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我らオタク部!お助け部!  作者: 練乳ミルク
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第一話 入部

勉強の合間に書いてるのでペースは安定しません。申し訳ないです

 始業式。学生の誰もが昨日までの長期休みを惜しみ、これから始まる学校の日々に嫌気がさす。生徒会であったり、部活で活躍したりとそんなことが無い普通の高校生たちには教師の長ったらしい話を聞くだけの鬱陶しい日だろう。


 それは相良さがら拓也たくやも同じだった。いや、部活動に所属せず休みの日は一日中ぐうたら出来た彼にとっては余計に嫌に感じられただろう。


 彼は心底面倒くさそうな顔で配られたプリントに目を通していく。校長の無駄な話をBGMに。どうせ自分が関係することなど書かれてないだろうと無関心に。


 しかしそんな考えははずれ、途中にあった項目に引き止められる。


『新規部活動の設立について』


 そんな一文から始まる説明を相良は読み進めていく。


『今年度から新たな部活動が設立されます。なおー』


 要約すると内容はこうだ。


 新しい部活を作るが自由に入部できるわけではなく、理事長が選出した者が入部する。その際、既に既存の部活に入部している者が選ばれることはなく、どこの部活にも所属していない者が選ばれる。部員数は四名の予定で、名称も活動内容も未定。


 相良がその説明を読み終えた頃にちょうど理事長が壇上に立ち、話が始まった。


「おはようございます。春休みはー」


 挨拶から始まり、春休みからの切り替えについてなど他愛もない話が続く。


 そしてそれらが一段落ついたのか、ようやく相良の聞きたかった新設される部活動の説明が始まった。


「プリントにもあるように部活動を一つ新設します。大体はプリントの通りです。それに選ばれたからといって強制するつもりはありません。話を聞いてから入部の判断をしてもらって結構です。あと、別に入部したからって成績や内申に関わることはありません。ですのでそこまで気にしなくて大丈夫です。」


 そういって理事長は説明を終える。そして相良に目を合わせ微笑んだ。


 理事長と目が合った相良はゾッとした。品定めをするような視線に心の奥まで見られた様な錯覚に陥った。耐えられなくなった相良はすぐに視線を外す。


 それから理事長は何も無かったかのように、淡々と終わりの言葉を述べて壇上から去っていく。


 それ以降、着々と式は過ぎていき生徒の退出が始まった。相良も人の流れに沿って教室に向かう。しかし、その足取りはどこか重たかった。




 相良の新しいクラスは二年C組。

 相良が入室した時点で教室はすでに騒がしかった。新しいクラスメイトに話しかけたり、去年からの友人と同じクラスになった喜びを分かち合ったりなどと早くも新クラスを楽しんでいるようであった。


 そんな中、相良は一人真剣な顔つきで席に座る。そして理事長の微笑みと視線の意味を理解しようと必死に考えていた。少なくとも周囲の声や呼びかけが聞こえないほどに。


「・・・くや! おい、拓也!」


 呼びかけられている相良は気付いていない。そんな相良にしびれを切らしたのか呼びかけてる男子生徒はあるあだ名を呼ぶ。


「おい『オタクや』!!」

「おい! コラ! 誰が『オタクや』だ!!」


 オタクで拓也だから『オタクや』。

 自身に付けられたそんな嫌なあだ名に相良はすぐさま反応する。


「ってなんだ、和樹か。そのあだ名はやめろって言ってるだろ」


 相良に話しかけた男子生徒の名前は西宮にしみや和樹かずき。目にかかる程度の黒髪に黒縁メガネと地味な見た目をしている。相良とは中学からの付き合いで、趣味も似ているオタク友達である。


「でも一回で気づかなかったのは拓也じゃないか。何か考え事でもしてたのかい?」

「まあな、理事長の説明にちょっと」

「あの部活の話?」

「ああ。選ばれたくないなと思ってな」

「確かに。でも帰宅部多いし、大丈夫だ問題ない」

「おい、待てそれはフラグだ」


 そんな会話をしていると教室に担任が入ってくる。立っていた者も皆自身の席に向かい着席する。そうしてHRが始まった。プリントを配り連絡を伝えるだけで淡々と進んでいく。


「今日はこれで終わりだが、明日からは授業だ。いつまでも春休み気分ではいかんぞ。ああそれと、相良と西宮と長成は後で職員室に来てくれ。HRは以上だ。起立! 礼!」


 こうしてHRは終わった。クラスメイト達が帰っていく中、相良と西宮は呼び出されたもう一人のもとに寄っていた。


「よう長成。呼び出されたけど心当たりは?」

「うーん、別にないよ?」


 相良が話しかけた女子生徒は長成おさなり紗奈さな。サラサラとしたセミロングの茶髪。活発さが見て取れる大きな瞳。スッと通っている鼻筋に、ふっくらとした桜色の唇。美少女と呼ぶにふさわしい顔立ちをしている。彼女も相良と西宮とは中学からの付き合いだ。相良や西宮と同じくオタクなのだが、普段は隠している。


