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第5話:救援要請

◆前回までのあらすじ◆

魔物の姿であるリュウジは人間の国からの攻撃によって負傷し、傷を癒すために山岳地帯の洞穴で休むのであった。

 どこからか、声が聞こえる。


 ……すけ ……やめ…… 助……


 かすかに聞こえる声。なにかを訴えているような。


 その声に意識を向ける。


 ――助けて――


 聞き取れたのは悲痛な、助けを求める声だった。


はっ(ガルル)――」


 意識が覚醒する。


 目に映るのは岩肌むき出しな無骨な洞窟の風景。


 そうだ、僕はドラゴンに転生して人間に襲われ、傷をいやすために洞窟に逃げ込んで休んでいたんだ。


――リュウジ、目を覚ましたんだね。


 (アレクス)の言葉に僕は心の中で「うん」と答える。


――どうしたんだい。そんな慌てた顔をして。


 アレクスには聞こえない? 助けを求める声がするんだ。


――私には聞こえないけど、リュウジには聞こえるんだね?


 うん。助けに、行かなくちゃ


 そう告げて、僕は立ち上がる。


 寝ている間に傷はほぼ回復したみたいだ。わずかな疼痛が残るのみで、動くには支障がない。

 僕を中心に展開されていた「気配遮断」と「体力回復」の効果を付与した結界は張り続けたままに、僕は拠点とした洞窟を後にして、上空へと羽ばたいたのだった。


   ◆


 魔素を色濃く含んだ『逢魔の森』、その一角にて凄惨な光景が広がっていた。


「ガアアアァァァァァッ!!」


 魔獣の悲痛でくぐもった声が響く。

 声の主は蛇に似た魔獣だ。その魔獣は口が開かないようにと上顎から下顎に貫通するかのように光で形成された細身剣が突き刺さっている。そのため声がくぐもっているのだ。

 さらにその対極側にあたる尾の先にも同じように光の剣が突き刺さり、その二つの『光の剣』が魔獣を地面に縫い留めている。

 魔獣は身体を捻りその束縛から抜け出そうと試みているが一向にその束縛を脱することはできないでいた。その肌は所々鱗が剝げ、斑模様となっており体のあちらこちらからは染み出るような出血が見える。


「はははははは! こりゃ宝の山だわ」


 その魔獣の身体に乗り笑みを浮かべているのは金色の鎧を装備した、金髪碧眼の色男。その背中には大振りの両手剣が背負われているので剣士であるようだ。


 金色の剣士は無造作にその魔獣の鱗に手を伸ばすと力任せにそれを引き剥がす。


 それと同時に魔獣が悲痛な声を上げる。


「ほらほら、どんどん剥がしていくぜぇ!」


 そう告げて、次々と魔獣の鱗を剥がしていき、それを放り投げる。

 投げられた鱗は宙を舞い、弧を描いて側に控えたもう一人の仲間の元へと降り注ぐ。


「おい。加減を考えろよ」


 側に控えた仲間はそう注意しつつ、自らに向かって落ちてくる魔獣の鱗に向けて手をかざす。

 すると、その鱗が見えない空間に吸い込まれるように掻き消える。


「いくら俺の【空間収納】の容量が大きいからと言っても、収納量に比例して維持魔力が増えるんだぞ」


 スキルにて次々と魔獣の鱗を収納していく仲間が不満を漏らす。


「ははははは! 勇者ともあろう者が泣き言かよ。お前の魔力量からすればこれくらいの収納は造作もないだろう」


 金髪剣士の言葉を受けて、『勇者』と呼ばれた男はヤレヤレと肩をすくめる。

 スキル【空間収納】を使用している勇者は、黒髪赤瞳の好青年だ。


「それにしても、まさか街に潜んでいた魔物の正体が再生竜(ヒュドラ)だったとはな。こいつの再生能力を利用すれば、普通のドラゴンの三匹分は素材が採れそうだな。

 っと――」


 力任せに鱗を剝いだ金色の剣士は、噴き出した血しぶきを全身に浴びてしまう。その血は猛毒であり、血を浴びた肌が瞬時に爛れて毒が広がっていく。

 金色の剣士は苦悶の声を漏らすが、すぐさま全身が優しい光に包まれ爛れた肌が治っていく。


「ベガ、気を付けて作業をしなさいと言ったでしょう?

