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第一話 女の子になっちゃいました

 早くもあらすじで書いた主人公のお名前はご退場。

 ひょっとして書かないほうがよかったかしら……(汗)

 よち。よち。よち。

 はぁ、はぁ……よし、少しだけ昨日よりも長くハイハイで移動できるようになった。本当に少しだけだけど。


 あ、ご紹介遅れました、私、照月(てるづき) (あおい)改め、リリアナ・アースランド。リリィって呼ばれてます。

 現在1歳。正確に言うと1歳と3か月ほど経ちました。ようやくハイハイできるようになって、両親もほっと胸を撫でおろしています。

 私は早産だったためか生まれつき体が弱く、筋力も低くて寝返りを打ったりするのも普通の子供よりずっと遅かったそうです。さすがに生まれた直後は記憶があやふやなのでハッキリしませんけど。

 そして例に漏れず、こうしてハイハイするようになるのも普通の子供よりかなり遅くなってしまったみたいです。普通の赤ちゃんが生まれてどれくらいで出来るようになるのか知りませんけど。


 ともあれ、それはいいんですよ、別に。赤ちゃんの成長が遅いからってその後にまで影響がある例は稀でしょうし。

 それより……そんなことより……


 なんで私女の子になってるんですか!!


 おかしいでしょう!! 神様、あなた体は元のままって言ってましたよね!? ぜんっぜん、まるっきり逆になってますけど!? 書類の不備は直したんじゃなかったんですか!? それともあれですか、不備ってそういうことですか!? 最後に言ってたお嬢ちゃんってそういう意味ですか!? うわーーーーん!!


「あら、どうしたのリリィ? どこか痛いの?」


 一人心の中で神様に向けて文句を言い、泣いていたら、お母様に抱き上げられた。

 サラサラの長い黒髪が顔にかかって、甘い香りがまだ未発達の鼻腔をくすぐる。豊かな胸が、私の重みでむにょんっと沈み込んで凄く心地良い。


 ああ、あったかい……心が洗われるようですぅ……


「ふふふ、リリィは甘えん坊ですね」


 思わずぎゅっと抱きつくと、お母様はそう言ってそっと頭を撫でてくれました。それ自体は気持ちよくて嬉しい、です、けど……

 甘えん坊……そう言われると考えちゃうなあ。やっぱり男としては、甘えん坊というよりはしっかりした子だと思われたい。いえ、今女の子ですけど、心は男のままですし。


 そういえばそうだった、女の子になってたインパクトが強すぎてすっかり頭から抜け落ちていたけれど、私、前世の記憶がそっくりそのまま残っているんですよね。それも変な話です、無くなるって言われていたのに。

 ……もしかして、これも不備とか? もしそうなら神様、書類くらいちゃんと書いてください。いえ、記憶があるほうが便利なのでいいんですけど。


「おかーさま、はいはい、しゅる」


 ともあれ、このままお母様の温もりに包まれていたい気もしますが、それよりも今は思うように動けない不便を早く解消したいです。たかがハイハイだけれど、これ以外に筋肉を付けられる運動も出来ない以上、少しでもやって早く歩けるようにならないと。


「ダメよリリィ、今日はもう疲れたでしょう? お昼寝の時間よ」


 そう思って言ったけれど、お母様は私を降ろすことなく赤ちゃん用のベッドまで運んでいきました。


 むぅ、どうも産まれてすぐの頃の病気もあってか、お母様は少し心配性なところがあるみたい。それ自体は嬉しいですけど、やっぱり今の状況は良くないので、早く心配かけないくらい頑丈な体にしないといけませんね。


「おやすみなさいリリィ、またあとでね」


 毛布をかけられ、そっと撫でられる。

 その心地よさにすぐにウトウトし始めた私は、そのまま眠気に逆らわずに瞼を閉じていく。


 無理にやっても余計お母様を心配させちゃうし、本格的に鍛えるのはもう少ししてからにしよう……ぐぅ。






 はい、4歳になりました。

 やっぱりと言うべきか、私が歩けるようになったのは2歳も半ばを過ぎた頃、平均よりかなり遅い時期になりました。別に、面倒だから動かなかったとかではなく、むしろ体力の続く限りは出来るだけ動くようにしていたんですけど……むぅ。


 ともかく、そうして歩けるようになったことで色々な情報を見聞き出来るようになって、この世界のこと、私の新しい家族についても分かって来ました。


 私が新たに生まれたのは、所謂剣と魔法のファンタジーのような世界。時代背景は中世……というよりは近世かな? その辺りっぽい雰囲気だけど、魔法のせいで独自の発達をしてて参考程度に考えておいたほうがいいかも。


 そんな世界にある、ストランド王国。その王都フォンタニエが私の住んでいる街の名前。

 王都と言うと所謂国の首都みたいなところだし、前世の東京とまでは言わないもののひっきりなしに家が立ち並んでいるようなイメージでしたけど、外に出てみれば普通に森もあるし山もあるし、思ったよりずっとのどかな光景が広がっていました。

 さすがに、見渡す限り畑! なんてこともなかったけど。

 そんな風に、見た目には結構穏やかな雰囲気漂う街ではあるけれど、そこはやっぱりファンタジー世界。森や川には野生動物みたいなノリで魔物が生息していて、時折街道や街中に現れては猛威を振るっているそうです。遭遇したことはありませんけど。何せ、まだ家の外をまともに出歩いたことありませんし。


