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第十一話 苦手克服も命掛けです

「ふあ~ぁ……」


 入学式の翌日からは、普通に授業が始まりました。

 けど、昨日遅くまで訓練していた疲れからか、眠気が凄くてあんまり集中できません。今やっている授業が数学の足し算引き算とかそんなレベルで特に聞く必要もないので猶更です。初等部1年なので当然と言えば当然ですけど、そんなところから勉強するんですねー。

 これならちょっとくらい寝てても問題ないかも。……え? ルル君見返すんじゃなかったのかって? 明日から本気出します、うん、明日から。というわけでおやすみー……


「みぎゃ!?」


 ウトウトしていたら、額に突然衝撃が走って弾かれるように後ろに仰け反ってしまいました。当然、その勢いのままに椅子ごとひっくり返り、ずってーーーん! っと派手な音を立てて倒れ込みます。

 あまりに見事なコケっぷりに、クラスから笑い声が上がりますけど、私はそれどころじゃありません。い、一体何が!?


「リリアナ・アースランドー、私の授業で居眠りやサボりは許さんぞー」


 慌てて起き上がって見れば、教壇のところでアメルダ先生が私に向けて手を振り抜いた格好で立っていました。

 ま、まさか今のは伝説のチョーク投げ!? 習得している人がいようとは……!

 ていうかどうでもいいですけど、アメルダ先生ってその辺りきっちり真面目にやるんですね。昨日のホームルームの様子を見た感じ、授業とかも適当に済ますタイプかと思ったんですけど。


「成績が落ちて追試だの補習だのなったら私が面倒だからな。他のお前らも、100点なんぞ取らなくていいから赤点回避に全力を注ぐように、以上」


 と思ったらすっごく個人的な理由からでした!! いや分かりますよ? 確かに補習とか追試とかで授業と別に時間を取るのはそれを受ける生徒だけじゃなくて先生にとっても確かに面倒でしょうけど、それでいいんですか先生!? いや、結果として真面目に勉強を教えてくれるなら問題ない、んですかね……? うーん……?


 そんな風に頭を捻っていると、キーンコーンカーンコーンとお馴染みのチャイムの音が学園に響きました。


「おっ、終わったか。じゃあお前ら、この続きはまた明日だ。昼は歴史の勉強するからそのつもりでな。じゃ、またあとでー」


 言うや否や、アメルダ先生は軽く手を振って教室を後にしていきます。

 いやまあ、次の授業は魔法ですし、この教室にいても仕方ないのは分かりますけど、終わりの挨拶もなしに即行で去るのもどうなんですかね? まあ、細かいことは気にしたら負けですよね、うん。


「リ~リィ~!」


「わわっ、ルル君!?」


 颯爽と去って行った先生の後をしばらく見ていたら、鬼のような形相をしたルル君がぬっと目の前に現れました。


「何普通に寝ようとしてるのさ、授業はちゃんと聞いてなきゃダメだろ」


「いふぁいいふぁい、るるふんゆるひへ~」


 そのまま私の両ほっぺをつねって、ぐにぐにと引っ張り回すルル君。

 確かに居眠りしそうにはなってましたけど、結果的に眠らなかったんだからいいじゃないですかー!


「ははは、リリィ、どうせサボるならオレみたいにバレないようにやらないとダメじゃんか」


「そういう問題じゃ……ていうかヒルダも寝てたのか!」


「んー? どうだろうな?」


 ヒルダさんが悪戯っぽく笑うと、ルル君は疲れたように溜息を吐いて手を離してくれました。

 うぅ、これ絶対ほっぺが伸びましたよぉ……


「次は魔法の授業だからさすがに居眠りはしないだろうけど、僕がいないところでまた変なことしないでよ?」


「ちょっとルル君、人を問題児みたいに言わないでください!」


 私がいつ変なことをしたって言うんでしょうかね、全くもう。


「リリィが問題を起こさずに済んだ日なんてあったっけ……?」


「それどういう意味ですか!!」


 私が問題を起こしたことなんてそんなにないですよ! 確かにたまーにそんな日もありますけど、少なくともそんな毎日毎日起こしてないはずです!


