものじゃありません。なんだか戦い慣れてる感じがしますね。

 よく考えてみたら、ここは魔物被害が多くて放棄された場所。もしかしたら、普段から魔物と戦って、それが訓練になってるのかもしれないですね。


「けど、それにしてもこの戦い方、どこかで……うーん」


「くそ、余裕こいてるんじゃねえ!!」


 顎に指を当てて考えていると、ちょうど後ろにいた男の子が一人、剣を振りかぶって突っ込んできました。

 ふふっ、残念ですけど、それは悪手ですよ!


「バカッ、一人で先走るな!」


 子供達の中でも一番年上っぽく見える子が注意を飛ばしていますが、今更遅いです。


「『グラビトン』!」


 私が掌を向けた先、突っ込んできた男の子の真下に、黄色い魔法陣が浮かび上がる。

 直後、男の子は地面へと叩きつけられました。


「ぐはっ……!」


「ロメオ!」


「落ち着け、お前ら!」


 魔法陣の範囲内の物に対する重力を増加させる魔法を受け、地面に縫い留められる男の子。

 これで、他の子が助けるために突っ込んできて貰えたら楽だったんですけど、そこはさっきの年長者の子が宥めて思いとどまらせています。

 んー、こういう勝負も悪くないのでしばらく続けてもいいんですけど……そろそろ終わらせないと、子供達よりも先に隣から抱き着いてくるマリアベルさんに私が絞め落とされちゃいそうです。仕方ないので、とっとと終わらせるとしましょうか。


「ガルル……」


「あ、オウガはダメですよ。待てです、待て」


「ガウ」


 その場に伏せて、了解の意志を伝えてくれるオウガ。

 私はともかく、オウガは一応魔物ですからね。いくら飼い狼だからって、襲い掛かったら本気で討伐されるかもしれません。負けるとは思いませんけど。


「代わりに私が、さっさと終わらせましょうか!」


「っ、来るぞ、お前ら離れろ!」


 私の身体から溢れる魔力を感じてか、周囲に注意を飛ばす年長の男の子。

 けれど、その子以外は魔力をきちんと感じ取れていないのか、動きが鈍くて十分に私の攻撃範囲内に収まっています。


「もう遅いです。すみませんけど、ちょっと落ち着くまでひと眠りしていてください!」


 私の足元から、青色の魔法陣が一気に広がっていき、子供達の足元にまで到達する。


「眠れ、青の(かいな)に抱かれて。『スリープミスト』!」


 魔法陣から一斉に霧が噴き出して、辺りを包む。


「ふにゃあ……」


 なぜか……というほど不思議な話でもなく、発動者以外を眠らせる霧を吸い込んで、マリアベルさんが私に寄りかかってきました。

 あはは、そういえばこうなることすっかり忘れてましたね……オウガなんかは最初からそうなると分かってたのか、口から吐いた風魔法で霧を吹き散らして安全確保してるんですけど。そこは連携の差ってことにしておきましょう、うん。


「ともあれ、これでやっとゆっくり話が聞けますね」


 適当に縛って、1人ずつ起こしてお話すれば、さっきよりは多少話を聞いてくれるでしょう。……聞いてくれるといいなぁ。

 そんなことを考えながら、男の子達の場所に向かおうと一歩踏み出したところで、


 赤い暴風が、立ち込めていた霧を吹き飛ばしました。


 まさかあそこからこんな風に魔法を無効化されるなんて思ってもみなかったですけど、その暴風の中心にいた少女を見て、納得と同時に首を傾げました。

 それは相手も同じようで、私達は同時に、同じような言葉を投げかける。


「ん? リリィじゃねーか、どうしたんだこんなところで」


「あれ? ヒルダさんじゃないですか。どうしたんですかこんなところで」








「いやー、うちのガキが悪かったな」


「いえ、お財布も戻ってきましたから、私は別に……」


 困ったように笑うヒルダさんに、ぺこぺこと頭を下げるマリアベルさん。

 2人のセリフと行動があべこべな気がしますけど、今の私としてはそれどころじゃないです。


「あの、ヒルダさん」


「どうしたリリィ」


「どうして私は正座した上にこんなでっかい石を載せられてるんでしょうか!」


 あ、やばいです、足が痺れを通り越して冷たくなってきた気がします。これ絶対足に血が巡ってないです、これ以上は絶対ダメなやつですよ!


「そりゃお前、うちのガキに冤罪擦り付けようとした罰だってさっき言っただろ?」


「はい、それは本当にすみませんでした! この通り反省してます、反省してますからどうか助けてくださいぃ!!」


「ダーメ」


 膝の上に載った石に額を擦りつけるようにぺこぺこと頭を下げて謝り倒しますけど、ヒルダさんは取り合ってくれません。隣で私と同じように正座させられている男の子が「ざまぁ」とでも言いたげにニヤニヤした顔を向けてきましたけど、そこはすぐにヒルダさんの拳骨が降り下ろされました。ざまあ。


「あ、リリィもう10分な」


「えぇぇ!? そんな~!」


 喜々として延長を言い渡してくるヒルダさんに恨めし気な視線を送りますが、どこ吹く風とばかりに他の子供達の遊び相手になっています。子供達もヒルダさん自身も楽しそうで、それが昨日今日で培われた関係ではないことが容易に想像できますね。