 私がいるのでヒュドラの毒を無効化できていますが、本来ならばその強力な毒でA級冒険者でも苦戦する魔獣なのですよ」


 そう忠告したのは、純白の法衣に身を包んだ銀髪の美女だ。


「すまんすまん。ちょっと油断しちまったよ。それにしても聖女様の癒術はすさまじいな」


 ははは、とニヒルな笑みを見せてベガと呼ばれた金色の剣士は瞬時に回復した自らの肌を見下ろす。


「それにエイジも見ているだけでなく、素材の剥ぎ取りを手伝いなさい。ヒュドラの毒を無効化するのはあなたの空間収納以上に魔力を消費するのです。

 効率よく素材を回収してください」


 純白の聖女が視線を黒髪の勇者に向けて指示する。


「え、俺も手伝わないとだめなの? こいつの動きを封じてるのも俺なんだけど……」


 エイジと呼ばれた黒髪の勇者は不満を漏らすが、純白の聖女にキッと睨まれて溜息をつく。


「はいはい。分かりまししたよ。やりますよ」


 諦めたようにそうつぶやくと、【空間収納】に使用している手とは逆、左の手を掲げて手刀を作る。

 それと同時に空中に『光の剣』が生み出される。そしてその手を振り下ろすと、それに合わせて空中に生成された『光の剣』が振り下ろされて、ヒュドラの前足の先端を切り落とされる。


「ベガ、俺のほうで爪や牙などの切り取れる部位は回収する。

 たから、お前は鱗を剥ぎ取り作業に専念してくれ。最初にはぎ取った尾の方の鱗はもう再生し始めてるぞ」


「おう、分かったぜ!

 ははは、さすがの勇者様も聖女様には逆らえないみてぇだな」


「無駄口はいらないので、ちゃっちゃと働きなさい。

 聖女という立場のため、私は一般人からお金は取れません。なので、こういう時に稼げるものは全部回収しなくてはいけないのです」


 金色の剣士のベガの小言に、純白の聖女が厳しい言葉を返す。


「ははは。国民から絶大な人気を集める『慈悲の聖女』様の裏の姿が、こんなに金にがめつい女だと誰も思わねぇだろうな。

 っし、んじゃちゃっちゃと素材回収終わらせちゃいますか!」


 そして、金色の剣士は次々と鱗を剥がしていき、黒髪の勇者は光の剣で貴重な部位を切り取っていく。

 森には魔獣の悲痛の鳴き声のみが響き、激しく抵抗していた魔獣の目からも生気が失われ、動きも鈍くなっていく。


「まぁ、剥ぎ取れるのはこんなもんかな、っと」


 再生した鱗も粗方剥ぎ取り切り、魔獣の上に乗っていたベガが飛び降りて、地面に着地する。


「あと回収できそうなのは、眼と体内の魔核(コア)ぐらいか。

 なぁ、眼の抉り出しは俺に任せてもらえねぇか?

 切り取り作業をエイジばかりにやらせてたら、俺の剣の腕が鈍っちまうからな」


「ああ、構わないよ。こっちとしても余計な作業が減って願ったりだよ」


 ベガは最後の作業を任せてくれと仲間に提案し、それが了承される。


「さぁて、俺の愛剣『エクスキャリバーン』の切れ味を見せてやんぜ」


 ベガは背に装備していた両手剣を抜き放ち、魔獣へと視線を向ける。


 再生竜ヒュドラの瞳はすでに怒りの色は消え去り、恐怖で染まっていた。

 人間の強力なスキルという暴力の前では屈強な魔獣であっても無力であった。


 強力な毒を吐くヒュドラであっても、その毒は無力化され、身動きすらできず死を待つしかない。


――なんで、私が何をしたの?

 ただ、私は人間の街を見たかった。それだけだったのに――


 魔獣ヒュドラは最期に悔しさをかみしめ、涙を流す。


――こんな、こんな最期は嫌だ。

 誰か、誰か助けて――


 ガルルルルゥ……


 最後の願いを乗せてヒュドラがうなり声を漏らす。


 その願いは叶うはずもない、そう思われたが――


(僕を呼んだのは、君かい?)


 絶望する魔獣に、思念の声が響く。


「ん? なんだ――」


 それとともに辺りに影が差す。

 大剣を振りかぶっていたベガは、その異変に気付いて上空へと振り返る。


「なっ……」


 そして絶句する。


 そこには、漆黒の鱗に覆われた巨大な黒の翼竜(ドラゴン)の姿があったのだ。

◆ちょっとした制作秘話◆

・人間の勇者パーティーの名前については、プロット時は人間A・B・Cでした。

 なので、名前については以下の様に覚えていただければと思います。


 A:エイジ …… 黒髪の勇者(万能職)

 B:ベガ …… 金ピカ鎧、金髪の剣士(前衛職)

 C:シーナ …… 純白の聖女(後衛支援職)

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