第二話 自己紹介
大変遅くなりました。申し訳ない
入部した翌日。
相良と西宮と長成は部室に向かっていた。
部室は相良達のクラスがある東館から一番遠い西館に用意された。そのため部室に近づくにつれて人影が少なくなっていく。
周りに人がほとんどいなくなった時に長成が口を開く。
「ねぇ、昨日は勢いで決めたけど、よくよく考えたら私がオタクなこと皆にばれるじゃない?」
「別にいいだろ。逆にどうして隠す必要があるんだ?」
「そりゃ、みんなが引くからでしょ。だいたい、オープンにしてるのに普通にクラスに馴染んでいたあんたと西宮がおかしいのよ」
去年のクラスで相良と西宮はオタク趣味を隠していないにも関わらず、クラスメイトとは上手く付き合っていた。
「隠してないだけで、学校ではそっちの話は和樹としかしないからな。普段は適当に周りに合わせてるんだよ」
と言う相良。それ以降も相良と長成は話し続けた。その間、西宮は話に入らず上の空だった。そんな西宮の様子に気づいた相良が呼びかける。ご丁寧に顔の前で手まで振って。
「和樹ー? おーい和樹? 和樹!!」
最後の強い呼びかけに西宮はようやくハッと気がつく。会話に入らず上の空だった西宮を珍しく思った長成は「どうしたの?」と問う。
「ごめん、理事長の言ってたゲームって何があるのかなとか色々と考えていたんだ」
「あー、それなら最近出た新作のゲームがあったら一緒にしようぜ」
西宮の返答に相良が提案する。
「そうね、せっかくだし月ヶ瀬さんも誘って四人でやろうよ。」
と長成が言い終えたタイミングで三人は部室となる教室の前に到着した。
ガラガラと無造作にドアを開け入室する。
その教室は真ん中にカーテンがつけられて前と後ろで二つに区切られており、前にはパソコンが四つ綺麗に並べられている長机に椅子が四つ置かれていた。後ろには大きな本棚が二つと大きめの液晶テレビがあった。
そしてそんな教室の真ん中には相良達の担任の竹口先生が立っていた。
「あれ? 先生どうしてここにいるんですか?」
「ん? 聞いてないのか? 表向きの顧問として理事長に任命されてな」
「……そうなんですかー」
聞いておきながら興味がなかったのか相良は明らかに棒読みだった。他の二人も教室の中にあるパソコンや本棚に目を惹かれていて竹口先生の返事など聞いていないようだった。
「先生ー、これって自由に使ってもいいですか?」
「……」
長成が待ちきれないと言った様子で竹口先生に問いかける。相良と西宮に至っては無言で無断にパソコンを起動していじり始めている。
「待て待て、月ヶ瀬が来たら説明始めるから。おい! そこ! パソコン勝手にいじってるじゃない! 長成も落ち着け」
どうどうといって長成を落ち着かせる竹口先生。それからは散々だった。パソコンを触るなと言われた相良と西宮は後ろの本棚を好き勝手漁り始めるし、長成は「私は犬か何かじゃありません! 聞いてますか?」と先生に突っかかっていた。
そしてそれから少しの時間が過ぎた。興奮して好き勝手する三人に先生が青筋を浮かび始めた頃、コンコンと教室のドアがノックされて月ヶ瀬が入ってくる。
「何ですか? この状況は?」
相良と西宮が教室の後ろであーだこーだと言って本の山を作り、長成が先生に突っかかっている。そんな状況を月ヶ瀬は一発で飲み込めなかったようだった。
「よく来た月ヶ瀬。ちょっと待ってろ。おい! そこのオタク二人! 説明始めるからとっとと席に付け。……お前もだ長成」
先生は全員を席に着ける。
「じゃあ、説明するぞ。といってもあまり大したことじゃあない」
先生はそう前置きして右手の指を三本立てた。
「ひとーつ! この部室の物は自由に使ってよし!」
そう言って左手で立てた指を一本たたむ。一度やってみたかったのか先生の表情はとても楽しげだった。
「ふたーつ! 新しく買い足して欲しいモノがある場合はそこの申請用紙に書いて提出すること」
用紙のあるテレビの横を指差して示したあと、また指をたたむ。先生の表情とは対照的に部員四人の顔は冷たくなっていく。
「みーっつ! 普段から真ん中のカーテンを閉めてゲームがあることがバレないようにすること!!」
言い切った先生は満足そうだった。しかし他の四人の視線は親父ギャグで滑った人を見るようなものだった。
「……」
じーっと四人は先生を見続ける。やがて冷たい視線に耐えられなくなったのか、先生は「じゃ、じゃあ後はよろしく」とだけ言ってそそくさと部室をあとにした。
先生が居なくなった部室は気まずさで満ち溢れていた。
そんな空気を取り払うために長成がいつもより大きく明るい声で提案する。
「ね、ねぇ! まずは自己紹介から始めようよ!」
「そうね、私は貴方達の誰も知らないもの」
と賛成する月ヶ瀬。
「だよね、だよね! じゃあ名前と趣味と特技、それと最後に一言ね!」
こうして自己紹介が始まった。
「俺は相良 拓也。趣味はゲームとかマンガとかいわゆるオタク趣味ってやつだ。特技は特にない。器用貧乏で基本的に何でも人並み以上はできるからな。ってことでよろしく!」
「うわー、自分で人並み以上とか言っちゃうんだ」
「要するに秀でたものがない凡庸な人というわけね」
「なんかドンマイ拓也」
長成、月ヶ瀬、西宮が順に一言ずつ言った。
