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第二十八話 よろしいならば決闘だ!

リアルで色々あって遅れちゃいました。

2話ぶりに主人公視点に戻ります。


「ふぇ……ふぇーっくしょん!」


 全身を襲う寒気に震えながら目を覚ますと、私は見知らぬ場所に居ました。

 あれ? ここは誰? 私はどこ? というか私さっきまで何してましたっけ? 寝たのはいつで今は……ってああもう、ややこしいです!


「目が覚めたみたいだな」


「ふぇ?」


 一人で混乱していたら、どうも最初から目の前にいたらしい男の子から声をかけられました。

 ま、全く気付かなかった……


「悪いが、お前にはしばらくここに居てもらう」


「ここにって……」


 言われて、改めて今いる場所を見渡す。

 ちょっと薄暗い……倉庫でしょうか? マットとか、魔法の授業で使ってる案山子とか、色んなものがあっちこっちに置いてありますから、多分そうですね。

 こんなところで何しようと……って、あれ?


「えっ、私、縛られてる!?」


 よく見れば、私の体は椅子に座った状態で縄でぐるぐるに縛り付けられていました。

 服装は元のまま、つまりチアコスなので縛られてるのもあって色々と心もとないですね。


「気づくの遅いなお前……まあそうだよ、お前には――」


「あなた、私に乱暴する気なんですね! エロ同人みたいに!!」


「ユリウス・アースランドの……って、え?」


 薄暗い倉庫で、私(女の子)を縛って拉致監禁なんてもう役満です! 疑う余地もありません!


「この変態! えっち! エロ大魔王!」


「いやいやいや、ちょっと待てぇ!!」


 この慌てた様子、やっぱり図星だったんですね!

 全く、私に無理矢理そんなことするなんて……


「なんで私なんですか! 攫うなら断然モニカさんでしょう!?」


「俺はそんなつもりじゃ……って、はい?」


 全くもう、全くもう! なんでこんな美味しいシチュエーションで私が捕まる側なんですか! おかしいでしょう! 私は颯爽と捕まった子を助け出す主人公枠がいいです!!


「あなた幼女趣味ですか! こんなちんちくりん捕まえて悦ぶ暇があったらモニカさんみたいにボンキュッボンな子捕まえて楽しんだらいいじゃないですか! それで私に成敗されてください!」


 厳密にはまだそこまでくっきりスタイル良いわけじゃないですけど、胸は大きいしふにふにで柔らかいから、楽しむには最適です!

 えっ、なんで知ってるかって? 抱き着きついでに触ったことあるからですよ?


「いやなんでだよ!? そもそも俺はそんな鬼畜なことしようとしてたわけじゃねえ!!」


 何を想像したのか、顔を真っ赤にしながら否定する男子。

 そういえばこの子誰だろう? どこかで顔見た気がしますけどイマイチ思い出せませんね。

 うーん……まあ、ひとまずエロ大魔王さんと呼ぶことにしましょうか。


「じゃあ何をしようとしてたんですか? エロ大魔王さん」


「誰がエロ大魔王だ! 俺はカレル・サイファスだ、この間会っただろ!?」


「あ、あー……」


 言われてみれば会った気がしますね。あれは確か、えーっと……


「ああ、そういえば、先週のお休みの日に武器屋さんの前でじーーーっと剣を眺めてましたね。親御さんには買って貰えましたか?」


「いやなんで知ってんの!? ていうかそれよりもっと印象的な出会い方あっただろ!?」


「えっ、ありましたっけ……?」


「予選の1週間くらい前だよ!! 第一訓練場で会っただろうが!! 練習してたお前に因縁付けたのが俺だよ!!」


「あ、因縁って自覚してたんですね」


「やっぱり覚えてるんじゃねーか!!」


 はあはあと息を荒げながら、顔を真っ赤にして叫ぶカレル君。

 いやー、中々からかい甲斐がありますね。ルル君には最近あしらわれちゃうことも多くなってきたので新鮮です。


「バカにしやがって、お前自分の立場分かってんのか……?」


「いえ、分かりませんけど」


 このままからかっていたい気分ですけど、これ以上は話が進まないので素直に首を横に振ります。

 けど、それをどう受け取ったのか、カレル君はこめかみをピクピクと痙攣させ始めました。


「こんのっ……やっぱりバカにしてるだろ!!」


 カレル君が手を振り上げる。そして、


 パチーーーーンッ!!


