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第二十九話 好きこそ物の上手なれです

昨日のうちに投稿しようと思ってたのに忘れてました(てへぺろ

「はぁ、はぁ……こ、これで、どうだ……!」


 カレル君の木剣を魔力の鎧越しに受けて、大きく後ろに弾き飛ばされる。

 もう何度目かも分からない痛みが走りますけど、いい加減慣れてきましたね。それとも、痛覚が鈍ってきただけでしょうか?


「ふ、ふふふ……何、言ってるんですか……まだまだ、これからです!!」


 まあ、どっちでもいいですね。この楽しいひと時を、まだ続けられるのなら!


「こ、この……いい加減、諦めろ!!」


 カレル君との勝負が始まってから、もうどれだけ時間が経ったのかよく分かりません。

 ほんの数分かもしれないし、もう何時間も戦っているような気もします。

 当然、そんなに長いこと戦っていれば息切れするのも当たり前ですけど、消耗度合で言うならカレル君のほうがずっと上です。

 その理由は、単純に私が攻撃と防御の合間合間に『リフレッシュ』を使ってスタミナの回復をしているからで、それだけ聞くと私が有利に思えるかもしれませんが、蓄積したダメージは圧倒的と言う言葉すら生温いほどに私のほうが負っています。

 何せ、カレル君の攻撃は私の『プロテクション』の防壁越しにも少しずつ痛みが襲ってくるのに、私の攻撃は一切カレル君に届いてませんからね! 今のところ気合で耐えてますけど、そろそろキツイです。ほんと、どうしましょう?

 まあ、


「これくらいで諦めるわけないじゃないですか! 勝負(あそび)はまだまだ終わってないですよ!」


 こんなにギリギリで、こんなに凌ぎを削る戦いなんて初めてですから、勝ち目の有無なんて関係なしに、最後までやり通しますけどね!


「このっ、頭おかしいんじゃねえか……!?」


 なんか大変失礼なことを言われてる気がしますけど、それすらも()()()()ハイになってる私の頭にはそよ風ほどの影響も与えることなく、右から左に抜けていきます。


 さて、このまま気分に浸ってるだけでも私としては満足ですけど、やっぱり勝負というからにはできれば勝ちたいですね。

 この勝負、特にルールとかあるわけでもないですし、なんなら魔法でこの部屋丸ごと吹っ飛ばすのもアリですけど……それじゃあつまらないです。剣で始めた勝負なんですから、決着も剣で付けなきゃ!

 なら、私が剣を打ち込む隙をどうやって作るかという話ですけど……勝ち目があるとしたら、一つしかありません。


「カレル君の体力が底をついてへばるのが先か、それとも私の体が痛みに耐えかねて音を上げるのが先か……ふふっ、根性勝負ですね」


 分かりやすい構図に、思わず笑みが零れる。

 ふふふ、いいでしょう、見せてあげます。幾年にも渡って低スペックな体を鍛え上げ、たかが10m走るにも苦労していたのを100mにまで引き延ばした私の根性を!!


「てやぁ!!」


 『ブースト』で後押しされた力を、お父様やお兄様から習った剣技で振り下ろす。

 もう何度もやった手で、その上1度も通ってないこの攻撃は当然のようにあっさり防がれて、カウンターの一撃を入れられます。

 それを、反射的に『ブースト』の制御を手放して『プロテクション』で防ぐ。

 素直に剣で防げればそれが一番なんですけど、さすがはAクラスの子というべきか、カレル君はそれが間に合わない勢いで攻撃してくるので、()()()()()()()()()発動できる魔法で防ぐしかありません。

 けれど、ただ持つだけならともかく、今のこの木剣を振るには『ブースト』のサポートなしじゃ厳しいので、『プロテクション』発動中は私の反撃はなくなります。


「そこだっ!!」


「あうっ!」


 最初のうちはともかく、今となってはさすがにそれもカレル君にバレちゃったのか、一度攻撃が通った途端、一気に畳みかけるような猛攻を繰り出してきました。


「いい加減に負けを認めろよ!! アースランドの出来損ないが!!」


「認めるわけないじゃないですか、私はまだ立ってるんですから!!」


 肩、お腹、足、手と、次から次へ私の体に木剣が打ち込まれる。

 さ、さすがにこれだけの連撃は痛いです! このままだと本格的に全身痣だらけになっちゃいます!!

 あ、でもそうなってもモニカさんに治して貰えばいいか。あれ結構気持ちいいですし。


「くそっ、なんでだよ! 力の差は歴然だろ、なんでまだ続けようとするんだ!!」


 苛立たしげに、カレル君が叫ぶ。

 んー、そんなに変なことですかね?


