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第二十三話 病み上がりだからこそ、ちょっとはっちゃけたくもなりますよね?

若干シリアス(?)した反動か、ほのぼのがするする書けたのでさくさく投下(次話もこの調子かは不明)

「学園よ、私は帰ってきたー!!」


「こんなところで恥ずかしいからそれやめなよリリィ」


 風邪を引いて早1週間、お休みを挟んでようやくお母様から登校許可を貰えたので、溜まった鬱憤を晴らすついでに学園の前でお決まりのセリフを叫んでみたんですが、ルル君はお気に召さなかったようです。せっかくかっこいいのに。むぅ。


「それより、みんな心配してたんだから、早く教室行って元気な顔見せてあげなよ」


「あ、それもそうですね。行きましょう!」


「やれやれ……」


 ルル君を促し、校舎向かって駆けだします。外はともかく、中でまばらな人影を縫うように走っていたらそれを目ざとく見つけた先生に怒られたりもしましたけど、そのまま特に問題なく教室にたどり着きました。


「初等部1年Bクラスよ、私は帰ってきたー!!」


 ガラガラと教室の扉を開けながら、もう一度さっきと同じセリフを口にする。

 ルル君には冷たくあしらわれましたけど、1クラス20人もいれば一人くらい反応してくれる人がいるはず!!


「お、リリアナじゃん、もういいのか?」


「リリアナさん、元気になったみたいでよかったです」


 まず第一声に、ヒルダさんとモニカさん、特に仲の良い2人が私に気付いて普通に挨拶して、


「えっ、リリアナちゃん?」


「あ、ほんとだー」


「大丈夫ー? 随分休んでたけどー」


「結構元気そうでよかったー」


 遅れて気づいたクラスメイトの皆さんが、順番に声をかけてくれました。

 心配してくれていたのが伝わってきて嬉しい、嬉しいんですけど……ネタを完全にスルーされると恥ずかしい……! いえ、そもそもこの世界じゃあの少佐さんのお話ないんですから伝わらなくて当然ですけど、ですけど!


「言った傍から……リリィ、病み上がりなんだから騒ぐのも少しは自重しなよ?」


 後ろについてきていたルル君からの2度目の注意に、ついっと目を逸らしました。

 こうなっては仕方ないので、私も何事もなかったかのようにみんなの声に答えることにしましょうか。


「はい、もうすっかり元気です! 皆さんご心配おかけしました!」


 ぺこりと頭を下げると、皆さん安心したように笑いかけてくれました。

 それに笑みを返しながら、私はぐっと拳を握り込む。


「ですから、剣技大会のほうもやっと復帰できます! 皆さん覚悟しておいてくださいねー!」


 握り込んだ拳を振り上げながら、高らかに宣言する。

 もちろんこのクラスの中で予選で私と当たるのは半分もいませんし、本戦に出られるのは各クラス2人までなので最後まで戦わない人のほうが多いですけど、今の気分的に皆さんに向けて言いたかっただけなので問題ありません。

 しかし一方で皆さんの反応はと言うと、


「えっ、ああ、まあ、頑張ってね……?」


「まあ、もしかしたら、いけるかもしれないし……? うん」


 などと、少しばかり要領の悪いものばかりでした。

 うん? 何かおかしいですね。なんだかまるで私がもう予選落ちしたみたいな……


「あー、リリィ」


「はい?」


 すると、まるで核心を突くことを躊躇うかのように曖昧な激励を飛ばす皆さんの代わりに、ルル君が代表して口を開きました。


「リリィが休んでた分、不戦敗になりそうだってさ」


「へー、そうなんですか……って、え?」


 休んでた分不戦敗? それってつまりはえーっと……


「だから多分、リリィは予選落ちするんじゃないかなって。あはは」


「え……えぇぇーーーーーーー!!?」


 軽い調子で紡がれたルル君の言葉に、私は学園中に響き渡るんじゃないかというくらいの叫び声を上げることしかできませんでした。





「うぅぅ……モニカさん、頑張ってください……ぐぎぎ……!」


「あ、あの、そんなに無理に応援しなくてもいいですから……」


 休んでる間待ちに待った剣技の授業。ですけど、困ったことに私がこのまま残りの試合を全勝しても、それだけではもう代表入りは無理なんだそうです。

 じゃあどうすれば入れるのかと言うと……現状最有力候補のモニカさんが何試合か負けるのが一番可能性が高いんだとか。


「い、いえ、お友達のモニカさんが負けて欲しいなんて、そ、そんなこと私はこれっぽっちも思ってませんよ? よ?」


「あ、あはは……」


 モニカさんが物凄い微妙な表情浮かべて笑ってますけど、分かってくれたんですよね? 大丈夫ですよね?


