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第十六話 賭けるなら勝つ人より勝って欲しい人です

毎日更新してる人ってすごいですよね……休日使わないと一日じゃ無理です(´・ω・`)

「リリアナ、私は面倒事は嫌いだ」


「はい先生、私も嫌いです、私達気が合いますね!」


「うんうん、そうだろうそうだろう。……そういうわけで言い訳無用だ、お仕置きしてやる」


「待ってくださいごめんなさい言い訳くらいさせてください! そもそもあれは人助けのためにやったことでいたぁぁぁぁい!?」


 パチーン! っと音を立てて先生の張り手が炸裂し、私のお尻に痛みが走ります。

 はい、現在職員室にて、絶賛お説教されているところです。

 理由は先日の森での戦闘、蟻を駆逐するために絶大なる自然破壊をしたことについてです。


「そうかそうか、森の1/5を荒野に変える人助けとはよほど強敵だったんだな。ドラゴンでも出たのか? んん?」


「あ、あはは……」


 パチーン!


「いたぁぁぁぁい!?」


 あのビッグアントっていう魔物、数こそ尋常じゃないので一般人や軽装の冒険者などにとってはかなりの脅威ですし、放っておけば近隣の農作物が荒らされる厄介な存在ですけど、攻撃力も防御力も貧弱なので全身金属鎧(フルプレートメイル)に身を包むなり、『プロテクション』で体を保護するなりすればそれだけで完封出来るんだそうです。

 なので、巣を発見した場合は騎士団に通報され、全身金属鎧(フルプレートメイル)が標準装備になっている重装部隊が駆除に当たるのが通例なんだとか。それも、駆除する時は気づかれないように巣の入り口まで迫り、出て来る蟻を1匹ずつ順番に狩っていく方針を取るので当然森への被害なんて出ません。

 魔法の連発……しかも、かなりのオーバーキルで真正面から撃ち破った私の戦いはそれはもう森に甚大なる被害をもたらしました。

 具体的には、森の浅い部分がビッグアントと私の魔法で大いに荒らされて魔物の住める場所ではなくなったため、多くの魔物は森の奥に引っ込んでしまい冒険者さん達のお仕事が激減したんだとか。

 って、魔物被害が減ったんならいいことじゃないですか!! これで怒られるなんて理不尽です!!


「まだ反省してないようだから、お尻ぺんぺんあと100回なー」


「いえ先生待ってください私はもう十分に反省していたぁぁぁぁい!?」


 再び職員室内に響く張り手の音。

 どうでもいいですけど、ここ職員室なので周りの先生達の心配するような、呆れるような微妙な視線が痛いのでせめて2人きりの場所でやって欲しかったなぁ……

 いえ、別にそういう性癖があるわけじゃないですよ? 先生は確かに美人ですけど、私はノーマルです、はい。

 などとどうでもいいことを考えながら、私は必死に襲い来る痛みに耐え続けることになりました。





「うぅ……まだお尻がひりひりします……」


「いやあははは、災難だったなリリィ」


 休み時間の教室で、机に突っ伏しながら叩かれたお尻を摩っていると、前の席に座るヒルダさんが笑いながら話しかけてきました。


「もう、災難なんてもんじゃないですよ! ていうかなんで私だけ怒られてるんですか! ヒルダさんやルル君だって一緒だったんですから一緒に怒られてくださいよ!」


「そりゃやったのはリリィだし? なあルルーシュ」


「そうだね、リリィはもうちょっと自重することを覚えなよ」


「待ってください、百歩譲ってヒルダさんはいいとしても、最後に『流星雨(スターダストレイン)』を撃つように言って来たのはルル君じゃないですか! ルル君は同罪です! 一緒に怒られるべきです!」


「僕は一言もあんな魔法撃てなんて言ってないし?」


「うわぁーーーん!! ルル君の裏切り者ーーー!!」


 隣で立っているルル君をポカポカ叩きますが、全く堪えた様子もなくむしろ頭を撫でてきます。

 ぐぬぬ、上手くあしらわれてる気がする……!


「え、えっと、リリアナさん、お尻なら私が治してあげますから、落ち着いてください……」


「うぅ、やっぱり私の味方はモニカさんだけですーー!!」


「ふぇええええ!?」


 間に入るように現れたモニカさんに、感極まってがばぁっと抱き着きます。

 はふぅ、抱き着いた瞬間漂ってくるこの優しくて甘い香り、癒されますね~。あと、私に当たる二つの柔らかな感触が……ぐへへ。


「ああああの、このままだと治せないですから……!」


 はっ、いけないいけない、あまりの抱き心地に少しばかりトリップしてました。出来ればもう少し堪能したいところですけど、まずは自分のお尻のひりひりを治すのが先決ですね。


「『ヒール』」


 一度離れて後ろを向くと、モニカさんが私のお尻の辺りに手を添えて、魔力を込めてくれます。

 な、なんというかこう、好意でやってくれているだけなのは分かってるんですけど、可愛い女の子にお尻を向けて治療して貰ってるってすごい絵面ですね。なまじ相手はまだ9歳ですしすごい犯罪臭が……いえ、今は私も9歳の女の子なんですけどね?


