第十七話 みんなで仲良く……出来たらいいですね
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放課後、ひとまず4人で中等部にあるお兄様の教室に突撃してみることになりました。
中等部と高等部は、初等部と違い剣技科、魔法学科に分けられていて、それぞれ1学年2クラスずつあります。お兄様たちは剣技科2年Aクラスなので、ひとまずそこへ向かうと、2人とも既に放課後の訓練のために第一訓練場……入学試験でも使われた体育館のような建物に移動したと言われ、教えてくれた人にお礼を言いながらそちらへ移動しました。
第一訓練場に入ると、もうすぐ行われる剣技大会に向けてか、放課後にも関わらずたくさんの生徒が集まって剣を打ち合っています。
その中でも、一際派手にぶつかり合う二つの影。言わずと知れた、お兄様とライファス先輩です。
魔法を使ってる様子もないのに、区切られたスペースの中を縦横無尽に高速で動き回り、お互いに隙を見ては幾度も剣を交錯させ、そのまま激しい打ち合いへと発展していく。正直なところ、今の私では魔法を使っても付いていけるか怪しいと思えるほどの戦いが繰り広げられていました。
「ふえー……やっぱりお兄様すごいですね」
邪魔にならない通路の端から2人の様子を眺めつつ、私は素直にそう零します。
いつも見ていたつもりですけど、改めて見るとまた一段と凄くなってますね。むぅ、また差が広がっちゃいました……
「兄貴も、見ねー間に随分強くなったんだなぁ……あんな楽しそうにしちゃってまぁ……」
私と同じようにその光景を見るヒルダさんも、ライファスさんを見てなんだか懐かしそうに目を細めています。
なんだかずっと会ってなかったみたいな口ぶりですけど……うーん……?
「はあ……やっぱりお二人ともかっこいいですね……」
そしてモニカさんは、戦う二人になんだかキラキラした視線を送っています。
……実はお兄様のファンクラブに入ってるとか言いませんよね? いやでも家で訓練してた時はそんな様子は……いえ、モニカさんはお兄様相手でもお母様やお父様相手でも恐縮しっぱなしでしたっけね……
「まあ、ユリウス先輩はとてもリリィのお兄さんだとは思えないくらい真面目な人だしね」
「ちょっとルル君それどういう意味ですか!! 私だっていつも頑張ってるんですよ!?」
少なくとも、4歳の時から一日も欠かさず訓練し続けてるくらいには真面目です!
「その努力を少しでも勉強と常識に向けてくれればいいんだけどね」
「むぐぐ……ってちょっと待ってください、勉強はともかく常識ってなんですか常識って! 私は常識人ですよ!?」
「えっ……むしろ今まで自分のこと常識人だと思ってたの……?」
「どういう意味ですかーー!!」
まるで常識が音を立てて崩れる瞬間を目にしたかのように言うルル君に、うがーっと踊りかかります。けれど、私の襲撃などなんのそのとばかりに軽くあしらわれ、片手で抑えられちゃいました。
むぐぐ……
「あれ、リリィじゃないか! どうしてここに? もしかして迎えに来てくれたのかい?」
と、そんな風にじゃれ合っている間に打ち合いがひと段落ついたのか、お兄様が私に気付いて声をかけてくれました。
意地悪なルル君は放っておいて、その嬉しそうな声に釣られた私はそちらにすぐに駆け寄ります。
「お迎えってわけじゃないですけど、もうすぐ剣技大会なのでエールを送りに来ました! どうですか? 優勝できそうですか?」
エールというなら当日が一番な気がしないでもないですけど、まあ前もって多めに言っておいて損はないですよね。
「応援してくれるのか? ありがとうリリィ。うん、リリィが応援してくれるなら、俺も優勝間違いなしだ!」
「ほんとですか? じゃあ、お兄様の試合、絶対見に行きますから、予選は頑張って勝ち抜いてくださいね!」
「もちろんだとも!」
剣技大会は、本戦のトーナメントは一種の運動会のような感じで学園全体の行事として執り行われますけど、その参加者を決める予選は各クラスごとに授業を使って執り行われるそうなので、さすがにそっちは応援できません。
「待て待て、僕のことを忘れて貰っては困るね。リリアナちゃんには悪いけど、君を倒し優勝するのはこの僕……」
そんな風にお兄様と話していると、ライファスさんが待ったをかけるように割り込んできます。
けれどその言葉は途中で途切れ、視線は私達の奥……私を追って近づいてきたヒルダさんに注がれていました。
「ヒルダじゃないか! なんだ、来てたなら言ってくれればよかったのに」
「別にいいじゃねーか。ここじゃなくても会おうと思えば会えるんだしよ」
「いやいや、兄妹たるものもっとこうして親睦を深め合うべきだと思うね!」
「ちょっ、こんなところでくっ付くんじゃねえバカ兄貴!!」
ライファスさんが突然にヒルダさんを抱き締め、慌てたヒルダさんがじたばたともがいています。
ふふふ、あんなに顔赤くして焦ってるヒルダさんは初めて見ました。可愛いですね~。
「あ、あの……ユリウス様……」
「ん? 君は確か、モニカちゃんだったよね」
「は、はい! あの、私、剣はできませんけど、リリアナさんと一緒にユリウス様のこと応援してます!」
「あはは、ありがとう、頑張るよ。これからもリリィと仲良くしてあげてね」
「はい!」
そして、そんな風ににやにやとヒルダさんを見ていた横では、なんだかモニカさんからキラキラしたオーラが……よっぽどお兄様が好きなんですね。やっぱりファンなんでしょうか?
