第十三話 実戦に勝る訓練なしです!
タイトルはこうなってますが実戦は次回です
入学より一か月が経ち、五月になりました。
幸いにして五月病なんて言う病を発症することもなく、モニカさんと2人魔法の練習に励む日々を送っています。
まあそうは言っても、私はどちらかと言うと感覚派で人に教えるのは得意ではないので、家に招待してお母様に一緒に教えて貰うことにしました。お母様を見た瞬間気絶しそうになったモニカさんは可愛かったです。
そんなわけで、今は家の庭先でこの一か月の成果を披露しているところなんですが。
「放て、火炎の砲撃。『ファイアボール』」
モニカさんが詠唱すれば、赤い魔法陣から炎の砲撃が放たれ、
「貫け、氷結の槍撃。『アイスジャベリン』」
青い魔法陣からは氷の槍が飛び出し、
「奔れ、神速の雷鳴。『ライトニング』」
緑の魔法陣からは雷が迸り、
「圧し潰せ、巨岩の大槌。『グランドハンマー』」
黄色の魔法陣からは岩の塊が出現し、
「聖なる光よ、悪を滅せよ。『ホーリーレイ』」
白い魔法陣からは光が降り注ぎ、
「邪なる牙よ、その魂を噛み砕け。『ダークネスファング』」
黒い魔法陣からは黒い狼の顎のような不気味な塊が飛び出し、地面を抉ります。
……うん、とりあえず、これはあれですね。……なぁにこれぇ。
「すごいわね~モニカちゃん。こんなに早く全属性使いこなせるようになるなんて」
「い、いえ……カタリナ様のご指導のおかげです……」
そう、モニカさん、一か月前は回復魔法しか使えないとか言っていたのに、光属性の攻撃魔法はおろか他の属性まで全部問題なく使えるようになっていました。
私ですか? 未だに暴発三昧ですよ、HAHAHA。
いやもう、本当に……なぁにこれぇ。
「ほらリリィ、あなたもそんなに落ち込まないの、成長するスピードは人それぞれなんだから。本当に適性の無い人は、苦手な魔法はどれだけやっても発動すら出来ないのよ? その点、暴発してでも発動できるリリィにも十分素質はあるわ。何か切っ掛けの一つでもあれば、すぐに私だって追い抜けるはずよ」
「うぅ、お母様~!」
ひしっと抱き着くと、お母様はよしよしと頭を撫でてくれました。
はふぅ、やっぱり何度やってもお母様の腕の中は落ち着きますね~……
「ほら、どうした2人とも、動きが鈍ってきているぞ! もっとペースを上げろ!」
「はい、師範!」
「ま、まだまだこれからだ!」
そんな風に私とモニカさんがお母様に教わってる横で、ルル君とヒルダさんはお父様と模擬戦形式で剣を教わっていました。
お父様が普段使うのは普通の両刃の剣ですけど、それ以外にも一通り齧っているようで、ルル君の大剣やヒルダさんの双剣についても、ああして打ち合いながら適宜アドバイスを飛ばしています。
ていうかお父様、本来の得物でなく私が使っている子供用の短い木剣一つを片手に持って、その場から一歩も動かず、強化魔法もなしにルル君とヒルダさんの2人を同時に相手してるんですけど、何がどうしたらあんなことが出来るんでしょうね……やっぱり元とはいえ、筆頭騎士は違うなぁ。
「うん、いいぞ。2人とも、ここ1か月で大分よくなってきたじゃないか」
打ち合いながら、お父様はご機嫌そうに呟きます。
確かに、2人はお父様とこうして放課後や学園が休みの日に稽古をつけて貰うようになって、メキメキと上達しています。ルル君は元からやっていましたけど、お父様曰く、同年代のライバルが出来たことが良い刺激になったんじゃないかということです。もしかしなくてもヒルダさんのことですね。
それ自体はいいです。喜ばしいことです。けど代わりに、私がちっとも上達していないせいで差が開く一方です! このままじゃ追いつくどころかついていくことすら出来なくなっちゃいます!
「なんとかしないと……!」
お母様に抱かれながら、私は誰にも聞こえない声でそう呟きました。
「というわけで、明日はお休みですし、魔物狩りに行きましょう!!」
翌日のお昼休み、食堂でいつものように4人で食べているところで、私は机をバンッと叩きながら進言しました。
3人は私のほうを見て、しばし固まった後……
「なぁルルーシュ、そこのソース取ってくれよ」
「ああうん、いいよ」
「あ、私も欲しいです、ルルーシュさん」
何事もなかったかのように食事を再開させました。
「聞いてくださいよぉぉーーー!!」
うがー! っとテーブルを勢いのままひっくり返そうとしますが、私の力じゃとても無理でビクともしませんでした。仕方ないので、もう一度バンッと机を叩きます。
に、二回もやるとさすがに掌が痛いですね……
「じゃあ一応聞くけど、何がというわけでなの?」
「もちろん、実戦を通してレベルアップするためです! ほら、お母様だって言ってたじゃないですか、私だって何か切っ掛けさえあればすぐに上達するって! なので、ここらで一つ今までと違った訓練をしようかと! ちょうど最近は街の外側で魔物被害が相次いでるそうですし、私達で討伐しちゃいましょう! 特訓と人助けが両立出来て一石二鳥です!」
どやぁ! と自分の考えを披露するも、みんなはなぜかやれやれって感じでちっとも乗り気になってくれません。
むむむ、この完璧な計画に何か問題でも?
