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第十五話 VS巨大蟻です!

※なるべくマイルドな表現になるようにはしていますが、虫に関する不快な描写があるので苦手な方はバックしてください

 オウガの鼻を頼りに、オウガの背に乗って森の中を突っ切ることしばし。やっと木々の切れ間から、人影らしきものを確認できました。

 時折キラキラと光っているのは剣でしょうか? 動いてるみたいですし、間に合ったみたいですね。よかったです。


「むむ? あれなんでしょう?」


 けど、その更に奥は、昼間なのに不自然に暗いです。

 まるで、真っ黒な壁があるような……なんでしょう、すごく背筋がぞぞっとします。これが嫌な予感ってやつでしょうか?

 うーん? よく見れば、壁が動いているような……? 何かの魔法でしょうか?


「大地よ、盾よりもなお硬き堅牢なる城壁となりてそびえ立て。」


 もし魔法なら、あそこにいる人がピンチです。どんな魔法か分かりませんし、とっておきの防御魔法で防いでやります!


「哀れなる我が身に、迫りくる脅威を退ける守護の力を! 『ファランクス』!!」


 オウガに乗ったまま、迫りくる壁に剣を振って牽制しながら後退していた人の前に躍り出て、魔法を発動します。

 私を中心に、冒険者の人ごと囲うように黄色の魔法陣が幾重にも重なり合って展開し、押し寄せてきた黒い壁を押し留める。

 ふふふ、やっぱり地属性魔法は暴発せずにちゃんと発動しますね。今の激突もあんまり強い衝撃は来なかったですし、これなら何発だって耐えられそうです。


「なっ!? これは、一体……!?」


 冒険者の人が、私の魔法を見てびっくりしてます。

 ふふふ、何せ私が渾身の力を込めて発動させた障壁ですからね、さっきのキングエイプはもちろん、お父様にだって簡単には壊されない自信があります! そんじょそこらの魔物じゃ束になったって破れません!

 自分の魔法の出来栄えに満足しながら、私はひとまず説明よりも前に目先の脅威を排除しようと、オウガから飛び降りながら木剣を抜き放ちます。


「さあ、ここからは私が相手ですよ!」


 そう宣言しながら、黒い壁のほうへ向けて木剣を突きつける。

 私としては黒い壁の先に、この魔法を使った魔物がいると思ってました。でもよく考えたら、冒険者のおじさん達が襲われていたのはこんな大規模な魔法を使える強力な魔物じゃなくて、群れだったはずです。


 おかしいなと、改めて黒い壁を注視する。

 普通に考えれば、気付かないわけはありませんでした。それでも全く気付かなかったのは、私がギリギリまでそれが本当に“それ”であると認めたくなかったのかもしれません。

 壁だと思っていた真っ黒なそれ。よく見れば、『ファランクス』の魔法障壁にぶつかった後も動いていました。

 真っ黒な胴体。カサカサと不快な音を立て動く細い足。そして、無機質にこちらを見ている巨大な複眼。

 たぶん、誰でも知っているでしょう。家の中だろうと外だろうと、どこにだって現れる最もありふれた昆虫。

 蟻……それもかなり大きな蟻が、視界いっぱいに、それこそ黒い壁のように、仲間同士押し合いへし合いながら、数えるのもバカらしいほど大量に蠢いていました。


「き……きゃあぁぁーーーーーー!!?」


 なんですかこれぇーーー!? きも、気持ち悪い、すごく気持ち悪いです!! 虫嫌いの私だって、別に蟻はそこまで苦手じゃなかったですよ? でもこれはダメです、NGです!! 蟻って拡大するとこんなに気持ち悪いんですか!? 私の腰くらいのサイズですけど、巨大化するだけでこんなにも嫌悪感を催しますか!? ぶっちゃけこれなら台所の黒いGさんのほうがまだしも可愛げが……いやないですけど、でもそんなレベルのが大量に目の前でうようようようよ……もうやだっ! 私帰るーー!!