「いっでぇーーー!?」


 『プロテクション』でガードした私のほっぺを引っぱたいて、逆に自分の手を痛めてました。


「もう、いきなり叩くなんてひどいじゃないですか。これに懲りたら次からは自重してくださいね?」


 他の魔法はともかく、地属性の防御系の魔法は詠唱どころか魔法の名前すら唱える必要がないくらい得意です。

 その理由を、ルル君は「障壁はどれだけ規格外の出力があっても周りに悪影響がないからじゃない?」とか言ってましたけどね。全く、失礼な話です。


「なっ、なっ、なっ……!? お前、なんで……!?」


 そんな私を、カレル君は信じられないモノでも見たかのような顔で見てきました。

 えー、そんなに驚くようなことしました……?


「なんでって、叩かれそうになったら普通防ぎますよね?」


「そうじゃねえ! なんで魔法が使えるんだよ!」


「へ? 使えるに決まってるじゃないですか、私魔法科目Aクラスですよ?」


 確かに普段から暴発しまくってますけど、だからってこれくらいの魔法すら使えないと思われてるなんて心外ですよ、全くもう。


「違うっ! その縄は魔法使い拘束用の魔力封印効果が付与された縄なんだよ! それなのになんで魔法が使えるんだ!!」


「魔力封印?」


 私が首を傾げると、カレル君はしまった! って感じの顔になりました。

 うーん、魔力封印かぁ……ひとまずもう一度魔力を集中してみてっと……うーん……


「あ、確かに、ちょっといつもより力が入らないっていうか、魔力がこう、えいってやらないと出てこない感じはありますねー」


 なんて言うんでしょう? 今までは風船をつついたら勝手に割れて魔力がぶちまけられてたのが、蛇口を捻らないと出てこなくなったみたいな?


「ていうかむしろ、こっちのほうが制御しやすいような……」


「そ、そんなバカな……」


 なんだか未知の生物でも見つけたような感じの声が聞こえた気がしますけど、ほんとに制御しやすくなったんだから仕方ないじゃないですか。

 というか、これならひょっとして……


「風よ、全てを斬り裂く刃となれ。『エアカッター』」


 風属性の初級魔法。これまでは『ファイアボール』と同じくわけのわからない暴発の仕方(なぜか竜巻が起きたりとか)をしてた魔法ですけど、試しに使ってみると、これまでのように失敗することなく、スパッと小気味の良い音を立てて私を縛っていた縄だけを綺麗に切ることが出来ました。


「なっ……!?」


「す、すごいですこれ……! ずっとちゃんと使えなかった風属性魔法が難なく使えました!」


 絶句した様子のカレル君をよそに、私は椅子から跳び上がり、床に落ちた縄を拾って頬擦りするような勢いで胸に抱く。

 ちょっとばかり威力が出ない感じはありますけど、これさえあればクラスのみんなに暴発妖精だなんて呼ばれずに済みます!


「カレル君カレル君! この縄どこで売ってるんですか!?」


「えっ!? い、いや、非売品っていうか……」


「そんなぁ……」


 うー、せっかく良いアイテムが見つかったと思ったのに……トホホ……


「まあ仕方ないですね……そういうものがあれば私でも汚名返上できるって分かっただけよしとしましょう。それでは私、これからお兄様の応援行かなきゃいけないので、また!」


「お、おう……ってちょっと待てぇ!!」


 縄を返して帰ろうと思いましたが、近づこうとした途端カレル君は腰に挿した木剣を引き抜くと同時に私に突きつけてきました。

 わわっ、危なっ!


「もうっ、何するんですか!」


 ぷんすか! と頬を膨らませ怒ってる様をアピールしますが、カレル君に堪えた様子はなく、私をキッと睨みつけてきました。

 あれ、私何か怒らせるようなこと言いました?


「お前をユリウス・アースランドのところに行かせるわけにはいかないんだよ!! 兄貴があいつに勝つまでな!!」


「ふぇ?」


 お兄様に? なんで私が行かないことがお兄様の勝敗に関わるんでしょう? 応援がなくなるからってわけじゃない……ですよね? いくらお兄様でも私が応援しないからって弱くなったりはしないでしょうし。……たぶん。

 となると……


「もしかして、お兄様に負けさせるための人質なんですか? 私って」


「そうだよ!! ていうか気づくのおせえよ!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶカレル君。

 あー、なるほど、そういうことだったんですねー。確かにそれなら縛られてたのも私が狙われてたのも納得です。


「分かりました、そういうことなら話は早いです」


 手にした縄を、今度は腕に巻き直す。うん、これでもちゃんと魔力が塞がれますね。

 あとは、ちょうどここ倉庫みたいですし……あったあった、予備の木剣! ちょっと長いですけど、今の私なら!