「女子組辛辣すぎるだろ!」
相良のツッコミは教室に虚しく響いただけだった。
「次は僕だね。西宮 和樹。趣味は拓也と同じで、特技はゲームかな。あとはラノベ書いてるから今度読んで欲しいな。」
「ロリコンはちょっと……」
何も言ってないのに月ヶ瀬から勝手にロリコン認定される西宮。
「ロリコンの何が悪い! ……あ」
西宮はついつい反論してしまい、自分からロリコンだとカミングアウトしてしまう。
「バカだ」
「バカね」
これには相良と長成も呆れている。
「さて、バカなロリコンは放っておいて次は私だね。私は長成 紗奈。趣味は……残念だけどそこの二人と同じ。特技は、運動かな。よろしくねっ!」
「貴方はまともそうね。こちらこそよろしくお願いするわ」
月ヶ瀬の対応は先ほどの二人とは違って、好印象な様子だった。
しかし、相良と西宮は自分たちと同じほどオタクな長成だけが真人間の様な扱いをされたことに納得がいっていない。
だから彼らは長成が隠していることをバラし、自分たちと同じところまで引きずり下ろすことにした。
「まともー? 毎週日曜の『魔法少女ナルミル』をリアルタイムと録画で毎話5回も見て、フィギュアを特大ショーケースにビッシリと飾ってるやつが?」
「それに寝るときは『ナルミル』の抱き枕無いと寝れないんだよね」
少しの間、誰もなにも喋らなかった。一人、長成だけが顔を真っ赤にして俯いてプルプルと震えていた。
「……なんで」
長成がボソボソと呟きながらフラフラと相良に近づいていく。顔は真っ赤なまま。
「なんでよ! なんで知ってるのよ!」
そうして長成は相良の肩を掴んで、前に後ろに揺さぶる。
「ちょっ、待っ――」
相良が何か言ってるが、構わず揺さぶり続ける長成。
「誰にも言ったことないのに! なんでよー!」
「だって……おぇぇ」
「芽衣ちゃんが教えてくれたんだよ」
揺さぶられて気分が悪くなり、床に突っ伏した相良の代わりに西宮が答えた。
「西宮! 人の妹に何したのよ!」
長成は自分の知らないところで西宮と会っていた妹の身を心配しているようだ。彼女の中で西宮はどうやら小学生にまで手を出す変態という認識のようだ。
「何もしてないよ。この間、公園で話しかけられただけだよ」
「そう、なら良か――」
長成の言葉は途中で止まった。「ゴホン」とわざとらしい咳払いが聞こえたからだ。
長成はギギギと錆び付いた機械のようにぎこちなくゆっくりと音のした方へ顔を向ける。
そこには生暖かい目をした月ヶ瀬がいた。
「では、私の番ね」
月ヶ瀬は何事も無かったかのように自己紹介の続きをしようとしている。
「待って、言いたいことがあるのなら言って! やめて! その目が一番辛いの」
「いえ、何も無いわよ。心配しないで。やっぱり貴方も、なんて思ったりしていないもの」
「それ思ってるよね? ねぇ! ねぇ!」
長成の問い詰めに月ヶ瀬は遠い目をして窓の外を見る。なおも長成がねぇねぇと何度も聞くが月ヶ瀬は何も言うつもりは無いのか、いいえや別にを繰り返している。
それにしびれを切らしたのか
「それより自己紹介の続きしないのか?」
ゾンビのように緩慢な動きでいつの間にか復活した相良が催促する。
「それもそうね」
月ヶ瀬もどうやら賛成のようで自己紹介を再開する。
「月ヶ瀬 明よ。趣味は読書。特技は…………そこの人よりも何でも出来るわ。以上よ」
特技を言う際、少しの躊躇いがあった。それをどこか誤魔化すように相良を指差して、先ほどの彼の自己紹介を利用して言葉を紡ぐ。
そのことに相良は当然、他の二人も気づいたが、特に詮索しようとは思わなかった。
彼らも詮索されることの鬱陶しさは理解している。それにどうせ聞いたところで答えてはくれないだろうし、答えてくれても理解できないとわかっていた。
だから彼らは気にせずに誤魔化しに乗っかった。
「もう完全に拓也の上位互換じゃないかしら?」
「初対面なのにコイツはひでぇ」
「僕よりましだよ、僕なんていきなりロリコンだよ」
相良はなぜか長成からのフレンドリーファイアを受けていたが。
そんな三人に月ヶ瀬は「だって事実でしょう?」と頬を緩めて言う。誤魔化しきれたと安堵しているようだ。
こうして自己紹介も終わって、することが無くなり手持ち無沙汰になった四人。
「自己紹介も終わったし、どうする? 依頼が来るまで何するの?」
と聞く長成。
他の三人も同じことを考えていたようで、うーんと唸って考える。
すると西宮が、何か思いついたのか急に立ち上がって手をポンと打つ。そして部室の後ろに行き、ゲームソフトと携帯ゲームが置かれている場所の前で立ち止まる。
「拓也が部室に入る前に新作ゲームの話してたよね? だからさ、あるかなって思って見たんだけど、ほら!」
そう言って右に携帯ゲーム機、左にゲームソフトを持って他の三人の方へ振り返る。
「これをやろう!!」
その瞬間、月ヶ瀬以外の二人、相良と長成の目が輝いた。
相良「どうして受験終わってすぐに書かなかったんだ?」
作者「その、受験が色んな意味で終わったんから少しの間、何もする気が起きなかったんだ」
相良「そうか、じゃあこれからはペース上がるんだよな?なぁ?」
作者「やめろ、凄むな。こわいから。上がります。ペース上げますから」
ということでペースは上がると思います。