「倒れない限り、勝ち目が残ってる限り、抗うのは当然じゃないですか? だって、勝ちたいんですもん」


 カレル君の打ち込みに合わせて、距離を取るように飛ばされて後ろに転がる。

 言ってる傍から倒れちゃいましたけど、これは自分からやったことなのでノーカンです、ノーカン。


「そんな奇跡あるわけないだろ!! そういうのは覆らないから力の差があるって言うんだよ!!」


 起き上がって『リフレッシュ』をかけようとしたところで、カレル君から更なる追撃が襲い掛かってきました。

 むぐっ、回復する暇もなくすつもりですか、これは厳しいです……


「かもしれませんね、けどそれでもいいじゃないですか」


「は……?」


 追撃を躱し、なぜかカレル君が足を止めている隙に『リフレッシュ』で疲労をある程度回復させる。

 これ、疲れが取れるのはいいんですけど、鈍ってた痛みまで少しぶり返すのでそこは勘弁して欲しいですね……


「それでもいいだと? 勝ち目がないって分かってるなら、なんでお前は戦うんだ? それになんの意味があるっていうんだ!?」


「へ?」


 足を止めるどころか構えすら解いて、信じられないとばかりに叫ぶカレル君に、私のほうも意味が分からず『ブースト』をかけ直すのも忘れてぽかーんと見つめたまま固まってしまいます。


「それはもちろん、楽しいからですよ?」


 一片の迷いもなく言い切った私に、カレル君は絶句を通り越して唖然とした表情を浮かべました。

 えぇ、そんなに変なこと言ったつもりないんですけど……


「楽しいだと? 剣は遊びじゃない、戦いの技術だぞ!? それをお前は何を言ってるんだ!?」


「うーん……? 逆に聞きますけど、カレル君は楽しくないのに剣を振ってるんですか?」


「それは……!!」


 疑問(?)に質問で返すのも変な感じですけど、カレル君はそれで面白いくらい二の句が告げなくなりました。

 私にとっては一番重要なことだったんですけど、この世界だとそうでもないんでしょうか?


「私は楽しいですよ? 剣を振り回すのも、こうして動き回るのもすっごくすっごく楽しいです!」


 転生して、何年も自由に動けない期間があったからでしょうか? それとも、動けるようになった後も体力がなくてすぐ風邪引いて、思うように運動できなかったからでしょうか?

 まあ、理由なんてなんでもいいです。


「剣が遊びじゃないって言うならそれでもいいです。けど、楽しんじゃダメなんて誰が決めたんですか? 少なくとも、私は剣が楽しくなかったらここまでやってないですし、強くなろうとも勝ちたいとも思いませんでした」


 忘れていた『ブースト』をかけ直して、もう一度木剣を構え直す。


「剣が楽しいものじゃないなら、どうしてカレル君は強くなろうと思ったんですか?」


「お、俺は……」


 明らかに動揺してるカレル君に向けて、私は一直線に駆け出す。

 私が勝てるとしたら、もうこのチャンス以外ありません!

 え、卑怯? 心理戦はどんな戦いにおいても基本ですからノーカンです!


「くっ……!」


 カレル君がそれに反応し、遅まきながら剣を振りかぶる。

 これまでの攻防なら、一度これを防ぐなり躱すなりしてから次の攻撃に移るタイミング。そうしないと良くて相打ち止まりだからですけど、今回は『プロテクション』を発動しようとする心をねじ伏せて無理矢理に更に一歩踏み出します。


「てやぁぁぁ!!」


 私の木剣が、カレル君を打つ。

 それから一瞬遅れて、本当の意味で無防備だった私の体もまた木剣で打ち据えられ、後ろに飛ばされました。


「リリィーーーッ!!」


 薄れていく意識の中で響く、私を呼ぶ幼馴染の声。

 直後、私の体を誰かが優しく受け止める感覚と共に、私は眠りに落ちていきました。






「ん……」


「リリィ、気が付いた?」


 目が覚めると、目の前にルル君の顔がありました。

 その藍色の瞳に見つめられ、しばしの間時間を忘れて魅入ってしまいます。


「うわわわっ!?」


 やがて再起動した私が慌てて飛び起きると、ルル君のおでこにごちんっ! ……などというお約束はなく、直前できっちり躱されました。


「はにゃ!?」


「ふぇえ!?」


 代わりに、その奥にいたモニカさんのおでこにぶつかりましたけど。


「えっと、2人とも大丈夫?」


 きっちり一人だけ回避したルル君から、引きつり気味の顔で心配そうに声をかけられました。

 まあ、ルル君もまさか自分を超えた先でまたぶつかるだなんて予想外だったんでしょうけど……


「はい、私は大丈夫ですけど……お2人はどうしてここに? 試合はどうしたんですか?」


 お昼ご飯からどれくらい時間が経ってるかは分かりませんけど、さすがにそう何時間も経ったわけじゃないですよね?


