Chapter 3 -Part 1-
僕は瑞紀に無性に会いたくなった。三年の歳月を経て、惰性を極めた果てに行き着いた先は何もない無限の荒野だった。オアシスのない砂漠だった。彼女と会って、少なくとも高校一年生の頃の自分を取り戻したかった。この手紙のように蒼かった自分を。僕は、もう一度手紙の隅々まで目を通し、封筒の中までも確認して瑞紀の連絡先を探したが、電話番号どころか住所さえ書かれていなかった。手紙の消印すらぼやけてよく読み取れなかった。
僕は大きくため息をついて椅子から立ち上がると、目の前の窓を開け放ち、夏にしては乾いた風を部屋全体に送り込んだ。そんな風に部屋の窓を開けたのも久しぶりだったが、そのことで僕はある重大な現実を再確認することになった。そう、この部屋は僕の心そのものだった。窓を締め切って薄暗い部屋に閉じこもり、人との関わりどころか風さえ避けてきたのだ。僕は変わることを求められていた。瑞紀からも、そして何より自分自身からも……自分の手で風向きを変えなければならなかった。その後でなければ、ひと足早く風向きを変えた瑞紀と会うことはできないのだ。
その日から僕は、遅まきながら受験勉強に身を入れ始めた。そして自分が変わったことを客観的に証明するために、今何をすべきかを真剣に考えた末、三年ぶりに小説を書くことを決意した。今の想いを文章の形にして、いち早く瑞紀の元に届けたかった。だから僕は、改めて出版社の主催する新人賞に挑戦することにしたのだ。
でも、物事はそううまくはいかなかった。受験勉強と執筆活動との両立は思った以上に厳しく、僕は寝る間も惜しんで頑張ったが、共倒れになることを恐れて程なく小説の執筆を諦めた。でも僕は、本当に諦めたわけではなかった。机の引き出しの奥には少しセピア色に変色した原稿用紙の束があり、僕はおもむろにそれを取り出すと、ゆっくりと順を追って読み始めた。そう、それは三年前に僕が瑞紀とともに書き上げた物語だった。あの夏に新人賞に応募しないまま時を経たこの作品こそが、自分の真実の想いそのものなのだ。だから僕は、もう一度読み返して手を入れたうえで、真新しい作品として応募しようと思ったのだ。
やがて年が改まったが、風向きのほうは全く変わらなかった。僕は二度目の大学受験にも失敗し、二浪するかどうかの結論も出せないままに、四月から家の近くのコンビニでバイトを始めた。結局のところ、自分の思惑とは裏腹に何もかもが変わらなかったのだ。僕の生活は再び惰性に委ねられるようになり、瑞紀と会えるチャンスも、そうして僕から確実に遠のいていくかに見えた。でも、そんな矢先に受け取った一本の電話が、僕に新しい運命の風を巻き起こした。それは応募していた出版社からのものであり、僕の作品が新人賞の佳作に選ばれたという連絡だった。佳作というところがいかにも自分らしいと思いながらも、久しぶりの朗報に、僕はほんの僅かながらでも、自分の力で風向きを変えられたような気がして胸が躍った。そして、この喜びを誰かと分かち合いたくなった僕は、一年ぶりに雅也のもとに電話をかけた。