「偉大なる聖火よ、逆巻く炎となりて我が身に宿り、大いなる力となれ! 『ブースト』!!」


 木剣を手に取り、炎のような赤い魔法陣が足元に出現すると同時に、体の奥底から力が湧き出てくるのを感じます。よし、ちゃんと使えてる! 夢にまで見た強化魔法が!

 そして、いつもの1.5倍はありそうな長い木剣が(と言っても、いつも使ってる私のが短いだけで、これは普通サイズですけど)、私の手で軽々と持ち上がります。


「何の真似だ……?」


「え? そりゃあもちろん」


 ブンッ! と木剣を構え、既に私に向けて突きつけていたカレル君と正面から対峙する。


「カレル君、私と勝負しましょう!!」


「なに……?」


 訝しげな声に構わず、まっすぐ木剣を突きつける。

 おお、片手なのにちゃんと保持出来てる……! ちょっと感動です……

 って、今はそんな場合じゃなかったんでした。


「私が負けたら、カレル君の好きにしていいです。その代わり、私が勝ったらそこを通して貰います! あとこの縄も貰いますね」


「はっ、こんな狭い場所じゃ魔法も満足に使えねえ。それでお前なんかが俺に勝てると……ってちょっと待て、何さりげなく縄まで要求してやがる! やらねえぞ!!」


「えー……」


 勢いで行けるかと思ったんですけど、さすがにそう上手くはいきませんでしたか。

 まあ、魔法具みたいですし、お母様に聞けばきっと分かりますよね。


「じゃあそれはいいです。とりあず、行きます! てやぁ!!」


「うおっ!?」


 『ブースト』の効果で赤いオーラみたいになってる魔力を纏いながら、通常の3倍のスピード(体感)でカレル君に迫り、両手で握った木剣を振り下ろす。

 1年とは言えルル君と同じ剣技科目Aクラス。さすがにそんな簡単には倒されてくれず、ちゃんと木剣でガードされました。


「くっ、不意打ちとはやってくれるな……けど、強化魔法まで使っておいてこの程度の打ち込みしか出来ない力で、俺に勝てると思うなよッ!」


「ふっ、体の性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを見せてやる! あと、不意打ちって言いますけど真正面から斬りかかってますから!」


 赤い彗星(の気分)になってそんなセリフを言ってみましたけど、実際のところ身体能力では魔法を使っても負けてて、剣技もたぶん勝てませんし、駆け引きなんてもってのほかです。

 ……あれ、これひょっとして元ネタ通りの負けフラグでした?


「まあいっか! ひとまずやれるだけやってみましょう!!」


 細かいことは考えたって無駄です! とにかく、今の私にできる精一杯を叩きつけます!

 そう考えて、防がれたところから横薙ぎ、突きと攻撃を繋いでいきますが、どれもカレル君の防御を突破することは叶いません。


「甘いんだよ! 今度はこっちから行くぞ!!」


 そうこうしているうちにカレル君も立て直し、すぐさま反撃してきます。


「あうっ!?」


 辛うじて、1度目の攻撃は木剣で弾く。けれどそれで体勢が崩れ、致命的な隙を晒してしまいました。


「貰ったぁ!!」


「きゃあ!!」


 続く一撃が、私のお腹に入る。

 反射的に使った『プロテクション』の鎧でそれ自体は防ぎましたけど、『ブースト』の制御のために魔力を縄で抑えてるせいか衝撃が殺しきれず、私はそのまま後ろに転がっていきます。

 あうぅ、痛い……


「ふんっ、素人が剣を取るからそうなるんだ」


 けど、不思議ですね。こんなに痛いのに……


「ん? なんだ、まだやる気か?」


「当然ですよ」


 ……楽しい!! 私が、一度きりとはいえ剣を専攻してる子の攻撃を剣で止められるなんて、もう、最高です!!


「まだまだ、これからです!」


 『プロテクション』を使ったせいで切れていた『ブースト』をかけ直し、もう一度木剣を構え直す。

 さあ、勝負はまだ始まったばかりですよ!!

殴られる快感に目覚める主人公(違

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