第55話:魔族シャルルとの戦い③(切り札)
◆前回までのあらすじ◆
ついに正体を現した魔族シャルルとの戦闘が続く――
幾多のスキルを駆使して襲い掛かってくるシャルルに、リュウジが繰り出した渾身のカウンターパンチが決まったのであった。
完璧なタイミングで僕の繰り出したカウンターパンチが炸裂する。
脇腹に突き刺さった拳をそのまま斜め上方へと振りぬいた。
ボクシング漫画で覚えた必殺パンチの『スマッシュ』を何となく真似してみたのだけど、いい感じで決まったみたいだ。
腹部の硬い外骨格が砕かれ、内臓の幾つかが潰れた魔族は紫色の血を吐き出しながら宙を舞う。
「我が主――活動可能にまで身体が修復いたしました。速やかに援護態勢へと移行いたします――」
それと同時にロックからの思念が届く。
その言葉に視線をそちらに向けると、最低限の修復が完了したロックが、砲身を持ち上げ標準を上空の魔族へと向けていた。
「くぅっ。がはっ!
ワタシの動きが、読まれていた、のかっ……」
魔族は何かしらのスキルを使用して空中に制止し、苦痛にゆがんだ表情でこちらを睨みつけてくる。
――飛行系のスキルも持っているのか。だが、ここでそれを使うのは悪手だ。
友の声が脳内に響く。まさにその言葉通りで、いま空中で制止すれば格好の的なのだ。
「撃て、ロック!」
「御意!
魔導波動砲、発射!!」
僕の声と共に、ロックが引き金を引く。
ロックが構えた武器の銃口から凄まじいエネルギー波が放たれ、魔族を襲う。
「!!っ うぉぉぉぉぉっ!!」
上空に制止していた魔族は咆哮し、新たなスキルを発動させる。
スキルの詳細は分からないが、とんでもない濃度の魔力が右手を覆い、その右手で払うように掌打を繰り出したのだ。
バヂヂヂヂヂ――
ズギャャーーーーーーーン
空間を歪ますほどの高密度の魔力を纏った魔族の掌打は、襲い来るエネルギー波を迎撃する。
双方の攻撃がぶつかり合うと、火花が散るがごとく激しい魔力の凌ぎ合いがあり、最終的にはロックが放った魔導波動砲が弾かれる。
――まさか、あの攻撃を弾いたのか?!
脳内で友が驚きの声を上げる。
僕よりも魔導波動砲の威力を知っている友でも想定外であったみたいだ。
弾かれた超破壊の奔流は向きを変え地上に降り注ぎ、ジャネーロの街を覆う城壁の北側部分を周囲の建物や住民などを巻き込んで、諸共に吹き飛ばした。
「私の…… 街、が――」
その光景を、毒に犯され爆風に巻き込まれながらも複数の魔道具を最大出力で起動することで命を繋いでいた領主のシャバートが絶望の面持ちで見遣っていた。
「まさか、我の最大の一撃が防がれる、とは――
申し訳ございません、我が主……」
ロックは今の一撃で体内に貯めていた魔力を使い果たした様で、膝を付き項垂れる。
どうやら、いまの攻撃の反動で、完全に治りきっていなかった装甲に亀裂が走り再度行動不能になってしまった様だ。
「くはは……
今の一撃で魔力を使い果たしたみたいだな」
上空に留まった魔族がニヤリと口元を歪ます。
「そっちも満身創痍みたいだけど?」
そんな魔族に僕が言葉を返す。
先程のロックの一撃を防いだが、その代償として魔族の右手は肘から先が消し炭となり砕け落ちていた。
更に言うと、僕の攻撃で外骨格が砕かれ、内臓もいくつか破損し、さらには毒にも侵されているのだ。
どう見ても相手は満身創痍である。
逆に僕自身はダメージというダメージは負ってない。
相手になぜそんなに余裕があるのかが分からない。
「そうだな。
奥の手のスキル【魔力凝縮】を使用した奥義『崩滅掌握衝』で片腕を犠牲にしてなんとか窮地を脱した。それがワタシの現状。その見識に相違はない」
魔族はゆったりと現状を告げる。