「終わりました。どうですか?」


「はい、痛みもすっかり引きました! ありがとうございます、モニカさん!」


「い、いえ、これくらいは大したことないですから……」


 恥ずかしそうに謙遜するモニカさんを見てまた抱き着きたくなりましたけど、さすがに何度もするのは迷惑でしょうからひとまず自重します。あんまりやり過ぎると私の男の部分が出てきちゃいそうですし。


「まあそれはそうと、クラスのみんなはさっきから集まって何を騒いでるんですか?」


 話がひと段落したところで、ずっと気になっていたことを切り出します。

 私がアメルダ先生のお説教(という名のお仕置き)を受けるために教室を離れている間に、教卓のあたりにクラスの大多数の生徒が集まり何やら楽しそうに喋っていました。

 すごい熱の入りようですけど、何かイベントでもあるんでしょうか?


「ああ、賭けだよ賭け」


「賭け? ギャンブルですか?」


「ああ。剣技大会で誰が勝ちあがるかって賭けしてんだとさ」


「へー、剣技大会の……剣技大会!?」


 あまり興味なさげに紡がれるヒルダさんの言葉に、私も大した話ではないかと軽く聞き流していましたが、聞き捨てならない単語に思わず身を乗り出します。


「そ、そういえば今まで聞いたことありませんでしたけど、剣技大会っていつ開催されるんですか!?」


「来週には予選が始まるぞ」


「えぇぇーーー!?」


 来週!? ただでさえちっとも上達してないのに、このタイミングでですか!?


「ていうかなんでみんな知ってるんですか!? 私は知らないのに!」


「アメルダ先生が歴史の授業中についでみたいに言ってたよ。リリィは聞いてなかったみたいだけど」


「なんでそんなところで説明してるんですか!? 普通ホームルームとかで言うことですよね!?」


「いや、寝てるリリィが悪いと思うよ……」


 アメルダ先生の悪意を感じます! いや確かにルル君の言う通り寝てた私が悪いんですけど!


「うぅ、じゃあ今から特訓を……」


「今の今それで怒られたばっかりじゃないか、今回は諦めなよ」


「うぐぐぐぐ!」


 諦めきれないですけど、確かに僅か1週間じゃ剣技を上達させるには時間が足りなすぎますね……今回ばかりは()()()諦めたほうがいいかもしれません。


「そういえば、みんなは賭けやらないんですか?」


 ひとまず話題を変えようと思い、ふと疑問を覚えたことを聞いてみました。

 あんな集まりがあるんですし、私を待ってないで一緒に盛り上がってもよかったと思うんですけど。


「オレは賭けとか興味ねーし」


「私はその……賭け事はよくないと思うので……」


「賭ける物がお菓子じゃちょっとね……」


 すると、三者三様の答えが返って来ました。

 っていうかルル君、お菓子じゃちょっとなんですか、お菓子は大事ですよ!!


「なるほど……けど賭けですか。お兄様ってどれくらい人気なんですかね?」


 ふと思ったのは、既に中等部最強と名高いお兄様。去年は8位止まりでしたけど、それより上はほとんどが高等部3年の生徒だったので卒業済みですし、私が賭けるとしたらお兄様一択です。

 ……いえ、いっそ本当に賭けてみましょうかね? ルル君の話を聞くにお菓子を賭けの対象にしてるみたいですし、もし負けてもそう困りません。お菓子をがっぽり手に入れるチャンスです。ぐふふ。


「ユリウス先輩なら結構な人が賭けてるみたいだよ。ファンクラブとかあるみたいだし」


「えっ、お兄様そんなのあったんですか」


 確かに、お兄様はお父様譲りの金髪とキリっとした顔立ち、それに優しい性格と天才の名を欲しいままにする強さを併せ持っています。恐らく、家柄を除く女の子が望む全てを持っていると言っても過言ではないでしょうし、言われてみればそんなのがあってもおかしくはないですね。いっそ、私も入ってみましょうか? ……いえ、何か変な活動で訓練の時間を取られるのも嫌ですし、やめておきましょう。うん。


「中等部の先輩だと、他はユリウス先輩のライバルだって言われてるライファス先輩くらいかな。あの人も去年は予選を突破して学内16位だったみたいだし、期待されてるみたいだよ」