 そう思って振り向けば、もうとっくに蟻の魔物達は私を包囲して、『ファランクス』を破ろうとガンガン障壁に顎をぶつけていました。

 冷静に考えればそんな攻撃、数や回数に任せて破れるような威力じゃないことは分かります。けど、私はそれを見てどうしても想像してしまいました。

 あの障壁が破られ、無数の蟻に集られるその光景を……


「い……いやぁぁーーーー!! 来ないでぇぇーーーー!!」


 押し寄せてくることはないと分かってるんですけど、もう我慢なりませんでした。私は木剣を捨てて正面に両方の掌を向け、ただただ適当に頭にぱっと浮かんだ魔法をぶっ放します。

 白い魔法陣から閃光が煌めき、解き放たれた光線は魔法障壁を素通りし、目の前にいた蟻を残らず消し飛ばす。

 『ファランクス』の魔法障壁は、外からの攻撃は防ぎますけど、中から外への魔法だけは素通りするので、こういう時はとても便利です。けれど、蟻は周囲に無数にいて、たかが数体屠ったところでなんの問題もないとばかりに障壁に纏わりついてきます。


「来ないで来ないでぇぇーーー!!」


 撃つ。

 放たれた光の砲撃が僅かでも掠った蟻を纏めて消し飛ばして、包囲に穴を穿つ。


 カサカサ。

 後からやってきた蟻が、空いた穴を塞ぐように集まってくる。


 撃つ。撃つ。

 カサカサ、カサカサカサ。


 撃つ、撃つ、撃つ。

 カサカサカサ、カサカサカサカサ。


 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


「もおぉーーー!! どうなってるんですかこれーーー!!」


 撃っても撃っても、倒しても倒しても、むしろ増えているんじゃないかと思うほど蟻が集まってきます。

 ほんとなんなんですかこの魔物、こんなのどうやって討伐しきればいいんですか!! 魔力はまだまだ平気ですけど、もう、見てるだけでも私の心のHPがガリガリ削られていってる気がします。

 あ、そうだ、それなら見なければいいんだ。どうせどこに撃ってもたくさんいますし、いっそ適当にぶっ放しましょう。

 我ながら名案だと思いながら目を閉じて……


 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


 ひあぁぁーーーー!? 不気味な足音が余計に聞こえてきてめちゃくちゃ怖いです!! これ以上こんな足音を目を瞑ったまま聞いてたら、私もう怖くて夜に一人で出歩けなくなっちゃいます!! これならまだ見えてたほうが……ひいぃ! やっぱり見えてるのもいやぁーーー!!


「じょ、嬢ちゃん落ち着け!! ビッグアントは単体じゃEランクの魔物だ、そんな強力な魔法撃たなくても、もっと弱い魔法でいい! それか、広範囲を一気に薙ぎ払える大規模魔法を!!」


 突然後ろからかけられた声に、思わずびくっと体を震わせながら振り返ります。

 あ、ああ……そういえば、私ってこの人を助けに来たんでしたっけ。あの魔物のあまりの気持ち悪さにすっかり忘れてました。

 それに、言われてみれば確かにこの状況は大規模魔法が一番です。ご期待にお応えして全力でぶっ放してやりましょう!!


「分かりました! ……煉獄より来たれ氷結の息吹。大地を覆う永久の牢獄となりて、愚かなる咎人達に終わりなき絶望を。」


 発動位置は私を中心に、効果範囲は『ファランクス』の外! さあ、汚物は消毒です!!


「現界せよ、凍獄!! 『極寒地獄(コキュートス)』!!」


 入学試験で使った、水属性大規模上級魔法。ちょうど、魔法障壁から突如氷が生えたかのように周囲が一斉に凍り付き、纏わりついていた巨大蟻達を一気に無力化します。


「ふぅ、流石に焦りましたけど、これでもう大丈夫ですね!」


「ああ……すげえな嬢ちゃん。こんな規模の魔法をそんな歳で使うなんてな……」


「えへへ……」


 現役の冒険者さんに褒められると、家族や友達に褒められるのとはまた違った嬉しさがありますね。ふふふ、もっと褒めていいのよ?


