第二話 初めての魔法です
(;゜д゜)ェ…ナンデ?
気付けばメインで書いてるやつよりもこちらのほうがブクマが多くなってました。
ま、まあ、どちらも頑張って書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。
「けほっ、けほっ……うー……」
頭が痛い。咳も出るし、鼻がずびずびします。
はい、風邪を引きました。原因は多分、昨日行ったトレーニングで疲れたところを、擦り傷で菌が入ったせいじゃないかとお母様が言っていました。
……理屈は分かりますけど、あんなことで風邪を引くって……うぅ、男らしくなると誓った傍からこれは流石に堪えるなあ……
「はいリリィ、あーん」
「あー……ん……」
そんなわけで、今は自室のベッドで横になりながらお母様に看病して貰ってます。
息で冷ましてから口元に運んでくれたお粥を、ぱくっと一口。
……うん、塩味が効いていて美味しいです。
「美味しいです、お母様」
「それはよかった。ちゃんと食べて早く良くなってね」
素直に言うと、お母様は私ににこっと笑いかけながら頭を撫でてくれました。
いつもよりぼーっとしていて回らない頭が、風邪の熱とは別の暖かさで包まれていく。
よく見れば、私を撫でるお母様の手に光が灯り、治癒魔法をかけているのが分かります。
「お母様、私なら大丈夫ですから、無理はしないでくださいね?」
魔法は、発動するために定番の魔力を消費します。体力とは少し違いますけど、ただでさえ病人の傍にいて移してしまうかもしれないのに、そこで魔法を使って疲れを溜めては、余計そのリスクが高まりかねません。
「ありがとうリリィ。でも、私だってすごい魔法使いだったのよ? だからこれくらい大したことないわ」
けれど、お母様はそう言って私の傍から離れようとしません。
むぅ、何か良い手は……あ、そうだ。
「ならお母様、私に魔法を教えてください」
「えっ、魔法を?」
「はい。そうすれば、自分で風邪を治せるようになります」
それに、私の虚弱体質ぶりを考えるに、これからも似たような事態になるのは簡単に予想できます。その度にお母様に迷惑をかけるわけにもいきませんし、上手くいけば体力が無さ過ぎて全くトレーニングにならない現状の改善にも繋がるかも。そう考えると、是非とも覚えておきたいです。
けれど、それを聞いたお母様の表情は優れない。どうしたんでしょう?
「あのねリリィ、治癒魔法は病気にはあまり効果がないの。私がしているのは、リリィの苦しさを少し和らげるだけなのよ。ごめんなさい」
言われてみれば確かに、全部魔法で治せるのなら薬なんて必要ありませんしね。
怪我のような外的な損傷は魔法、病気のような内的なものは薬で治すのが定番ということでしょうか。
だとしたら、あまり効果がない魔法のために、風邪が移るかもしれないリスクを背負うような真似はしないほうが……というのは、心配をかけている私が言うことではないですね。
「いえ、それだけでも嬉しいです。ありがとうございます、お母様」
出来るだけ平気そうに見えるよう、意識して笑顔を浮かべながらお礼を言うと、お母様も幾ばか笑顔を見せてくれました。
あ。いけない、それはそうと。
「それで、お母様。魔法を教えていただくわけにはいきませんか?」
私は身体が弱いし、それを魔法で補うというのは悪い手じゃないはずです。魔法による大火力というのはロマンがありますし。出来れば魔法剣士とか、そんなのになりたいなぁ。
「そうね……元気になったら、ユリウスと一緒に勉強しましょうか」
「はいっ」
そう言ってお母様は、結局私が寝入るまで、治癒魔法をかけ続けてくれました。
三日後、なんとか風邪の治った私は、約束通り学校が休みのユリウス兄様と一緒に、お母様に魔法を教わることになりました。