「おいお前達、訓練しないならさっさと退け! 後がつかえているだろう!!」
そんな和やかな空気を打ち壊して響いた怒鳴り声に、思わずびくっと体を震わせます。
恐る恐る声の出どころを見やれば、一瞬先生かと見間違うほど体の大きな男子生徒がいました。
来ているブレザーの色が黒なので高等部の生徒なようですけど、熊のような大柄な体とは裏腹に、見るからに神経質そうな顔には青筋が浮かんでいて、物凄く怒っているのがありありと伝わってきます。
「す、すみません先輩。すぐに離れますので」
「ふん」
お兄様が頭を下げると、先輩は早くしろとばかりに鼻を鳴らされ、私達はその視線から逃れるようにひとまずその場を離れました。
「なんだいあの態度、全く偉そうに」
「そう言うなライファス、実際、この時期に訓練場の一角を占拠したまま長話してしまった俺達が悪いだろう」
私達が去った場所で早速訓練を始めた先輩とその取巻き(?)っぽい初等部と中等部の生徒を見ながらライファスさんが忌々しげに呟き、お兄様が窘めます。
お兄様はそうでもなさそうですけど、ライファスさんはなんだかすごくあの人のことを嫌ってるみたいですね。
「あの先輩、誰なんですか?」
「ゴトフリー先輩だよ。去年の剣技大会準優勝者。さっき教室で騒いでた賭けでも人気上位にいたでしょ?」
「あー、そういえばそんな名前もあったような……なかったような……」
ぶっちゃけお兄様とライファスさん以外興味なかったので全く思い出せないんですけど。
そんな私の反応を見て、「まあ、リリィだし」とルル君は諦め混じりの溜息を吐きました。むう。
でも、準優勝者ってことはかなり強そうですね。
「いつものことだからそれは置いておいて、ゴトフリー先輩は剣術の名門、サイファス侯爵家の長男だね。近衛騎士団にも結構な人材を送ってる大貴族だよ」
「へ~、そんなすごい人だったんですね」
しかも、準優勝してるってことは家柄だけじゃなくて腕前も本物ってことですよね。性格はちょっとキツそうでしたけど。
ていうか、ルル君ってほんとに物知りですよね……私と同い年だとは思えないです。
「ふん、大したことないさ。貴族だからって偉ぶって、僕らのような平民出の剣士が気に入らないのさ」
「それは違うだろう、単に、上級生として下級生には負けてられないと思ってるんじゃないか?」
「同じことだよ」
「そうか?」
ライファスさんが吐き捨てるように言えば、お兄様はフォローを入れる。
うーん、2人の話だけだと良い人なのか悪い人なのか判断に迷いますね。とりあえず、自尊心が強そうな人っていうのは分かりましたけど。
「さて。とりあえず、こんな形ではあるが訓練は終わったことだし、みんなで一緒に帰らないか? アイスくらいは奢るぞ」
「ほんとですかお兄様! やったー! お兄様大好きですー!」
パンっと手を叩いて少しばかり重くなった空気を吹き飛ばすようにして提案したお兄様に、私は一にも二にもなく抱き着きました。
アイスは偉大です、それさえあれば喧嘩はおろか戦争だって止まります! たぶん!
「おっと! あ、ああ。これくらいお安い御用だよリリィ」
お兄様は飛び掛かった私を受け止め、頭を撫でてくれます。
ふふっ、そういえばこんな風にお兄様に抱き着いたり撫でて貰ったりって久しぶりな気がしますね。最近はその相手も大抵ルル君でしたし。あっ、さっきモニカさんにも抱き着きましたっけ。
「それはいいね、ユリウスが奢ってくれるというなら、たんまりと食べさせてもらおうじゃないか!」
「待て、ルルーシュ達はいいが、お前には奢らんぞ! 自分で買え!」
「いいじゃないか、ケチケチするな。そんなことでは妹に嫌われるぞ」
「ぐっ!? そ、そうなのかリリィ!?」
「いえ、そんなことで嫌いになったりしませんけど……」
「ライファスーーー!!」
私から離れ、ライファスさんと取っ組み合いを始めるお兄様。
ほんと、仲が良い2人ですねー。
「はあ……いいですね……」
そしてそんな2人を、うっとりした目で見つめるモニカさん。
……えっ、モニカさんってもしかしてそっち系ですか? いや、まだ9歳ですし、違いますよね? あはは……
「とりあえず、あれどうするよ?」
そんな、友達の見てはいけない一面を見なかったことにしていると、ヒルダさんが未だにわいわい騒いでる2人を指差し嘆息します。
……えーっと。
「放っておけばそのうち収まるでしょ」
「……そうですね」
「まあ、そうだな」
ひとまず3人でそう結論を出して、しばしの間2人の上級生を生暖かい目で見守ることになりました。
……アイス、早く食べたいなぁ。
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