 カサ……カサカサ……


 しかしこう、生きたまま氷漬けになっている蟻の群れなんて見てると、凄く不安になってきますね。なんだか、今にも動きだしそうで。


 カサカサカサカサ。


 …………あの、さっきから聞こえてるこの音ってなんでしょうね? ははは、いや、Eランクに破られるほど柔な氷じゃありませんよ? それに万が一破れたとしても、こちらには『ファランクス』の障壁が……


 カサカサカサカサカサカサカサカサ。


「ひぃぃぃぃ!!?」


 上ってきたーーー!? 『極寒地獄(コキュートス)』で出来た足場を使って『ファランクス』の障壁を乗り越えるなんてそんなのアリですか!? 蟻だけに。

 ……ってそんなこと言ってる場合じゃないですーー!!


「おじさんどういうことですか!! 完全に裏目に出てるじゃないですかーー!!」


「俺のせいなのかこれ!?」


 とりあえず冒険者のおじさんに八つ当たりするも、状況が良くなるわけもなく。

 早速、ビッグアントが三匹、障壁を超えてこちらに向かって飛び掛かって来ました。


「ガアァァァ!!!」


 そこへ向けて、突然オウガが咆哮する。

 それと同時に緑の魔法陣が展開され、音が衝撃波を伴って飛び掛かってくる蟻へと叩きつけられ、一撃で三匹全て破裂しました。


「ひえぇ!? 『ホーリーブラスター』!!」


 オウガが魔法を使った。それも驚きですけど、今はそれに反応している場合じゃありません。さっきから連発してたのと同じ光魔法をぶっ放し、オウガが破裂させた蟻の残骸を残らず消し飛ばします。


「ちょっ、嬢ちゃん、今のもう追撃する必要なかったろ!?」


「何言ってるんですか、あのままほっといたら蟻の血とか体の一部とか色々降ってくるところだったんですよ!? あんなの浴びたら死んじゃいます!」


「いや、ビッグアントの体液に毒性はねえから……」


「私は死んじゃうんですっ!!」


「あっはい」


 うぅぅ、想像しただけで気持ち悪くなってきました……うえぇ……


「って、そんなこと言ってる場合じゃねえ! ビッグアントがどんどん障壁を乗り越えて来てやがる、嬢ちゃん、あの氷なんとかできねえか!?」


 私が自分で想像した光景でダメージを受けてる間に、オウガと冒険者のおじさんは降りて来た蟻を順番に駆除していました。見渡せば、速度にばらつきはあるものの、ほぼ全方位が突破されそうになっています。


「いやぁーーー!! 来ないでーーー!!」


 おじさんの言葉に従ったわけではないですけど、とにかく目に付いた蟻を追い払おうと『ホーリーブラスター』を連発して、ついでのようにその先にある氷が砕け散っていきます。

 オーバーキル? 知ったこっちゃないです!! というかこれくらいの火力で塵一つ残さないようにやらないと周りが死骸だらけになって私が色々とダメなことになっちゃいます!!

 そうして氷の足場はなくなりましたが、一度乗り越えればいいと学んだ蟻は、なんと自分の仲間を足場にして上り始めました。一発魔法を撃ちこめばその足場も崩れますが、そんなのが全方位で作られていくので視界が完全に蟻一色に染め上げられていきます。

 右も左も後ろも正面も、どこを見ても蟻蟻蟻蟻。


「うわぁぁーーん!!」


 軽く発狂気味に叫びながら、私はとにかく四方八方に魔法を撃ち続けます。


「ちょぉ!? お嬢ちゃんストップ、ストーーーップ! 俺に、俺に当たるから! 俺当たったら死ぬから!! うおぉぉーーーー!?」


 なんだか声が聞こえた気がしますけど、そんなのに構ってる余裕はありません! 一刻も早く目の前の蟻を殲滅しないとこのままじゃほんとに集られます!! 『プロテクション』を使って体を保護してれば痛くはないのかもしれませんけど、あんなのが体を這い回ったら私それだけで絶対死にます!!

