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母からの伝言

作者: 伊勢崎みや

母親と息子とのせつないやりとりです。

感想よろしくお願いします。

プラットホームには昨日降った雪がまだ解けず、

朝の日の光を受けキラキラ輝いている。

真冬の朝の寒さはとても厳しく、僕はポケットに手をつっこみ、

マフラーの中に首をうずめる。

いつも乗るはずの電車が昨日の雪の影響で定刻通りに

発着できず、客が駅員にいつ来るのかと押し寄せていた。

午前の授業には間に合いそうにもなく、ただ電車が来ることを

待つしかなかった。



「はやと、今日の帰りどこかで遊んでいかない?」


「ごめん・・、18時以降になると電車がほとんどないから遊べないんだ。」


「あっそうだったな・・・じゃあ今度の日曜日に遊ぼうぜ。」


「おう。今度の日曜日な。」


僕の住んでいる所は町のはずれにあり、夕方以降になると

電車の本数が2時間に1本なんてことがざらにある。

だから、夕方に友達と遊ぶことはなく、

寄り道はせずに帰路につく。


今日も学校が終わるとすぐに電車に乗る。

一時間電車に揺られて駅に着く。

プラットホームの雪の塊はは昼の暖かさで少し小さくなっていた。

駅員に定期券を見せ、改札を抜ける。

ふと顔を上げ、駅に取り付けられている時計を見る。

その時計の下には目をそらしたくなるものがあった。


田舎の駅だけにあるのだろうか、薄汚れた黒板に黄色のペンキで

"伝言板"と書かれたものがひっそりと置かれている。

そこには見覚えのある字でこう書かれていた。


「はやとへ

  帰りに卵と牛乳を買ってくるように。

           母より」


僕はそれを見るなり、すぐに黒板消しで

その見慣れた文字を消した。


「はやと君、ちゃんと買っていくんだよ。」

駅長のおじさんが笑みを浮かべながら僕に声をかけてきた。


「わかってますよ!」

駅長の笑みに少し腹がたったが、

僕は顔を真っ赤にして駅の外へと飛び出した。




「ただいまー。」


「おかえり。卵と牛乳買ってきてくれた?」

母は晩ごはんの支度をしながら僕に尋ねてきた。


「買ったよ、買った。」

僕は駅前の商店街で卵と牛乳を買った。


「わあ、助かるわー。ありがとう。」


「そんなことより母さん、もうあの伝言板には書かないでよ。」

僕は買ってきた牛乳を早速開封してグラスに注ぎながら、母に懇願した。


「だって便利じゃない。あんた毎日絶対あそこ通るんだから。」


「みんなあの伝言板見るんだよ。どんだけ恥ずかしいか分かる?」


「まあ、それは仕方がないけどちょっとくらい我慢しなさい。」


「なんだよそれ・・・」


僕はこれ以上言っても無駄だと感じ、自分の部屋へ戻った。


僕が高校に入学し、電車通学を始めた最初の週には、

もう伝言板に母からのメッセージが書かれていた。


「はやとへ

   醤油切らしたから買ってくるように。

           母より」


これが最初の母からの伝言であった。


およそ週に1回は伝言板にメッセージが書かれていて、

色々な頼み事が書かれていた。あれを買ってきてくれだの、回覧板を回して

欲しいだの、しまいにはお弁当に入っているトマトはちゃんと食べたのかと

いうものまであり、そのだびに僕はチョークで書かれているその字を

黒板消しできれいに消すことが習慣になった。


「母さん、僕が恥ずかしがるのが分かっていて、

 わざと伝言板に書いているでしょ。」


「そんなことないわよ。ただあんたにお願いしているだけじゃない。」


「いや、ウソだね。それなら学校に行く前に僕に言えばいいじゃないか。」


「うっかり忘れちゃうのよ。だからああやって伝言板に書い・・・」


「そういうのウザいんだよ。いい加減やめてくれよ!!」


母が話しているのを遮って、僕は怒鳴り散らしてしまった。

母が罰の悪い顔しているのが分かった。

僕も居たたまれなくなり、自分の部屋へと戻った。


翌朝、僕と母は会話もせずに朝食を食べた。

家を出る直前に母が弁当を持たしてくれた。

その時、母は何かを話そうとしていたが、

僕は何も言わずにそれを受け取り玄関を飛び出した。


昼休み、友達と一緒にワイワイお弁当を食べていると、校内放送が流れた。

その内容は僕の呼び出しであり、職員室に至急来るようにとのことであった。

友達からは「お前、なにか悪いことしたのかよ」とからかわれながら

、僕は教室を出ていった。


「失礼します。」

と言いながら職員室のドアを開けた。


「おう、藤本。お前に報告しなければならないことがある。

 落ち着いて聞いてくれ。」


「は、はい・・・」


「お前の母親が交通事故にあってしまって、救急病院に搬送されている。

 かなりの重体だそうだ。」


僕は一瞬、先生が言っていることが理解出来なかった。

頭が真っ白になっていたのだ。


「おい、聞いているのか、藤本。これから俺がお前をその病院に送っていくから

 帰る準備をしてくるんだ。分かったか。」


僕は教室に戻り帰りの仕度を始めた。

友達は俺の顔色がいつもと違うことを察したのか、

声をかけてくるヤツはいなかった。


そして先生の車に乗り込み、駅とは反対方向にある病院へと向かった。

その車の中で、先生は僕に話しかけてはいたのだろうが、

呆然としている僕の耳には入ってはこなかった。



「残念ながら・・・」

医師がそう告げると、僕の前から姿を消した。

僕はただただ立ち尽くしていた。

そんな僕を看護婦が優しく声をかけてくれて、

そして母のところまで連れていってくれた。


母のその安らかな顔を見ると、これは何かのドッキリではないかと思った。

昨日あんなことをしゃべるんじゃなかった。

もっともっと楽しく話しながら朝ごはん食べればよかった。

伝言板のことを責めなければよかった・・・




先生が車で僕を家まで送ってくれた。

1週間休んでもよいと先生が提案し、僕はそれを受け入れた。

心の整理をする期間が必要だと先生は言ってくれたのだ。


1週間後、僕は学校に行くことにした。

周りに迷惑をかけてはいけないと思った。

誰もいない家に「いってきます」と声を発した。


駅に着き、ふと伝言板を見る。

そこには母の字が書かれていた。



「はやとへ

   今日のお弁当はどうでしたか?

   あんたの好きなおかずをいれておきました。

   母さん、あんたの気持ちに気付いてあげられなくてごめんね。

   今日は何も頼まないから早く帰ってきなさい。

                          母より」



僕の瞳からスーっと涙が一滴こぼれた。

僕はチョークを手に取ると伝言板にメッセージを書き始めた。



「母さんへ

   お弁当おいしかったよ。

   ごちそうさまでした。


            いってきます。

                         はやとより」


駅のプラットホームの雪は完全に溶けていた。

ふと上を見上げると、そこには朝の日の光を受け

キラキラ輝く桜がそこにはあった。


   






















いかがだったでしょうか?

是非読んでいただいた方の感想が知りたいです。

感想を書いていただくとありがたいです。

よろしくお願いします。

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