 ヒルダさんの介入により、ひとまず敵対するのをやめて貰った私達は、ここの子供達がスリをやっていたという話から、無くした財布があるかどうか確認しに来たんだと説明しました。

 話を聞いたヒルダさんは、すぐに容疑者を特定。サッチと呼ばれたその子はヒルダさんの拳骨を貰いながらマリアベルさんのお財布を返したんですけど、私のお財布はありませんでした。

 私のは!? と詰め寄るも、知らないと首を振るサッチ君。普通に落としたんじゃねとヒルダさんが言ったものの、私としてはこのポケットにちゃんと入れたはず! と言ってみた時に、マリアベルさんが一言。

 あの、反対側のポケット、何か入ってません? と。


「う~、お願いします~、なんでもしますからぁ~」


 ぐすんぐすん。いや、私が悪いのは分かってるんですよ? でもほら、こういうことってあると思うんですよ、誰でも。だから減刑を求む!


「ふーん、なんでもね?」


「えっ、あっはい」


 にやりと笑うヒルダさんに反射的に頷きながら、これは早まったかと内心冷や汗を流す。

 あの、大丈夫ですよね? さすがにそんな、これよりえげつない罰なんて来ないですよね? お友達ですもんね? 私達。


「まあそう構えるなよ、普通ならともかく、お前ならむしろ喜んでやってくれそうだし」


「そうですか、それならよかっ……あれ、それひょっとしてさりげなく私が普通じゃないって言ってませんか?」


「今更だろ?」


 ガーン。

 いやまあ、私の生い立ちを考えれば普通だって言い張ることも出来ないんですけど、それでもそんなに即答されるほどおかしいですか私? ぐすん。


「まあ、やってもらうことは簡単だよ。オレらと一緒に、森から出てくる魔物を討伐してくれりゃあいい」


「え、それだけですか?」


 お仕置き代わりの思わぬ要求に、私は首を傾げる。

 魔物退治くらいなら訓練にもなりますし、ちょうど退屈してたんですから確かに喜んでやりますけど、そんなこと、わざわざ罰ゲームとしてやらせるようなことでしょうか?


「お前はどうだか知らないけどな、報酬があるわけでもねーのに好き好んで魔物に戦いを挑むヤツなんて普通はいねーぞ?」


 ヒルダさん曰く。例え十分に勝てる相手だからと言って、自分から魔物に突っかかっていく私は普通じゃないんだそうです。

 確かに、前の世界でもいくら防護服や薬があってもスズメバチの駆除なんて誰もやりたくないですし、似たようなものでしょうか?

 まあ、だからと言って、私の意見は変わりませんけど。


「訓練になりますからね。それに、そうでなくとも友達が困ってるんです、手伝うのは当然じゃないですか」


 ヒルダさんがどうしてこのスラムの子達に肩入れしてるのかは分かりませんけど、友達が大事にしてる子達なら私だって守りたいです。報酬だとか、そんなみみっちいこと考えて見捨てるなんて男らしくないですしね!


「そうか、助かるよ。最近、魔物の数が増えてきててな、オレと戦えるガキ共だけじゃ回らなくなってきてたんだ」


「そうだったんですか。まあ、大丈夫ですよ、ルル君は忙しそうだから呼んでも無理かもしれませんけど、私とオウガとマリアベルさんが手伝えば、魔物なんて物の数じゃありません!」


「えぇ!? 私もですか!?」


 まるで予想だにしてなかったのか、目を真ん丸に見開いて驚くマリアベルさん。

 いやいや、何を驚いてるんでしょうかね?


「ほら、剣技大会優勝者の肩書きに負けないくらい強くしてあげるって言ったじゃないですか。ちょうどいい練習相手ですし、やりましょうよ」


「無理ですよぉ! 私、魔物となんて戦ったことないんですから!」


「大丈夫ですって、もしもの時もマリアベルさんのことは私がちゃんと守ってみせますから!」


 うるうると瞳を潤ませて見上げてくるマリアベルさんに向かって、ドンと胸を叩き頷いてみせる。

 実際、あの森ってそう強い魔物は出てこないみたいですし、ドラゴンとかそのレベルのが出てこなければ防ぐくらいどうにでもなります。


「んじゃあ、今日は準備もあるだろうし、明日からだな。よろしく頼むぜ、リリィ、マリアベル。あとオウガも」


「はい、任せてください!」


「私は一度もやるなんて言ってませんよー!?」


 涙目で騒ぐマリアベルさんを尻目に、尻尾を振って了解を示すオウガを撫でるヒルダさん。

 うふふ、一時はどうなるかと思いましたけど、なんだか今年は楽しい夏休みになりそうです!


 ちなみに、結局この後おつかいのことをすっかり忘れて家に帰ってしまい、慌ててお店に戻ると額に青筋を浮かべたルル君が待ち構えていて雷を落とされることになるのは、まあ、ご愛敬ということで一つ。あはは……

あれがないどこにもないって騒いだ挙句、実はすぐ傍にって経験、あると思います(震え

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