第8話:『不屈』の勇者
◆前回までのあらすじ◆
ヒュドラを助けるために人間のパーティーとの戦闘になったリュウジ。
リュウジが優勢に戦闘を進めていたが、人間パーティーのリーダーがスキル【不屈の徳】に覚醒したのだった。
世界の言葉が告げられると共に、黒髪の軽戦士の身体を虹色の光が包み込む。
――厄介なスキルを取得されてしまったな。【不屈の徳】はユニークスキルの中でも最上位に当たる『美徳スキル』だ。ここから先は手加減とか考える余裕はないよ。
友が告げる忠告の言葉は、今までになく真剣なものだ。
相手が纏っているオーラからして、これまでのものとは比べ物にならない圧を感じる。全身の肌が焼け付くようにビリビリと震える。
ちょっと待ってくれよ。これてもしかして主人公覚醒ってヤツ⁈
僕が知っているバトルもののアニメだと、窮地に陥った主人公が覚醒して勝利するというのが鉄板ストーリーだった。
敵役からしたら完璧な『死亡フラグ』だ。
って事は敵役である僕はここで負け――いや、殺されるのか?
嫌な予感に、冷や汗が零れる。
戦いたくない、なんて考えている場合じゃない。何とかしてこのあからさまな死亡フラグを回避しなくては!
これまでの甘い考えを切り捨てて、真剣に相手へ視線を向ける。
「うおおおぉぉぉっ!」
雄叫びと共に黒髪の軽戦士が突っ込んでくる。
僕は慌てて、両腕を使用した爪撃による衝撃波の連撃を放つ。
出鱈目でもいい、距離を詰められちゃダメだ。
「はぁぁっ! でやぁ! はっ!」
付け焼刃の対応では相手は止まらなかった。
僕は放った衝撃波は、黒髪の軽戦士の虹色に輝くオーラを纏わせた剣で弾き飛ばされ、勢いが削がれる事なく距離を詰めて来る。
――通常技では止められない。スキルで迎撃だ。
友の言葉に頷く暇も惜しんで、即時にスキルを発動する。
――ザン――
僕の発動した【亜空切断】によって空間ごと相手を切り裂く。
この技ならば防御できないはずだ。
しかし黒髪の軽戦士は、スキル発動の直前に大きく跳躍しその一撃を躱したのだった。
なっ、読まれていた?!
戦闘開始前に相手に【解析】されおり、さらに一度このスキルは見せていまっていた。
なのでスキル発動予備動作を見抜かれたのだ。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
黒髪の軽戦士が雄たけびとともに虹色のオーラを纏わせた剣を振りかぶりる。
それと同時に虹色の光が天を突く。
そのままその剣を振り下ろそうとする。
ヤバい、この攻撃は防ぎきれない――
そう直感した僕は防御ではなく反撃を選択する。
身を翻し、反転した勢いを利用した尻尾の薙ぎ払い攻撃を繰り出した。
ドガッ
僕の身体が巨体であったことが功を奏して、先にこちらの攻撃が当たり、相手をはじき返すことに成功する。
だがその一撃は金ピカ剣士の時のような有効打にはならなった。
尻尾が当たる直前に黒髪の軽戦士は片腕で防御したのだ。弾き飛ばすことは出来たが、相手は空中で身を翻してバランスを崩さずに地面に着地し、地面を削ってその勢いを止めたのだった。
ダメージなし、か。
――やはり【不屈の徳】の効果は『相手との実力差に比例しての自己強化と加護』のようだ。今の攻撃がノーダメージなんてありえない。
友がすぐさま相手の状態からの推測情報を教えてくれる。
どうすべきか、と思考を巡らすが、今の攻防で危機感を募らせたのはこちらだけではなかった。
「くっ、やはり正攻法で攻略するのは難しいか……
多少のリスクは仕方ない。魔力が足りないのなら――『光よ、我が元に集え』!」
その言葉と共に、ヒュドラを縛り付けていた光の剣が粒子となって男の周囲に集まり二本の剣を形取る。相手に魔力の余裕が無く新たに『光の剣』を生み出すことは出来ずとも、すでに具現化済みのものを操ることは可能なのだ。
虹色のオーラを纏った剣と、宙に浮かぶ二本の光剣が狙いを定める様にこちらに向く。
スキルで強化された剣での攻撃だけでも厄介なのに、そこに遠隔操作可能な武器が二本増えたのだ。厄介極まりない。しかし光の剣を呼び寄せたことでヒュドラを縛るものが無くなった。
(――今のうちに逃げて)
そう思念を送る。