「え……初めて会った日に起こしたオウガの件でしょ、この間の試験の時なんて剣技魔法どっちの会場でも騒ぎ起こしたし、それ以外にも魔法の練習中に暴発させて山火事起こしそうになったこともあったし、近くの森に大型の魔物が住みついたって話を聞いた時は「私が倒します!」って言って止めるのも聞かずに森の中入ってそのまま迷子になったりだとか……」


「わ、分かりました! 自重します、今日は自重しますからぁ!」


 私の失敗談を指折り数えて喋り始めたルル君の口を無理矢理塞ぎながら言うと、ルル君は「それでよし」みたいな目をして喋るのをやめてくれました。

 うぅ、何もこんなところで暴露しなくても……ヒルダさんもなんだか生暖かい目でこっちを見てる気がしますし……ぐすん。


「じゃあ、僕とヒルダはCクラスに行くから、くれぐれも注意してね」


「またな、リリィ」


「はい、ルル君もヒルダさんもお気を付けて」


 魔法の授業では、私がAクラスで2人はCクラスになりました。どうも、魔法試験は離れた的に向かって魔法を撃つという特性上、自身を強化する『ブースト』や『アクセル』が使えなかったため、2人の評価は低いんだとか。

 でも、ヒルダさんはともかく、ルル君は遠距離攻撃魔法だって使えたはずなんですけどね……うーん……?


 まあ、その辺りは考えても仕方ありませんね、のんびりしてると遅刻しちゃいますし、私も移動するとしましょう。ルル君に騒ぎを起こすなって言われてる矢先に、遅刻なんて理由で騒ぎになるわけにはいかないですしね。

 そんなことを考えながら、お母様以外の人から学ぶ魔法がどういったものなのか、少しワクワクしながらAクラスの教室に向かいました。






 ドッカーーーーン!!


「うおぉい! 何が起こったぁ!?」


「暴発だ暴発! ていうかあいつ火だるまになってるぞ!?」


「早く消火しろ消火! それからすぐに回復魔法使えー!」


 場所は王立学園の校舎から徒歩10分程度の位置にある学園の施設、第二訓練場。Aクラスの教室で軽い自己紹介が行われた後、ひとまず現在のレベルを改めて知るためにみんなで魔法を撃ちにやってきたそこで、一つの爆発音と共に大騒ぎが起こってます。

 騒ぎの中心に誰がいるかと言えば、はい、私リリアナ・アースランドです。ルル君ごめんなさい、早速言いつけ破っちゃいました。てへぺろ。


「癒しの光よ、彼の者に命の祝福を与えたまえ。『ヒール』……」


「ありがとうございます……」


 白い魔法陣から光の粒が降り注いで、私の体から痛みが引いていく。

 顔を上げてみれば、そこにいたのは栗色の髪を三つ編みにした、大人しそうな女の子でした。

 確か同じBクラスで、私と反対側の列の一番後ろの席にいた子ですね。自己紹介の時、光属性の回復魔法が得意だと言っていましたけど、本当に上手いです。私がやると、傷自体は一瞬で治るんですけど後に痒みが残ると言いますか……何かコツがあるんですかね? 後で教えてもらおうっと。

 しかしそれはそれとして……大きいですね、この子。いえ、身長はヒルダさんのほうが大きいんですよ? でもその、別に羨ましいわけじゃないんですけど……すごく、大きいです……


「で、リリアナ。お前今何をぶっ放そうとしたんだ?」


 私が同い年とは思えない体の一部の大きさの差に愕然としていると、男の先生が鬼のような形相で倒れている私を見下ろしていました。

 この先生は魔法実技における私の担任の先生で、トマス先生と言います。すごく体育会系っぽくて、なんで魔法の先生やってるの? って聞きたくなりますけど、ともかくそんな先生に睨まれてるのはすごく怖いです、早く正直に言わないと。


「ふぁ、『ファイアボール』を撃とうとしていました!」


「嘘つけぇ!! そんな初級魔法であんな威力が出てたまるか!!」


「ほんとですよぉ! ただちょっと試しに詠唱破棄で撃ってみただけで!」


 そしたら暴発しましたけどね! やっぱり炎は苦手です!

 せっかく授業で習うんですから、その苦手を克服しようと頑張った結果がこれですけどね!


