3神、人は逝きー神は生き
争い⋯⋯力を用いて様々な自己目的を達成しようとする行為、また用いた結果生じる人間の対立状態である。
一般的に、国家もしくはそれに準ずる集団が、自営や利益の確保を目的に力を行使し起こすこと。
それは政治だけではなく、経済、地理、文化、技術など広範にわたる人間の活動が密接に関わっている。
ゆえに、争いは太古から続く最も原始的かつ、暴力的な紛争解決手段であると言え、争いは人の営みの側面でもあるのだ⋯⋯と。
「この豚野郎っ‼」
「わし、幸せすぎて死ねるぞい‼」
人の営みってなんだっけ、平和の神ってなんだっけ、もうどうでもよく思えてきた⋯⋯。
「お腹すきましたっ⋯⋯」
エイレーネーのお腹から、雷雲を思わせるくらい大きくお腹が鳴った。
「ジェス爺、なんか食べ物ないか?」
外を見るともう日も落ちそうだ、この世界に来て何時間経っているか⋯⋯。
「最近は日照りが悪くてのお、作物が全然育たんくて食べるものが不足しとるんじゃ」
町を遠くから見た限り、牧場らしきものは無かった⋯⋯肉は無理そうだな。
「わしの孫が山に食べ物を取りに行っとる、帰ってくるまでしばし待ってくれるかのお?」
すると家の扉が開き、短い黒髪の女の子が入ってきた。
「ただいま戻りました」
「おーおかえり、遅かったのお⋯⋯この子がわしの孫じゃ‼」
ジェス爺から紹介された女の子は少しお辞儀をして、
「ご紹介に与りました、ユウコと申します。⋯⋯歳は17です、以後よしなにお願いいたします」
うわーすっごい礼儀正しい。とても特殊なお爺さんの孫とは思えない⋯⋯て失礼か。
「こっちは、わしの家に泊まることになったユウキ君とエイレーネー様じゃ」
なんで俺が君で、エイレーネーが様呼びなんだ⋯⋯あ、神様だからか。
「エイレーネー様、わしをもう一度だけ呼んでくれませんかのお?」
「豚野郎っ‼」
⋯⋯これ、神様じゃなく女王様として見てるな爺さん⋯⋯。
「その言葉だけで、わしは昇天できるんじゃあ‼」
もう、勝手に昇天しといてくれ⋯⋯
安定の身もだえをしているジェス爺をよそに、何か作業をしているユウコさん。
「ユウコさん、俺が何か手伝えることあります?」
「山でキノコを採取して帰宅したのですが、どのキノコが食べれるものか、私には分りかねるので困っています」
籠に山盛り入っている色々なキノコ。俺もどれが食べれるキノコか分らない、とりあえず派手な色のキノコは食べれない事はわかる、警戒色は食うなよと主張してるようなものだからな。
すると、話を聞いていたのかエイレーネーが少しテンションを高くして。
「この籠からっ、自分の食べれそうと思うキノコを各自取って焼いて食べるのってどうですっ?」
皆さんは、ロシアンルーレットをご存じだろうか?ロシア発祥のゲームで、リボルバー式拳銃に弾薬を装填し、適当にシリンダーを回転させて自分の頭に向け引き金を引く、元は看守が囚人に強要した拷問だとされている。
さて⋯⋯問題はリボルバー(籠)に何発の実弾(毒キノコ)が入っているかだ、それがわからない以上危険すぎる。これは流石にやらないだろう⋯⋯。
「しちりんと木炭を持ってきますので、しばらくお待ちください」
「わしは2階から塩を取ってくるかのお」
なんで誰も止めない!?