……あんなちょびっとのトレーニングの代償に三日寝込むって、ひょっとして私、むしろ前より弱くなったんじゃ……
……やめましょう、これ以上は泣きたくなります。ぐすん。
「どうしたリリィ、体調が悪いのか? まだ風邪が治り切っていないんじゃ……」
「あ、いえ。私なら大丈夫です、お兄様」
いけないいけない、生まれ変わってからと言うもの、なんだか泣き癖がついてますね。男が簡単に泣くもんじゃないです、注意しないと。
「そうか? ならいいが……」
ひとまず納得してくれたものの、やはり心配なのかちらちらとこちらを伺い見るお兄様。
ううむ、いけませんね、早く心配かけないくらい強くならないと。
「それじゃあ2人とも、準備はいい?」
お母様に頷き返し、私とお兄様は席に座る。
私達の両親は王宮勤めでしたが、だからと言って爵位を持っているわけでもない庶民の出なので、家も別段豪華というわけではない、普通の木造の家です。
そのため、私の我儘で始まったこの勉強会のために用意された机も普段家族で食事しているテーブルをそのまま使用しています。
「それじゃあ、ユリウスには復習になるけど、魔法について軽くおさらいしましょうね」
そうして、お母様からの魔法講義が始まりました。
まだ私が幼いからか、本当に触りの部分しか教えて貰えませんでしたが、ひとまず魔法について分かったのは3つ。
1.魔法は、魔法使いの魔力を消費し、詠唱か魔法陣のどちらかを媒介に発動する。
2.地水炎風闇光の6属性があって、人それぞれ適性によって得意不得意がある。
3.発動できる魔法の規模は、本人の魔力量と魔力制御能力の2つによって決まる。
魔力に関しては予想通り。そして詠唱や魔法陣については、やはり魔法の規模が大きくなればなるほどそれぞれ長く、大きくなっていくんですが、適性が高いとそれらを省略して、場合によっては魔法の名前を唱えるだけで発動できるとか。これが2つ目の得意不得意の話ですね。
そして最後の魔法の規模。これが一番重要で、魔法使いの訓練はこれを伸ばすために魔力制御を練習し、魔力の消耗と回復を繰り返すことで魔力量を増やしていくのが基本なんだとか。なんだか筋トレみたいですね。
「だから、まずリリィは魔力を制御する方法から掴まなきゃいけないの」
ということで、簡単な説明が終わると、お母様は私やお兄様を伴って家の庭に向かいました。
「それじゃあ、見ていてね」
到着すると、早速とばかりにお母様が詠唱を始める。
慣れているのか、それなりに長い文章をスラスラと流れるように紡ぎ出し、その掌を庭の一角……お父様が、訓練用の的として設置している案山子へ向けた。
「『ファイアボルト』」
最後に魔法名を唱えた途端、お母様の掌の先から赤い魔法陣が浮かび上がり、光が迸る。
赤い尾を引いて放たれたそれは真っ直ぐに案山子へと突き刺さって、小さな爆発を起こして消えた。
「わあ……」
思わず感嘆の息を吐きながら、焼け焦げた跡の残る案山子を見つめる。
すごい、これが魔法……転生する時にも神様が使ってましたけど、あれは効果が地味でしたからね。やっぱりこれですよ、これ。こういう派手なのが魔法ってものですよ!
「練習だから威力は抑えたけど、こんな感じよ。リリィ、分かった?」
「はい。……あ、えっ」
じーっと見ていたら、不意に質問されてうっかり頷いちゃいました。
いやいや、流石に今のじゃなんにも分かりませんよ!?
「本当か? すごいな、リリィは……俺なんて魔法を覚えるのに1か月くらいかかったんだが……」
ユリウス兄様はそう言って驚いた顔してますけど、何も分かってませんから! 間違えて頷いただけですから!
「それならリリィ、早速試してみましょうか?」
「えっ、えーっと……」
そんなこと言われても、どうすればいいんだか……あっ、そうだ!
