第6話:初戦闘
◆前回までのあらすじ◆
助けを求める声に導かれたのは、魔獣が人間の冒険者に襲われている場所であった。
ヒュドラの悲痛の声をうけて、ドラゴンに転生したリュウジは助けに入るのであった。
目の前に立ちはだかるの三人組の人間パーティーだ。
一番目立つのは金色の全身鎧を装備した剣士だ。あんな目立つ鎧を付けて恥ずかしくないのかなと思うが、友曰く「あの鎧は王魔金属製で全属性に耐性がある鎧」らしい。
スキルを利用し全身に光のオーラを纏わせている。
次に目立つのは純白の法衣を纏った銀髪の美女。いかにも僕の好きなアニメに出てくる聖女といういでたちで、後方で祈りをささげている。多分だが仲間への加護と支援を担っているのだろう。
そして最後の一人は黒髪の軽戦士。黒髪で東洋系の顔立ちは日本人に酷似しており、まさにRPGゲームの主人公の様である。手にした片手剣だけでなく、スキルにて『光の剣』を生み出してこちらを睨んでいる。
僕は前世では寝たきりで戦闘どころか喧嘩すらしたことがないので、なんとか戦闘になるのは避けたいと思っているが、その思いとは裏腹に相手が動く。
金ピカ剣士は大剣を構えヒュドラにとどめを刺そうと駆け出し、黒髪の軽戦士は僕を牽制するために『光の剣』をこちらに向かって飛ばしてきた。
瀕死のヒュドラを殺し、全戦力を持って僕を迎え撃つ作戦の様だ。
だから!
僕は飛来する剣に向かって下降し、光の剣を腕を振り払う事で弾き飛ばし――
やめろって
そのまま腕を振りかぶると――
言ってんだろ!!
今まさにヒュドラにとどめを刺そうとしている金ピカ剣士に振り下ろす。
振り下ろした爪の斬撃は衝撃波となって金ピカ剣士を襲う。
「危ない、ベガ!!」
「なっ、くおっ!」
聖女の声を受けて、金ピカ剣士がヒュドラへの攻撃を止め、咄嗟に防御に切り替える。手に持った大剣を盾のように扱い、僕の放った衝撃波を防いだ。
本能の赴くまま繰り出したのだが、今の攻撃にはスキルを使っていない。
素の攻撃が衝撃波になったのだ。
って事は、今の様な斬撃を飛ばす攻撃ならば魔力消費がないので、撃ち放題って事かな?
性懲りもなくヒュドラを攻撃しようとする金ピカに両腕を使って繰り出す斬撃波の連撃をお見舞いする。
この攻撃、超便利!
「くっ、くそっ、これじゃ攻撃できねぇ。
おい、エイジ。なんとかするんじゃなかったのかよ!」
金ピカ剣士は斬撃の嵐を必死に弾きながら不満の声を上げる。
「分かってる。くそっ、化け物が!」
黒髪の軽戦士がこちらに指を向けて左右に動かす。
すると先程弾いた光の剣が軌道を変えて再度襲いかかって来る。
――リュウジ!
注意を促す友の言葉に「分かってるよ」と返しつつ、大きく右腕を振るう。
スキル発動【亜空切断】――
ザン――
パキィィィン……
今度はしっかりと念じて『スキル』を発動させる。
スキルを使用したため魔力が消費され、その効果で空間ごと光の剣を切り裂く。それにより光の剣は高い破砕音と共に粉々に砕け散りる。
「くっ」
具現化武器が破壊された反動か、黒髪の軽戦士が小さくよろめき、その顔が苦悶に歪む。
――具現化スキル撃破の反動で、魔力減衰が入ったみたいだね。多分ヒュドラから剥ぎ取った素材を【空間収納】しているもはあの黒髪なんだろう。魔力の余力が無くなり、スキルを維持するだけで手一杯になったみたいだね。
友が冷静に相手の状況を分析して伝えてくれる。
黒髪の軽戦士の戦力は半減だ。さらに魔力を削れば、戦闘継続が困難になり撤退してくれるかもしれない。
そう考えていたのだが、そう上手く事は運ばない。
「こいつさえ屠れりゃ、活路が見えんだろ!