「けどそれにしても、ここってほんとにCクラスなんですか?」


「え?」


 ひとまず話題を変えるために、ずっと疑問に思っていたことを聞くと、モニカさんは首を傾げてきょとんとした表情を浮かべました。

 私、おかしな質問してるつもりはないんですけど……


「ほんとにCクラスなら、今私は夢でも見てるんでしょうか……?」


「あ、あの、リリアナさん、もしかしてまだ体調が悪いんですか? だったら無理しないほうが……」


 真面目に考察していたら、モニカさんから物凄い心配そうな視線を向けられました。

 そんな顔しなくても、風邪はちゃんと治ってる……はず、ですよ。

 なんで自信が持てないかって? それはもう……


「だって……Cクラスのみんなが怯えずまともな剣の試合をしてるんですもん……!」


 そう、私が休んでいる間に何があったのか、Cクラスのみんながきりっとした一人前の剣士の顔で木剣を打ち込みあってるんですもん。1週間前はあんなにビビりまくってたことを思えば、もはや豹変と言っても過言じゃないです。

 この短い間に一体何が……


「それはほら、あれですよ」


「あれ?」


 モニカさんが指差した方に目を向けると、そこには真新しい垂れ幕が飾ってありました。

 そして、そこにはデカデカと、『リリアナの魔法より怖くねえ』と書かれて……って、ふぁー!?


「いやいやなんですかあれ!!」


「魔法科目Aクラスのみんなが協力して作った垂れ幕です。Cクラスの練習中に飾っておけばやる気が出るだろうって……」


「えぇーー!?」


 こんなので!? こんなのでやる気出るんですか!?

 ていうか、私の魔法より怖くないってなんですか、私の魔法をなんだと思ってるんですかー!!


「おらぁ!!」


「くぅ! だめだ、もう……」


「お前諦めんなよ、どうしてそこで諦めるんだよ!」


「け、けど……」


「思い出せ、リリアナの魔法を! 最下級魔法だとか言いながら訓練場を丸ごと火の海に変えて危うく俺達まで丸焦げにしかけたあのバ火力を!!」


「!!」


「あれに比べたら俺の打ち込みなんて屁でもないだろ!?」


「そうだな……その通りだ! 行くぞーー!!」


「来いやーー!!」


 ふと目を向ければ、恐らく、というより時間的に見て間違いなく剣技大会の予選で対戦しているはずの男の子二人が、そう言って励まし合いながら激しい応酬を繰り広げている光景が目に入ります。

 いやいやいや、いくらなんでも効果てきめん過ぎません!? いえ確かに前に『ファイアボール』撃とうとして大爆発起こしましたけど、あれわざとじゃないですからね!? しかもあれ1回しかやってませんし!!


「う、うぅ、やっぱり怖いです……」


「ダメよマリアベルちゃん、逃げちゃダメ」


「クラウさん……」


「思い出して、この間の悲劇を。『火属性が駄目なら風属性でも練習してみましょうか』とか言って訓練場に大竜巻をいきなり起こしたリリアナちゃんの魔法を……!」


「あ、あわわ……!」


「あの時危うく天高く飛ばされそうになったの、忘れたわけじゃないわよね?」


「は、はい、もちろんです!」


「なら頑張りましょう! あなたがモニカちゃんに続いて勝率高いんだから、何がなんでも代表入りするのよ! その後のことはどうにでもなるわ!」


「はい! がんばります!」


 そして別のところでは、女の子2人が励まし合いながら試合を……って、マリアベルさんって私が初日に負けた子ですよね? あの子一番弱そうだと思ったのに何気にモニカさんに次ぐ2番手だったんですか? あの子なら案外途中でトントンっと負けて行ったりしそ……っていけないいけない、そんなこと期待しちゃダメです。

 というかそれ以前に、大竜巻起こした覚えなんてありませんよ! ただちょっと突風が強くて渦巻いただけで!


「うぅ、モニカさん、私の魔法ってそんなに怖いですか……?」


「えーっとそれは……」


 具体的なことは何も言わず、そっと目を逸らすモニカさん。

 いつもフォローしてくれるモニカさんがこんな反応を返すってことは相当なんですね……うぅ、この分だと本当に魔法の授業中は自重したほうがいいかもしれませんね……いやでも、あの時は勢いでああ言いましたけど、よっぽど調子の悪い時でもない限り普段のあれでも頑張って手加減してる方なんですよね。

 ……ど、どうしましょう。このままじゃ約束を違えることに……!