「もし本当なら明らかに魔力を込めすぎだ、もっと手加減して撃ちなさい!!」


「はーい……」


 実は今のでも結構手加減してたんですけど……っていうのは、言わないほうが良さそうですね、うん。


「あの、えっと……お怪我、大丈夫ですか?」


 他の子に授業の再開を宣言して回る先生の背中をしばらく乾いた笑いを浮かべながら見送っていると、今しがた回復魔法を使ってくれた子がこちらの顔を心配そうに覗き込んでいました。


「はい、もうすっかりへっちゃらです! えーっと、モニカさん……でしたよね? 回復魔法すごい上手ですね、お母様がしてくれた時みたいでした!」


 よいしょっと起き上がりながら確認すると、なぜかモニカさんはますます委縮しちゃいました。

 あれれ、間違ってましたかね?


「そ、そんな……カタリナ様と比べたら私なんて、道端の石ころ以下ですよ」


 どうも名前を間違えたわけじゃなくて、お母様のほうに慄いてるみたいですね。

 まあ、宮廷魔導師は王家付きの魔法指南役であり、お母様みたいに結婚や出産などを理由に現役を退かない限りは原則としてこの王国最高の魔法使いが就任する決まりになっている、まさに魔法使いの頂点たる称号です。身近すぎて忘れがちですけど、こういう反応を見ると改めてお母様ってすごいんだなあって実感できますね。

 でも、石ころはさすがに悲観しすぎじゃないですかね?


「そんなことないですよ、私、お母様以外であんな丁寧な魔法始めて見ましたもん。ていうかどうやったらあんなふうに綺麗な魔法が撃てるんですか? 教えてください!」


「えっ、えぇ?」


 そんな風に言われたことが初めてなのか、モニカさんはおろおろと戸惑いの表情を浮かべています。

 さっき先生にも言われましたけど、やっぱり私は自分の魔力を持て余してる気がするんですよね。お母様にも、純粋な魔力量ならもう負けてるかもしれないなんて言われましたし。

 だから、ここから成長するためにはモニカさんみたいな丁寧な魔力制御は必須な気がします。なんとしても習得しなくては。


「そ、そんなに変わったことはしてないですよ……? こう、最初から自分で制御できる量しか放出しないようにしているだけで……」


 モニカさんが掌から魔力を出し、球形状を形作ります。私もよくやっている、魔力制御の練習ですね。

 ただ、私のものより小さいながらも、ずっと綺麗で安定した真ん丸なそれは、やっぱりモニカさんの腕前が勘違いじゃなかった何よりの証拠です。

 けれど、それが徐々に輝きを増し、大きくなっていくと、段々形がブレて不安定になっていき、やがてパチュンっと霧散してしまいました。


「……こんな風に、私も一度に制御できる魔力量はそんなに多くないんです。だから、リリアナさんも魔力を抑えれば、私くらいの魔法はすぐに出来るようになると思います」


「なるほど……それで、魔力を抑えるってどうやるんですか?」


「え……?」


「えっ」


 モニカさんがすっごいぽかーんとしてるんですけど、私そんなに変なこと言いました? それが出来なくてずっと困ってるんですけど……


「次、リリアナの番だぞ、今度は加減しろよ」


 私がモニカさんに教えて貰っていると、先生から声をかけられ、はっと思い出します。

 そういえば、今は授業中でしたね、うっかりしてました。


「すみませんモニカさん、また後で色々教えてください!」


「えっ、あ、はい、いいですけど……」


「約束ですよ!」


 そう言って私はまた前に出て、訓練場の中心にある案山子に向けて掌を構えます。

 魔力を抑える方法はイマイチ分かりませんでしたけど、つまりモニカさんが言いたいのは、一足飛びにやろうとしても上手くいかないから、初歩からしっかりやれってことですよね。さっきは詠唱しないほうが集中して魔力を込める時間が短くなる分手加減できるかと思ってやりましたけど、今度は初心に帰って、しっかりきっちり詠唱して撃ってみましょうか。