 けど、こんなに多い敵を、それも一匹一匹過剰な火力で消し飛ばすような真似をし続ければ、いくらなんでも魔力が持ちません。段々私の魔力量にも底が見え始めて、それが焦りに繋がり余計無駄が多くなっていきます。


「う、うぅ……ルル君助けてぇーーー!!」


 いつもなんだかんだ言いながら助けてくれる幼馴染の顔を思い浮かべながら、残りカスのような魔力を使って魔法を撃ち続けます。

 すると、


「分かったよ、だから落ち着きなって、リリィ」


 聞きなれた声が、空から降ってきます。そして、魔法を撃つために伸ばされた手が優しく掴まれました。


「あ……ルル君ーーー!!」


 気づくと同時に、私はむぎゅっとルル君に抱き着きました。

 ぐえっとなんだか苦しげな声が聞こえた気がしましたが、そんなことはどうでもいいです!


「遅いですよ、早く助けに来てくださいよーー!! ていうか、ビッグアントって蟻のことだったんですか、聞いてないです聞いてないですーー!!」


「ごめんごめん。けど、遅いも何もリリィが一言の相談もなしにオウガに乗って行っちゃったから仕方ないじゃない。あとビッグアントは昨日の授業に出てたでしょ、またうたた寝して聞いてなかったね? リリィ」


「うぐっ」


 抱き着いた私の頭を撫でてくれながらも、じとーっとした視線を向けてくるルル君。

 すーっと目を逸らしていると、やがて一つ溜息を吐いて私の体を離しました。


「まあ、お説教は後だね。リリィ、まだ魔力はあるでしょ、一気に周りのビッグアントを吹っ飛ばして」


「えぇ!?」


 助けに来てくれたかと思えばまさかの丸投げですか!?


「嫌ですー!! もう蟻なんて見たくありません、ルル君倒してくださいーー!!」


 もう魔法越しでもあんなのに触りたくないです! いえ、魔法で触るっていうのも変な言い方かもしれませんけど、ともかく嫌なものは嫌なんですー!


「仕方ないなぁ……ほらリリィ、こっち見て」


「ふぇ?」


 ルル君が私の頬に手を添えて、まっすぐに視線を合わせました。

 吸い込まれるような藍色の瞳がじっと私を見て……一瞬、妖しく紫色に光った……ような、気がしました。


「あれ……?」


 そして気づけば、私の心はびっくりするくらい落ち着きを取り戻していました。


「ほらリリィ、見なくていいし聞かなくていいから、全力で撃って」


 そう言って、ルル君は私の両耳を手で塞いでくれます。

 視界の端で冒険者のおじさんやオウガ、それに、いつの間にか来ていたヒルダさんが戦っているのがちらっと見えましたけど、ルル君が顔を近づけてくると、それすらも視界に入らなくなりました。


「……はい!」


 落ち着きを取り戻した頭で、今の私に撃てる最大規模の魔法を思い浮かべる。

 さっきまではパニックになってて撃つ余裕はありませんでしたけど、今なら、全力でやれるはず。


「天にあまねく輝く星々よ。聖なる光の雨粒となりて大地を満たし、悪しき魂を洗い流せ。」


 私を中心に、巨大な白い魔法陣が足元に広がる。それと同時に、空にはそれと同じ小さな魔法陣が折り重なって大量に出現します。

 直接それを目で見て確認出来ないのでアレですけど、でも不思議と、今はそれがちゃんと上手く行っていると感覚で分かりました。


「降り注げ、星天! 『流星雨(スターダストレイン)』!!」


 空の魔法陣から、無数の光が降り注ぐ。一発一発は『ホーリーブラスター』には及びませんけど、数百に上る光の柱は文字通り雨のように隙間なく降ってきて、回避の隙間を与えません。

 ……味方にも。


「どわぁーーー!? 死ぬ、本当に死ぬーー!!」


「だらしないおっさんだな、リリィだって疲れて全力じゃないみたいだし、冒険者なら防いでみせろよ」


「むしろ嬢ちゃん達はなんでそんな涼しい顔して防げるんだよ!?」


 なんだか薄らとおじさんの叫び声が聞こえたような気がしないでもないですけど、私はルル君に耳を塞がれてて聞こえるわけありませんから気のせいですねきっと。

 ルル君なんて私のほうを見たまま風魔法だけで自分と私に降ってくる分を逸らしてるくらいですし、本職の人が防げないわけありませんもんね。


 そうして十数秒間、降り注いだ光の雨が止むと、やっとルル君が私から離れました。


「お疲れ様リリィ、片付いたみたいだよ」


「あ、はい、ルル君」


 ルル君が離れたことで改めて周りを見渡せば、ヒルダさんとオウガは終わった終わったって感じでまったりしていて、冒険者のおじさんはなぜだか大の字に寝転んで真っ白に燃え尽き、蟻は一匹もいなくなっていました。


