時を超えて届く手紙
15年前の僕に
こんにちは。
突然の手紙に驚きましたか?
僕は15年後のあなたです。
この手紙は時間を超えて届くと書いてあったから、こうして送ることにしました。
15年前の僕は……たしか小学生だったと思います。
色々あった学校生活も、今ではあまりはっきりとは思い出せません 。
この手紙を送る一番の理由は、15年前の自分に謝りたいと思ったからです。
あなたが願っていた夢を一つも叶えることができず、大人になってしまった僕を、どうか 許してほしい。
まだ幼いあなたがこの手紙を読んでも、きっと今はまだ理解できないかもしれないけれど、現実は思っているよりずっと厳しいものでした。
昔は、テレビに出てくる有名で立派な大人たちを見て、「僕もあんなかっこいい大人になりたい」と夢を持ったこともありました。
逆に、真夏に汗だくになって働く大人を見て、「ああいう大人にはなりたくない」なんて、幼い考えを持ったこともありました。
15年前の僕は、きっと大きな夢を抱いて、何でも叶えてやるという意気込みで満ちていたと思います。
周りの友達も歌手や俳優、スポーツ選手など、みんな大きな夢を持っていたし、
「僕は将来偉大な人間になるんだ!」なんて、両親や先生の前で大きな口を叩いたこともありましたね。
そんな夢を抱いたまま、僕はごく普通の中学校に進学しました。
中学でも、僕は特に優秀な生徒というわけではなく、ただの平凡な学生として過ごしていました。
友達とは楽しく遊び、両親とは喧嘩も増え、問題を起こして迷惑をかけたこともたくさんありました。
そして、当時の僕はまだ夢をあきらめていませんでした。
小学生の頃に抱いた夢を叶えるために、専門的な高校への進学を目指して努力もしました。
でも、その夢は叶いませんでした。
試験に落ちて、結局はどこにでもある普通の高校に進学しました。
その時の僕はとても落ち込んでいました。
やっぱり自分には無理だったとか、向いていなかったのか……そんな風に自分を否定し始めました。
高校では初めての彼女ができて、そんな僕を支えてくれました 。
僕は、彼女のおかげで少しずつ立ち直るような気がしました。
しかし、時間が経ち、いつの間にか「大学」という次の試練が目の前に現れました。
彼女もその時に、受験で少しずつ離れていき、結局別れることになりました。
初めての失恋はとても苦しくてまた、落ち込む日々が戻ってきていました。
でも、時間は僕が立ち直るのを待ってくれませんでした。
試験の日はどんどん迫ってきて、僕はそれに向き合い 、また必死に勉強をしました。
小学生の頃の夢が叶わなかったとしても、良い大学に入れれば、それだけで自分を証明できる気がしたんです。
そうして毎日、勉強に追われる日々を送りました。
どんどんイライラして、落ち込みもひどくなっていきました。
「もう全部やめてしまいたい」と思ったこともありました。
毎日を追い立てられるように生きていました。
試験を受けて、いい成績も取りました。
でも、難関大学に合格するにはギリギリの点数で、
僕は面接などに全てを懸けるしかありませんでした。
結果は……不合格でした。
自分に「適当な大学でいいや」と言い聞かせて、そこに入学することにしました。
大学に入学してからは、それまで仲の良かった友達との連絡もさらに減っていきました。
みんなが順調に新しい生活に馴染んでいるのに、僕だけが取り残されているような気持ちになったこともあります。
一から始まる環境に適応することが、僕にはとても難しく感じました。
それでも何年か経つうちに、大学生活にもようやく慣れてきました。
しかし、それも束の間、「就活」という新たな試練がやってきました。
就職活動は僕にいろんなことを考えさせました。
忘れかけていた、幼い頃の夢も思い出しました。
もちろん今さら小学生の時の夢を叶えようとは思っていません。
あの頃は、明るくて輝かしい未来が待っていると信じていました。
でもいつからか、その未来という部屋の電気が消えたみたいに感じるようになってしまいました。
テレビに出てくる素敵な大人たちみたいになりたかったのに、いつの間にかその夢はどこか遠くに行ってしまっていました。
汗を流しながら働く人たちを見て、「あんな風にはなりたくない」なんて思っていたのに、気がつけば僕は、まさにそうなりたくなかった職業を持った大人になっていました。
そんな幼い日の自分に、謝りたいのです。
ごめんなさい。
僕はあなたが望んでいた学校に入ることができませんでした。
あなたが夢見た未来を叶えることができませんでした。
あなたが憧れていた、あの「かっこいい大人」になることができませんでした。
あなたの夢を叶えてあげられなくて、本当にごめんなさい。
もし昔に戻れるなら、過去の過ちを正しく直すこともできるでしょう。
でも、僕は直したくないです。
僕は昔のことを反省していますけれど、後悔はしていません。
たくさんの失敗と間違いがあったからこそ、今の僕がいます。
何度も転んだからこそ、立ち上がり方を学びました。
数えきれない苦しみがあったからこそ、耐える力を身につけました。
数多くの愚かな考えがあったからこそ、賢さとは何かを知りました。
幼い頃に馬鹿にしていた、汗をかいて働く仕事も、この国を支えてくれている「かっこいい仕事」だということも、今の僕はわかっています。
僕は小学生のあなたに、どうしても伝えたい事があります。
これからあなたの前には、たくさんの困難や試練が待ち受けています。
そしてそれは、大人になった今の僕にも同じように襲いかかってきます。
でも、そんな苦しみの中でも、どうか学ぼうとする心を忘れないでください。
すべての困難を乗り越えることも素晴らしいことですが、
それに耐えて踏ん張ることも、立派なことなのです。
スポーツ選手が1位を取るのもすごいけれど、
ビリでも優れた人であることには変わりありません。
どうか過去に囚われず、過去を踏みしめて、前へと進んでください。
小学生の頃のあなたへ……
そしてこれから先の僕自身へ、この手紙を残します。
実は、もう一つ伝えたいことがあります。
この手紙は、時を越えて届きます。
もしかしたら今この手紙を読んでいるあなたが、手紙を書き返して、
15年後の僕に届けることもできるかもしれません。
だから、わざと数ページ分を空白のまま送ります。
どうか、あなたの今の気持ちが、15年後の僕に届きますように。
それでは、さようなら。
どうか、元気で育ってください。
——
15年後の僕より
——
お読みいただき、ありがとうございました。
実はこの物語、まだ終わっていません。
最後の手紙の内容は、ぜひ皆さんの手で綴っていただきたいのです。
15年後の「あなた自身」に、何を伝えたいですか?
ぜひ、感想欄にその思いを自由に書いてみてください。
この物語の結末を、皆さんの言葉で完成させてください。