しかし、拘束を脱したヒュドラは体力が殆ど残っていない様で、すぐには動くことができなかった。なにか思念を返してきたが、その思念は微弱すぎて読み取ることができなかった。
そんな事をしているうちに、相手が次の行動に出る。
「スキル【光の剣操者】――双剣演舞刃!!」
軽戦士の言葉と共に、宙に浮いた光の剣が意志を持ったのかような動きで襲い掛かってくる。
その攻撃をなんとかして防御する。直線的に飛来して刺突攻撃をしてきた一本目を弾くと、時間差で二本目が薙ぎ払い攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃を上腕部で受け止める。光の剣の攻撃力よりこちらの防御力が上のようで、光の剣の攻撃は鱗に弾かれてダメージとならない。
もしかして相手の攻撃って大したことないのか、と油断しかけたところで、ゾクリと悪寒が走り、後方へと跳び退る。
次の瞬間、虹色の光を纏った剣の一撃が直前まで僕のいた場所を襲う。その一撃の余波だけでビリビリと肌が震える。
危ない。多分、あの攻撃は僕の防御力でも防げない。
戒すべきはあのスキルにより加護が乗った剣の方だ。まだ食らってはいないが、そう直観する。
だが、今の攻撃で相手の射程が分かった。剣に纏わせた光の範囲、半径数メートルが限界の様だ。なので、空へと飛び上がってしまえば、あの攻撃は届かない。
そして、距離をとってしまえば【亜空切断】と、まだ使用していない奥の手の【竜の息吹】で対処できる。
そう思い、飛び上がろうと翼を広げる。その刹那――
――リュウジ、上っ!
友の声に振り返ると、頭上に大剣を振りかぶる金ピカ剣士(鎧は砕けている)の姿があった。
「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
激しい雄たけびと共に金の剣士が大剣を振り下ろす。僕は咄嗟に両腕でそれを防御する。
ドゴォォオオォオォォォォン!!!
相手の武器では僕の身体に傷付つけることはできないのだが、その凄まじい膂力で飛び上がろうとしていた浮力が相殺されるどころか、足元の地面が陥没するほど押し込まれる。
(な、なんて力なんだ……)
「はっはぁー! 俺のユニークスキル【剛力無双】は天下無敵っ」
金ピカ剣士は狂気を帯びた笑みで叫ぶ。
先ほどまで瀕死の重傷だったはずなのに傷が全快している。純白の聖女が魔法で回復させたのだろう。
(くそっ、こいつがこんなに早く復活するなんて)
まさかこんな短期間にあの状態から回復させるとは思ってはいなかったため、完全に金ピカ戦士の事とを意識から外してしまっていた。
「ぬぉりゃぁぁぁぁっ!! このまま潰れてしまえぇぇ!」
金ピカ剣士がさらに力を込めて押し込んでくる。その言葉通り気を抜いたら地面に押しつぶされそうだ。
その押し込む力はとんでもないもので、持ちこたえるのがやっとの状態だ。
「くっ! 俺様の【剛力無双】でも仕留められないか。だが俺たちは一人じゃない」
ゾクリと嫌な予感が走る。
「エイジ、お前においしいとこはくれてやる。とどめは頼んだ!」
金ピカ剣士の言葉とともに、黒髪の軽戦士が全能力を剣に乗せて間合いに飛び込んでくる。
僕は両腕で金ピカ剣士の攻撃を受け止めており、身動きが取れない。
鱗で覆われていない腹部が無防備だ。
そこをめがけて黒髪の軽戦士が乾坤一擲の一撃を放つ態勢となる。
このままじゃ、殺られる――
――リュウジ!!
友の声が頭の中で響く。
絶体絶命のピンチに、僕は死を覚悟した――
モチベーション維持のため、ブックマークもしくは評価いただけるとありがたいです。
『面白いかも!』
『続きを読みたい!』
『陰ながら応援してるよ!』
と思われた方は、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援していただけると嬉しいです!
↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります!
それと、イイネ機能が実装されましたので、いいなーと思ったエピソードがあれば「イイネ」ボタンポチりもよろしくお願いします。