「ぐぬぬ……モニカさん、やっぱり私は代表に入らないといけないようです。そのためにも、今日からは一勝も落としません! だからモニカさん、適当に負けておいてください!」


「ふえぇぇーーーー!?」


「次、リリアナ!」


 モニカさんの驚愕の声に被せるように、私を呼ぶ先生の声が聞こえてきました。

 心なしか、生徒のみんなだけじゃなく先生まで先週より気合が入ってる気がしますねー。

 ……私への対抗心からって言うのがなんとも微妙な心境ですけど。


 そんなことを考えながら、未だに口をぱくぱくさせて絶句しているモニカさんを置いて闘技台に上がれば、男の子が一人、待ち構えていました。どうやら今日の相手みたいですけど、あれ、この人確か……


「このまま順調にいけばモニカとマリアベルが代表入りは確実……だが! 万に一つの可能性も潰すために! 俺は今日、必ずお前に勝つぞ、リリアナーー!!」


「ひえぇ……」


 どこかで見た顔だと思ったら(剣技の授業中だけとはいえ同じクラスなんですから見てるのは当たり前ですけど)、先週モニカさんと戦って負けた男子生徒でした。

 モニカさんの面打ちにも腰が引けてた記憶があるんですけど……今じゃもはや別人ですね、闘志を漲らせすぎてこんなのもはや殺気同然です。

 こ、怖い……


「始めーーーッ!!」


「うおぉ、『ブースト』ーーーーッ!!!」


 無駄に気合の入った、先生の開始の合図。

 それと同時に駆け出した男子は、裂帛の気合と共にまさかの強化魔法を併用して飛び掛かって来ました。


「ひえぇぇーーー!?」


 しかもそれだけじゃありません。彼は確か魔法の授業では私と顔を合わせていないはずなのでAクラスじゃないはずなんですけど、決死の覚悟と言っても何ら遜色ないほどに全力で解き放たれた魔力は彼の身体能力を引き上げるだけにとどまらず、制御しきれず溢れ出た魔力がまるで炎の龍のように彼の体を取り巻き、火の塊となって突っ込んできたのです。

 ちょっ、タンマタンマ! こんなので体当たりされたら私死んじゃうっ!?


「先生ーー!! これ反則じゃないんですか、反則じゃないんですかーー!?」


「使われてるのは間違いなくただの『ブースト』だ、問題ない」


 確かにそうですけど、これ明らかにヤバイやつですよね!? まさか先生まで私を負けさせたいからって黙認してるとかじゃないですよね!?

 って、あぁぁぁ!! もうそこまで来てるぅぅぅ!!


「ぷ、『プロテクション』---!!!」


 身を護るため、咄嗟に地属性の防御魔法を発動します。

 私の想い通り、私が全力で放出した魔力が、私の前で()()()()を展開する。


「ぐべらっ!?」


 殺気と勘違いするほどの闘志を漲らせて突撃してきた男子は、私の張った魔法障壁にそのままの勢いでぶち当たり、ずるずると崩れ落ちるようにして倒れ込みました。

 どうやら今の衝撃で気絶しちゃったみたいですね……心配は心配ですけど、それ以上に安堵の気持ちが強いです。ふぅ、危うく黒焦げになっちゃうところでした……


「はい、勝者、カルロー」


「えぇぇ!?」


 ほっと胸を撫でおろしていたら、先生から唐突に私ではなく倒れている男子の勝利宣言が為されました。

 なぜ!? What!? あれ、Whyでしたっけ? うーん……いや、やっぱりそれはどうでもいいです、とりあえず、なんでー!?


「あの、リリアナさん」


「ふぇ?」


 そんな風に憤慨する私の肩をちょんちょんとつつかれ振り向いてみれば、いつの間にか傍までモニカさんが歩み寄って来ていました。


「剣技大会のルールでは、『プロテクション』は認可されています」


 はい、知ってますよ。という意味を込めて頷きを返す。

 だからこそ、あの状況で使ったんですしね。


「ですがその……身に纏う範囲においての話であって、今みたいに障壁として展開するのはルール違反ですよ?」


「ほうほう……」


 確かにそんなルールもあったような気がしますね、うん。

 ……って、


「えぇぇーーーーーーー!!?」


 私の叫び声を聞いてモニカさんは苦笑を浮かべつつ、かと言って何か援護してくれるわけもなく、呆然としたままの私の手を引いて壇上から降りていきました。


 こうして、私の剣技大会予選落ちは、2度目となる自爆によってあっさり確定することになりました。


 

例え裏で不穏な気配があろうと、今日もリリィは平和です

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