「よ、よかったぁ……」


 ルル君が離れると、さっきまで落ち着いてた心に再び恐怖心が蘇って来ます。

 うぅ、蟻嫌い……もう二度と見たくないです……


「しかしリリィ、派手にやったよね……」


「へ?」


 ルル君に言われて周りを見て、ようやく私もその惨状に気付くことが出来ました。

 先ほど撃った『流星雨(スターダストレイン)』によって私のいる周辺20メートル前後は完全なクレーターに成り果て、自分達が座っていた場所以外は雑草の一本たりとも残っていません。

 しかもそこから森のいたる方向に向けて木々が吹き飛び、地面が掘り起こされた道が数十メートルに渡って続いています。たぶん、パニックになりながら連発した『ホーリーブラスター』の破壊痕でしょうね。

 下手しなくても、環境保護団体から物凄い抗議を受けそうな状態です。そんな団体がこの世界にあるのかは知りませんけど。

 ……え、えーっと……


「る、ルル君、一緒に怒られてくれませんか?」


「嫌だよ」


「そ、そんなぁーー!!」


 うぅぅ、私は人助けしただけなのに……い、いえまだ希望を捨ててはいけません、もしかしたら他の誰も気づいてない可能性もありますし!


「まあ、取り合えず、いつまでもここにいるのもなんだし帰ろうか。冒険者ギルドへの報告と女王蟻の討伐は向こうでやってくれるだろうし」


 そう言って、ルル君が私に手を差し伸べてくれます。

 それを取って、歩こうと一歩踏み出したところで、私はふらっと倒れ込みました。


「おっと、リリィ、大丈夫?」


「す、すみませんルル君……さすがにちょっと疲れたみたいです」


 魔力枯渇って、初めて経験しますけど、中々辛いですね……体が疲れてるのとはまた違った疲労感が……


「仕方ないな……よいしょっと」


「ふぇ」


 おもむろに、ルル君が私の背中と足に手を回し、そのまま抱き上げられます。いわゆる、お姫様抱っこってやつですね。


「今の状態じゃオウガに乗って帰るのも難しそうだし、僕が家まで送ってあげるよ」


「す、すみません……えっと、謝りついでにお願いがあるんですけど……」


「ん? 何?」


「……今日、ルル君家で一緒に寝てもいいですか? 一人だと今日の蟻が夢に出てきそうで……」


 どうやったか分かりませんけど、さっきルル君が傍に居てくれた間は恐怖心がなくなりました。

 怖くて誰かと寝るなんてカッコ悪いですけど、せめて今日だけはそうしないとロクに寝れない気がします。今も目を瞑ればあいつらの足音が……ひいぃっ、思い出すんじゃなかったです!!


「いいよ、それくらいは。けど宿題はちゃんとやりなよ?」


「うぐっ、は、はーい」


 あわよくば心が弱ってることを理由に宿題を回避しようと思ってたのに、先手を打たれましたか!

 まあ、それはいいです。夜の不安がなくなっただけよしとしましょう。


「お前ら本当仲いいよなー」


「ガウッ」


 そんな風にルル君と私が話してるところへ、ヒルダさんとオウガがやって来ました。ヒルダさんが何やらニヤニヤしてますけど、何か面白いことでもあったんでしょうか?


「幼馴染ですし、これくらい普通です」


 でもそういえば、ルル君とはあんまり喧嘩したことありませんね。私、結構本音でぶっちゃけることも多いんですけど、大抵ルル君が折れてくれますし……うーん、今度何かちゃんとお礼したほうがいいですかね?


「あーもう、変なこと言ってないで、帰らないなら置いてくよヒルダ!」


「おーおー怖い怖い」


 なぜか赤くなったルル君を見ながら、ふとそんなことを考えて。

 私達は散々暴れ回った森を後にしました。

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