「あー、ライファスさんですか。確かに強いですもんね」


 あまり直接話す機会は多くありませんでしたけど、道場でお兄様と2人で模擬戦をしているところは何度か見ているのでその実力はよく知っています。若干お兄様が勝ち越してこそいますが、あの軽薄そうな態度からは想像もできない苛烈な連撃は、髪の色と相まってまるで炎のようでいて、凄くかっこいいです。

 ……そういえば。


「ライファスさんとヒルダさんって似てますよね」


 ふと、そんな風に思って聞いてみる。

 使っている武器こそ双剣と直剣で違いますが、炎のような赤い髪と連撃を主とした攻撃重視の戦い方など、何かと共通点は多いです。それによく考えたら、ファミリーネームも同じだったような……


「ん? そりゃまぁ、ライファス・スクエアはオレの兄貴だし」


「えぇ!? そうだったんですか!?」


 ま、全く気付きませんでした……


「へー、もしかしてとは思ってたけど、本当にそうだったんだ。けど、ヒルダってアースランド道場には通ってなかったよね?」


 ルル君も、珍しく意外そうな声を上げています。

 そう、絶対というわけではないにしろ、お兄さんが道場通いしていて同じ道を志すなら、同じ道場に通っていそうなものですけど、ヒルダさんはお父様の道場で見たことがありません。それもまたライファスさんとの繋がりに気付けなかった理由です。


「あー、ほら、うちってさ、“男が女を守り女は男を影から支えるべし”みたいな家訓があってな。そういう道場には通わせてもらえなかったんだよ」


「へ~」


 ライファスさんの言ってた、「女性には優しくせよという家訓がある」って本当のことだったんですね……てっきりでまかせかと思ってました。


「じゃあ、今年はお兄様とライファスさんの2人で剣技大会はワンツーフィニッシュですね! 優勝するのは当然お兄様ですけど!」


「リリィってなんだかんだ言って結構ブラコンだよね……」


「むぅ、そんなことありませんよ!」


 失礼な、私はただ客観的事実を言っただけです。お兄様が負けるところなんて想像できませんもん。

 いえ、去年負けてるから8位だったんですけど、それでもやっぱり想像できません。


「家族と仲が良いのはとてもいいことだと思います。だから、恥ずかしがらなくていいと思いますよ?」


「うぅ、モニカさんまで……」


 ルル君のは呆れ半分と言った感じですけど、モニカさんのは心からそう思ってる感じがするのでいまいち否定しづらいです。

 まあ、お兄様のことは好きですし、仲が良いのは事実ですけどね。


「それじゃあ、2人の勝利を願って少しこの後激励しに行きましょう! ライファスさんにも久しぶりに会いたいですし」


「んー……まあいいか、いいぜ、付き合うよ」


 少しだけ悩むような素振りを見せたヒルダさんでしたけど、さほど時間をかけずに頷いてくれました。

 面倒臭がっているというよりは、会っていいものか悩んでるという感じですけど、兄妹喧嘩でもしてるんでしょうか? あんまりそういう感じでもなさそうですけど……


「僕も行くよ、リリィだけ行かせるとこの大事な時期に2人に自分の訓練付けてくれーなんて言って邪魔しそうだし」


「し、しませんよそんなこと!」


 ちょっとだけ、そう、ほんのちょっとだけ、考えてなくもなかったですけど、ほんとにちょっとだけですから!


「私も付いて行っていいですか? ユリウス様にはお世話になりましたからご挨拶したいですし」


「はい、もちろんです!」


 モニカさんは私と一緒にお母様と訓練していた時、お兄様にも会っています。

 それにしても、ユリウス様って……なんだか、モニカさんって私の家族のことやたら神聖視している感じがしますけど、そんな大したものじゃないですよ? 凄いは凄いですけど、お父様もお母様もどこにでもいる普通の夫婦ですし、お兄様はただの過保護なお兄ちゃんですし。


「それじゃあ放課後、多分2人で特訓してるでしょうから、会いに行きましょう!」


 ひとまずそう方針を固め、私はふとみんなが集まってる賭場(?)に向かいます。

 そこに置いてあった、オッズを記した紙。


 1番人気:ユリウス・アースランド

 2番人気:ライファス・スクエア

 3番人気:ゴトフリー・サイファス


 ……お兄様もライファスさんも、高等部の人達を差し置いて1番人気と2番人気を抑えるとはやりますね。まあ、賭けるものがただのお菓子ですし、本気で勝てる人よりも話題性のある人に賭けたいということなのかもしれません。

 とりあえず、ポケットから飴玉を数個取り出して、管理しているらしい子にお兄様に賭ける旨を伝え、私はみんなのところに戻っていきました。

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