 そんな街に住む私の家族は、両親と5歳年上のお兄様が1人。

 お父様の名前は、カロッゾ・アースランド。元王族近衛騎士団の一人にして筆頭騎士だった人です。獅子の鬣みたいな輝く金髪を短く刈り上げた偉丈夫で、蓄えられた顎髭もあって見るからに強そうで頼りがいがあって、まさに男の中の男って感じで憧れちゃいます。

 お母様の名前はカタリナ・アースランド。こちらはこちらで元宮廷魔導師だった人です。雪のように白い肌と華奢な体付きを持つ見た目とは裏腹に、その深い知識と絶大な威力を誇る魔法で多くの人の畏怖と尊敬を集めていたんだとか。

 最後に、お兄様の名前はユリウス・アースランド。お父様によく似た金色の髪を邪魔にならない程度に伸ばし、まだ顔立ちにはあどけなさを残すものの、入学したての身でありながらフォンタニエ王立学園初等部において既に並ぶ者はいないとまで称される剣の才能はお父様をして唸らせるほどだと言います。


 はい、ここまで話して分かる通り、ぶっちゃけ私のファミリーのスペックがやばいです。


 元が付くとはいえ、両親は共に王宮に勤めていた騎士と魔導師。強くて見てくれもよくて、正直自分の将来に期待しちゃうのも仕方ないと思います。これなら、私も今回の生では男らしくかっこいい生き方が出来るかも……ぐふふ。


 おっといけない、また変な言葉遣いが。


 二人とも王宮勤めだっただけに、礼儀作法には結構うるさいです。お父様お母様という呼び方も、まだ言葉が良く分からない頃にそう呼んでと言い聞かせられていたためにそれで定着しちゃいました。


 ともあれ、いくら遺伝子が良くてもだらだら不健康な生活を送っていれば体も成長しません。4歳にもなればそろそろ本格的に運動を始めて身体づくりをしてもいいはず。


 そういうわけで、まずは身体づくりの定番、筋トレあたりからやっていくことにします。


 まずは腕立て伏せ。あまり動き回るとお母様に心配されるので、料理で私から目を離している間に自分のベッドの上でやります。

 膝を付いて、手を付いて、つま先を起点に膝を持ち上げ……


 ぺたんっ


 …………。

 も、もう一度。

 今度は深呼吸して、一度息を止めながら……!


「ふんっ、んっ、ん~~~!」


 ぺたんっ


 ………………。

 なんですかこれ、1回も出来ないどころか腕立ての姿勢すら取れないんですけど。確かに、お父様でなくともお兄様に少し掴まれただけで折れそうなくらい細い腕ですけど、だからってここまで貧弱じゃなくてもいいんじゃないですか?


 仕方ない、次は腹筋です。

 ちょうど、子供用ベッドには寝相で落ちないようにするための柵が設置してあるので、寝転がったところでそこに足を引っかけて、頭の後ろに手を回して。


「んっ、ん~~~~!」


 ぷるぷるぷる。ぷるぷる。

 バタリ。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ」


 …………。

 まあ腕立ての時点で予想はしてましたけど、やっぱり1回も出来ないです。首が持ち上がっただけで背中が1ミリたりとも起き上がってくれません。


 さあキリキリと次次。背筋いっきまっすよー。

 うつ伏せに寝転んで、頭の後ろに手を回しつつ上体を起こすっと。


「ふんんん……!!」


 ぷるぷる。ぷるぷる。

 バタリ。


 …………。


 す、スクワット。


「はあ、ふぅ……よいしょ」


 一度立ち上がった後、手を頭の後ろに回したまま足の力だけでしゃがんで……


 こてんっ。


 …………………。


 えーっと、まあ、まだ4歳だし!! 筋トレ全滅してもまだ4歳だから!! 小さすぎて筋肉が未発達なだけだから!!

 ううぅ、こうなったらランニングです、少しでも運動して筋肉を付けないと!!


 そういうわけで、こっそりと家の庭まで移動。

 なんでこっそりかって? あんなしょっぱい筋トレでももう息が上がりまくってたからですよ!! あの状態で見つかったら絶対にお母様に止められちゃいます!!


 ともかく、今はまずランニングをしないと。

 ゆっくり深呼吸して、息を整える。

 軽く足を開いて……よーい、どんっ!


 こけっ

 バタンッ!


 ………………。


 転んだ。一歩目から転んだ。もう、泣いていいですか?


 とりあえず、あれですね。

 私の肉体スペック、恐ろしいほど低いです。それはもう、本当にお父様の子供なのか疑いたくなるくらい低いです。お母様だって若い頃は魔物狩りに奔走していたらしいから決して体力がなかったわけでもないはずなのに、なぜか私は病的なまでに低いです。


 あの神様、もう一度聞きますけど肉体はそのままって言ってましたよね!? 私、前世では確かに女子よりも低めの体力でしたけど、ここまで酷くなかったですよ!? それがあの両親の下に生まれ変わったのにこの弱さってどういうことですか!? あれですか、男から女の子に変わったせいで元の肉体スペックから更に女の子補正でスペックダウンとかそういう話ですか!? 答えてくださいよ、答えてくれないと泣きますよ!? 知ってますよ答えてくれないんでしょ!? うわーーーん!!


「あらいけない。リリィ、そんなところでどうしたの!? どこか怪我したの!?」


 ぐすぐすと泣いていたら、お母様が気付いて慌てて庭に飛び出してきました。

 私を抱き抱え、擦り傷を見つけて治癒魔法をかけてくれるお母様に申し訳なく思いつつも、私は決心する。


 こうなったら、意地でも男らしくなってやる!!!

神様「不備を直しただけです」

リリィ「うわーん!!」

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