「でも良かったねー。三人とも同じクラスに成れて。一年間宜しくね!」

「ああ、今年はうるさくなりそうだ」

「ほれほれ、そんなこと言って拓也も私と一緒に成れて嬉しいんでしょ?」


 そういって相良にウザ絡みをする長成。


「ええい、鬱陶しい。寄るな! 来るな! 近寄るな!」

「何それ! こんな美少女と一緒なんだよ?」

「あー、はいはい美少女だな。び・しょ・う・じょ」


 なによそれー、と可愛らしく頬を膨らませる長成。


 そして二人の会話が一段落したのを確認した西宮が声をかける。


「ほら、二人とも呼び出されてるんだよ。職員室に行こう」

「そうだね、そろそろいこっか」

「ああ、早く行ってとっとと終わらせるか」


 そうして職員室に向かう三人。みんなが帰宅して静かな廊下に三人の足音だけが響いていた。





「失礼します。二年C組の長成です。竹口先生はおられますか?」


 そう言って職員室に入る長成。彼女の後ろには相良と西宮もいる。落ち着かない様子でソワソワしているが。


「おう!やっと来たか。こっちだ」


 三人を呼んだのは彼らの担任の竹口つよし。国語の教師で生活指導も担当している。


「・・・後ろの二人はどうしたんだ? そんなソワソワして」


 明らかに挙動不審な相良と西宮を見た竹口先生が問いかける。


「だって、職員室だし」

「「はっ?」」


 相良の回答に竹口先生だけでなく長成までも目を丸くした。


 そんな二人に西宮が補足をする。


「職員室に入ると色々な先生が『コイツ誰? 何やらかしたの?』みたいな視線で見てきますよね。あれが嫌なんです」

「なんだ、ただの自意識過剰じゃない」


 ため息をついて、「やれやれこいつら救えねぇな」と肩をすくめる長成。そんな長成に相良と西宮は言い返す。


「わかってない。長成はわかってない。職員室だ! 職員室! 問題も起こさない、部活にも所属しない、先生との好感度も低い。そんな優等生の俺たちには縁のない場所なんだよ!」

「そうだそうだ! 拓也の言うとおりだよ」

「後ろ二つが明らかに優等生のそれとはかけ離れていたんだけど・・・」


「ごほん」


 盛り上がる三人を竹口先生は咳払いで止めて、本題を切り出す。


「お前らを呼び出したのは理事長だ。ほれ理事長室に行ってこい」


 そう言って竹口先生はヒラヒラと手を振って退出を促すが、理事長という単語が出てたことに長成は驚き焦り始め、西宮は何故か目を輝かせ始め、相良は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「先生、私何か問題でも起こしましたか? いいえ起こしてません! どうして私が理事長に呼ばれているんですか!?」

「拓也! やったよ! 問題があって停学になれば、その期間ゲームし放題アニメ見放題だよ!」

「俺の嫌な予感はやっぱり当たるのか・・・嫌だなー面倒だなー」


「ほら出て行けお前ら!さっさと行ってこい」


 中々動かない三人は最終的に竹口先生に追い出される形で職員室を出た。


「終わった・・・私の優等生ライフが終わった・・・」

「目が合った時から嫌な予感がしてたんだよな・・・行きたくない逝きたくない」

「いくよ! 二人とも!ほらほら!」


 この世の終わりみたいな顔をしている相良と長成とは違い西宮はワクワクを隠せずにいた。二人の手を引っ張り理事長室に向かっていく。その様子はまるで警察と連行される犯罪者のようであった。