「アニメや漫画は、得体のしれないキノコを食べれば笑いが止まらない、体からキノコが生えるなんて可愛らしいエピソードになるが、リアルに毒キノコを食べると下痢、嘔吐、発熱、最悪の場合死に至るなんて事も普通にあるんだぞ⁉」
「体からキノコが生えるのは可愛い事なのっ⋯⋯」
⋯⋯どっちも洒落にならないよねー、その上でやるなんて恐ろしい子。
「塩をもってきたぞい」
「お待たせしました、しちりんの準備が整いました」
しちりんを4人で囲んで傍から見れば楽しそうな食事風景だが、参加側からすれば生と死が隣り合わせのデスゲーム⋯⋯。
「お腹空いたからっ、早く食べちゃいましょうっ」
鮮やかな赤と黄色のキノコを取って焼きだした。
警戒色って知ってるかエイレーネー⋯⋯
「その色のキノコはダメだと思うぞ⋯⋯」
「キノコの色はね味を表すのっ‼このキノコはきっとピリ辛のスパイシーキノコなのっ‼」
まあ好きにさせてやるか、エイレーネーは神だキノコに当たって死ぬなんてないだろう。
「肉厚スパイシーでっ、美味しいのですっ‼」
しちりんからキノコを取り美味しそうに頬張るエイレーネー。
うっそだろ⋯⋯
「次は私がいただきます」
「ユウコさん、変なキノコは危ないから選んじゃダメだよ?」
ユウコさんは人間、当たると大変だから少しでもまともそうなキノコを選んでほしい。
「これを、いただきましょうか」
傘が小さく細長い紫の色のキノコを取りだし、しちりんで焼きだした。
「まって、それダメだと思う‼」
仮にも神が色=味って言ってるんだぞ⋯⋯紫ってどう考えても毒だろ‼キノコ好きな配管工兄弟でも遠慮する色だぞ⁉
「口に入れた時の香りがとても良いですね、コリコリとした歯ごたえが癖になりそうです」
紫キノコを無表情で食べるユウコさん。
あー⋯⋯うん、よかったね⋯⋯。
「わしも食べるかのお」
ジェス爺は何食べても大丈夫だろう。バカは風邪をひかない(バカだから風邪をひいてることに気づかない)し変態は毒されない(すでに変態として毒されているから毒されることに気づかない)だろう。
「このキノコはうまそうじゃ」
ジェス爺が取り出したキノコは、傘が逆についている青いキノコで、傘の部分には蜻蛉の複眼を思わせる赤いドーム状のものがいくつも付いていた。
「いや、これは絶対ダメだろ‼」
「ほれ、焼いたら美味しそうなダシが出てきたぞい」
焼くことによって、傘の赤いドーム状の部分が割れ赤い液体が出てきていた。
「これは洒落にならないやつだ⋯⋯」
食べれるか以前に、見ただけで嫌悪感を覚えるレベルだった。
そんなキノコを小皿に移し塩をかけて食べるジェス爺。
「美味しいくないのお⋯⋯でも食べれそうじゃし、食べるかのお」
美味しくないとかそんなレベルなのか⋯⋯俺なら嫌悪感で口にすら入れれないだろう。
さて、俺はどのキノコを食べようか⋯⋯もう、この調子なら全部毒ないんじゃ⋯⋯
「これ、松茸じゃないか⁉」
白い幹に茶色い少し丸まった傘⋯⋯これは見たことがある。秋の味覚の王者、松茸‼
松茸(?)をしちしんにのせて焼きだした。
「このキノコ危なくないかのお?まるで毒の塊みたいな見た目じゃ」
「何言ってんだジジイ、あんたの食ったキノコの方が、毒の塊みたいな見た目だったじゃないか」
高級キノコ松茸様を甘く見るんじゃねえ⋯⋯と。
松茸(確信)をしちりんから取り出し口に運ぶ。
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気が付けば天地が真っ暗で、奥行きがわからない世界に居た。
目の前には、シンプルな木の杖を持ったアゴ髭を蓄えたお爺さんが立っていて、俺に語り掛けてきた。
「おぉ優木よ、死んでしまうとは情けない」
「⋯⋯は?」
3話書かせていただきました。
3話作成中にパソコンが唐突に再起動して、作成中(終了間近)の文が吹っ飛んだので、萎えて現実逃避していました。こまめに保存大切(白目