「いや、レベルアップ以前に僕はまだ真剣持ってないんだけど、どうやって魔物と戦うのさ」
前提からして綻びが!? そ、それは……えーっと……
「……き、気合で斬れたりしませんか?」
「斬れないよ、師範じゃあるまいし」
「えっ、お父様なら気合で斬れるんですか?」
「それ知らずに言ったの!?」
ルル君が信じられないって顔で見てきますけど、えっ、もしかしてこの世界だと剣を極めたら気合で斬れるようになるのって常識なんですか!?
あ、モニカさんはちょっと顔引きつってますし常識ってわけじゃないみたいですね。ヒルダさんは……むむ、ルル君派ですか。やっぱり剣士にとっては常識なんですかね?
「ともかく細かいことはいいんですよ、みんなばっかり強くなってズルイです、私も強くなりたいんですーー!!」
「はぁ……分かったよ、木剣だけでもリリィが詠唱する時間くらいは稼げるだろうし、付いてってあげるよ」
面倒になって本音をぶっちゃけると、ルル君はやれやれと肩を竦めながらも了承してくれました。
「やったー! ありがとうルル君、大好きです!」
「うわっ、ちょっ、リリィ!?」
最悪一人で行こうかとも思ってましたけど、一人だと迷子になるかもしれませんし、思ったより魔物がたくさん出た時困るかもしれませんからね、やっぱり持つべき物は優しい幼馴染です!
「恥ずかしいから、離れなって……!」
感極まって抱き着いたら、ルル君は慌てて引き剥がしてきました。
むぅ、つれないですね。もう少しこの抱き心地を堪能していたいんですが。
「いいじゃないですか、どうせ一緒に寝たりお風呂入ったりしてる仲なんですから、抱き着くくらい今更です」
「ちょっ!?」
ますます焦りながら、ルル君は辺りを見渡します。
どうしたんでしょうか……と思ってふと顔を上げれば、なんだか微笑ましそうにこちらを見るヒルダさんの顔が目に入り、そこでピコーンと閃きました。
ははぁ、なるほど、私との関係をヒルダさんに勘違いされたくなかったんですね。ここ1か月いつも一緒に訓練しますし、好きになっててもおかしくありません。ふふふ、ますますつれないですねルル君、そういうことなら、少しフォローしておいてあげますか。
「大丈夫ですヒルダさん、これは単なる幼馴染のスキンシップですから」
「は?」
よし、これでフォローは完璧です。本題に入りましょう。
「それで、ヒルダさんとモニカさんは来てくれますか?」
ルル君がいればなんとでもなるとは思いますけど、せっかくやるならみんなでやったほうが楽しいと思うんですよね。秘密の特訓! みたいなのもいいとは思いますけど。
「オレは元からルルーシュとの訓練以外、休みの日は魔物狩って過ごしてたからな。真剣も持ってるし、別にいいぞ」
「えっ、そんなことしてたんですか?」
「ああ、修行ついでに、金にもなるし」
この世界にも冒険者という定番の職業は存在し、それを取り纏めるギルドと呼ばれる組織もこの街にあります。
私達は学生なのでまだ冒険者になることはできませんが、魔物の素材をギルドに持ち寄れば、依頼を受けるより安いとはいえ買い取り自体はしてくれます。なので、ヒルダさんもたぶんそうしてお小遣い稼ぎをしてたんでしょう。
「へー、それなら問題ないですね。モニカさんは?」
「え、えーっと……明日はちょっと用事があるので……ごめんなさい」
「あう、そうですか。なら仕方ないですね」
モニカさんが参加できないのは残念ですけど、そこまで本格的にやばいのと戦おうとまでは思ってないですし、ルル君とヒルダさんの2人がいれば不測の事態があってもどうにかなるかな?
「それなら、戻ったら私の武勇伝、いっぱい聞かせてあげますから楽しみにしててくださいね!」
「はい、あの、森は何が起きるか分かりませんから、お気を付けて」
「はい!」
心配してくれるモニカさんに、自信満々に頷き返すと、まだ不安そうでしたがルル君とヒルダさんの2人と頷き合って何やら納得したみたいです。
い、今のやり取りに一体何が……まぁ、納得してくれたならそれでいいってことにしましょう。
「ふふ、明日が楽しみです! ルル君、ヒルダさん、頑張りましょうね!」
魔物相手に実戦したからと言って簡単に強くなれるわけではないでしょうけど、今と違うことをすれば、何かを掴める可能性は多いにあるはずです。
ふふふ、首を洗って待っているといいのです、森の魔物達!
「どうでもいいけどリリィ、そろそろお昼休み終わるよ。ご飯食べなくていいの?」
「あっ」
時計を見れば、残り時間はあと10分。ご飯はほぼ手付かず。どう考えても、時間が足りません。
「る、ルル君助けて~!」
「いや、流石に無理だから」
冷たいルル君の言葉に涙しながら、私はある意味魔物よりも厄介な時間という大敵に挑みかかりました。