 所変わって理事長室前。

 相良たち三人組は扉の前で言い争っていた。


「おい、和樹! さっきまでルンルンだっただろ! 先頭いけよ! こんなところで怖気付くなよ」

「それはそれだよ。ほら長成、さっきみたいに頼むよ」

「嫌よ! 職員室と理事長室は違うのよ! さっきは私だったのだからあんたらのどっちかが先頭よ」


 三人ともが嫌がって中々決まらない。そんな中、相良と西宮が目配せをする。そして相良が突然手を挙げる。


「俺行く!」

「じゃあ僕も!」

「え? えっ!? じゃ、じゃあ私も」

「「どうぞどうぞ!」」

「ええっ? 嫌よ! そんなの嫌! ノった私も悪いけどふざけないでちゃんと決めてよ!」


 拒否する長成を見た相良は「仕方ねぇな。ジャンケンで決めるぞ」と言って手を前に出す。相良の掛け声でジャンケンをする三人。その結果、




 コンコンと扉をノックし、「どうぞ」と入室許可を得てから


「失礼します。二年C組の相良、西宮、長成です」


 相良を先頭に三人が理事長室に入室する。


「ああ、よく来たね。あと一人来るまでそこに座っていてくれ」


 三人を見た理事長は来客用の椅子に腰掛けるように勧めた。そして緊張した様子の三人に話しかける。


「君たちは仲がとても良いようだね。扉の前のやり取りも聞こえていたよ。あれはコントかい?」

「「「いいえ、違います!」」」

「ハッハッハ、息もピッタリじゃないか!」


 理事長との会話は続き、一分ほど経って相良たち三人の緊張がほぐれ始めた頃、扉がノックされる。


「どうぞ」


 理事長は自身の机に戻り、入室の許可を出す。


 入ってきたのは女子生徒だった。


「失礼します。二年A組の月ヶ瀬明です」


 月ヶ瀬(つきがせ)あかり。腰まで届くほどの長く艶やかな黒髪に端正な顔立ちで学年一の美少女として知られている。成績は常に学年一桁、運動も人並み以上と、天は二物を与えずということわざを真っ向から否定するような人物だ。


 クラスも異なり全く関わりが無かったため、相良たちは彼女の登場に怪訝な顔をする。月ヶ瀬も他に人がいると思っていなかったのか少し目を見開く。


 誰も喋らない。誰も動かない。意図せず生まれたほんの少しの静寂。


 そんな静寂を破ったのは理事長の声だった。


「説明を始めるからここに並んでくれ」


 理事長は自身の机を人差し指でトントンと突く。


 誰も何も喋らないまま四人は机の前に並ぶ。一分前までの相良達の談笑がウソだったかのような真剣な雰囲気が流れる。


「始めようか。といっても相良君はなんとなくわかっているんじゃないか?呼び出された要件が」


 理事長が相良に問いかける。突然の指名に他の三人の視線が相良に向く。


「ええ、なんとなくですが。今朝の説明にもあった部活動の新設についてですよね?」

「どうしてそう思うんだい?」


 予想していた答えが返ってきたのか理事長は少し嬉しそうに理由を問う。


「説明の後に目が合ったからです。あの時から嫌な予感がしていたので」

「正解だよ」


 と短く告げ理事長は相良に目を合わせ微笑みかける。そこに今朝のようなゾッとする冷たさはなかった。


「で、話は相良君の言った新設する部活動についてだ。君達四人には部員になってもらいたい。」

「先に活動内容を教えてください」


 凛とした声で質問をする月ヶ瀬。同じことが聞きたかったのか相良達もうんうんと頷いている。


「生徒の悩みや相談を受けてそれを解決する。お助け部といった感じかな。当然そちらで対処出来る程度のレベルだ。それにつまらないものは先に弾く」


 そう言って理事長は視線で相良達に発言を促す。最初に口を開いたのは相良だった。


「お断りします。放課後の時間が減るのは嫌なので。それに俺には他人の悩みを解決するような能力はありませんし。あと月ヶ瀬は知りませんが他の二人も俺と同じ考えだと思いますよ」


 言い切って西宮と長成を見る相良。彼らの放課後は忙しい。ゲームにアニメ、漫画やライトノベルなどに時間を使う彼らには部活に当てる時間など無かった。二人は相良をちらりと見てから理事長に向き直り同意の意味を込めて小さく頷いた。


「そうか、残念だ」


 理事長は小さく呟いた。


 そして「ではこれで失礼します」と踵を返そうとした相良達三人。


 そんな彼らは理事長の次の言葉に引き止められる。


「せっかく最新のパソコンや新作ゲーム機、人気の漫画にライトノベルまで用意したというのに。あぁ実に残念だ」


 悪い笑みを浮かべる理事長。提示された環境は相良達には最高だった。お金を使わずに趣味を満喫出来る。そんな環境を提示された三人は即座に手のひらを返した。


「やります!ぜひ入部させてください!」

「人助けっていいですね」

「わっ、私も」


 三人が入部を決めたので、残るは月ヶ瀬のみとなった。


 月ヶ瀬は理事長に問いかける。


「彼らはそういう人なのですか?」


 抽象的な問いかけだった。しかし理事長には通じたのか、


「ああ」


 と短く返していた。


「では、入部します。ただ黙っていてください」


 含みのある言い方をする月ヶ瀬。


「もちろんだ。では四人ともこれに記入してくれ」


 相良達に渡されたのは入部届け。全員が必要事項を記入し、理事長に提出する。


 全て受け取った理事長は四人に告げる。


「君達の部活は表向きには別の部活となっている。そうだな・・・」


 そこまで言って何かを考え込む理事長。そして思い付いたのかポンと手を打って言う。


「表向きには『オタク部』でいこう。うん、オタク部にお助け部、語感も悪くない。ということで『オタク部』は明日から始めるのでよろしく頼む」




 こうして相良達四人の少し変わった部活動が始まった。


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