「炎よ、灼熱の業火となりて我が手に集え。」


 掌に赤い魔法陣が現れる。それに魔力を持っていかれないように、とにかく力を抑えることに集中する。


「生み出すは球。赤々と輝く太陽の如く。某は全てを焼き尽くす者なり。」


 あ、制御が乱れて魔法陣がちょっと崩れた! 直すために力を入れたら、また余計な魔力が込められて魔法陣のサイズが大きくなっちゃいました。うぅ、やっぱり炎は難しい……


「我が名の下に乞い願う。我が宿敵を討つ真紅の弾丸となりて、その力解放せよ。」


 入学試験の時に使った『極寒地獄(コキュートス)』よりも更に長い詠唱ですけど、残念なことにこれは炎属性下級魔法の『ファイアボール』の詠唱、その原文です。普通はこの半分以下に省略して使うものですけど、それでもなかなかうまく行きませんね。ここまで来たら、撃つより他ないんですけど。

 せめて暴発しないといいなぁ……


「放て、火炎の砲撃!」


 ふと周りを見れば、また生徒も先生もみんな退避してました。

 えっ、ちょっ、もしかしてこれ実はまた暴発寸前ですか!? だったら黙って逃げてないで私に一言教えてくださいよ! 特に先生とか、そんな全てを諦めたような顔してないで助けてくださいーー!!


「ふぁ……『ファイアボール』--!!」


 中途半端にやめると余計酷いことになるというのはこれまでの経験で学んだので、半ばヤケクソ気味に最後の魔法名まで唱えきります。

 そうして赤い魔法陣から放たれたのは、ファイア“ボール”とは名ばかりの炎の濁流。ちっとも形を成してないそれが、私の魔力に後押しされて物凄い勢いで噴き出しました。


「えぇぇーーー!?」


 ちょっ、今までで一番ひどい失敗なんですけど!? なんで全く別の魔法みたいな有様なんですか!?

 そんな風に考えるのも束の間、10メートルほど進んだところでいきなり炎の津波は渦を巻いて、一気に球形に収縮し始めました。

 そう、ちょうど、寿命を迎えて爆発寸前の星が縮んでいくような……


「だ、大地よ、我を護りたまえ! 『プロテクション』---!!」


 その想像に至った瞬間、私は全力で得意な地属性魔法を発動して、目の前に黄色い魔法陣による障壁を展開します。

 元々、オウガと対峙した時でさえ何も知らないまま無意識に発動できていたらしい魔法ですし、短めとはいえ詠唱も、魔法名も唱える必要はありませんけど、こうして少しでも強めに発動しないと危ない気がしたので、その直感を信じることにしました。


 直後、予想通りに訓練場のど真ん中で大爆発が起こりました。ビリビリとした衝撃が、魔法障壁越しに伝わってきます。ふぅ、こいつが無ければやられていたぜ……いやほんとに。


 幸い、みんな事前に逃げていたのでその爆発をぽかーんと眺める余裕もありましたし、私自身も防御魔法のおかげで傷一つありません。

 ただ、爆発の後の訓練場は酷い有様ですね。案山子なんて塵も残らず消えてますし、爆心地付近は地面が焼けてガラスみたいになっちゃってます。

 いやー、全力で手加減しようとした結果いつもより酷い暴発が起こるってどういうことでしょうね? 誰か教えて欲しいなー……そう思いながら振り返ると、鬼を通り越して修羅みたいな顔になった先生がそこにいました。


「リリアナ、さっき手加減しろと言ったよな? 何を全力でとんでもない魔法をぶっ放してるんだお前は!?」


「ひゃう!? 手加減しましたよ、全力全開で手加減しようとした結果がこれなんですよ!」


「嘘つけぇ! どこの世界に手加減したら威力が増す魔法があるんだ!!」


「ここにありましたよ! 『ファイアボール』です! ていうか詠唱聞いてたなら先生もなんの魔法か分かってますよね!?」


「だから言ってるんだろうが! 来い、説教してやる!」


「うわぁぁーーーん!! そんなぁーーー!!」


 トマス先生が他の生徒達に自習を言い渡し、私は首根っこを掴まれてずるずると引きずられて行きます。

 その後、こってりと絞られながらなんとかあれが手加減した結果なのだと理解して貰えたのはいいんですけど、代わりに炎属性魔法の全面使用禁止を言い渡されました。


 『ブースト』を習得して剣技の腕を向上させる夢がぁ……ぐすん。


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