「だが、ワタシが更に『奥の手』を残していたならばどうかな?」
ニヤリと口元を歪め、言葉を続ける。
「木偶人形ども、生き残っている人間どもの生命力を根こそぎ奪い取れ!」
その命令と共に、街全体から『ウオォォォ!!』という唸り声が上がる。
これはゴーレムの唸り声だ。
シャルルの命令を受けて、街中のゴーレムが魔族の命令を受けて一斉に声を上げたのだ。
それと同時にすべのゴーレムの右腕が異形な形態に変形する。
右手の掌が、その中心から放射線状に割れ、中から吸引機の様なノズルが出現したのだ。
そして、割れた手の部分は触手のように蠢いていた。
右手を異形の姿に変えたゴーレムが、無差別に人間を襲う。
「うわっ、キモっ!」
近くに居たゴーレム達が、僕達を『人間』と見定めて襲い掛かってきた。それを僕が『お手軽斬撃飛ばし技』を屠っていく。
こちらに襲い掛かってきたゴーレムは僕が対処できたが、それ以外――街の住人を襲ったゴーレム――は、異形に変形した右手で街の住人をからめとり何かしらのスキルを発動させて生命力を奪い取っていた。
そして、生命力を吸い尽くすと、その亡骸を放り捨てて次の獲物を襲う。
住人たちだけでなくこの街に滞在している商人や冒険者たちの命までもが次々と奪い取られていく。
ノインの攻撃にて、毒を振りまいたことでこの街の人間は重軽症の差はあれど毒に犯されていた。
そのため力ある冒険者であっても抵抗できずにその命を散らしていく。
相手に罪を認めさせるため、ノインがスキル【魂喰冥王】の権能にて命を奪わない様にしていたことが仇となり、瀕死状態で命を繋ぎとめていた住人たちが次々とゴーレムたちの格好の餌食となってしまった。
「やめ、ろ…… やめてくれ、シャルル――」
そう言葉を発したのは、魔道具の力でなんとか命を繋ぎとめていた領主のシャバートだ。
戦う術が残っていないシャバートだが、僕の近くにいたことでゴーレム達からの襲撃を避けられたのだ。その声は悲痛なものであった。
「フン、なぜ貴様に命令されなければならないのだ。
使用人として貴様の傍にいたので、自分の方が上の立場だと勘違いしてしまったか?
定期的に贄をよこすから、貴様の要望を聞いた状態で生かしておいただけだ。贄提供が出来なくなったならばもうこの街に用はない」
魔族は冷徹な視線をシャバートに向ける。その視線を受けたシャバートの表情が絶望の色に染まる。
二人の関係についてはよくは分からないが、なんだか魔族が悪いことをしているという事だけは感じ取れた。
「くはははは。ワタシの命の糧となるがいい。
ユニークスキル【創造神の鋳型】効果反転――生命力回帰!」
上空の魔族がそう告げると、街中のゴーレムから命の力を宿した魔力が抜け出て、上空の魔族へと集まっていく。
魔力の抜け落ちたゴーレムは、ただの土塊となり崩れ落ちる。
――ゴーレムを生み出すスキルの効果を反転させて回復しようとしているみたいだ。すぐに攻撃できるように魔力集中させておいてくれ。
すぐさま友が助言をくれる。僕はその言葉に従って体内にて魔力を集中させる。
その間にゴーレムから抜け出た魔力の塊が魔族に集まり、満身創痍であったその身体が回復していく。
砕けた外骨格が修復され、欠損していた右腕も再生していく。
一瞬にしてその身体は完全回復した。
いや、完全回復しただけでなく、凄まじい魔力が身体から溢れだした魔力だけでビリビリと空気を震わしていた。
「ははははは! これがワタシの本当の『奥の手』だ」
凄まじい魔力を宿した魔族シャルルは狂喜の声と共に僕を睨みつけたのであった。
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