やってやるぜ」
金ピカ剣士は、光の剣の対処で僕の繰り出す斬撃波の嵐が弱まった一瞬を突いて捨て身で特攻したのだ。
「全てをこの一撃に賭ける。
奥義・聖星極光――」
防御を捨てて全身に斬撃を受けながら跳び上がり、膨大な魔力を大剣に乗せて振りかぶる。
何度言わせるんだ――
相手の動きを察知した僕は、一気に急降下
やめろって――
超高速で落下すると同時に身を捻り尻尾を鞭のようにしならせ
「言ってんだろ!!」
激しい咆哮とともに落下の勢いと身を捻った遠心力を乗せた尻尾の一撃を金ピカに叩きつける。
「ベガ! スキル【防御結界】」
「な――」
パキッ――
ドゴォォォォン!!!
金ピカ剣士に尻尾が叩きつけられる寸前、純白の聖女が防御結界系のスキルを発動させたみたいだが、その結界諸共に金ピカ剣士を吹き飛ばした。
インパクトの瞬間に何かが砕けるような感触があったので、防御結界は僕の一撃であえなく破壊されたと思われる。
「きゃあっ」
防御結界が破られた反動で聖女が悲鳴を上げる。
そして僕の一撃を食らった金ピカ剣士は、パチンコ玉の様に弾き飛ばされ、激しく地面に激突してバウンドした後、森の樹木を二つ突き破り、三つ目の樹木にめり込むようにしてその勢いを止めた。
「が……がはっ……」
その姿は捨て身で受けた斬撃と尻尾による打撃の影響で、金色に輝く鎧は原型をととどめないぐらいにひしゃげて砕け散り、手足もあらぬ方向へ折れ曲がっていた。しそて、整えられていた顔も血まみれに崩れて、白目を剝いていた。
僕は翼を広げて羽ばたかせ落下の勢いを殺して地面に着地しながら、その状況を確認して「もしかしたら殺しちゃったかも」とすこし焦る。
この世界に転生してから間もないので自分の強さを理解していなかった。だけど、これまでの戦闘を顧みて「もしかしたら、僕ってめちゃくちゃ強い身体に転生したのではないか」と思い始める。
今のは渾身の一撃ってわけてなく、ちょと強く払う程度のつもりだった。それでもそれを受けた金ピカは防具大破に加えて全身打撲に骨折が見て取れる程の瀕死状態になってしまったのだ。
純白の聖女は慌てて金の剣士に駆け寄り、回復魔法と思われる呪文を詠唱し始める。
それと同時に、周囲を覆っていた聖なる結界が解除される。聖女も魔力に余裕がなくなったのだろう。
聖女は仲間の治癒に全神経を集中させている様だ。
それと同時に辺りを覆っていた聖なる結界が解除され、一気に周囲の魔素と毒気が上昇する。
(もう、いいだろう。撤退してくれよ)
そう願いつつ、前線に立ってこちらへ剣を構える黒髪の青年を睨みつける。
しかし、相手は撤退する気配はない、それどころか――
「俺はフェバリエ王国の勇者、ここで敗走すればお前はこのまま国を襲うだろう。
ならば俺は、ここで引くわけにはいかないんだ!!」
覚悟を決めた言葉を発し剣を構える。
そして、僕が恐れていた最悪の事態が起こる。
覚悟を決めた黒髪軽戦士の心に呼応し、≪世界の言葉≫が響く。
――逆境に立ち向かう屈強な意志を観測。条件を満たしました。エイジ=キリュウはユニークスキル【不屈の徳】を獲得しました――
それは人間側の英雄が覚醒した事を告げる言葉であった。
【ちょい出し設定集】
◾️スキル◾️
一定の条件を満たした時に世界から与えられる超常の力。
条件は未解明。才能や経験などが条件となる事が多い。
念じるのみで効果を発生させられる。
◾️魔法◾️
呪文の詠唱(音声による術式)にて超常の力を行使する技術。
◾️魔術◾️
儀式や触媒を利用して超常の力を行使する技術。
◾️術式◾️
超常の力を発生させるための方式。
呪文や魔法陣、祭壇などがこれにあたる。
◾️軍隊魔法◾️
複数人が同時に呪文詠唱を行なって発動させる魔法。
複数人の魔力が媒介となるため、強力な効果を発生させられる。