「私はヒルダさんに負けましたから大丈夫ですけど……」


「あー、僕は……」


 淀みなく答えたモニカさんに対して、ルル君はなんだか歯切れが悪いです。

 まさか……


「ああ、かったるいから抜けてきた」


 その答えは、ルル君でもモニカさんでもなく、別の人からもたらされました。


「あ、ヒルダさん」


 両手に構えた試合用の木剣を腰に挿し直して、ヒルダさんがこちらへ歩み寄ってくる。

 けど、かったるいから抜けてきたって……ヒルダさんらしいというかなんというか……


「まさかルル君もそんな理由なんですか?」


「いや、僕はリリィを探しに……そしたら、コイツが大きな荷物を運んでるところを見たって話を聞いたから」


「こいつ?」


 ルル君をじとーっと睨んでみると、頭を掻きながら顔を背け、誤魔化す代わりに何やらを指差す。

 ひとまずそちらを見てみると……そこには、ボッコボコになったカレル君が横たわっていました。


「あれ、カレル君なんでこんなボコボコに?」


 確か私、1回しか木剣で攻撃出来てないはずなので、こんなにボコボコになってるはずはないんですけど……


「ああ、それならルルーシュのやつが、『リリィをよくも……』」


「わーわーわー!」


「?」


 ルル君がやったってことは分かりましたけど、最後ヒルダさん何を言おうとしたんでしょう? 気になりますけど、今は置いておきますか。


「それはそうとルル君、お兄様の試合は?」


「あ、そ、そうそう! ユリウス先輩だよ! もう30分近く戦いっ放しなんだ、早くリリィを連れて行って無事なことを教えてあげないと」


「あ、やっぱりそんな状況なんですね」


 30分も戦いが続くなんて、剣の試合じゃまずありえません。いくら剣技大会本戦に時間制限がないと言っても、さすがに異常事態です。


「なら、行きましょうルル君、約束通り、思いっきりお兄様を応援してあげなくちゃ!」


「うん、行こう」


 ルル君から伸ばされた手を取って立ち上がる。

 そこで、ふと倒れたままのカレル君が気になってそちらへ目を向けました。


「あ、コイツの後始末ならオレ達がつけとくから心配いらないぞ」


「ありがとうございます、ヒルダさん。じゃあついでに、カレル君に一つ伝言もお願いできますか?」


「ん? なんだ?」


「『とっても楽しかったです、またやりましょう』って」


 私の言葉を聞いて、言われたヒルダさんだけでなく、ルル君もモニカさんも目を丸くしてます。

 けど、ヒルダさんが了解したという風に頷いてくれたので、私としてはそれだけで十分です。


「さ、行きましょうルル君」


「あ、うん」


 ルル君と手をつないで、倉庫を後にする。

 走っていく中で体の痛みがなくなっていることに気付き、残った感覚でモニカさんのお陰だと思い至りましたが、ひとまず今はお兄様が優先だと、心の中でお礼を言うに留めました。






「はあ、ふぅ」


「リリィ、大丈夫?」


「はい、平気です」


 倉庫は初等部の校舎の隅のほうにあったので、観客席に着くまでがかなり遠いです。

 いくら『リフレッシュ』があると言っても、すっきり疲労が全回復するような便利な魔法ではないので、結構辛い道のりでした。

 けれど、ここで間に合わなかったらカレル君の戦略勝ちが決定しちゃうので、重くなってきた足に鞭を打って階段を駆け上がる。


「あとちょっとだよ、頑張れ、リリィ」


「はい! お兄様との約束通り、でっかい花火打ち上げてアピールしてあげましょう!」


「えっ」


 階段を登り切り、廊下を突っ走りながら驚いてるルル君の前に躍り出る。

 今の私なら、炎属性の魔法だってちゃんと使えますし、いっちょ盛大にやってやりましょう!


「ちょっ、待っ、リリィ!?」


「深淵にて輝く紅き灼熱の炎よ。新たな太陽となりてこの地上に顕現し、目に付く全てを焼き払え。」


 ルル君が静止の声を上げたのが聞こえましたが、『ブースト』が使えたことで大いに調子に乗っていたこの時の私はそれで止まることもなく、そして、重大なことを見落としていました。


「某は大いなる炎獄の体現者にして森羅万象を滅ぼす者なり!!」


 寝てる間に、私の腕に巻かれていた縄がなくなっていることに。


「エクスプローーーーージョンッ!!!」


 射程いっぱい、校舎より遥か上空を狙って発動した炎属性最上級大規模魔法。

 なまじ、さっきまで普段みたいに魔力をセーブすることに意識を割いていなかったので、いつも以上に大量の魔力を注いで解き放たれた力はその暴威を如何なく発揮し、轟音と共に大爆発を引き起こしました。

 その威力たるや、100m以上上空で炸裂させたにも関わらず観客席にいた私まで衝撃が届き、危うく転びそうになったほどです。

 うわぁ……これ、上の階の人達、大丈夫でしたかね……? 特に屋上とか、結構やばそうな気がしますけど……


 と、そんなことを考えているうちに爆風も収まり、会場がシーンと静まり返るのと同時に私に向けて会場中の視線が集中しているのを感じました。まさかの、試合中のお兄様たちまでその手を止めて私のほうを注視してます。

 これ、妨害とかでお兄様失格になりませんよね……? まあ、やっちゃったものは仕方ないです、ひとまず私の位置をアピールすることには成功したんですから、やることやってから後悔するとしましょう!


「頑張れ、お兄様ーーー!!」


 静まり返った会場に響き渡るように、精一杯の心を込めて、私はお兄様へ声援を投げかけました。

リリィも悪気はないんです。

たぶん←

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