「あの、その前に私、お兄様の魔法も見てみたいです。まだ見たことありませんから」
さっきは初めての魔法ということで興奮しちゃってましたけど、もう一度、じっくり見れば何か分かるかも! というわけでユリウス兄様のほうを見ると、快く頷いてくれました。
「よし、いいよ、リリィ。俺の魔法、しっかり見ててくれよな」
お母様と場所を代わり、掌を案山子に向けて構えるお兄様。私はその一挙手一投足を見逃すまいと、じーっとその姿を真剣に見つめます。
そんな私を見てふっと笑みを浮かべると、お兄様は改めて表情を引き締めて正面に向き直り、やがてお母様より幾分か長い詠唱を紡ぎ出していく。
「穿て、火炎の槍撃! 『フレイムジャベリン』!!」
最後の一文節と共に魔法名が唱えられ、お兄様の掌に先ほどとはやや違う赤い魔法陣が展開され、炎が集まり渦を巻く。
やがて、それは鋭い槍のような形になると同時に放たれ、詠唱の通りに案山子を貫き、大きな穴を穿ちながら奥の塀にまで当たって爆発した。
……えーっと、凄い、凄いんですけど……
「ユリウス……やりすぎです」
「ご、ごめん母様」
お父様が造った案山子はもはや原型をとどめないほど吹き飛んで、奥の塀もなんとか貫通せずにすんだものの今にも崩れそうになっちゃってます。
あれでしょうか、私にお兄ちゃんらしいところを見せようとして、張り切りすぎたのかな? もしそうなら、気持ちはすごくよく分かりますけど。
「はあ……まあいいです、後で直せばいいでしょう。それより、次はリリィの番ですね」
あ、そうでした。うーん、どうしましょう……まあ、出来ないものは出来ないですし、やれるだけやってみましょうか。
「ひとまずは魔力の制御が出来ないといけないから、これからね」
そう言ってお母様が取り出したのは、一枚の紙。
真っ白で、一辺10㎝くらいのそれにサラサラと何かを書き足してから、私に手渡されました。
そこに書いてあったのは、先ほど見た2人の物より、かなり小さな魔法陣。
「その魔法陣にきちんと魔力を注げれば、水が出て来るの。本当は同じ炎からやろうかと思ったんだけれど、やっぱり危ないから」
うん、それは正しい判断だと思う。制御も何も、魔力の出し方からして分からないのに、いきなり炎だなんて間違って爆発とかしちゃいそうですもん。
「いきなりは難しいかもしれないけど、やってみて、リリィ」
「はい、お母様」
ひとまず集中しやすいように、紙を地面に置いてその上に手を重ね合わせる。
正直、魔力なんてさっぱり分からないですし、先日の筋トレの散々な結果を思うと、これも上手く行かないんだろうなあと既に半ば以上諦めが混じっていますが、それでももしかしたらとそんな風に、わずかばかりの期待混じりになんとなく力を込めていくと――
「あ、光った……?」
何かが体から抜けいくような不思議な感覚と共に、魔法陣が光り始める。
まさか反応があるとは思っていなかったのでどうしたらいいか分からず、おろおろと周りを見ると、お母様やお兄様も驚いたように目を丸くしていました。
ひとまず何も起こらないので、そのまま魔力(?)を注ぎ続けていく。
「あっ、いけない、リリィ待ちなさい!」
いつにも増して切羽詰まった声に驚いて、私は反射的に紙から手を離す。
その瞬間、
どっぱーーーーーーん!!
「きゃあ!?」
いきなり紙から大量の水が噴き出して、私も、お母様もお兄様もみんなそれをまともに被ってズブ濡れになっちゃいました。
うぅ、一体何が……
「「リリィ、大丈夫(か)!?」」
お母様とお兄様が、間近で水の噴射を浴びてひっくり返った私を心配して駆け寄って来てくれました。
私は慌てて立ち上がり、無駄に元気に笑いかける。
「だ、大丈夫でしゅっ! ちょっとびっくりしましたけど」
驚きで心臓がバクバクしているせいか、声まで少し裏返っちゃいました。
うぅ、恥ずかしい……
「そ、それで、今のはなんだったんでしょう?」
誤魔化すために少し早口気味に尋ねると、お母様は少し神妙な顔をして考え込む。
その様子に、何かまずいことをしてしまったかと不安に駆られそうになりますが、お母様は大丈夫だと頭を撫でてくれました。
「多分、リリィの魔力量は普通の子供よりずっと多いんでしょうね。それを制御する力がまだ備わっていないから、こんな風に暴発したんだと思うわ」
えーっと、つまり、あれですか。
半分冗談で考えてた、炎の魔法陣でやったらボカンッ! てなりそうだっていう予想、実は当たってたんですか? うわあ、危なかった……
それにしても……普通の子供より魔力量が多いって、体力が少ない代わりとかなんでしょうか?
うーん、個人的には男と言えば前衛職のイメージなんですけど、大火力の後衛魔法使いというのもそれはそれでかっこいいかな? でも……うーん……
「母様、このままだとリリィがまた風邪を引いてしまうかもしれないし、早くお風呂に入って体を温めたほうがいいのでは?」
「ああ、そうね。ユリウス、お願いできるかしら?」
「はい。行こうか、リリィ」
「え? あ、はい……」
う、うーん……お兄様は嫌いじゃないですけど、一緒にお風呂はちょっと恥ずかしいですね。いや、男同士だと思えば……あいや、でもなんか恥ずかしい……
そんな風に悩んでいるうちに連れていかれ、結局兄妹二人でお風呂に入りましたが、恥ずかしくって逆上せそうになったのはご愛嬌ということにしておいてください。
余談ですが、結局この後、水を被った3人の中で私一人だけまた風邪を引いて3日寝込むことになったのは……やっぱり、泣いていいですか?
ぐすん……